梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

えもいわれぬ香り

2007年01月17日 | 芝居
2日間のご無沙汰でした。
初日以来、飲み会や宴席などで外食が続きまして、少々肝臓が疲れ(たように感じる)気味。朝も早いので、なるべく夜更かしはしたくないものの、楽しく喋っているうちに、日付が変わるということもしばしばでした。いけないいけない! しばらくは身体をやすめないと…。

さて今日は、私は出演しておりませんが『俊寛』からお話を。
絶海の孤島<鬼界ヶ島>に流された俊寛僧都が住む、朽ち木で作った庵。屋根には板きれと昆布を渡してあるという有様ですが、この昆布、本物の昆布を使っているのはお気づきでしたか?
乾物屋で売られているような長さのある昆布を、水で戻してから使用するんですが、調達から舞台でのセッティングまでは小道具方の担当(屋根への置き方は、見た目のバランスもあるので役者も関わります)。同じものを数日は使うことができるので、終わるたびに回収し、吊るすなどして保管します。

公演中、毎回、あるいは数回に一度といったペースで消費されるものを<消えもの>と申しておりまして、おもに劇中で役者が口にする食べ物のことをさすことが多いのですが、この昆布も<消えもの>に入るそうです。<消えもの>は、たいていの場合小道具方が準備することになっておりますが、かかる費用は劇場(製作サイド)が負担するというのが通例と伺っております。もちろん、公演、演目によっては様々な場合があるでしょう。
ちなみに歌舞伎座での昆布の調達先は、やっぱり築地だそうですよ。

さてこの昆布、当然ながら<磯の香り>を漂わせております。客席にまで届くほどではないと思うので、芝居の雰囲気を醸し出しているとまでは申せませんでしょうが、出演者一同は必ずこの香りを嗅いでいるわけです。日がたつほどに増すもので、とくに夏場の上演時などは…。この庵のすぐそばで座ることになる多くの船頭役の方たちは、実に“臨場感”あふれる体験をしているわけでございます。
なお、演者のご意向や興行形態の条件などでは、本物を使わず、布製などになることもございますので、お断り申し上げます
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さて、今回で600回目の更新となりました。ここまで続けられましたのも、ご覧下さる皆様のおかげです。あらためて御礼申し上げます。次は1000回まで続けられることを目指して、あせらずに、奇をてらわずにやってまいります。新年早々にも申し上げましたが、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。