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海外のメディアから得た情報を書こうと思います。

2013年 グータ化学兵器事件 ザマルカ

2017-06-30 05:42:00 | シリア内戦

   

2013年821日ダマスカス郊外の2か所に化学攻撃が行われた。2か所は互いに16㎞離れている。最初に攻撃があったの東グータのザマルカであり、午前23時である。やや遅れて午前5時頃、西グータのムアダミヤが攻撃された。どちらもの場合も地対地ロケットが使用されたが、ザマルカの330mmロケットは大きく、5060リットルのサリンを搭載する。これだけの量のサリンを注入するには専門的な技術と経験を必要とする。サリンは猛毒であり、わずかな量のサリンに接触しただけで、死に至る。

日本の地下鉄サリン事件では、犯人一人が使用したのは2リットル(1リットルの袋2つ)である。これを5人が別々の電車内で散布した。合計で10リットルである。林泰男だけ3リットル散布たので、正確には11リットルである。

ザマルカの場合、ロケット一発で5060リットルであり、これが数発撃ちこまれた。規模の大きさが感じられる。

これに比べ、ムアダミヤを攻撃した140mmロケットはかなり小さく容量は2.2リットルである。

人権監視団はムアダミヤから書き始めており、それを前回訳した。続いてザマルカの部分を今回訳す。

 

=====《Attacks on Ghouta》==========

 Analysis of Alleged Use of Chemical Weapons in Syria

 

    《東グータのザマルカ》

821日ムアダミヤにに打ち込まれたのは140㎜地対地ロケットであるのに対し、ザマルカに着弾したのは地対地330㎜ロケットである。

地元の活動家が以下の情報を人権監視団にもたらした。

①目撃者の証言

GPSによる着弾地点の位置

③現場を撮影したビデオとその場所の衛星写真

これらの情報により、少なくとも4発の330㎜ロケットがザマルカに打ち込まれたようだ。

  • マハリク通りに2発 (Ghazal ビルディングMehyi al-deen ビルディング)
  • Naher al-Tahoun通りのボスタン地区に1
  • ハムザ・モスクの近くに2発。1発はモスクの隣。もう一つは近くのカマル祭儀場。
  • タウフィク・モスクと小学校に隣接したマズラート地区に3発。

  

 

爆発音を聞いたという証言はない。またロケットの残骸と被害者の症状により、これらのロケットは強度の爆発弾や燃焼弾ではない。犠牲者には傷がなく、ロケットが落ちた場所の窪みも小さい。爆発弾であれば大きな穴ができ、被害者は外傷を負う。燃焼弾による犠牲者はやけどの跡が残る。

従ってザマルカに落ちたロケットは化学弾である。

ザマルカの情報センターのスタッフが人権監視団に連絡してきた。彼はザマルカのマズラート地区に落ちたロケットを直後に見に行った。

 

ーーーーーー(情報センターのスタッフの話)ーーーーー

821日、私は情報センターにいた。午前2時ー3時友人たちが電話してきて、ザマルカが攻撃されたと言った。私はすぐにマズラート地区の野戦病院に向かった。ロケットが落ちてから約30分後だった。

ロケットが落ちた時、私はとても低い音を聞いた。ヘリコプターの音に似ていた。爆発音ではなかった。私は野戦病院を出て、着弾地点に走って行った。私は着弾地点につく前に、多くの被害者に出会った。

多くの負傷者が地面に横たわっており、人々は叫びながら走っていた。近くの家に入ってみると、男性と妻が横たわっていた。家は破壊されていなかった。この家にロケットが落ちたわけではなく、近くで落ちた様子もなかった。それでも2人は死んだ。

私は約40分救助活動をしていたが、身体が痛み出し、力が抜けて動けなくなった。そして目が痛くなり、頭痛が始まった。煙はなかったが匂いがした。病院に連れて行ってくれと友人に頼むと、彼は車で運んでくれた。マズラート地区を去ろうといた時、犬が道路を横切っていた。犬をひかないでくれ、と私は友人に叫ぼうとしたが、衝突する前に犬は倒れてしまった。

ーーーーーーーーーーーー(情報センターのスタッフの話終了)

この証言者は病院で多数の負傷者と死者をビデオ撮影し、ネットに投稿した。

もう一人の証人がマズラートに落ちたロケットの残骸のビデオを人権監視団に送ってきた。どのロケットも同一の型だった。

 

ザマルカの情報センターのスタッフは容体が回復し、8日後の29日マハリク通りに行った。彼はそこに落ちたロケットをビデオと写真に撮り、それらを人権監視団に送ってきた。これらのロケットはマズラートに落ちたロケットと同型であり、口径が330mmだった。

彼はまたマハリク通りの別の場所で、国連の調査チームが330mmの残骸を調べる様子を、ビデオに撮った。

 

 

 

東グータに着弾した330mロケットは一般に知られていないもので、国際的に未知のロケットである。シリア内戦で初めて登場した。821日の化学攻撃に先立つ数か月間、このロケットが反政府軍の支配地に打ち込まれている。反政府活動家によれば、そのうちの一度は化学弾だった。(これについては、後に述べる。)

 

東グータの地域活動家が330mロケットの弾頭部分の正確なサイズを教えてくれた。それによれば、弾頭は約5060リットルの化学物質を搭載できる。西グータのムアダミヤに落ちた140㎜ロケットの弾頭の搭載量はわずか2.2リットルである。

