満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

磯端伸一with大友良英 「EXISTENCE / SHIN'ICHI ISOHATA guitar solo & duo with OTOMO YOSHIHIDE」

2013-05-16 | 新規投稿
 

磯端伸一のアルバムがついに完成した。
録音は2回(ソロが1月16日、デュオが2月12日)だったが、ミックスとマスタリングに費やした労力は我ながら、半端ではなかったという実感があり、しかもマスター完成後、プレス工場が倒産し、急きょ、生産過程を組みなおす等、予期せぬアクシデントにも見舞われ、カバージャケットのデザイン修正など、全てがタイトなスケジュールになる中、磯端の渡欧寸前にまで、納期がずれ込んだ事を考えるに、なかなかスリリングな日々であった。出来上がったCDをこの目で見るまでは全く予断を許さないといった心境だったので、荷物が家に届いた時の安堵感は脱力をも伴うものであった。

‘ミックスとマスタリングに費やした労力’とはひとえに磯端伸一の音への執着、そのあくなき探究心によるものであることは言うまでもない。私の編集、ミックスに対する容赦なき修正の指示はそのやりとりのメールの記録を見ても膨大な量になっている。私の生活はもはや、朝起きたら、磯端のメールをチェックしてpro toolを立ち上げ、作業を始め、修正音源を送る。仕事から帰ったら、当然のように届いている磯端の新たな修正依頼のメールを読み、作業を開始する。休日はそれこそ、ずっと家に籠ってpro toolと格闘する。そんな日々であった。彼の一秒たりとも疎かにしない音楽への姿勢に私も真剣に応えようとしていた。

考えるに磯端伸一は作品に対する独自の視点を持っている。
一筆書きのように潔く演奏した長い音源の中からベストな場面を抽出し、その響き方に対する拘りと、即興演奏の結果をむしろその場のリアルタイムな高揚にだけ求めるのではなく、一つ一つの完結された物語に変容させる事を試みた。だからこそ、どこからどこを切るか、たった一つのミストーンをどうするかという、オーバーダブはしないが、出たとこ勝負の結果オーライ型でもない、全く独自性のある即興演奏集となったと私は感じている。私の言う‘物語’は磯端自身によってつけられた曲のタイトルにも表れているだろう。24のトラックのうち、ソロ演奏については全てタイトルがつけられた。私が「タイトルはどうするか」と訊いた時、当然のように「つける」と返答した事は印象的であった。即興演奏によくある無題は彼の頭に最初からなかったのであり、私の目論見と一致していた事は幸いであった。彼はどこまでも演奏にイメージを求め、何らかの事象の表出という作品性にこだわったのだと思う。

大友良英氏とのduo音源はそれこそ苦心の選択になったが、90分以上の音源ソースの中から、磯端がベストと思われる個所を選び抜き、6つのトラックとして収録した。私から見れば、「これは入れたいな」という場面が他にけっこう、あったのだが、磯端はトータルタイム50分ほどという枠とソロ音源とのバランスを重視し、その構成は全て磯端自身のアイデアに従った。彼はどこまでも完璧主義を貫いた。

ジャケットカバーを紙ジャケデジパックにしたのも、当初の予定外だったのだが、結果的に正解であった。アートワークは磯端がライブ活動の拠点としているカフェ、シェ・ドゥーブルのオーナーである版画作家、小谷廣代によるものだが、その作品が紙ジャケにした事で、より生きたものになったと思っている。実は磯端がサックス奏者の小埜涼子さんから頂いたCDを持ってきて、「こんなのにしたい!」と言ったので、‘コストがかかるなあ’と思いながら渋々、従ったのであった。音、カバーアート、CD仕様、その全てに磯端伸一のセンス、美学が集約された正に渾身の一作となった事に私は妥協しなくて本当に良かったという意味で、磯端に感謝している。

同い年である磯端伸一と私が出会ったのは1986年、共に東京に住んだ頃であった。
彼が高柳昌行のスクールにいると語ったことを覚えている。一緒に音楽をすることはなく、別れたが、85年から91年という東京在住時期が奇妙に一致している事からも私は彼に縁を感じていた。一日に最低6.7時間はギターを演奏するという磯端伸一のプロフェッショナルに私などが及ぶべきもないのだが、彼の力量を誰よりも感じ取っていると自負する私は作品制作を申し出たのである。
「EXISTENCE / SHIN'ICHI ISOHATA guitar solo & duo with OTOMO YOSHIHIDE」は私にとっても一つの達成感を示す作品となった。

