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平民兵士全員が勝手に戦線離脱

2021-04-27 00:17:10 | 世界史

 

【 41章】

 

==《リヴィウスのローマ史第2巻》==

Titus Livius   History of Rome

               translated by Canon Roberts

 

                       

                     【 41章】

                             (紀元前486―485)

スプリウス・カッシウスとプロクルス・ヴェルギニウスが執政官になった。ヘルニキ族と条約が結ばれ、ローマはヘルニキの領土の三分の二を獲得した。新たに獲得した土地について、半分をラテン人の間で分配し、残り半分を平民に与えてはどうか、とカッシウスは提案した。新領土は国家に帰属するのに、その一部を自分の物にしている人々がいる、と彼は批判した。「もちろんそうした土地も取り上げて、分配すべきだ」とカッシウスは言った。執政官の言葉は元老の多くに衝撃を与えた。彼らは国家の土地を占有していたので、自分たちの利益を失うことを恐れた。それだけでなく、カッシウスの提案は政治的に危険だ、と彼らは考えた。市民に土地を配ることで彼は圧倒的な的な支持を集め、彼は共和制にとって危険な存在になるかもしれなかった。カッシウスの法案は最初の土地改革の試みだった。この時以来現在に至るまで、土地改革の法案は必ず深刻な紛争を引き起こした。

もう一人の執政官ヴェルギニウスはカッシウスの提案に反対した。元老院はヴェルギニウスを支持した。平民もヴェルギニウスを批判しなかった。彼らは新しい領土の半分をラテン人に与えることに反対だった。またヴェルギニウスの予言的演説は平民を不安にした。

「私の同僚の提案は国家に破滅をもたらすだろう。土地を受け取った人々は恩人であるカッシウスの奴隷になり、カッシウスは国王になるだろう。同盟国のラテン人に土地を与え、少し前まで敵だったヘルニキ族から奪った土地の三分の一を返却するのは何のためだろう。カッシウスがこれらの部族の指導者になるためではないか。カッシウスはコリオラヌスの再現だ」。

カッシウスの土地法案に反対し、この法案を否決するヴェルギニウスは、市民の支持を集めた。敵対する二人の執政官は競って平民の人気を得ようとした。ヴェルギニウスは言った。

「土地がローマ市民だけに分配されるのなら、自分は反対しない」。

カッシウスの土地法案は同盟国の支持を得ようとしていたので、ローマ市民の間で評判が悪かった。そこでカッシウスは市民に別の贈り物をして人気を得ようとした。飢饉の時ローマがシチリアから輸入したトウモロコシを国内で販売した。カッシウスはトウモロコシの売上金を市民に配ることを提案した。しかし人々はこの提案を拒否した。これは金銭で王権を買う露骨な行為と受け止められた。王権に対する警戒は人々の心に根付き、本能となっていたので、彼らはつつましい生活をしていたにもかかわらず、カッシウスの買収行為を軽蔑した。カッシウスは執政官を辞職した。国家の権威ある人々全員が彼を有罪と宣告し、彼は処刑された。言い伝えによれば、カッシウスの処罰の責任者は彼の父だった。父親の家で裁判がおこなわれ、息子は有罪とされ、鞭で打たれてから処刑された。そして父親はケレス女神(大地の神)に自分の財産を寄付した。その資金をもとにした収益で彫像が制作され、「カッシウス家の寄贈」と刻印された。

カッシウスの裁判については異説がある。いくつかの著作があり、こちらの方が真実のようだ。財務官のカエソ・ファビウスとルキウス・ヴァレリウスがカッシウスを反逆罪として裁判にかけた。市民が彼を有罪と判定し、市民の命令により、彼の家が破壊された。彼の家があった場所はテッルス神殿の前の空き地である。

カッシウスの裁判の時の執政官はセルヴィウス・コルネリウスとキントゥス・ファビウスだった。

                   【42章】

カッシウスに対する人々の怒りは忘れられつつあった。土地分配の提案者が失脚したが、人々は土地分配に魅力を感じていた。元老たちの物惜しみな態度によって、人々は土地法案を切望するようになった。この年ローマはヴォルスキとアエクイに敗れた。