330mロケットの発射の際、5060リットルの猛毒化学物質を注入するのは極めて危険な作業であり、通常の場合、専門的なチームが特殊な防護服を着て行う。化学物質に接触するならば、即死するからである。

反政府軍は大量の化学兵器を所有していない。また危険な化学物質を弾頭に注入するという、専門的の技術を持っていない。

 

 

東グータの活動家が与えてくれたロケットの寸法と高解像度の画像により、人権監視団は330mmロケットの特徴を再現した。

直径約330mmは注目すべきである。これはイランのFalaq-2発射機と互換性がある。Falaq-2の口径は333mmである。また330mmロケットはFalaq-2の模造品や派生品により発射できる。

333mm口径のロケット発射機を所有しているのはイランだけである。

シリア軍がFalaq-2発射装置から330mmロケットらしきものを発射しているビデオが存在する。これは昼に撮影されたもので、821日の映像ではないが、シリア軍がFalaq-2を使用していることは確かである。

330mmロケットは空気力学を考慮しない形をしており、ノズルのすぐ上に変な回転安定装置がある。その結果このロケットは射程距離が短く、目標を正確に定めることができない。このロケットは工業的に生産されたものではあるが、国際基準を大きく下回り、地元の需要を満たすだけのものである。イランのFalaq-2発射装置と共に使用する目的だけで製造されたようだ。人権監視団はこのロケットがどこで製造されたか、確認できてきていないが、イランのFalaq-2で発射するのに適していることから、シリアが製造しているに違いない。

化学弾を発射する兵器の製造は1993年の化学兵器禁止条約に違反する。この条約に参加していないのはシリアを含む次の5か国だけである。シリア、エジプト、パレスチナ、南スーダン、北朝鮮。

シリア軍はこれまで爆発型弾頭を装着した330mmロケットを使用してきた。821日に使用された330㎜ロケットは爆発型とほぼ同一であるが、わずかな違いがある。このこれはビデオや写真から確認できる。

①弾頭とエンジンの接続部分にある小さな穴の数が多い。これは化学物質の注入するためである。

②爆発型は化学物質型より、400mm長い。

③化学物質型に帰されている数字は赤色で書かれている。赤色で900と記されたロケットもあり、生産された化学物質型のロケットが900を超えていることを示している。

爆発型のロケットには黒色の数字が記されている。数字の色によって爆発型と化学物質型を区別しているのだろう。

 

821日、東グータのザマルカに打ち込まれた330mmロケットは、すべて化学物質型の特徴を示している。弾頭の長さが短く、小さな穴の数が多い。弾頭部分の仕様は化学物質の放出に特化しており、外皮が薄く、50―60リットル収容できる大きな容器となっている。心棒は細い管でできており、先端に爆薬がある。爆薬が爆発すると、薄い容器が破れ、中身の化学物質は気化し、周囲に発散する。

 

爆発型の330mm地対地ロケットが最初に使用されたのは、2013124日ダマス郊外のダラヤに対してである。(ダラヤはムアダミヤの東) 次に同年82日ホムスのハリディーヤ地区に打ち込まれた。反対派はこの2つの攻撃をしたのはシリア軍だと主張している。これについて、人権監視団は客観的な確認をしていない。

85日反対派は化学物質型の330mm地対地ロケットの残骸を撮影した。ロケットには注入口らしき穴があり、書かれている数字は化学弾を示していた。場所はダマスカスカスの北東の郊外アドラである。これを撮影したビデオがあり、330mmロケットらしき残骸と死亡した動物やひん死の動物が映っている。外傷がなく、神経ガスによるものと考えられる。

反政府軍が330mm地対地ロケットとその発射機を所有しているという証拠はなく、これまで330mmロケットによる攻撃を受けたのは反政府軍とその支配地域である。シリア軍はイランのFalaq-2333mmロケット発射機を保有していることが知られている。

821日の発射の場面を映したビデオは存在しないが、この日以前にシリア軍がトラックに載せたFalaq-2から330mmロケットを発射する場面のビデオがいくつか存在する。

 

       《死者数》

 

  

 

821日の攻撃は互いに16㎞離れた2つの場所で起き、被害者があまりに多いため現場が混乱していたので、正確な死者数を確定するのは困難である。どちらの場所にも大きな病院がなく、被害者を受け入れたのは認可を受けていない小さなクリニックであり、満足な医療設備もなかった。

人権監視団の聞き取りに対し、医者たちは「あまりに多くの患者が運ばれてきたため、圧倒された」と答えた。すでに死んでいる者はクリニックに運ばれてこなかったため、クリニックには死者に関する記録を持たない。

国境なき医師団によれば、この地域にある彼らの3つの病院で、攻撃の3時間以内に少なくとも3600人を治療した。これらの患者は神経ガスの影響による症状を示していた。

人権監視団は西グータのムアダミヤで死亡したとされる80人の名前を得た。2つの情報源によれば、21日ムアダミヤで死亡したのは103人である。

東グータの場合攻撃が広い範囲に及び、被害者は多数の小さなクリニックに運ばれたので、死者の総数を確認するのは、さらに難しい。94日ザマルカのメディア・センターの一人と地元のジャーナリストたちが語ったところによれば、ザマルカの地方議会はザマルカの死亡者734人の氏名を記録している。

  

=======================(人権監視団終了)


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