>

   磯端伸一with大友良英 「EXISTENCE / SHIN'ICHI ISOHATA guitar solo & duo with OTOMO YOSHIHIDE」

EXISTENCE / SHIN’ICHI ISOHATA guitar solo & duo with OTOMO YOSHIHIDE

1. 鏡の子供… a child in mirror        3:09
2. 斑猫… tiger beetle             1:41 
3. duo untitled 1               2:14
4. 夕立… shower                 2:34
5. 鰍… "kajika" japanese fluvial sculpin    1:39
6. 晩夏… late summer              1:59    
7. duo untitled 2                3:50
8. 小妖精… two elves              2:47
9. 絣… "Kasuri" splashed-pattern        1:07
10. duo untitled 3                 3:09
11. 綿飴… cotton candy              1:46
12. 影絵… sunset line around a hill       2:46
13. duo untitled 4                1:48
14. 街灯… streetlight              1:53
15. 鰯雲… cirrocumulus              2:42
16. びいどろ… vidro               0:36
17. duo untitled 5                 2:44
18. ほたるぶくろ… bellflower           1:15
19. 真鍮…brass                   2:56 
20. 優しい午後… calm afternoon           3:11
21. 海と坂道…sloping road with sea view       2:44  
22. 鱗粉… butterfly scales             1:22
23. duo untitled 6                  2:25
24. 月下美人… queen of the night          1:20


all tracks improvisation by SHIN’ICHI ISOHATA
and duo improvisation with OTOMO YOSHIHIDE(3.7.10.13.17.23)

recorded by Owa Katsunori at Studio You Osaka 1/16~2/10/2013
edited and mixed by Miyamoto Takashi
mastered by Owa Katsunori at Studio You 3/18/2013

produced by Miyamoto Takashi




最後にCDのライナーノーツを転載しておきます。

「EXISTENCE / SHIN'ICHI ISOHATA guitar solo & duo with OTOMO YOSHIHIDE」
に寄せて

音を聴いただけでそれが誰の演奏か判るミュージシャンがいる。
磯端伸一とは正にそのような個性を持つギタリストである。その微音を駆使した不思議なサウンド、美しく、しかもどこか理知的で整合感に溢れた即興演奏に私は魅了され続けてきた。同時に彼がその個性的なスタイルを獲得するに至った経緯についても多大な関心を寄せていた。

大阪本町の外れに位置するシェ・ドゥーブルというカフェがある。オーナーである版画作家、小谷廣代は、奥に10畳くらいのギャラリースペースを設け、さまざまなアート作品の展示を催している。そしてこの狭いスペースはギタリスト磯端伸一の活動拠点でもあるのだ。
この一見、普通のカフェが、奥を覗き込むと、そこに眩いばかりの美に満ちた音楽世界が繰り広げられている。僅かな情報に接した少人数のオーディエンスが彼の小さなギター音に聴き入るように体感する音楽。通常のコンサートとは異なる正に‘体験的’な鑑賞の場という様相を磯端伸一のライブは示してきた。
磯端自身の言葉を借りよう。
「シェ・ドゥーブルはまるで小谷さん自身の作品でもあるかのようなカフェであり、その奥にはオブジェのようなエントランスが私達を迎え入れてくれる白いギャラリーという2つの貌を持っています。そしてそこは常に美術系アーティストのエキシビションの場でもあるので、しばしば偶然のコラボレーションが成立することもあり、また意識するしないに関係なくオーディエンス側もイメージの融和を体感することになります。」

磯端のライブは多くがソロ演奏である。そして時折、国内外の様々な共演者と共に行われる彼の演奏に私は即興音楽の持つ可能性を感じてきた。即ち、即興演奏というものが得てして演奏者の内部吐露の形式をとる激情の表現となる事を彼は避け、むしろ空間の中へ自己を投げ出すような、音楽の在り方を示す可能性について示唆されたのだ。彼の演奏からは音楽の解釈の多様性と共に、周りに在る様々な存在と共存するような客体的存在感をイメージさせる何かがある。しかもそれは何かしらのコンセプトを背景としたBGMやアンビエントというそれ自体が目的に徹した音楽スタイルには収まらないものだ。
シェ・ドゥーブルという、いみじくもアートの在るスペースが磯端伸一の拠点であった。そこにはいつも違う展示物がある。あるいは何もない時もある。あくまでもその時々の偶然性によって磯端伸一の音は他の何かとリンクしてきた。意図するわけではなく、そこにあったにすぎないアート作品との偶然的出会いである。そんな共存、あるいはサウンドのみの空間がいずれも磯端伸一の即興音楽のリアルタイムな動き、色、強度を変化させてきた事を私は感じてきた。