戦後元老院はローマ兵が略奪した物を没収した。執政官ファビウスは敵から奪った物をすべて売却し、売上金を国庫に納めた。平民はファビウスを憎んだ。にもかかわらず、貴族たちはカエソ・ファビウスを再び翌年の執政官に選んだ。もう一人の執政官はルキウス・アエミリウスだった。平民の憎悪の感情はさらに増した。国内の分裂は外国の侵略を招いた。外国との戦争により、国内の紛争は中断し、平民と貴族は共通の心と目的を持って好戦的なヴォルスキとアエクイの軍隊に立ち向かった。アエミリウスが指揮するローマ軍はよく戦い、ヴォルスキ・アエクイ軍に勝利した。多くの敵兵が死んだが、彼らは戦闘中より、退却の時に死んだ。ローマの騎兵が退却する敵兵を容赦なく追撃した。

同じ年の7月15日、カストル神殿が建てられた。ラテン人との戦争の時の独裁官ポストゥミウスがこの神殿の建設を決めていたのである。彼の息子が神殿の造営官になっていた。

この年、平民のための土地法案が提出され、平民の心を引き付けた。護民官は一貫して土地法案に取り組み、平民の人気を集めた。貴族は大衆の狂気に腹を立て、

買収によって大衆を大胆な行為に向かわせる護民官を恐れた。執政官が貴族の先兵となり、護民官に断固たる抵抗をしたので、元老院は勝利した。彼らは勝利を一時的なもので終わらせないために、翌年の執政官に平民を嫌う人物を選んだ。一人はカエソ・ファビウスの兄弟のM……・ファビウスであり、もう一人はヴァレリウスだった。ヴァレリウスはカッシウス(最初に土地法案を提出した執政官)を裁判にかけたので、平民から特に憎まれていた。護民官と執政官の戦いは年末まで続いた。土地法は死文のままだった。護民官は実現不可能な約束をするだけと判明し、ほら吹きとみなされた。ファビウス家の人間が3年連続執政官に就任し、高い評判を獲得した。ファビウス家の執政官は全員護民官への抵抗に成功した。しばらくの間、ファビウス家の人間に執政官の地位を与えることは貴族にとって安全な投資だった。ヴェイイとの戦争が始まり、同時にヴォルスキも再び戦争を始めた。ローマの戦力はこれらの敵を上回っていたが、市民は国内紛争に関心を奪われていた。戦争が始まろうとしている時に異常な予兆が毎日出現し、ローマ市内と郊外に住む市民の不安が深まった。国家と個人が予言者たちに相談すると、神職が汚されたことが神の怒りの原因だ、と告げられた。予言者の警告に従い、ヴェスタ神に仕える処女オッピアが純潔を汚した罪により処罰された。

    【43章】

年が変わり、Q....・ファビウスとC..・ユリウスが執政官になった。この年は、相変わらず階級対立が激しく、戦争は深刻な展開を見せた。アエクイ族が戦争を開始し、ヴェイイがローマの領土を略奪した。こうした状況で不安が増し、カエソ・ファビウスとSp..・フリウスが執政官に就任した。アエクイ軍はラテン人の都市オルトナ(Ortona、場所不明)を攻撃し、ヴェイイ兵は略奪物資を十分獲得し、続いてローマを攻撃しようとしていた。

緊迫した状況は平民を不安にしたようで、彼らの怒りが高まった。平民は馴れた手段に訴え、兵役を拒否した。これは突発的に起きたのではなく、護民官のSp....・リキニウスが徴兵拒否を提案し、平民を誘導したのである。元老院は徴兵の必要に迫られて土地法を承認するだろう、と彼は考えた。しかしながらリキニウスが護民官の地位を悪用して煽り立てた憎しみはリキニウス自身に向けられた。また執政官だけでなく、同僚の護民官もリキニウスに反対した。リキニウス以外の護民官の助力により、執政官は徴兵を完了した。ローマ軍は二つの敵を相手にしなければならず、ファビウスがヴェイイ戦を指揮し、フリウスがアエクイ戦を指揮した。アエクイ戦については特に書くことがない。ヴェイイ戦を指揮したファビウスは敵よりも自軍の兵士を相手に困難を抱えた。彼はたった一人で闘い、兵士たちはファビウスを憎んでいたので、彼を裏切ることだけを考えた。ファビウスは優秀な指揮官であり、作戦の準備と実際の戦闘において能力を発揮した。彼は歩兵を巧妙に配置したので、騎兵だけで敵の戦列を打破した。ところが、歩兵は敵を追撃することを拒否した。彼らは司令官の命令に耳を貸さないだけでなく、社会的な不名誉と恥辱、そして敵を立ち直らせる危険にもかかわらず、足を速めないだけでなく、陣形を崩してしまった。歩兵たちは命令に違反して撤退し、まるで敗北したかのような表情で陣地に戻り、司令官を呪い、素晴らしい仕事をした騎兵の悪口を言った。このように不道徳な兵士に対し、司令官は無力だった。有能な指揮官は敵を打ち負かすことができても、自分の兵士の統率に失敗することがある。ローマに帰ったファビウスは軍事的成果を評価されず、彼に対する兵士の憎しみは強まり、悪化した。それにもかかわらず元老院は相変わらずファビウス家の人間を次の執政官に就任させた。M..・ファビウスが執政官に選ばれ、グナエウス・マンリウスが同僚の執政官となった。

