たぬきニュース  国際情勢と世界の歴史

海外のメディアから得た情報を書こうと思います。

ウクライナの停戦は続かず本格的な戦争へ

2014-09-07 16:42:01 | ウクライナ

 

ウクライナ政府と親ロシア武装勢力は、6日午前0時から停戦することで合意した。実効性が疑われているが、戦闘地域では、砲声がやみ戦闘はすみやかに停止した。

ひとまずほっとしたところであるが、親ロシア派武装勢力とウクライナ政府両者の要求の隔たりは大きく、内戦は終了せず、戦闘が再開される可能性が高い。

 

     <ロシア軍の侵攻はウクライナ分割が目的>

 

ロシア軍が決然として反攻に転じたのは、ポロシェンコ大統領から譲歩を引き出すためではない。領土を獲得するためである。プーチンが「東ウクライナを国家として認める」ことを要求するつもりだ、と語ったのは、本音だった。

直後に大統領府が、大統領のこの発言を否定した。少し変である。プーチンが、言った後で自ら「しまった」と後悔したのならまだいいが、ロシア政府は危機に直面して分裂しているのかもしれない。

 

プーチンはこれまでドイツのメルケル首相とポロシェンコ大統領との交渉を重視してきた。ロシアの安全と経済的利益について、確かな保証を両人から得ようと努力してきた。強いプーチンというイメージとは反対に、ひたすら低姿勢であった。プーチンは政治的解決しか考えていないと断言する専門家さえいた。しかし親露派が簡単に敗北を続ける過程で、交渉による解決が不可能であることが明らかになった。ぎりぎりのところでプーチンは態度を一変した。彼は手のひらを返した。ロシアの軍部が交渉の打ち切りを決意したのかもしれない。

 

そして8月末、ロシア軍が出動した。それは交渉を有利にするためではなく、最低限の範囲を占領し、分割を既成事実化するためだった。

占領地域は、北から順にルハンスク市・ドネツク市・マリウポリ市を結ぶ線の東側である。

                (前回と同じ地図です)

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  <3地点でロシア軍がウクライナ軍を撃破>

   

 

(説明)                        BBCより

 

 ①ロシア軍が攻勢に出たのは、北から順にあげると、まずルハンスク市の南方に位置する空港。地図の北東部。空港は地図に示されていないが、ルハンスク市に近いところにある。

 

②次にドネツク市の東方20kmのところに位置するイロヴァイスクという町。地図の中央にドネツク市がある。イロヴァイスクは地図に示されていないが、Makiyivkaの南東。

 

 ③3つめはアゾフ海に面するノボアゾフスク。地図の南端にアゾフ海がある。アゾフ海に面して大貿易港マリウポリがある。マリウポリの東方にノボアゾフスクがある。

 

 ④これら3地点は、地図を見てわかるように、ロシア領と連絡をとりやすく、ロシア軍にとって支えるのが容易な3拠点であリ、しかも南北に連なっている。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー    

      

 ルハンスク・ドネツク・マリウポリの三都市はまだ占領していないので、分割を決定的なものにするには不徹底であるが、攻略寸前の状態ということで十分、と判断したのではないか。ロシア兵の損失と住民の犠牲を考慮したのかもしれない。ロシアでは、遺体を受け取る兵士の母親や、戻ってこない兵士の母親が抗議をしている。ロシア軍の戦死者・負傷者は400人を超えたという。

 

     <ウクライナ軍と比較にならず強いロシア軍>

 

ウクライナ軍に比べロシア軍の装備は格段に優れており、停戦前にマリウポリが陥落するのではないか、と政府軍の兵士は恐れた。20台の戦車とロシア軍がマリウポリに迫っていた。

 

北のルハンスクでは、9月1日、ウクライナ軍はロシア軍の戦車に歯が立たず、退却した。ウクライナ軍はルハンスク空港から整然と退却した、とウクライナ安全保障会議のルイセンコ報道官は報じた。また同報道官は、ロシア軍の砲撃は非常に正確であり、熟練した砲手によるものである、と述べた。

 

 親ロシア派にはウクライナからの独立を望まないメンバーも多い。しかし戦闘部隊の中核は、ロシアの支援がなければ、わずかな自治も獲得できないことを知っている。

 

