たぬきニュース  国際情勢と世界の歴史

海外のメディアから得た情報を書こうと思います。

シリア 2012年11月末の化学兵器危機③

2017-09-30 23:42:05 | シリア内戦

 

前2回、2012年11月末の化学兵器危機について書いた。フランスの国際放送フランス24は独自の取材をし、前2回と異なる情報を得ている。例えば、シリアが化学兵器を準備していること発見したのはイスラエルである、とニューヨーク・タイムズは書いているが、フランス24は「米国のドローンにより発見された」としている。

(===== ====シリア:化学兵器の脅威》========

      The twin threat posed by Syria’s chemical weapons

                                       France24    2012年12月4日

シリアの民主化運動が始まってから、1年8か月経過した。シリアが保有する化学兵器に、国際社会の関心が集まっている。昨日(12月3日)、オバマ大統領がシリアに警告した。

「化学兵器を自国民に対し使用することは、レッド・ラインを超える行為である」。

ラスムセンNATO事務局長も、シリアに対する世界的な警告に声を合わせた。

「国際社会は化学兵器の使用を許さない。この恐ろしい兵器が実際に使用されたなら、国際社会は即座に行動するだろう」。

25年前サダム・フセインが自国のクルド人をサリンやマスタードなどで殺害したが、現在再び化学兵器の危機が高まっている。

NATO諸国の外交官たちは、トルコへのパトリオット・ミサイルの配備に合意するだろう。トルコはシリアによる攻撃の脅威に直面しており、トルコの防衛強化が必要であるからだ。シリアのミサイルには化学弾頭が搭載されているかもしれない、とトルコは主張し、NATOにパトリオット・ミサイルを要求した。

          (シリアが化学兵器を準備)

数日前、Wired紙の軍事ブログ・サイト「危機管理室(Danger Room)」が次のように書いた。

「先週シリアは化学兵器を準備するため、化学物質の混合を開始した。シリア中部で、シリアの技術者たちがこの作業をしている。米政府関係者が匿名で語ったところによれば、この作業は完了し、サリンが航空機に積まれる状態にある」。

パリの戦略研究財団のオリビエ・ルピックがフランス24に次のように語った。

「シリアの化学兵器保管所の2か所で、シリア人は大量の化学兵器を操作している。この情報は米国のドローンにより得られたようだ」。

カナダ王立大学の教授であるクリスチャン・ロイプレヒトはフランス24に次のように語った。

「生成されたサリンを無力化することはできない。爆撃により破壊されるのはサリンの容器であり、そうすればサリンが拡散する。人が住んでいる場所に移されたサリン弾を破壊すれば、多くの犠牲者が出る。シリア政府がサリンを準備したのは、外国による攻撃への抑止のためかもしれない」。

 

         (外国の軍事干渉の噂が危険を高める)

多くの専門家が一致して次のように考えている。

「アサドは化学兵器の使用が重大な結果を招くことを十分承知している」。

フランス戦略研究所の研究員であるデービット・リグレは次のように言う。

「化学兵器の使用は外国による軍事干渉への道を開くことを、シリアの政権は知っている」。

パリの戦略研究財団のルピックも同じ考えだ。

「政権にとって化学兵器の使用は、得ることよりも、失うことのほうがはるかに大きい。アサドは馬鹿ではない。レッド・ラインを超えれば、シリアに対する国連決議を妨害している友人国ロシアからも見放される。友人国とはロシアと中国だ」。

アサド自身は化学兵器の使用が危険を招くことを知っているとしても、政権が危うくなった時、シリア軍司令官たちは自制できるだろうか。部隊に直接命令し、統制しているのは彼らだ。

カナダ王立大学のロイプレヒトは次のように言う。

「たとえば、反乱軍の攻撃により、化学兵器の基地が危険に陥った場合、基地の司令官は中央に問い合わせるだろうが、即答が得られなかった場合、彼は自分で決断し、化学兵器を使うかもしれない。

シリア内戦はますます残酷になっており、反対派内のイスラム過激派が化学兵器を手に入れる可能性もある。イスラム過激派はリビアのベンガジで起きたことの再現を願っており、国際的な軍隊を呼び込むために、わざと化学兵器が保管されている基地を攻撃するかもしれない」。