【44章】

この年も護民官が土地法の制定を試みた。護民官となったティベリウス・ポンティフィキウスはSp.....・リキニウスと同じやり方をし、短期間徴兵を停止させた。元老院は再び動揺したが、アッピウス・クラウディウスが元老たちを説得した。

「昨年護民官は敗北した。これは先例となっており、現在も有効であり、将来もそうだろう。護民官は自分の権力を否定したのである。いかなる護民官も同僚の護民官に反対された場合、目的を実現できない。護民官の中には喜んで国家のために働こうとする者が必ずいるし、彼らは市民の善良な部分の同意を得て邪悪な同僚に勝利するだろう。万一もっと多くの護民官の支持が必要な場合でも、数名は執政官の見方になるだろうし、最悪でも一人の護民官が残りの護民官たちに反対すれば十分だ。執政官と元老院の指導者たちは、護民官の中の誰かを味方にすれば共和国と元老院を守ることができる」。

元老院はクラウディウスの助言に従った。元老院は敬意を持って護民官たちに接する一方で、執政官階級の人々がそれぞれ民事訴訟を起こした。個人的な影響力と階級の権威によって、彼らは護民官たちを国家のために行動させるのに成功した。国家運営を妨害する護民官に対し、4人の護民官が反対した。護民官の協力を得て、執政官は徴兵し、ヴェイイとの戦争を開始した。エトルリアの各地からヴェイイに援軍が到着した。彼らの目的はヴェイイを助けるというより、内紛が続くローマを滅ぼすことだった。エトルリア各地の都市で市民会議が開かれ、都市の指導者たちが大声で人々を煽動した。

「ローマ人が狂ったように互いに争い、分裂している。彼らの内紛が終了すれば、ローマの権力は永遠に続くだろう。強大な国家や帝国を滅ぼす唯一の毒または致命傷は内部分裂だ。長年ローマの元老院の賢明な政策と平民の忍耐が内部分裂を防いできた。しかし現在、彼らの階級対立は限度を超えている。もはやローマは一つの国家ではなく、二つの国家であり、それぞれが高官と法律を有している。彼らは最初徴兵について争ったが、戦争が始まると、兵士は将軍の命令に従った。軍隊の規律が保たれている限り、国内が不安定でも、悪人は逮捕される。しかし現在ローマでは反乱の流行が軍隊にも及んでいる。最近の戦争の時、緊迫した戦闘の最中にローマ兵全員が戦闘を放棄したため、勝利を目前にしていたローマ軍は破れ、アエクイ軍が勝利した。ローマ軍の軍旗は捨てられ、司令官だけが戦場に残った。兵士たちは命令を無視して陣地に帰った。実際このまま進めば、ローマは自軍の兵士によって滅ぼされるだろう。我々は戦争を宣言し、進軍するだけでよい。残りの仕事は運命と神々がしてくれる」。

【45章】

これまでエトルリアとローマは戦争を繰り返し、そのたびに勝者は入れ替わった。上記の演説を聞いて、エトルリア人は勇気を得た。一方ローマの執政官は自国の軍隊を恐れていた。前回の戦争で起きたことが悪夢となり、執政官は戦争に踏み切れなかった。エトルリア軍と自国の軍隊に同時に攻撃されるのではないか、と彼らは思った。時間がたてば、また平民が現在の状況を認識すれば、彼らの感情が変わり,平民は平静心をとり戻すだろうと期待し、執政官は何もせず、ローマ軍を陣地から出さなかった。ウェイイとエトルリアの軍隊は戦意が高く、ローマ軍の陣地に押し寄せ、挑発した。ローマ軍をからかったり、侮辱したりしても効果がなかったので、彼らはもっと侮辱的なことを言った。

