<出石町宮内>
「鉄」にまつわる神々を調べて行きますと、
時折「麻」という文字が目に入ってきます。
以前ご紹介した『金屋子神祭文』の
「金屋子神が麻に足を取られて亡くなった」
という一文しかり、天目一箇神の由来を語る
「麻の葉の鋭い葉先が神の目を傷つけた」という話しかり、
鉄の神々の周りには「麻」というワードが頻繁に現れ、
そのほとんどが「神が麻を避ける」という
あらすじに沿って描かれたものなのです。
その中のいくつかをご紹介しましょう。
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『常陸国風土記』逸文
兄妹が同じ日に田植えをしていました。
しかし、「遅い時間に苗を植えると、
伊福部神(雷神)の祟りに遭う」と
いわれていたにも関わらず、妹はその約束を破り、
遅い時間まで田植えをしていたため、
雷に打たれて死んでしまいます。
妹の死を嘆き悲しんだ兄が、雷神に復讐をすべく、
肩に止まった雉の尾に積麻の糸をつけて追跡すると、
雉は伊福部岳へと兄を導いたそうです。
そして、雷神のいる石室を見つけて押し入り、
太刀を抜いて襲い掛かったところ、
雷神は命乞いをし、今後兄妹の子孫が
雷の被害に遭わないよう誓ったのだとか……。
男は雷神を許したのち、雉の恩に報いるため、
以後雉の肉を食べなかったと聞きます。
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『播磨国風土記』
昔、但馬国の伊頭志君麻良比
(いずしのきみまらひ)という人物が、
山の上に居を構えていました。
ある日の夜半、麻を打っていたふたりの女が、
麻を自分の胸に置いたまま死んでしまいます。
ゆえにこの地を麻打山と呼ぶようになり、
この辺りに住む人は夜は麻を打たくなったのだそうです。
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これら二つの伝承からは、
製鉄氏族である伊福部氏が
「雷神」と同一視されていたこと、
そして佐用郡の話と同様に、
製鉄氏族と「田植え」が関わること、
さらに出石の君と呼ばれる人物が
「麻」を禁忌としていたことなどが読み取れます。