2012年9月11日、ベンガジの米国大使館が襲撃され、大使が殺害された。襲撃の動機は米軍の出動を促すことだった。

===================(フランス24終了)

シリアの化学兵器危機は11月が最初ではなく、同年7月が最初である。7月23日シリアは「外国の侵略に対しては、化学兵器を使う」と発表した。シリアが化学兵器を保有していることは確実だったが、これまで「所有していない」と言い続けてきた。この日突然所有を認めただけでなく、使用をちらつかせて仮想敵国を威嚇した。この発言により、シリア内戦に関心を持つメディアは騒然となった。 

======《シリア政府、化学兵器を使用すると脅す》======

    Syrian regime makes chemical warfare threat

                  Guardian 2012年7月23日

シリア外務省のマクディシ報道官は国営テレビの記者会見で次のように述べた。

「現在の国内危機において、生物・化学兵器が使用されることはない。繰り返して言うが、いかなる事態になってもこれらの兵器が使用されることはない。これらの兵器はすべてシリア軍が直接管理し、安全に保管している。シリアが外国の侵略される脅威に直面しない限り、これらの兵器が使用されることはない」。

しかしマクディシ報道官は後に述べている。

「シリアで起きていることは国内反乱ではない。外国から資金援助された、外国人過激派が騒動を起こしているのである」。

シリアは神経ガスとマスタードガスを保有しており、運搬手段としてスカッド・サイルを持っている、と考えられている。また通常兵器の分野でも、対戦車ロケットや携帯式対空ミサイルなど、各種の最先端兵器をそろえている。

4日前(7月19日)イスラエルは次のように述べた。

「アサド政権の崩壊後、我が国の敵がシリアの化学兵兵器を手に入れるかもしれない。その危険が迫った場合、我々は軍事介入せざるをえない」。

3日前(7月20日)米国情報機関の高官が次のように述べた。

「シリアは最北端の地域に保管されていた化学兵器物質を移した。北部は戦闘が激化しており、奪われる危険を考慮したのだろう。各地に散在している化学兵器を最も安全な地域にまとめて保管するつもりであるようだ。シリア政府は化学兵器の安全に努力しており、評価したい。 しかしながら、シリアの化学兵器施設で活発な動きがあり、米国の情報部門は化学兵器の移動を注意深く監視している。そして彼らがどこでそれらを使おうとしているのか、知ろうとしている」。 

シリアの内戦では、反対派が攻勢を強め、19000人の死者が出ており、アサド政権は孤立を深めている。このような時期にアサド政権は、化学兵器を使用する意図を語った。

イスラエルは即座に反発した。「シリアの化学兵器がヒズボラや反対派内の過激派の手に渡ることを阻止するため、我々は軍事的手段を取らざるを得ない」。

シリアが化学兵器を保持していることは広く知られていたが、シリアはこれをかたくなに否定してきた。23日化学兵器の保有を認めたのは、政権が絶望的な状況にあり、動揺しているからである。反対派はますます大胆な攻撃を繰り返し、戦果をあげている。シリア軍最高幹部4人を殺害し、国境検問所数か所を占領し、アレッポとダマスカスの重要な政府軍基地に攻撃を続けている。

 

================(Guardian終了)

 

 

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シリア 2012年11月末の化学兵器危機②

2017-09-21 20:33:56 | シリア内戦

 

2012年11月末、シリア軍が空爆用の500ポンド(272キログラム)爆弾数十個に化学物質を注入した。シリア軍はサリン弾を透過する予定だったが、空爆は直前に中止された。未然に終わったため、これについて報道したテレビは少なかった。米国ではNBCが報じた。この時期広く報道されたのは、トルコへのパトリオット・ミサイルの配備だった。しかし500ポンドのサリン弾が数十発投下されれば、サダムフセインがハラブジャのクルド人を殺害した事件に匹敵する事件になったかもしれない。

