ロシア国防省は2015年12月2日,ISISの石油ビジネスについて報告した。
ロシア軍参謀本部は偵察衛星により得られた情報を公開した。これによって、ISISの密輸石油のルートの全体が明らかになった。
この報告は国会で行われ、正面にロシア軍のトップがずらりと並び、背後のスクリーンに衛星画像が映し出された。(冒頭の写真)
ロシア国防副大臣のアナトーリー・アントノフが説明を始めた。
「ISISは石油の売却により、1年に20億ドル得ている。この資金を用いて、世界中から志願兵を集め、彼らに武器と装備を与えている。
ISISの資金源に打撃を与えることに成功すれば、ISISに勝利することは容易だ。プーチン大統領はいつも言っている。『資金がないテロリストは牙を抜かれた野獣にすぎない』。
ISISの石油ビジネスは国家的な産業であり、トルコのエリートがこれに協力している。
ISIS支配地で採掘された石油の最大の消費者はトルコであり、エルドアン大統領と彼の家族がこの犯罪的な取引に関わっている。
2人目の報告者であるルツコイ参謀本部作戦部長はエルドアンの息子を名指しで批判した。「エネルギー大臣であるエルドアンの息子がISISの石油ビジネスに直接関わっている」。
3人目に、防衛管理センターのミゼンツェフ中将が報告した。「ISISが採掘している原油はシリアとイラクに所属する。ISISが主権国家な重要な資源を盗んでおり、それをトルコが買っている。
トルコがISISを助けているのは石油の買い取りだけではない。2000人の戦闘員、120トンの弾薬、250台の車両がISISとヌスラ戦線に引き渡された」。
国防省の発表は世界中で報道された。
ロシア国防省はトルコとエルドアン大統領を単に批判するだけでなく、その根拠を示した。その証明こそが注目すべきことだったが、それを取り上げたメディアはなかった。
トルコの犯罪的行為を証明したのは、2番目の報告者ルツコイ中将である。幸いロシア国防省は彼の説明を文書にした。英文訳もある。
私は、ISISの石油ビジネスについて既に3つの記事を訳している。ロシア参謀本部の報告はそれらの内容と全く違う局面を明らかにしている。バズニューズとアル・モニターの記者は国境の村の住民が行う密輸を取材した。それらと比べ、今回のロシアの報告する密輸は、けた違いに大規模である。報告者自ら「密輸の量に圧倒される」と語っている。
バズニューズの記事はベサスラン村の話が中心であるが、それ以外にも取材しており、「石油トラックが国境検問所を自由に通過している」と語っていた。それ以上の説明はなかった。その全貌をロシア参謀本部が明らかにした。
またバズニューズはブルッキング研究所のルアイ・ハティーブにインタビューした。ハティーブの話によれば「ISISは自分たちの地域の精油所で処理しきれない量の原油をくみ上げている。燃料と違い、生活用品ではない原油の量は日々105万ドル相当である」と話している。これは隣国の精油所に売るしかない。ロシア参謀本部はそれはトルコのバトマンの製油所であると特定した。もっと驚いたことに、トルコの海港から外国に密輸しているという。トルコの港で、タンカートラックからタンカー船に原油を移すのである。
バトマンと海港の位置を示す地図がロシア参謀本部の報告の中にある。
====《ロシア軍参謀本部作戦部長の報告》=====
国防副大臣がさきほど述べたように、ISISの資金源を絶たずに、ISISに勝利することはできない。
「ISISにとって、石油の密輸が第一の収入源である」。
ロシア空軍はISISの資金源に決定的な打撃を与えるため、原油採掘所、貯蔵・精製施設、輸送手段を爆撃した。
最近2カ月間の空爆の内容は以下の通りである。
①32の石油複合施設 ②11の精油所 ③23の原油採掘所
ISISは数千台のタンカー・トラックによって原油と石油製品を運んでいる。
米国と有志連合はこれらの石油トラックを空爆していない。
ロシア空軍は最近2カ月間に、1080台のトラックを破壊した。
9月30日に開始されたロシアの空爆により、密輸される石油の量は半分にまで減少した。空爆前、ISISの石油収入は日々3百万ドルだった。2か月後、この金額は150万ドルにまで減少した。
しかしながら、ISISは相変わらず資金と武器・装備を援助されている。トルコおよびその他の国々がISISの大規模な経済活動に協力している。これについて、ロシア参謀本部は反論の余地ない証拠を持っている。それらは航空偵察と宇宙衛星によって得られた。
大規模な密輸ルートは3つある。