「ローマの執政官は内部分裂を理由に戦おうとしないのではなく、本当の理由はローマ兵が臆病だからだ。執政官は兵士の忠誠心を疑っていのではなく、かれらの勇気を疑っているのだ。兵士の沈黙と不活動は新式の反乱だ。ローマ兵は自国の成り上がり者の性格と出自について考えた。これは正しくもあり、間違ってもいる」。

エトルリア兵はローマ軍の陣地と防御柵の前でこのように叫んだ。このように言われても、執政官は平然としていたが、単純な兵士たちは侮辱されて怒り狂い、国内の問題を忘れた。兵士たちはエトルリア兵を罰しなければならないと考えたが、貴族と執政官に勝利をもたらすのは嫌だった。敵を憎む気持ちと味方を嫌う気持ちが葛藤したが、最後に敵に対する憎しみが勝った。敵のあざけりの言葉はあまりにも侮辱的で無礼だった。大勢のローマ兵が彼らの将軍のもとに集まり、即刻戦うべきだと主張し、攻撃命令を求めた。二人の執政官は何事かを検討しているようであり、しばらく話し合っていた。彼らは平民兵士を疑っていて、戦闘を始めるのが恐ろしかった。やがて彼らは不安を押し殺し戦うべきだと決断したが、兵士の士気をさらに高めるために、すぐには攻撃命令出さなかった。

「まだ攻撃の時ではない。時はまだ熟していない。諸君は陣地に留まらなければならない。戦ってはならない。これは命令だ。命令に違反する者は国賊だ」。

兵士たちは執政官に拒否され、戦闘の許可が出そうもないと知ると、ますます戦いたくなった。敵の兵士たちは、ローマの執政官が戦うつもりがないと知り、悔しがり、腹いせにローマ兵をさんざん侮辱した。そして彼らは考えた。「ローマは内乱状態にあり、兵士は武器を与えられていない。ローマの覇権は終わった」。

エトルリア兵は勝利を確信して、無礼で屈辱的な言葉を投げつけながら、ローマ軍の陣地を突破しようとした。一方ローマ兵は幾度も侮辱されて、もう我慢ができなかった。ローマ軍のすべての兵士が執政官のもとにやって来た。彼らは筆頭の百人隊長を通して要求を伝えるのではなく、直接執政官に向かって叫んだ。もう時が熟していたが、執政官は攻撃を命令しなかった。しかし執政官マンリウスは混乱がひどくなれば反乱に至るかもしれないと心配し、兵士の要求に応じることにした。もう一人の執政官ファビウスがトランペットを鳴らすよう命じた。そして兵士を静かにさせてから、彼はマンリウスに言った。「

我々の兵が強いことを、私は知っている。それなのに私が戦闘を渋るのは、兵士たちのせいだ。以前彼らは戦いを拒否した。現在彼らは本当に戦いたいのだろうか。だから、彼らが勝利するまで闘うと神々に誓わない限り、私は戦闘を決断できない。以前ローマの執政官は兵士に裏切られた。兵士は神々を欺くことはないだろう」。

攻撃命令を求めた筆頭百人隊長の中に、M....・フラヴォレイウスという人物がいて、彼がファビウスに言った。

「執政官殿、私は必ず勝利して祖国に帰ります。父神ユピテル、軍神マルス・グラディヴスそして他の神々よ! もし

私が誓いを破るなら、怒りの鉄槌を私に下してください」。

フラヴォレイウスに続き、すべての兵士が一人一人神々に誓った。誓いが終ると、執政官は戦闘の合図をした。兵士たちは武器を取り、怒りに燃え、勝利を確信して出撃体制を取った。まだ侮辱の言葉を発しているエトルリア兵に、ローマ兵は言い返した。

「口減らずな奴らめ。我々は戦う準備ができた。お前たちの勇敢さを見せてもらおう」。

ローマ軍は、貴族も平民も全員驚くべき勇気を発揮した。特にファビウス家の人々は勇敢に戦った。彼らは平民の人気を取り戻そうとした。平民は貴族から見捨てられて怒っており、両者の間に溝ができていた。

 

 

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