ニューヨーク・タイムズは攻撃が切迫していたことを伝えており、直前で中止された経過を説明している。この記事は前々回訳した。

この事件について、私はさらに調べた。

イスラエルはシリアの化学兵器施設を爆撃する計画を立てていた、とWired紙が書いている。一方で米統合参謀本部はシリア攻撃を望んでいなかったという。また、シリア軍がサリンを準備したのは事実だが、サリン攻撃をすぐに実行つもりなのかは、わからないという。

ニューヨーク・タイムズは事件の一か月後に記事を発表しているが、Wiredは事件の直後に発表している。シリア軍が化学兵器の準備を開始したのは、2012年11月28日である。

======《シリアが化学攻撃を準備》=========

Exclusive: U.S. Sees Syria Prepping Chemical Weapons for Possible Attack

                    Wired   2012年12月3日

シリアの問題をよく知る米政府関係者が、Wired紙のブログ「危機管理室(Danger Room)」に次のように話した。

「アサド政権の技術者たちは、化学兵器としてのサリンを合成するため、2種類の前段階物質を混合し始めた」。

シリアの政権が神経ガスを用いて自国民を殺害するのではないか、と国際社会はこれまで以上に心配している。

シリアの技術者によるサリンの準備は、先週半ば(11月28日)、シリア中部(ホムス付近)で始まった。

シリア軍がなぜこのようなことをするのか、米政府は理解できない。シリア軍は前段階物質の混合と並行して、化学兵器の一部を他の地域に移したが、米政府はその理由もわからない。

しかしアサドが命令すれば、化学兵器がすぐにでも使える状態にあることは確かだ。それらを航空機に積んで投下できるということだ」。

サリンは主に2つの成分からできている。潤滑油として知られるイソプロピル・アルコールとメチルホスホニル・ジフルオリドである。アサドはこれらの前段階物質を500トン保有している。事故を防ぐため、2種類の物質は別々に保管される。この保存法はバイナリー・フォーム(2部形式)と呼ばれる。

米政府関係者は話を続けた。

「先週シリア軍は2種類の物質の一部を混ぜ始めた。保管されている全部ではなく、ほんの一部だ。彼らの目的が何なのか、我々にはわからない」。

5か月前(2012年7月)、アサド政権は反対派を支援する国々対し、公式に警告した。

「多くの犠牲が出ている内戦に、外国の軍隊が新たに参入するなら、我々は化学兵器を使用するだろう」。

アサドの警告が発せられると、米国とその同盟国の情報機関はパニック状態になった。前段階物質がシリアに持ち込まれるのを防ごうと、これらの情報機関は全力を尽くした。

米政府関係者は話を続けた。

「現在は、7月の時よりはるかに深刻だ」。

米統合参謀本部の首席報道官・ジョージ・リトルは次のように述べた。

「シリアが化学兵器を使用することは、断じて容認できない。シリアは化学兵器の保全に責任を持たななければならない。自国民に対し使用してはならない」。

プラハで、クリントン国務長官はシリアを威嚇した。

「シリアが化学兵器を使用するなら、米国は即座に行動を起こすだろう」。

シリアが化学兵器を準備したり、移動させたりしていることが、攻撃が差し迫っていることを意味するのか否か、わからない。

シリアの脅威に対し、それが通常兵器であれ、化学兵器であれ、中東諸国と関係諸国は準備している。国連の職員は必須要員以外、ダマスカスから退去した。エジプトはダマスカスに向かう旅客機を戻らせた。

アトランティック紙は次のように報じた。

「イスラエルはシリアの化学兵器施設を爆撃する計画について、ヨルダンと相談した」。

米統合参謀本部のスタッフは次のように示唆した。

「化学兵器の施設を確保するには、7万5千人の兵士が必要だ」。

この言い方から、米統合参謀本部はシリアに深く関わることを望んでいないことがわかる。

最近アサド政権は弱体化している。ダマスカス周辺の戦闘がげきかしている。反対派の部隊がこの地域にある政府軍基地6か所を占領した。最大の補給基地であるダマスカス空港にも、脅威が迫っている。首都と空港を結ぶ道路を守るため、政権は増援部隊を他地域から呼びよせた。

反対派の勝利はシリア北部と東部では、劇的だ。先月(11月)反対派はトルコ国境付近の町を多数獲得した。またアレッポの近くにある重要な軍事空港を占領した。

====================(Wired終了)

