梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

No.29 <今回の『九段目』は>

2007年08月08日 | 芝居
本日は《音の会》『忠臣蔵 九段目』の<附立て>。オールキャストが揃っての稽古はこれで2回目なのですが、これまで別々にでも大和屋(玉三郎)さん、師匠梅玉がご指導下さったお陰もあり、また、昨日全員での稽古をじっくり時間をかけてしたこともあり、皆々のイキも揃い、手前事ながらよくまとまっていたと思います。

今回の『九段目』は、由良之助(新蔵さん)が祗園から帰ってくる件、すなわち俗にいう<雪転し>からはじまります。太鼓持ちや仲居を引き連れ、雪玉を転がしながら帰ってくるという場面で、『七段目』の幕切れで見せた忠義一途の本心を再び包み隠し、ほろ酔い気分で雪遊びに興じたり、洒落のめしたり、女房のお石(京妙さん)にちょっかいを出したりと、<浮き大尽>ぶりをみせるわけですが、それが後段でガラリと変わるのが面白く、その賢者ぶりがよりお客様に伝わるのではないかと思います。
太鼓持ちに転がせてきた雪玉が、後に本蔵(橘三郎さん)に見せることになる五輪塔(死を決意した証し)となるわけで、全ては計算された行動、大きな覚悟のうえでの酔狂であることがはっきりと示されます。本当によく書かれた作品ですよね~。
さらに申し上げれば、この五輪塔が示された後、普段ですとすぐ本蔵の述懐になるのですが、今回は原作の浄瑠璃に基づきまして、戸無瀬(歌女之丞さん)とお石が、お互いにこれまでの非礼を詫びる件を演じます。由良之助、力弥(左字郎さん)の討ち死を覚悟していたからこそ、お石は小浪(玉朗さん)の嫁入りをあえて断ったわけですが、そんなことを露とも知らず、戸無瀬は生さぬ仲の娘の為に、命を懸けた交渉に打って出た。相争う女同士の想いが、討ち入りに向かう男たちの決意が明かされた途端に打ち解け合い、悲しくもまた強い絆で結ばれる…。そして、それを見届けたからこそ、力弥と夫婦になれた娘小浪を「武士の娘の手柄者」と誉めてやれる本蔵の思い。
是非この件にご注目頂きたいと存じます。

『音の会』だからこそできる丁寧な上演、演出でお見せする義太夫狂言屈指の大作。決して飽きさせはいたしません。
浄瑠璃を語る竹本蔵太夫さん、竹本愛太夫さん、竹本豊太夫さん、三味線の豊澤岬輔さん、豊澤長一郎さん、豊澤勝二郎さん共々、一丸となって取り組みます。ご声援よろしくお願い申し上げます!