梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

業平の衣替え

2007年01月04日 | 芝居
初春興行のトップを飾る『松竹梅』の<松の巻>では、師匠が<在原業平>を勤めていらっしゃいます。
先日もお話しいたしましたが、昨年の9月歌舞伎座『六歌仙容彩』でも、同じ在原業平のお役でございました。違う演目でも、役が同じですと扮装も似通うことがままありまして(逆に全く変わることがあるのも面白いですが)、今回もいわゆる<公家装束>で共通しておりますが、当然ながら、前回と<つかない(印象が似通わない)>ようにもなっております。

前回は浅葱色の<直衣(のうし)>でございましたが、今回は黒の<闕腋袍(けってきほう)>になっております。闕腋袍は、狩衣と同様に、左右の腋を縫い合わせないかたちの装束で、おもに武官が着るものです。後ろ身ごろを長くのばして、<裾(きょ)>と同じく引きずるようになっておりますが、今回は始終<石帯>にからげ、あげたままになっています。
足袋は衣裳用語でいう<先丸(さきまる)>になっております。通常の足袋ように、親指と人差し指の間に股をつくらない、のっぺりまん丸の形状で、史実では平安時代の中期までこのかたちだったようですね(「しとうず」と呼んでいたとのこと)。
歌舞伎では、平安時代が舞台の芝居、わけても新歌舞伎、新作のおりに使用されることが多いです。今回は舞踊ですが、古典演目ではございませんし、衣裳自体が写実な平安風俗ですので、このようになりました。ちなみにこの足袋を履きますと、当然ながら楽屋草履は履けません…。
冠は前回と同じ<おいかけ付き巻き纓の冠>。飾りものは、前回は桜ですが、今回は演題にちなんで松の葉になりました。
小道具の扇は、前回と同じく金銀の地紙に花の丸の柄。前回さんざん扱いに悩んだ箙や太刀、弓は使っておりません。

短い時間ながら、成駒屋(橋之助)さんの舎人の楽しい振り事もあり、典雅で華やかな踊りです。雀と色奴のからみが珍しい<竹の巻>、女対面の趣向が面白い<梅の巻>、みっつあわせて新年を寿ぐ縁起のよいひと幕、どうぞお楽しみ下さい。