Wiredは4日後に再び、シリア軍による化学兵器の準備問題について書いている。サリンについて理解を深める内容になっている。サリン攻撃が切迫していたかどうかはわからない、という判断の理由が書かれている。この点では、化学攻撃が近いとする、ニューヨーク・タイムズの記事と異なっている。

またWiredは「化学攻撃をしてはならない、という米国の警告が最後通告に近いものだった」としており、この点でニューヨーク・タイムズと一致している。

ニューヨーク・タイムズはこの事件に関する情報収集と確認の作業に時間を費やし、一か月後発表したのである。

シリア軍がすぐに攻撃するつもりだったか、については判断が難しい。

 ====《化学兵器は、すぐに使える状態》=======

Bombs Are Now Filled With Chemicals — And Could Be Up for Grabs

          Wired  2012年12月7日

アサド政権は前段階物質を混ぜ合わせ、化学兵器・サリンを合成している。このことは最大の危険ではないかもしれない。テロリスト集団が、世界で最も危険な化学兵器を手に入れるかもしれない。

アサドの化学部隊は、神経ガス・サリンの合成に必要な化学物質を購入し、長い間実験を続けてきた。血なまぐさい内戦の期間も、化学兵器の実験は継続されている。

米政府内のシリア専門家の見解によれば、シリアの技術者たちは、サリンの毒性を1年間有効に保つことができるようだ。

米政府関係者の一人が、Wired紙のブログ編集室に次のように述べた。

「合成されたサリンは、すぐに使わなければ無効になるわけではなない。シリアのサリンが保存可能になったことで、反対派の中の過激イスラム主義者がそれを手に入れる危険が生まれた。つまり、化学兵器で武装したテロリスト集団が出現するということだ」。

米国の科学者連盟のチャールズ・ブレアも次のように言う。

「シリアの化学兵器の危険がどれほど大きいか予測できないが、一点だけ確かだ。アサド政権が倒れれば、テロリストが化学兵器を手に入れるだろう」。

神経ガス・サリンは不安定であり、時間とともに劣化する。純粋なサリンでない限り、容器を破壊する。

それでアサドの技術者たちがの化学物質の一部を混合し始めた時、シリア軍はアサリンを使うつもりだという恐怖が広がった。しかしこれは在庫の一部を処分しただけかもしれない。

しかしこれとは反対に、もっと恐ろしいことも考えられる。もしアサドのサリンが数か月間有効ならば、これが使われる可能性は大きくなる。いったん生成したサリンは極めて危険であり、取扱いが難しい。運ぶことさえ危険を伴う。サリンを保管するのは面倒で、使ってしまうほうが容易である。

米政府関係者は次のように語る。

「生成されたサリンを保管したり、運んだりすることは、前段階物質より10倍難しい。武器として使ってしまうのが、はるかに簡単だ」。

また反対派の中の過激分子にとってサリンを製造することは困難だが、生成されたサリンを手に入れるチャンスが生まれる。

シリア各地の20箇所に、500トン以上の前段階物質が保管されている。反対派がこれらの物質を手に入れる機会は、これまでしばしばあった。これらの一部が合成されたことによって、今後はサリンが反対派の手に渡ることになる。

 

サリンは取扱いが難しく、危険である。この問題を解決するため、冷戦時の米国など、化学兵器を保有する国は2種類の前段階物質を別々に砲弾に入れる方法を考案した。砲弾の内部は2つに仕切られており、発射後に2種の物質を隔てている膜が破れる。発射後、砲弾は毎秒数千回、回転しながら飛ぶ。この回転によって2種の物質は混合し、サリンが生成される。

この方式は数十年前に実用化されたが、開発に成功したのはわずかな国だけであり、ほとんどの国にとって、手の届かない技術である。

国連の報告によれば、イラクのサダム・フセインは隔壁を持つ砲弾を試作し、何度か実験したが、実用化に至らなかった。1980年代のイランとの戦争で、イラク軍は化学兵器を使用したが、隔壁を持つ砲弾を使用したことはなかった。