《①西方ルート》
西方ルートはISISの支配地から西へ向かい、地中海に至る。
ラッカの近くのタブカ油田)くみ出された石油は自動車により、トルコ国境を超え、地中海の港デルティオルに至る。
2015年11月13日のアザズ付近の写真には、トルコに向かう幹線道路に、石油製品を運ぶ車両が写っている。
(A地域)
トルコ側の広場に240台のタンカー車とセミ・トレラーが並んでいる。
(Bの道路)
シリア側では、国境を超えようとして、46台のタンカー・トラックが待っている。この中の数台は普通のトラックのように偽装している。
ラッカの近くのタブカ油田を起点とするもううひとつの西方ルートは、トルコのレイハンリに向かい、イスケンデルンの港に至る。
レイハンリの付近も、アザズと同じ状況である。アレッポ県では激しい戦闘の最中であるるにもかかわらず、往復のいずれの車線も、絶えず多くの自動車が流れている。トルコ側も同様である。
ビデオには自由に国境を越えている移動車が写っている。国境のシリア側を管理しているのは、ヌスラ戦線である。彼らはタンカー・トラックと石油を運ぶ大型車を自由に通らせている。これらの石油輸送車はトルコ側の検問所でもチェックされない。
11月16日の映像によれば、360台のタンカー・トラックと大型車が国境のシリア側に並んでいる。その一部を次に示す。
Aのシリア側では、100台の大型車が列をなして国境に向かっている。
Bのトルコ側には、国境を越えたばかりの160台のタンカー・トラックが写っている。
偵察衛星の映像によれば、国境を越えたタンカートラックとセミ・トレーラーはデルティオル港とイスケンデルンの港に向かった。これらの港にはタンカー船専用の係留所がある。原油の一部は船に移され、外国の製油所に運ばれる。残りはトルコの市場で売られる。
デルティオル港とイスケンデルンの港では、平均して一日に1隻のタンカー船が原油を積んで出港する。
次の衛星写真は2015年11月25日のデルティオルとイスケンデルンである。石油タンカー車が蜜集しており、積荷を降ろすのを待っている。
デルティオルには395台のタンカー車が写っており、イスケンデルンには60台写っている。
【ラッカに近いタブカ油田を起点とし、地中海の港デルティオルを終点とする太い流れは、クルドのアフリン地区から国境を超えているように描かれているが、これは経路を示したものではなく、起点と終点だけを示したものらしい。経路は細い矢印で示されている。】
《②北方ルート》
北方ルートは、デリゾールの油田から北に向かい、カミシュリで国境を超え、トルコのバトマンに至る。
デリゾール県のユーフラテス右岸は油田地帯であり、多数の採掘施設と精油所がある。ISIS地域内で、ここは最大の石油センターがあり、石油を受け取るため、多くのタンカー車が順番待ちをしている。これらの輸送車は前後の間隔もなく、びっしりと並んでいる。2015年10月18日の衛星撮影によれば、駐車場として使われている空き地に、1722台の石油輸送車が並んでいる。
タンクに石油を入れ終わったトラックは列をなして北上し、カミシュリに向かう。8月の映像には、カミシュリから国境を越えてトルコに入る石油輸送車と、逆にトルコからカミシュリに入る輸送車が数百台写っている。
デリゾールの石油の大部分はトルコのバトマンにある精油所に運ばれる。国境からバトマンまでの距離は100kmである。
《③東方ルート》
東方ルートはトイラク北西部の油田からトルコのジズレに向かう。
イラクの油田を出発した輸送車はザホやタバンで国境を越え、トルコのジズレに向かう。ジズレと同じくシロピ(トルコ領)にも物流センターがあり、シロピに向かう場合もある。
ジズレとシロピの両都市には精油所がないので、精製前の原油は前述のバトマンに向かう。(バトマンは北方ルートの目的地である。)
11月14日の撮影によれば、ザフノとタバンの近くに1104台の輸送車が集結している。これにシロピ(トルコ領)に集まっているタンカー車を加えると、11月14日の合計は実に3220台である。
東方ルートはもうひとつあり、シリアのハサカ県の油田を出発し、カラチョクとチャム・ハニクを通り、ジズレに向かう。このルートは輸送量が少ない。
《結論》
西方・北方・東方の3ルート全体で、石油の輸送に使われている車両は8500台であり、日々20万トンの石油が運ばれている。
8500台の輸送車の大部分は、東方ルートを走っており、イラクからトルコに入っている。
============(ルツコイ中将の報告終了)