          <ロシアが主張する「自治州」は事実上の独立国>

 

そのロシアは「東部を国家として認める」という要求を取り下げたとしても、財政権と外交権は譲るつもりがない。財政権と外交権を有するならば、ほぼ独立国ではないか。まさにそうである。ロシアの言う特別自治州とは、二重国家のような変則国家である。外交権について正確に言うと、東部は拒否権を有するということである。ウクラナは、東部が拒否権を行使すれば、EUにもNATOにも加盟できない。

 

 ポロシェンコはひょっとしたら、このようなロシアの要求を受け入れるかもしれない。彼は、戦争よりはましだと賢明な判断をするかもしれない。

  

戦死した政府軍兵士の母親が、軍関係者に食ってかかっていた。何と言っているのかはわからないが、顔の表情と口調の激しさは見て取れる。軍関係者が怒りだすのではないか、と動画を見ている私はハラハラした。軍関係者が怒りだす前に母親はわっと泣いてしまった。

 

 日本の統治者はこういうことに決して動じないが、ポロシェンコは動揺するかもしれない。

   

しかしポロシェンコ以外の閣僚は戦争を考えているようである。

 

            <戦争に向かうウクライナ>

 

停戦の数日前に、ヤツェニュク首相は、欧米に最新式の兵器の援助を求めた。アゾフ大隊とその支持者も最新の武器を要求した。極右勢力はすべて同様の要求をするだろう。欧米が本格的な武器援助をすれば、政府軍は停戦を破棄し、東部奪回作戦を開始するだろう。そしてそれは、これまでの戦闘をはるかに上まわるロシアとの本格的な戦争になるだろう。

 

次回は再びイロヴァイスクの戦闘について書き、ルハンスクとノボアゾフスクについては、その後書くつもりです。 

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ロシア軍の攻撃によりウクライナ軍壊滅

2014-09-03 00:50:29 | ウクライナ

 

ロシア正規軍が越境し、国境付近の町を攻撃し、占領した、と8月28日ウクライナの外交官が述べた。新しい展開なので、このことについてブログの下書きを書いていたら、本日91日新しいニュースを知ったので、書き加えなければならなくなった。

 

   <3地点でロシア軍がウクライナ軍を撃破>

 

 

(説明)                  BBCより

①ロシア軍が攻勢に出たのは、北から順にあげると、まずルハンスク市の南方に位置する空港。地図の北東部。空港は地図に示されていないが、ルハンスク市に近いところにある。

②次にドネツク市の東方20kmのところに位置するイロヴァイスクという町。地図の中央にドネツク市がある。イロヴァイスクは地図に示されていないが、Makiyivkaの南東。

 

③3つめはアゾフ海に面するノボアゾフスク。地図の南端にアゾフ海がある。アゾフ海に面して大貿易港マリウポリがある。マリウポリの東方にノボアゾフスクがある。

 

④これら3地点は、地図を見てわかるように、ロシア領と連絡をとりやすく、ロシア軍が支援し易い。3拠点は南北に連なっており、防衛戦になっている。

 

これまで戦闘がなかった東部国境の最南端にロシア軍が侵入し、町と周辺の村々を占領した。新たな戦線が開かれたことに、ウクライナ政府はショックをうけた。これだけでも注目すべき展開だが、同時に北方のドネツク市周辺とルハンスクの空港でもロシア軍による反撃が行われ、政府軍は多くの死者を出し、敗走した。つまり北のルハンスクと中央のドネツク市付近そして同じくドネツク州の最南端の3か所で、ロシア軍による攻撃が行われたということである。イギリス政府関係者がCNNに語ったところによれば、政府軍を攻撃したロシア軍は40005000人という。

 

      <プーチンの決意>

     

プーチンはこれまで、親露派武装勢力が敗退するがままに放置しているので、私は少し不審に思っていたが、これほど決然とした反攻に出たことに驚いた。同時に、やはりそうかと納得する思いもある。

 

4月の時と同じように、再び戦争前夜を思わせる緊迫した状況となった。プーチンは第二次大戦の時の「レニングラード包囲」について語り、国民に覚悟を呼びかけた。

 

