梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

職人技?の着付け

2007年01月21日 | 芝居
約束通り『金閣寺』からお話を。
先日このお芝居での立廻りのことはご説明させて頂きましたが、そのおりに触れました捕り手の拵え。織物の着付に、やはり織物の袴を<股立ち>にいたしますが、この<股立ち>という袴の着方、提灯ブルマをどうかしたような見た目ですし、着る人の足がニョキっと露出されるのがあられもなく、実に独特な格好でございます。

正式には<高股立ち>と申しまして、厳密に言えば、単に<股立ち>というときは、普通にはいた袴の、紐のすぐ下(帯のあたり)の部分を引き上げて、外側の裾をたくしあげる形のこととなります(『伽羅先代萩・刃傷』の仁木弾正が一例)。高股立ちの場合でも、袴の形状は普通と変わりはないのですが、後に説明いたしますけれども、はしょった裾を挟むときに、抜けにくくするための玉(布製で綿が詰まっている)が数カ所と、股間部分で裾をまとめるための紐が、裏地の部分に取り付けられております。

織物の着付を着る時点から、高股立ち用の着方となります。足が太ももから見えてしまうわけですので、着付を尻の辺りまでたくして着込み、帯を締めます。それから袴となりますが、紐を締めるまでは通常通り。それから、まず外側の裾を内側から捻りだして両脇にはさみ(このとき玉が使われる)、後ろの形を整え、残りの裾を一気に前に持ってゆきます。股の部分を、先ほど申しました紐で縛ってまとめてから、写真のように、正面部分にヒダをとってゆくわけです。もとからの仕立てのヒダをいかしながら、ゆるやかにカーブしてゆくように折り込んでゆき、余りをどんどん外へと持ってゆく。最後に残った余りの部分はやはり捻って挟み込む…。
文章でかけば簡単ですが、着付けを担当して下さる衣裳方さんにとっては大変な作業です。着せてもらっている役者のほうは、介添え程度のことしかいたしません(というか本人ではできない作業ばかりなんです)。衣裳方さんが、左右の幅や形のバランスをみながら、綺麗にヒダをとって下さるのです。今回のように織物の衣裳ですと、かたかったりごわついたりしてまとめるのが難しいそうですが、さりとて薄い生地ではすぐ型くずれしてしまうとのこと。どんな場合でも、格好よく仕上げるのには、一筋縄ではいかないようですね。着ている役者のほうも、ある程度着方を心得ていないと、あとで動きにくい形になったり、あるいはグズグズになってエラいことになってしまったりもするので、気を遣います。
普通の着付けなら、5分もかからずすむのですが、股立ちですと10数分はかかりますでしょうか。見た目本位の、いわゆる<形もの>の拵えですので、出番の直前まで、型くずれには気をつけます。

意味合いとしましては、袴姿で動き回るときに、袴を着付ごとたくし上げた着方(浮世絵にしばしば見られますね)を美化、発展させたものなのですが、そんなことを忘れてしまうくらい、非現実化された扮装にも見えますね。
その証拠に、鑑賞教室とか地方巡業の舞台に、この格好で登場しますと、学生さんや地元の方々が「何アレ」という感じでザワザワするんです。大の男が足むき出してブルマばき? ということでしょうか。出ているこっちも恥ずかしくなる始末で…。
しかしながら、『金閣寺』はもとより、『本朝廿四孝・奥庭』、『だんまり』など、立廻りのカラミのコスチュームの定番でもございます。この格好、カッコいい! と思って頂けますよう、心よりお願い申し上げます