ランド財団の非通常兵器の専門家ジェイムズ・キニヴァンはWire紙のブログ編集室に次のように話した。

「イラク軍は発射直前にサリンを生成し、すぐに発射していた」。

シリアの化学砲弾の多くは、大砲の砲弾ではなく、BM-21グラード・ロケットである。あるいは航空機から落とす爆弾である。どちらの場合も、回転数が少ないため、2種類の物質を隔てている膜が破れることはない。シリア軍は2種類の化学物質を砲弾に入れてから、発射前にそれらを十分混ぜなければならない。

米国の武器に関する情報の専門家はWire紙のブログ編集室に次のように話した。

「あるいは、シリア軍は砲弾に入れる前に、2種類の物質を混ぜる。これは昔のソ連の初歩的な砲弾だ。砲弾の中には仕切りがない」。

サリンの前段階物質を混ぜることは危険な作業である。前段階物質は活性化させる際には 正確さが求められる。急激に活性化してはならず、混ぜながら、時々冷やさなければならない。そのようにして出来上がったサリンは恐ろしい物質である。この数十年、誰も使ったことがない。

しかし現在シリアの政権はサリンをしようとしている。今週米政府関係者がWire紙のブログ編集室に、次のように語った。

「シリアの化学部隊はサリンを爆弾に注入した。サリン爆弾は航空機に積まれ、投下されるだろう」。

 

シリアの化学兵器を保全する努力がなされており、次のような報道がある。

「欧米諸国の政府は反対派の中の信頼できるメンバーを選び、化学兵器の取り扱いについて訓練をしていいる。信頼できる人間が化学兵器を確保しなければならない。訓練はヨルダンとトルコでされている。数か月前から、米国は反政府軍が最新の通信機器を扱えるよう、訓練している。

Syria Deeply(シリアについて深く知る)というサイトが次のように書いている。

「シリアの化学兵器を監視するため、米国の傭兵はずっと前からシリアにいる」。

反政府軍の指導者の、少なくとも一人が政権側の人物と秘密に協力し、前段階物質を安全に保管する努力をしている。

オバマ大統領、国連事務総長、NATO事務局長が一致してシリア政府に警告し、化学兵器の準備を中止するよう求めている。

12月6日クリントン国務長官はロシアのラブロフ外相と会談の前、次のように述べた。

「追いつめられたアサド政権が化学兵器を使用するのではないか、と我々は恐れている。あるいは、彼らが化学兵器を管理する能力を失い、政権と敵対しているグループの一つがそれを手に入れるかもしれない。この危険を前にして、我が国と関係諸国は完全に団結しており、我々は疑問の余地がないメッセージをアサド政権に送った。準備された化学兵器を使用することは、レッド・ラインを超える行為であり、実行者は責任を問われ、処罰されるであろう」。

=====================(Wired12月7日終了)

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2012年12月23日 謎が多いホムスの化学兵器事件

2017-09-06 01:04:24 | シリア内戦

 

201211月末、シリア軍が大規模なかが攻撃を準備していることが発覚した。

「シリアの化学部隊は、混ぜ終えた化学物質を空爆用の500ポンド(272キログラム)爆弾数十個に注入し、それらをトラックに積み込んだ。トラックは近くの軍事空港に向かい、化学弾は航空機に搭載されるだろう」。

これはイスラエルが衛星画像によって知ったことである。イスラエル軍の高官が米統合参謀本部に電話した。米国は軍事行動をちらつかせ、シリアに化学攻撃の中止を迫った。中国、ロシア、アラブ諸国の仲介により、シリアは化学攻撃を中止した。

未遂に終わったが、実行されればシリア内戦で最大の事件になったであろう。これについては前回書いた。

今回はその一か月の事件について書く。未遂ではなく、実際に化学兵器が使用され7名が死亡した。

20121223日ホムスで起きたの化学攻撃について、メイル・オンラインが書いている。使用されたのはサリン、マスタードより毒性が弱いエージェント15であると考えられている。米国がこの事件調査し、米政府関係者が調査結果をメディアにもらした。調査に時間がかかったのか、他の理由からか、メディアが報道するのは事件の一か月後である。

 

