5月23日、以前から気なっていた岩場を訪れることができた。遠目に眺めて「かなり大きな岩場だ」と思っていたが、いろいろ調べてみてもクライミングの記録は見当たらない。地形図を眺めてはアプローチの方法などを考えていたが、何年も先延ばしにしてしまっていた。
月稜会の仲間であるIが興味を持ってくれたので、決行した。前夜発でアプローチの起点近くで仮眠をとり、朝7時に歩き始めた。地形図上の破線をたどり踏み跡が途絶えると地形を頼りに進む。1時間弱で樹林越しに岩が見えた。「でかい!」。思っていたよりスケールが大きい。岩は上下2つに分かれていて、それぞれ2~3ピッチ分はあるようだ。つまり100mあまりの岩峰が上下2本立っている感じである。
まず、岩場を裏側の樹林帯から巻いて、上部岩壁のピークに立ってみた。
ピークには何かのしるしだろうか、岩に文字が刻まれていたが、そのほかに人工物はない。
下って上部岩壁の基部に行ってみる。
基部を見回ってみると、古いリングボルトとハーケンがそれぞれ1本見つかった。
さっそくそこから取りついてみる。
岩は花崗岩だが、小川山や瑞牆の花崗岩と違って、あまりクラックはなく、カムが使えるところが少ない。ハーケンが有効だが、あいにく今日は持参していなかった。
岩は古期花崗岩というのだろうか。滝谷のような感じである。
上部岩壁を見上げる。
まず取りついたラインは岩場の一番右端で、4級程度のやさしい内容だが、ことごとくホールドが浮いているし、支点が取れないので、クライミングのグレード以上に恐ろしかった。
下から見えたハーケンを過ぎると、そこから先には残地支点はなく、登られた形跡は見つからなかった。
40mほどでテラスについたので、後続をビレーしたいが、全く支点が取れない。バックロープでボルトキットを挙げてボルトを打った。
もちろんできることならボルトなど打ちたくないのだが仕方ない。
2ピッチ目の出だしは岩が固く快適。しかしすぐにすっきりしない凹角に入り、右のリッヂに上がると、20mほどでさっき来たピークの右端についた。
後続のIが到着。本当のピークより低いところなので40m+20mで終わった。帰りはクライミングシューズのまま歩いて下った。
基部に戻ってから下部岩壁に移動した。
下部岩壁は、上部岩壁よりさらにすっきりしている。すっきりしすぎていて、NPが使えなさそうだ。
じっくり岩を眺めて弱点になりそうなラインを見極めて取りついた。
取りつきから10mほど登るとテラスになるが、全くNPが使えない。さらにここからは難しくなりそうなので、仕方なくボルトを打つ。
岩は固く、逆相のスラブの中にもホールドがちりばめられていて、登ること自体は実に快適だが、カムを使えるところを見落としてはいけない。
20mほど登ると核心部に行き当たる。心もとないマイクロカムと効きの悪いキャメロットの3番をセットするが、そのまま突っ込む勇気がわかない。
微妙な体制でバックロープを引き上げ、ボルトを打つ。打っている途中に墜落しそうだ。
岩が固いうえに体勢も悪いので、時間がかかりつかれる。やっとの思いでボルトを設置し、核心に突っ込む。
登ってみれば5.9程度のむずかしさだったが、グランドアップで初登するとはこういうことだ。
27mほどで安心できるテラスについた。もう今日はこれ以上は無理だ。
このテラスにも支点になるようなものはない。少し左下に太い木があるがルートから外れてしまう。また下降支点をボルトで作った。
この日合計6本のボルトを打ったが、岩が固くて手首が腱鞘炎になってしまったようだ。
ロワーダウンしてみるとロープが足りない。今日は50mロープだった。
バックロープをつないで着地した。
開拓途中の下部岩壁1ピッチ目をトップロープで登るI。
今のところ場所は公表できません。初登がかかっているからとか言う理由ではなく、これだけの岩場がなぜ今まで登られなかったのかということに、何か理由があるような気がするからです。
それがわかって問題なければ発表できるのですが。
それにしても久々の開拓、というより初登。やっぱり私はこういうクライミングが好きなんだ。
ボルトに守られた高難度のクライミングより、やさしくても冒険的で総合的な知恵と経験が必要なクライミング。
こういうクライミングを、私は「クライミング」と呼ぶのだ。