常識について思うこと

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アニメ業界の自虐行為

2010年04月14日 | 産業

「借りぐらしのアリエッティ」の声優陣が発表されました。大体、予想をしていたことではありますが、キャストがタレントばかりだったことに、少々、ガッカリしております。

今のメディアシステムで映画を売っていくためには、こうした手法が有効なのでしょう。そうした手法を駆使した人たちが、業界を制していくというのは、ある意味、仕方がないことだと思います。

ただ一方で、それを手放しで受け入れるほど、寛容でいられるわけでもありません。いろいろな思いが頭のなかを巡ります。

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作品としてのクオリティは保たれるのか?

声優を目指して努力している若者たちの未来はどうなのか?

健全なアニメ界の発展に寄与しているのか?

こうした手法が格差社会の是正に繋がるのか?
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書き出すとキリがありませんが、とりあえず以下、ミクロとマクロの視点から感じることを整理してみます。

まず、ミクロな視点でいえば、単純に高いお金を払って観に行くのはゴメンです。

これは極めて個人的なものですが、前作をそれなりの料金を支払って、映画館で観た時、「もう観たくない」と感じました(「名に恥じぬ仕事」参照)。それを踏まえての今回のキャスト発表は、今後、同所から出てくるアニメを、お金を払っては一切見ないと決心するのに十分なものでした。今後、何か新しい要素が出てこない限り、ここから発表されるアニメはチェックしなくて済みそうです。

ちなみに、前作において、興行収入の高さが話題になりましたが、これを単純に「それだけ高い評価を受けた」と解すべきかは不明です。むしろ、多くの観客を動員させて、それだけたくさんの人々に「もうゴメンだ」と思わせた側面もあるのではないかと思うのです。このあたりについては、今後、メディアシステムの変質とともに、じっくりと見守っていきたいと考えます。

一方で、今回のキャストをマクロな視点からいうと、アニメ業界の廃退を予感させます。

アニメ業界を隆盛させるには、それを支える人々に活気を与えなければなりません。しかし、一般的に声優業については、ギャラの低さが問題視されたりしています。実際には、こうした問題は声優業に限らず、アニメ制作に携わる多くの方々に言えることのようです。いずれにせよ、少なくとも声優のギャラが低いというのは、言い換えれば、それだけアニメの価値が認められていないということであり、単純にアニメの社会的地位が低いということかもしれません。これはこれとして、現状を素直に受け入れるべきでしょう。

しかし、私自身、日本のアニメには世界を変えるだけの大きな力を感じていますし、それを支える方々には、それなりの評価と報酬が与えられて然るべきだと強く思っております(「観光立国日本へのヒント」、「コミケに見る可能性」等参照)。そういう意味でも、声優という仕事はアニメのなかで重要な役割を果たしていると思うのです(「声優をナメちゃいかん」、「声優のハリウッドスター化」参照)。

翻って、今回の「借りぐらしのアリエッティ」のキャストを見る限り、これがアニメ業界の方々(それもかなり上とされる方々)による声優業の否定ではないかとも思えるわけです。このことは、社会的地位云々の次元ではなく、アニメ業界の人々が自らの首を絞めている行為でもあると言えると思います。この点、アニメ業界の将来にとっては、非常に大きな問題であると捉えるべきでしょう。

さらに、この問題は、今日の格差社会の助長にも繋がることに注意を払わなければなりません。つまり、顔が売れているタレントに仕事を回して、実力があっても無名な声優には仕事を回さないという流れから、両者の溝をますます深めていると言えるわけです(「被害者意識を乗り越えて」、「次時代コンテンツの評価」等参照)。こうした動きが、今後の健全なアニメ業界、さらには発展的な社会を構築していく上での重大な障害になりかねない点、けっして忘れてはならないと思います。

いずれにせよ、こうした観点から、今回のキャスト発表は、アニメ業界による自虐行為ではないかと思えてなりません。私自身、本件の当事者でない以上、これに関わることはできませんが、私なりに今日のメディアシステムの限界をひしひしと感じつつ、あらためて新しいメディアシステムの構築に注力していなかなければならないと思うのでした。

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