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(コバニ戦) ISIS、クルドの本部を占領 10月10日

2015-12-08 21:11:46 | シリア内戦

 

ISISは9月末までにコバニ市周辺の農村部を占領し、10月5日市内に入った。10月8日、ISISは市場を攻略し、この日までに市の3分の1を占領した。

    

10月10日、ISISはYPGの本部を占領し、クルド側は敗北感を深めた。面積では、ISISが占領地をわずかに増やしたにすぎないが、クルド軍は軍事的な中心を奪われ、深刻な事態だった。同じ敷地内にクルド自治政府の建物もあり、クルドは軍・政の本拠を奪われたのである。

   

ISISは戦闘員を増強しており、5000人に達している。コバニの東方はISISの支配地であり、ラッカから兵を送ることが容易である。またラッカ以外にも、コバニに近いISISの拠点から兵が送られている。これに対し、守る側のクルド軍のほうは、武器と食糧が不足しているが、補給が来ない。

     

この危機的な状況は、トルコとイラクのクルド人の間に大きな反響を呼び起こした。トルコでは、コバニのクルド軍を援助しない政府に対し、4日間連続で、抗議行動が行なわれた。この抗議行動は、クルド民族主義派とトルコ民族主義派の抗争に発展し、31名が死亡した。

     

怒ったクルド市民は石を投げるにとどまらず火炎瓶を投げ、さらには、ピストルを発射する場合もあった。

      

この時点では、コバニについて日本人の関心は低かったが、シリア内戦に関心がある世界のメディアは、コバニに注目するようになった。国連は、コバニが陥落するなら、数千人が虐殺されるかもしれないと警告した。

また、この時のクルドの援軍要請が、後のイラクのクルド軍(ペシュメルガ)のコバニ到着に結びつく。コバニのクルド軍は小銃だけで戦い、弾も尽きていた。

 

米国の国家安全保障担当次席補佐官のトニー・ブリンケンが述べた。

「ISISはさらなる勝利をした。今や町の40%を支配しており、彼らはコバニを占領するだろう」。彼は、クルド軍を戦力と呼ぶに値しないと評価している。

「コバニには地上軍がいないので、今後の見通しがたたない。空爆だけでISISの進撃を押し返すことはできい」。

英国のシリア人権団体のラミ・アブデルラフマン理事長もクルド軍の無力を認めた。

クルド軍が3か月間も持ちこたえるとは、誰も予想していなかった。

米空軍は9日と10日、コバニのISISを空爆した。そのうち4回の爆撃は、クルド本部周辺のISISを標的にした。

ISISは主にコバニ市の東部を占領し、南部はわずかである。ISISは東から進んでおり、クルド軍は抵抗している。特に住民の脱出路だけは守り抜こうとしている。

10月10日、ISIS戦車を市内に進めた。クルド本部に対する攻撃で、ISISは自爆攻撃を行い、クルド兵2名が死亡した。内務省軍の建物付近でも戦闘がおこなわれている。ISISは、遠くから市の中心部に向けて迫撃砲を撃っている。

この日の夕方、ISISは大モスクの近くで自動車爆弾を爆破させた。モスクの高所は見晴らしがよく、スナイパ―は広い範囲を狙撃できる。モスクを奪われないよう、クルド軍が防戦している。

ISISはトルコとの国境まで1kmにまで迫っている。クルド本部が陥落したので、市の北端の国境柱付近も危険になった。

 

ISISが国境柱付近を占領すれば、クルド軍は完全に包囲される。軍は自滅を待つこととなり、住民は脱出路を失う。クルド軍は危急を訴え、援軍を要請した。

上の地図について一点だけ説明すると、クルドの守備範囲が西に延びていることに意味はない。農村地帯であり、ISISが重視していないだけである。市内の東と北を占領すれば、西部の制圧は容易である。上記の地図からはみ出るが、農村地帯の西のはずれにはユーフラテス川があり、その対岸はISISの支配地ジェラブルスである。

以上述べたように、ISISの攻撃中心は市の東部であるが、南部でもクルド兵を待ち伏せ攻撃をし、クルド兵10名が死亡した。 

     

国連特使は、コバニとその周辺に12000人の住民が残留しており、彼らは虐殺されるだろうと警告した。これらの残留者のうち、700人の老人が市の中心部に住んでいる。市の中心部はすでに激戦地となっており、老人たちは戦闘に巻き込まれる恐れがある。トルコへの脱出口は一か所しかなく、それを失えば包囲が完成する。

国連のミストゥラ特使は、トルコに対し、コバニのISISと戦っている有志連合に歩調を合わせるよう求めた。

「コバニに隣接しているトルコは、何らかの援助ができるはずだ。せめて、クルドの志願兵と武器・装備の通過を許可してほしい」。いつもは中立の立場をとる国連としては、異例の発言だった。コバニに留まっている12000人の命が危険にさらされているからである。

特使の念頭には、1995年のスレブレニツァの虐殺がある。ボスニア内戦で、この町のムスリム(イスラム教徒)8000人がセルビア人によって殺害された。

有志連合を統括しているアレン米退役将軍は、トルコに地上軍を出すよう求めた。トルコはシリア内戦に巻き込まれることを警戒しており、「単独では出せない」と断った。将軍は再びトルコに要求する予定である。

コバニの活動家ムスタファ・エブディは語った。

「ISISはずる賢く、空爆を避けるために、普通の自動車にクルドの旗を立てて移動している。弾薬の補給はバイクで行っている。YPGの制服を着てクルド側に侵入し、スパイ活動を行っている。

コバニは陥落寸前だ。しかしクルド兵は全員命をかけて戦っている。コバニはISISとの闘いの象徴だ」。

メディアが注目しており、コバニの征服は、ISISにとって象徴的な勝利となるだろう。

     

トルコの3分の1の県に多くのクルド人が住んでいる。トルコの非合法政党PKK(クルディスタン労働者党)は、トルコという国家の分裂要因であり、トルコ政府にとって国内最大の敵である。シリアのクルド政党・PYD(民主統一党)はPKKの傘下にある。このために、PYDはトルコから敵とみなされた。

コバニへの志願兵と武器の通過を、トルコは禁じた。

(参考)


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