======〈1223日、ホムスで化学攻撃〉=======

U.S. backed plan to launch chemical weapon attack on Syria and to blame it on Assad 's regime

     Mail Online 2013129

128日米政府は、化学兵器使用の問題について述べた。

「化学兵器使用の結果について、米国は他の諸国と共にレッドラインを設定した」。

漏えいした米政府の通信によると、1223日シリア軍はホムスで化学攻撃をした。イースタンブールの米国総領事(Scot Frederic Kilner)がこの事件を調査した。The Cableが公表した文書にはその調査結果が書かれている。ついでに、アサドの妻アズマが4人目の子供を妊娠したことも書かれている。

この文書を見たオバマ政権の役人が次のように述べた。

100%の自信はないが、1223のホムスの攻撃に使われたのはAgent15である。シリア人通報者の証言は信頼できる」。

キルナー総領事は化学攻撃があった場所の住民、医師、反対派戦闘員に聞き取りをした。また、シリア軍の元将軍で大量破壊兵器部門の長官だったムスタファ・シェイク(Mustafa al-Sheikh)から話を聞いた。

ホムスの神経科医師アブ・アブドは化学兵器が使用されたことを確信している。「あれは化学兵器だった。催涙弾で、人は死なない」。

目撃者によれば、戦車が化学弾を発射した。人々は吐き気、ひきつけ、精神錯乱、呼吸困難などの症状を示した。

このような症状は化学兵器化合物Agent15が原因である。

シリア政府は化学兵器の使用を否定している。「シリア軍は自国民に化学攻撃をすることはない」。

====================(メイル・オンライン終了)

トルコに駐在する米総領事の調査結果とされるものは、リーク(漏えい)された情報であり、米政府が正式に発表した見解ではない、ホワイトハウスの報道官は「このメディア報道は米政府政府が得ている情報と一致しない」と述べ、米国務省の報道官は「メディアが伝える秘密電報の内容は誤りである。ホムスで化学兵器が使われたと断定できる証拠はない」と述べている。

政府関係者が語ったとされる情報を、米政府は否定している。米政府の公式見解は「ホムスで化学兵器が使われたかどうかは、わからない」というものである。

この謎めいた事件について、ニューヨーカー紙が書いている。ニューヨーカーによれば、「トルコに駐在する領事の調査結果」を最初に報道したのはフォーリン・ポリシーである。

 

====《ホムスで使用されたのはエージエント15か?》===

The Case of Agent 15: Did Syria Use a Nerve Agent?

                 By Raffi Khatchadourian

       New Yorker  2013年1月16日

クリスマスの直前、ホムスから不幸なニュースが発信された。シリア軍がホムスの反対派支配地に向けて、毒性の強いガス弾を発射した。

アルジャジーラは次のように伝えている。

----活動家は「最悪な状況だ」と落ち込んだ様子で語った。「マスクが足りない。我々は何のガスかわからないが、医師はサリンに似たガスだと言っている」。------

このニュースはシリア紛争のエスカレーションを示唆している。1988年サダム・フセインが毒ガスを使用し、ハラブジャのクルド人を大量に虐殺したことを思い出させる。またこれを口実に、国際的な軍事的干渉が始まるかもしれない。

反対派が次のように報告している。

23日バイヤーダ地区で戦闘があり、その際毒ガスが使用され、7人が死亡した。被害者は嘔吐、筋の弛緩、視力低下、呼吸困難などの症状を示した。被害者の中には、ガスを大量に吸いこんだ人がおり、死に至った」。

 

 

 

何が起きたのだろうか、謎の毒ガスはサリンだろうか。それともサリンに似ているガスだろうか。毒ガスの使用はシリア内戦の状況を根本的に変えるだろうか。現時点で答えを出すのは難しい。

一か月前の11月、イスラエル軍の幹部はシリア軍が化学兵器を準備していることを知り、米国防総省に伝えたと言われる。

タイムズが次のように伝えた。

「衛星画像により、大量の化学物質を保管する2か所で、シリア軍が化学物質を混ぜているのが、わかった。それから、出来上がった毒ガスを数十個の500ポンド(272kg)爆弾に注入した」。

