梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

闘いは花を踏みしめ

2007年01月06日 | 芝居
『金閣寺』の終盤、鎧姿の此下東吉と、6人の捕り手による立廻りがございます。
桜で描いた鼠が縄を喰いちぎるという奇跡をおこした雪姫が、夫のもとへと一目散で去ってゆく。それを見送る東吉が、さあお次ぎは2階に幽閉された慶寿院尼を救出、とばかりに歩を進めると、織物の袴を<高股立ち>にし、玉子色の足袋、樺色(オレンジっぽい茶色)の襷、鉢巻き、顔は<むきみ>という隈をとるという大時代のこしらえの捕り手がからむわけですが、この場面の義太夫の歌詞を見ますと、

とったとかかるをふりほどき 右へどっさりころころころ 投げる身体は真っ逆さま 一度にこりぬ双方より 打ち込む十手かいくぐり 見上ぐる三重(さんじゅう) 段梯子 登れば登る楼閣へ

となっておりまして、投げる身体が真っ逆さまに落ちるということは、『弁天小僧』の大屋根ではないですが、高いところで戦っている描写のように、私には思えるのですが、皆様はどうお感じになりますでしょうか。
実際の舞台では、まさか捕り手が真っ逆さまに墜落もできませんから、普通の立廻り演技となりますが、この立廻りも、昔からの手順が残っておりまして、上演の度ごとに細かい差異はありますけれど、おおむねは同じ手順になります。
「右へどっさりころころころ」で、捕り手が<車返り(いわゆる側転)>をしたり、「投げる身体は真っ逆さま」で、トンボを返った捕り手が<三点倒立(頭を床につけての逆立ち)>となる。また「登れば登る楼閣へ」では、花道七三に場所を移し、トンボを返った捕り手を東吉が踏みつけ、本舞台の2階部分を見上げる…。詞章にごく近い形を見せているわけですが、となると、三点倒立した形は、もしや頭から墜落してゆく姿をうつしたものなのかも…!?

さてこの立廻りには、私も2度ほど出させていただきましたが(平成14年、16年)、舞台一面に降り積もる<桜の花びら>がこわいものです。ただでさえ所作舞台に足袋という組み合わせは滑りやすいのに、そこにカサカサの花びら。足をとられたり踏ん張りがきかなかったりしますので、足運びには注意が必要でした(足袋を軽く湿らすこともままございます)。トンボを返る時も大いに気になりましたが、そのあとの三点倒立もイヤでしたね~額を舞台につけるわけですが、その額が花びらですべって、頭の位置が固定できなかったんですもの。もともと三点倒立が苦手なこともあり、毎日楽屋で稽古、そして神仏に祈念してから舞台に向かいました(情けない話です)。

ちなみにこの捕り手が持つ十手ですが、ふだん黒四天が持つものより大振りの<長十手(大十手とも)>を使うことが多いです。より<時代>な印象になり、派手になります。