すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第1599号 リスボンで考える「イベリスモ」

2018-08-23 06:00:00 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】インターネットのおかげで、世界中どこへ行くにも航空券や宿泊先を事前に確保できる。空港への送迎タクシーも、出発前に予約できることを今回の旅で知った。だから私のような団体行動が苦手な者にも、簡単に自由旅行に出かけることができる。海外に出かける時間が比較的取りやすい年齢になって以来、ポルトガルは常に、私の旅リストの上位に位置づけられていた。しかし実際は、ずいぶんと後回しになった。



それはひとえに「遠い」からである。スペインに行く折に、ポルトガルも回れないかと考えたことは何度かあるのだが、遠くて日程がうまく組めない。今回、ロンドンに行くことになって、パリでも回ろうかと考えていたら、妻が「ポルトガルはどう?」と言った。思いがけない発想で驚いたが、そうなった。何のことはない、ロンドンからは3時間もかからない。気がつけば、世界はあらゆる方向で繋がっているのである。



なぜ私の旅リストで、ポルトガルは上位であったのか。それはロングステイに興味を持った時期があり、ポルトガルはそうした希望者に長期ビザを発行していたからだ。それにポルトガルと日本の歴史に加え、「最果て願望」という私の嗜好も影響したかもしれない。そしてようやくリスボンにやって来て、まず驚いたのは大変な観光地であることだ。ラテン・アメリカ系を筆頭に、世界中の人種が狭い市街を埋めている。



妻が東京で日本語を教えている日系ブラジル人家族が、リスボンで暮らす長女に会いに、今、同じ街にいるというではないか。その偶然に驚き、みんなで食事を楽しんだ。長女は移住を申請しているというが、ポルトガル政府の審査はなかなか慎重であるらしい。言葉に不自由しないから生活はできているというけれど、「ポルトガルの人はブラジル人より冷たい」と彼女は言った。私が感じたフランス人的印象と一致している。



リスボンは総じて美しい街だと思う。高層ビルが林立しているわけではなく、かといって古い街というほどの面影もない。しかし地中海と同じような青い空は、街に乾いた陽光を満たし、細部まで目が行き届いているとは言い難い街路ではあっても、ゴミが散乱していることはないし、犬の糞を踏む心配もない。ポルトガルは小さな国だが、言語圏でとらえれば、ブラジルをはじめかつての植民地とつながる大きな国だ。



「イベリスモ(Iberismo)」と呼ばれる、スペイン・ポルトガルの統合を提唱する運動があるそうだ。地政的には自然で合理的な考えだと言えそうで、国家の統合が平和裡に実現するとしたら素晴らしい叡智の発揮であり、ヨーロッパ統合という人類の大実験にも大きな影響を及ぼすかもしれない。私のわずかな体験では、両国民の気質はいささか差異がありそうだから、実現性はさほど大きくないのだろうが、夢のある話だ。



リスボンで、紫色の花が美しい大きな木をよく見かけた。葉はアカシアに似て、花は桐に似ている。帰国してその印象を話していると、友人が「ジャカランダだと思うよ」と教えてくれた。中南米原産の花木で「ブエノスアイレスにはその並木があってね、実に美しかった」とも言う。ポルトガルの地からマドリッドを経由し、帰ってきたが、そのまま大西洋を越え、ブラジルやアルゼンチンに行けたらよかった。(2018.7.2-8)




















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