磯端伸一、1962年、大阪市出身。
12歳のころからギターを始め、時を移さずジャズに傾倒する。上京して高柳昌行スクールの生徒になるのは1985年。基礎練習やフォームの重要性、クラシックの教則本を使った運指、ピッキングのトレーニングや高柳氏のその独自のサウンドと音楽論によって彼はそれまでの音楽の概念を覆される経験をする。その後の磯端伸一の歩みはオリジナルなスタイルの獲得への道程となっていく。様々なプリペアドを施し、弦の響きを多様化させる試み、弓を使う奏法(ノイジーにだけではなく、あくまでも旋律的に)、ハーモニクスによる音階表現などに私は、彼が他のどんなギタリストにも類似しない超個性派の姿を見る。
しかしその個性はやみくもに出来上がったものではなく、高柳氏の下で学んだ弛みなき基礎技術の鍛練と、カテゴリーに縛られることなく音楽を歴史的に俯瞰し、アナリーゼし続ける過程において徐々に熟成されてきたものである。

私は彼に常々、「磯端さんの音楽は即興音楽という狭いジャンルを超えて、どこでも誰でも聴ける音楽になりえると思う」と言ってきた。強制と非強制、アンビエントとエンターティメント、そんな様々な対立的な空間のぎりぎりの境界線上に立つ音楽だと思っている。濃密でありながら、耳触りがよく、基底的でありながら、浮遊するような音響世界を持ち、しかもポピュラー的でさえある。磯端伸一にそんなギターミュージックの新たな地平を見た私は、彼の音楽をもっと外へ広げていきたいと思った。それがこのアルバム制作の動機でもあった。この作品に於けるソロのトラックについて彼は‘知覚イメージからモチーフを得たシンプル、シリアス、そしてリリカルなインプロヴィゼーション小品集’であると説明してくれた。

また、磯端伸一は‘アブストラクト’を標榜している。その‘アブストラクト=抽象’とはフリージャズの‘フリー=自由’や、アヴァンギャルド=前衛、とは異なる概念だが、私はその定義について彼に説明を求めた。自身の説明をここで記しておこう。

<アブストラクトについては、芸術用語として考えると非常に難しい解釈になるのでしょうが、自分の中では座右の銘、そして自戒でもある「あらゆる存在を尊んでいく」という言葉に帰結します。私たちは服や物を選ぶ際、「抽象的」な形・模様などの商品であっても、特に意識せずに好きなものを選んでいるように、人は対象が抽象的であろうとなかろうと自身の感覚によって既に取り入れています。私の音楽もそうありたいと願います。価値観の垣根さえ取り払ってしまえば、私の音楽に内在する「抽象的」な要素も日常にあふれるデザインのように感じてもらえるのではないかなという希望を持っています。いろいろなものを楽しめることが私には「汎音楽」、さらに「あらゆる存在を尊んでいく」へと繋がっているのです。
また、私はギターを始めた頃からジャズという音楽に魅了され、これからもずっと関わっていくでしょうが、それについても楽理だけではなく自分の中に混在する様々な要素(音楽だけではなく)がミックスされメタモルフォーゼされた演奏ができるよう、楽しみながら精進していこうと思います。」


「汎音楽」という言葉が出たが、これは高柳昌行スクールで磯端が学習した‘物事を観てゆく姿勢’の事を指し、その見地に立つと、音楽表現においても、音楽以外のあらゆるマテリアル(社会、科学、テクノロジー、現代思想etc..)のフィルターを通過する事による独自性と普遍性に向かうようになる。あらゆる‘情報’を介在させた全的表現とでも言おうか、そんな感性のボーダーレスを表現者と鑑賞者か共有する精神の事でもあると感じる。

磯端伸一の作品を制作するにあたり、私はソロに加えて複数のゲストとのデュオを提案したが、磯端はデュオは大友良英氏とのみを希望したのでそれに従った。そして私達が超多忙な大友氏のOKの返事に心から謝意を表したのは言うまでもない。
磯端曰く「今の自分の音楽が最も自然に、そして自由にコラボレートできるミュージシャンは大友さんであることは前回の共演でも分かっていました。過去の一時期を共有し、価値観にも少なからず共感できるということもありますが、大友さんの持つ音楽家、演奏家としてのずば抜けた感性の中に自分自身が再び入っていきたかったという想いがずっとあり、今回そのことはレコーディングでもライヴでも再確認され、大友さんと瞬間々々のサウンドを創っていく楽しさは他では味わい難く、凄さ以上に本当に良いミュージシャンだなぁと実感しています。」