恐るべき事実の発覚後、目を見張るような外交努力がなされた。米国、協力してシリアの政権に圧力をかけ、攻撃の中止を迫った。そして各国の努力は成功した。

しかしながら一か月後、冒頭に述べたように、シリア軍はホムスで化学攻撃を実行した。シリア軍の行為はあからさまで、眉をひそめざるを得ない。トルコの米大使館は調査を開始し、ホムスの医師や社会活動家たちに聞き取りをした。またシリアのABC兵器(核、生物、化学兵器)部隊の元司令官で、現在は亡命しているムスタファ・シェイク(Mustafa al-Sheikh)から話を聞いた。

調査した外交官はこれまでにない徹底した調査を行った、と自負した。

先週トルコに駐在する米国の総領事は秘密の回路で調査結果をワシントンに打電した。

そして昨日、オバマ政権の一員が匿名で、フォーリン・ポリシー紙の記者にその内容をもらした。その内容は矛盾に満ちている。政権内のこの人物は以前のインタビューでは「サリンまたはそれに似た毒ガスだ」と語っていたのに、フォーリン・ポリシーの記者には「ホムスで使用されたのは神経ガスではなく、あまり知られていない、未知の薬品だ」と語った。

フォーリン・ポリシーは次のように書いている。

100%の確信はないが、12月23日ホムスで使用されたのは、エージェント15である、とシリアの情報提供者が言っている。彼の説明は説得力がある」。

徹底的な調査の結果が、エージェント15というのは、あきれる。的外れな調査結果だ。ワシントンに送られた極秘電報の内容はいかがわしい。

ホムスで使われたのはエージェント15という説明は受け入れられない。エージェント15は乗り物酔いを防ぐ薬に似た化学物質で、神経の活動をある程度麻痺させる。これをを大量に吸い込むと、精神錯乱を引き起こす場合があるが、通常は精神の機能を低下させるだけで、死に至らない薬品である。

死者が出たことと、ホムスの医師アブ・アブドがアトロピンを処方したことを考えると、使われたのはエージェント15ではない。エージェント15は神経の作用を抑制するが、停止させることはない。アトロピンは神経を停止させる毒物に対する薬である。サリンは神経の作用を停止させる毒物であり、サリンの被害者にはアトロピンが処方される。

投与された薬から推定すると、毒物はサリンであるが、ホムスからの情報はサリンではないことを示している。住民は臭いがしたと言い、かなりの量のガスを吸っても死なずに済んだ例がある、という。神経の働きを停止させる毒物であるが、サリンより効果が弱く、臭いがある薬品とは何か? それは有機リン系の殺虫剤である。この種類の殺虫剤は有機リン系の化学兵器と同程度の効力を有し、被害者は死に至る場合があり、治療にはアトロピンが用いられる。

もしホムスで使用されたのが市販の殺虫剤であるなら、誰かが日用品から原始的な方法で、貧者の化学兵器を作成したのかもしれない。

こう考えると、オバマ政権の公式見解がよく理解できる。

昨日ホワイト・ハウスの報道官トミー・ヴィーターは次のように述べた。

「ホムスの化学兵器事件について報道されていることは、米政府がシリアの化学兵器について知っていることと、矛盾する」。

今日国務省の報道官がこれを補足した。

「フォーリン・ポリシーが伝える秘密電報の内容は誤りである。ホムスで化学兵器が使われたと断定できる証拠はない」。

一か月前イスラエルが探知した500ポンドの化学弾が使われたわけではない、それを証明することはできないということだ。

化学弾が戦車によって発射されたという点も、疑わしい。

ロンドン在住のシリア人政治活動家ラミ・ジャラー(Rami Jarrah)はフェイス・ブックに次のように書いている。

「秘密電報の内容は誤りだ。証拠が不十分だ。私が集めた報告の中に、異常な症状の例がある。また毒ガスは気球の中に入っていたという報告もある。一定の高さで破裂する仕掛けだった」。

シリア軍と反政府軍のどちらが実行したか、彼は語っていない。

気球を使ったという話は信じがたいが、彼のフェイス・ブックに埋め込まれている、被害者を撮影映したビデオは真実だ。偽作や演技のようには見えない。

=================(ニューヨーカー終了)

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