満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

GEORGIA ANNE MULDROW 『Seeds』

2012-06-18 | 新規投稿
  

アンダーグランドソウルの先鋭、ジョージア・アン・マルドロウはそのサウンドメイクの類似性からエリカ・バドゥの妹的存在感を伴って認識されていたが、この『Seeds』のトビ具合に至り、その隠されたパワーが全開した感じである。ボーカルの広角な拡散、その濃厚なインパクトが凄い。nu soulにありがちなクール感覚とは対極にあるようなコテコテ味が気に入った。しかしこのアルバムのそんな衝撃度の最たる要因にマッドリブのサウンドトラックのマジックがあるのは間違いない。
またもや感覚刺激的な音響を作り上げたマッドリブ。

nu soulやabstract hip hopがメインストリームに対するアンチという傍系にとどまる相対性の中でしか機能しないのであれば、それは手法やフォーマットの更新でしかないが、マッドリブの革新とは実に聴覚の革新であると思わざるを得ない。何をもって気持ちいい音と判断するか、その基準の更新であり、それはメロディやフレーズ、コード、リズムパターンという音楽を構成する主要素に関心が向かうのではなく、音の物質性そのものへの関心がフレーズ等と同等の基準軸になった事を意味するのだと感じる。
この事は既に彼の数多のジャズ関連の音源でも確認できたマッドリブの特性でもあろう。今回、いわば、ジャズの領域でマッドリブが成し遂げた成果がソウルに於いても同等に成されようとしているのだ。
マッドリブの革新とはその聴覚快楽の領域の拡大である。私はジャズにおいてマッドリブ以前と以後という区分けを設ける事に何のためらいもない事を確信する者だが、しかしそれはフォロワーを生んでいないという事情によって音楽ファン(特にジャズファン)に広くは認識されていない。マッドリブのロンリーな創造の本質がいつかジャズの中に伝播する事を想像するが、そうは言ってもその具体性については何もイメージできないのも、彼の特異性故であろうか。少なくともジャズジャーナリズムに於いてマッドリブがまともに評価されている事を私は知らない。

ジョージア・アン・マルドロウの『Seeds』には独特のソウルチューンが溢れている。各曲に顕著なのは、その構造、展開のアンチセオリーな精神に貫かれた独特なソングの成り立ちである。Aメロもサビも定かではない、その反復性、歌が縦軸に重層化し、鋭利な音響とコーラスワークの妙が混じり合う。元来、私の好きなソウルミュージックのパターンとして、ポップスにおけるイントロ、Aメロ、Bメロ、サビという構成を無効にした形、即ち中心となるフレーズやリフが反復され、その周囲を歌が感情的に揺れながら語るように、しかもメロディを崩しながら、その中心にあるフレーズに絡みつくように進行するパターンがある。マーヴィンゲイの多くの曲がそうだし、それは起承転結を場面展開ではなく、一連の流れの中で表現するソウルミュージックの神髄であると思っている。
しかし、ジョージア・アン・マルドロウはそんないわゆるソウルの自由度溢れる定型すら超越したソングをここに散りばめた。つまり、『Seeds』でマルドロウとマッドリブがやった事は、起承転結を一連の流れで構成するのではなく、その中の一部を極点のようにリフレインするような表現方法なのだ。私がアルバムトップの「seeds」を聴いた時、直感したのは、まるで曲の途中から始まった感じで、サビでもない、いわばBメロがいきなり反復され、しかも執拗に繰り返される特異な歌であった。実際、私は、レコードにキズができて針が進まず、何度も反復しているかのような錯覚を覚えた。

刺激的な作品が現れた。マッドリブがmedicine showの何作かで試みたソウルの蘇生的コンパイルは、いかにも懐古的で面白くなかったが、『Seeds』はマルドロウという才能との完璧にコンビネーションが生んだ新しい刺激物たるアシッドなソウルミュージックの創造となったようだ。

2012.6.18

   
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Time Strings Travellers 時弦旅団 ライブのお知らせです

2012-06-09 | 新規投稿


随分、音楽批評から遠ざかっていますが、ライブのお知らせです。
6/29金曜日、京都の四条大宮ブルーアイズでライブが決まりました。
バンドに変化がありまして、決まらなかったサックス加入を諦め、今回初めて、トランペットのジェームスバレットを加えての再出発になります。とは言え、まだ、リハーサルもやってません。どうなる事やら。まあ、何とかなるでしょう。楽しみです。ぜひ、多くの人に見に来ていただきたいと思っております。それと私、ベースを18年ぶりに買いまして、それを初めて弾くのも楽しみしています。では、皆さんの御来場、お待ちしておりますです!!


 
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