EUにガスと石油を売ることでロシアの経済は成り立っている。したがってロシアにとって、EUとの友好は基本であるが、軍事的・戦略的観点からすれば、ウクライナ問題は、悪い方にかたむけば、ロシアという国家の存立を危うくする。

 

プーチンはBBCに語った。「第二次大戦後、今ほど戦争の瀬戸際に近づいたことはない。」

またウクラナの国防相は語った。「われわれはロシアと大戦争をしている。数万人が死ぬだろう。」

 

これまで優勢だったウクライナ政府軍は、3か所で突然敗北し、逃走した。いずれも重要な拠点なので、ロシア軍の反攻が本格的なものであることをうかがわせる。

 

軍事情勢に加え、プーチンは「ウクライナ東部を国家として認めるようにと、ポロシェンコ大統領に要求するつもりだ」と語っており、以前の「東部住民の自治の保障」という控え目な要求から、一変している。プーチンは「ウクライナ分割」に向かって突き進んでいるように見える。

 

大きな戦争の発端となるかもしれない、今回の3地点攻略について、まずイロヴァイスクについて書くことにする。

 

ドネツツク市内で抗戦する親露派は「陥落寸前」と、810日前後に報道されていた。しかし親露派は28日になっても抵抗を続けている。戦闘は激しく、市内は2週間連続して砲撃を受けた。28日だけで15人の市民が死亡した。「状況は切迫している」と市当局は報じた。水と電気は止まり、食糧も不足している。戦闘地域なので、ロシアの援助物資が届いていないかもしれない。

 

市民の多くは戦闘の終了を望んでいたが、敗北を目前にしている親露派は必死に持ちこたえようとていた。そして親露派が待ち望んでいた朗報がやっと届いた。20キロ東方に援軍が来たのである。

 

  <イロヴァイスクの政府軍 が壊滅>                                               

(説明)

中央に大きな紫色の矢印があり、ロシア軍の侵攻を示している。矢印の先端の少し先にイロヴァイスク(Ilovais'k)がある。Ilovais'kの左側にやや大きな文字でDonetzk(ドネツク)と書かれている。

 

ドネツク市の東方約20㎞に位置するイロヴァイスクという町は激戦地となっており、ドンバス大隊の司令官も負傷していた。政府軍は攻めあぐんでいた。守る側の親ロシア派は必死だった。

この日、急にに戦況が逆転した。突然政府軍は集中的な砲撃を受けた。これまでになかったことである。100人近くの兵士が死んだ、とキエフの新聞は伝えた。「われわれの部隊で生き残ったのは、20人だけだ。他の部隊も同様だろう。」と兵のひとりが語った。この兵の言葉が正しいとすれば、死者は数百人という噂は本当かもしれない。

 

シリアと同じで、政府軍は砲撃と空爆によって親露派を攻撃し、自軍の損失を極力少なくしてきた。しかし、この日は逆転してしまった。

 

CNNは政府軍の医療部隊にインタビューしたが、かれらは「昨日70人の遺体を運んだ」と語り、非常に落ち込んでいたという。またリポーターは、多くの政府軍兵士が捕虜となり、連れて行かれたと語った。親露派はイロヴァイスクから南へ向かって支配地を確保しようとしているようだという。

 

     (戦死した約100名の所属)

ロシア軍から圧倒的な砲撃を受け、イロヴァイスクで戦死した兵士の所属は、第40, 39、第 28大隊と第51志願兵旅団である。

 

 <イロヴァイスクの攻防に参加した非正規軍>

この2週間、イロヴァイスクは激戦地のひとつであり、正規軍の他にいくつかの民兵部隊が政府軍と共に戦っていた。ドンバス大隊・アゾフ大隊・シャフタルスク大隊・ドニプル大隊である。これらの民兵部隊は2週間の戦闘で、多くの戦死者・負傷者を出していた。敵である親露派は、追い詰められながらも粘り強く戦っていたようである。

ドンバス大隊・アゾフ大隊等はそれぞれ、財閥の私兵であり、性格としては、ミニ軍閥である。現在は政府軍と共に戦っているが、明日は政府軍の敵になる可能性もある。

 

ロシア軍がルハンスクの空港を確保した経緯と、ノボアゾフスクの政府軍が敗走したことについては、次回書きます。

 

 

 

 

 

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