満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

TIKEN JAH FAKOLY 『THE AFRICAN』

2008-01-16 | 新規投稿
   

‘西アフリカのボブマーリー’と称されるティケンジャーファコリーの新作。レゲエがレベルミュージックとして機能する背景を嫌がおうにも多大に残すアフリカ。ラッキーデューベ射殺のニュースを知った前後、このCDを買った。

レゲエが世界音楽たりえたのは、ルーツレゲエの‘レベルandポップ’性やダブの音響技法全体への影響力にこそあるのであって、あの下らない当世流行りのダンスホールレゲエの人気にその要因があるのではない。言うまでもない。ティケンジャーファコリーはサウンドやメッセージ、大衆性においてもピータートッシュ直系のレベルミュージックそのもの。新作『THE AFRICAN』はポピュラーミュージック仕様だが骨太さは不変。怒濤のように前進する重いサウンド。しかもポップ。こんなレゲエしか聴きたくはない。最高。

『THE AFRICAN』は汎アフリカ意識を前面に出した作品だ。しかし、そこに対立概念は感じられない。音楽的に成熟し、完成されてるせいか、メッセージソングが闘争ではなく調和を志向する気配がある。従って音楽が閉じず、広範囲に届く条件を満たすものとなっているようだ。とにかく曲がいい。演奏、アレンジ、音質、それらが全部いい。大事な事だ。反抗ロックでコンセプト倒れなのや自意識無限大のメッセージソングに‘勘違い’を感じる事が多いのは肝心の音楽が陳腐な時だ。‘表現したい事’が音楽性より肥大してはならないのだ。音楽はまず、音楽性ありき。当然だ。

反共政策の一環として特権的貿易関係を享受できたフランスの旧植民地、コートディボアールは東西冷戦の終結と共に、旧宗主国フランスから保護政策を打ち切られる。その後の混迷は図らずも多くの人々が民族意識を高めるきっかけになったのだろう。
ティケンジャーファコリーは自国の足下のテーマを歌う。しかし曲名を見る限り、その表現意識はもっと遠くを見ているようだ。2曲目「国境を開けろ」ではおそらく、問題意識が絶望感を生み、そこから更に思考を発展させた形での全アフリカ的連帯への夢想、戦いへと至っている。7曲目「割礼はダメ」は旧習と人権意識の狭間の問題が提起され、それは全アフリカの現代性を問うものだろう。

CDのライナーは田中勝則氏による丁寧な解説。しかしフランス語歌詞の訳詞は載せて欲しかった。言葉の力を発声レベルで体感しながら聴き、踊りたい音楽だ。
民族楽器を程よくスパイスとした『THE AFRICAN』。ホーンアレンジも最高。ソングライティングの能力が並でないのでヒットシングルが出る可能性もあるね。しかし今後、もっとサウンド的にアフロ色が出る事を期待する。フェラクティのような長大な反復演奏も聴いてみたい。何でもできるバンドだ。最高で最強。銃を持つメンバーのジャケットも最強。

2008.1.16

 
コメント
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