たぬきニュース  国際情勢と世界の歴史

海外のメディアから得た情報を書こうと思います。

タタール人指導者が語る現地の緊迫した状況

2014-04-08 21:20:12 | ウクライナ

 

3月16日にウクライナ南部のクリミア半島で、「ウクライナから独立し、ロシアに編入される」ことについて、可否を問う住民投票実施された。住民の圧倒的多数が「ロシアに編入」されることに賛成した。

選挙管理委員会の発表では、投票82.7%で、投票者の99.5%が「ロシア編入」に賛成した。

 

クリミア自治政府のアクショノフ首相は、「われわれは勝利したわが家であるロシアに帰ろう。」と語った。

アクショノフ首相と同じくらい喜んだのがロシア国民である。プーチン大統領は、ひさびさに国民の高い支持率を獲得した。

 

       <ウクライナの地図>

 

  

                    BBCより

(説明)

  やや東寄り、南端にクリミア半島がある。    

   

 

  <ロシア国民の記憶に残るクリミア戦争>

 

1853年に始まったクリミア戦争は、ナポレオン戦争と第一次大戦の中間期に起きた大きな戦争である。

圧倒的な海軍力を誇る英仏軍は、クリミア半島の要衝セバストポリを攻略しようと、大軍を上陸させた。セバストポリにはロシア黒海艦隊の基地があった。上陸前に、数えきれない艦船が海面を埋めつくした映像が残っている。第二次大戦ではよく知られている光景であるが、この時代に始まっていたのである。

 

ロシアはセバストポリ市街地の周囲に防備を張り巡らし、同市を堅固な要塞に変え、よく戦ったが、ついに陥落した。やっとのことでセバストポリ攻略に成功した英仏軍であるが、コーカサス方面で敗北し、結局は、決定的な勝利を得られないまま、停戦となった。

 

現在のロシア人のだれもが、クリミア戦争について詳しくは知らなくても、セバストポリの戦いが激戦だったことだけは知っているのだろう。

           <セバストポリの街と港>

 

                ウイキペディアより

 

    <住民投票はインチキだった>

 

国連総会は3月27日、クリミアで16日に実施された住民投票に正当性はなく、ロシアによる併合は無効だとする決議案を採決した。賛成100、反対11、棄権58の賛成多数で採択した。

 

国連総会決議の4日後の31日、クリミアのタタール人の指導者が、CNNのインタビューの中で、選挙管理委員会の発表は嘘である、と語った。彼によれば、投票に出かけたのは全有権者の32.4%にすぎないという。タタール人有権者のほぼ全員が棄権しただけでなく、ウクライナ人とロシア人のなかにも棄権する者が多かった、という。

 

有権者の67%が棄権したという話は、驚きである。同一人が二度投票したという話は聞いていたが、このことは初めて知った。

 

人口比でロシア人は6割を占めるので、住民投票をすれば、ロシア帰属は承認されると考えられていた。

それもあってか、ウクライナ革命政権側は、「ブダペスト覚書」を根拠に、住民投票を行うこと自体を無効と主張している。

 

1994年の「ブダペスト覚書」で、ロシアはウクライナの独立と主権を尊重することを約束した。これには英国、ウクライナ、ロシア、米国が署名している。「主権を尊重する」ことを約束したということは当然「領土を侵さない」と約束したのある。

 

   <ロシア併合後のクリミアで不穏な動き>

 

クリミアのタタール人の指導者が国連に訴えたいことは、住民投票の結果が発表と異なることの他に、クリミアで戦闘の危険が迫っている、ということである。これも驚きである。欧米のメディアは、クリミアについては、勝負がついてしまったので、半ばあきらめ、ウクライナ東部までもが、クリミアと同じ運命をたどることになるのではないか、と心配している。また、今度は、すかさずNATOが反撃し、それによってNATO対ロシアの戦争が始まるのではないかと真剣に危惧(きぐ)している。

 

ところがロシア領となったクリミアで、戦いが始まるというのである。タタール人の指導者が今一番恐れていることは、近々大規模な衝突が起き、流血の大惨事になるのではないか、ということである。タタールの議会は、その惨事を予防するために、国連の部隊をクリミアに派遣することを要請した、と彼は語った。

 

クリミアのタタール人はマジリスと呼ばれる自分たちだけの議会を持っている。クリミア半島の人口比からすれば、14%に過ぎない少数民族であるが、彼らの結束力はあなどれない。また「クリミアの地で生きたい」というかれら願望の強さは、はかり知れない。それは余人の想像を超える。

 

プーチンは軍事力によって、いったんはクリミアを征服したものの、ウクライナ人とタタール人の怒りがいつ噴出するかはわからない。

 

上記タタール人指導者ムスタファ・ジャミーレフ氏の話によれば、ロシア人民兵がわがもの顔で通りを歩き、支配者のように振る舞い、タタール人に向かって「また追放してやるからな」とおどしているという。

この威嚇(威嚇)の背後には、抜き差しならぬ対立が潜んでいるようである。

 

クリミアは水道も電気も本土ウクライナから導いており、ウクライナとの結びつきは強い。主要産業のひとつである観光業についても、ウクライナからの旅行者が最も多い。

 

ウクライナの東部国境近くに4万の兵力を集結させたロシアが、次にどう出るか、世界がかたずをのんで見守るなか、思いがけず、クリミアで火の手があがる危険性もある、という緊迫した状況である。

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