二人を結びつけるもの、それは両者が共に高柳昌行スクールの門下生同士であった事である。とは言え、同門であった80年代半ばから2005年の再会まで二人の交流は途絶えていた。その経緯については2009年に限定枚数でリリースされたアルバム「Isohata Shin’ichi × Otomo Yoshihide Guitar Duo× Solo」(GRID605)のライナーノーツの中で大友氏が自ら明かしている。当時、磯端の先輩であった大友氏は病気がちであった高柳氏の代行として時折、後輩の指導にあたる事もあり、生徒の募集、教室の運営、その他、高柳氏の手足となって活動していた。(それどころか高柳氏のaction directと呼ばれる多数の機材を使用するノイズパフォーマンスにおけるサウンドシステムの構築に深く関与しており、メカニック担当という意味でも当時の高柳氏の音楽活動に大きく貢献していた)

様々な経緯を経て、二人が久しぶりに再会、そして共演したのが2005年。
その時に聴いた大友氏のターンテーブルの演奏は磯端に大きな感動を与えたという。その後神戸での共演、東京でのデュオによるライブが実現し、アルバム「Isohata Shin’ichi × Otomo Yoshihide Guitar Duo× Solo」に結実する。

2013年、2月12日、二人は2005年の共演以来の再共演を果たし、レコーディングに臨んだ。同じ日の夜はシェ・ドゥーブルでライブもやるという強行スケジュールであった。再会した二人の演奏、その高度なインタープレイは約8年ぶりというインターバルを感じさせない濃密なものとなり、阿吽の呼吸とでもいうべき、一体感を生んでいた。自前の打ち合わせは一切なく、やり直しやオーバーダビングなどは一切していない一発録りであり、結果、本作に6つのトラックが収録された。

磯端伸一のアルバム「EXISTENCE / SHIN'ICHI ISOHATA guitar solo & duo with OTOMO YOSHIHIDE」がここに完成した。一つ一つのトラックがあたかも小宇宙のような完結性を持ち、且つ,各々が連動している。それは彼がシェ・ドゥーブルを拠点として継続している"EXISTENCE"と命名されたライフワークの反映のようにも映る。曰く「このシリーズは私自身と、音楽も含めた他のアーティストとの、お互いの知覚(五感)イメージがフューズされる時に出現する一刹那の時空を、表現者も鑑賞者もパーソナルな感性で楽しむささやかなイベントです」という。
この作品は磯端伸一の活動の重要な‘一通過点’となるだろう。

2013.3.31.  宮本 隆


2013.5.16
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

live information

2013-05-08 | 新規投稿
 

いよいよ磯端伸一のCDがリリースされることになりますが、今回は地底レコードに配給を依頼せず、流通会社であるBRIDGEと契約し、時弦プロダクションとしてのリリースになりました。従ってサイトがやはり必要だと感じ、悪戦苦闘しながら拙いサイトを作っているのです。
そこでサイトにブログをリンクさせようと思い、久しぶりに当ブログ開いたところ、全く変なレイアウトになっている。<60日間更新していないので、フォームを変えてます>という文句があり、嫌な気持ちになりました。別に変えなくていいでしょう。しかも<更新すると元に戻ります>だと。早く更新しなさいということですか。はいはい、わかりました。ということで、最近は掲載していないライブ情報です!


“FROM OUT OF DUST” Free music improvisation
2013.5.18(土曜日)
梅田always
Open19:30 start 20:00
Charge 2000yen

<出演>
荒崎英一郎 テナーサックス
James Barrett トランペット
前垣友紀 大正琴
菱沼かんた エレクトリックギター
鈴木和 エレクトリックギター
宮西淳 アコースティックギター
藤田大輔 キーボード、ピアノ
宮本隆 ベース 
原口裕司 ドラムス
田中大介 ドラムス

梅田always
http://www.always-live.info/
06-6809-6696
大阪府大阪市北区野崎町6−8 トレックノース梅田ビルB1
JR大阪、阪急、阪神梅田駅から徒歩約10分 大阪市営堺筋線 扇町駅 徒歩7分 大阪市営谷町線ほか 南森町駅 徒歩7分



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする