満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

FRICTION 『2013-LIVE FRICTION』

2010-11-16 | 新規投稿


どうやらレコ発ツアーはないようだ。
ライブアルバムだから必要ないという事か。いや、元々、レックの中で‘アルバム出したらツアー’という決まりなんかない。「そのうちまた」という事だろう。ただ、私にはなんとなく嫌な予感もある。2006年以来、継続された中村達也とのデュオフリクションに終焉が近ついているのではないかと。そんな想いを抱かせるほどこの2枚組ライブアルバム『2013-LIVE FRICTION』は完成された新生フリクションの最高の音源記録となっている。それは正しく活動の集大成的意味を持つものだろう。従って私は今、このアルバム以上のレベルの音楽を仮に以後、制作されるかもしれないスタジオ音源に求める事をイメージできないし、ライブに於いても何かしらの新展開や変化の予想もできないのである。デュオ形態でのライブ演奏に関するレック自身の飽きがあるかどうかは全く判らないことだが、少なくともレコーディング音源としての完成度、限界点に達したアルバムをここにフリクションは創造した事を私は強く確信している。

思えば、今のフリクションはレックが自発的に興したバンドではなかった。
‘レック塾’に入塾した中村達也による働きかけにレックが応じた事で形になったものだ。それより前、ヘッドラッシュやオプティカル8で、度々、その局面においてフリクションを彷彿とさせる瞬間を度々、観た私は当時、‘次のフリクション’を少なからずイメージしていたが、結局、大友良英はフリクションのギタリストとはならず、フリクションの名を冠したユニットはその形を現さなかった。いや、もしかしたらレックはフリクション復活を特に模索していなかったのかもしれない。少なくとも、何かの契機を待つという受動的な心境でいたか。いや、様々な推測はもはや意味はない。ただ、言える事は中村達也とのデュオフリクションの成り立ちが、それ以前のレックの大きな意思に満ちた確信的な表現活動とは異なる経緯で表出し、それが思わぬ発展を見せた事だ。究極のマイペース派と見ていたレックの活動にやや、アップテンポな急ぎすら感じていた。恐らく、中村達也がレックと均等の牽引をみせており、レックもそれに乗っかってきたというのが、新生フリクションの活動の実相だったような気がする。思えば14年振りとなったスタジオ録音『deepers』(09)の音圧不足と中途半端なプロダクションは正しく中村達也企画を容認したレックのスタンスを物語るものであったか。(発売元も中村達也をリリースするレーベルであった。)

勝手な憶測を書きすぎたようだ。
『2013-LIVE FRICTION』の圧縮された音圧、その開放的というよりも内に籠もるように響くロックに私は酔いしれている。ライブでのあの信じられないくらいの大音量の電撃的音響が、コンパクトな音楽の箱になって手元で鳴り響いている。確かに今、目の前に在るフリクションの音楽はロウパワーに溢れる発火物のように動いている。正しく、現在進行形の生きた音楽だ。レックのクリエイティブなループベースにギターリフを交差させ、ソロまでも上乗せさせるアイデアのインパクトはこの新生フリクションが登場した時から今まで続く衝撃波であり、フォロワーを生まないという孤高に於いて、歴代フリクションと等しい存在意義を約束させてはいる。しかもそれはアイデア先行型の方法論的な衝撃ではなく、‘これぞロック!’というポピュラー的快楽を充分に満たすといういわば、メジャーなインパクトである。ただ、そんなマッシブなロックを提示したこのアルバムに何かしらの飽和点を感じざるを得ないのは何故か。

レックが弾くベースギターを聴くにつれ、彼がギタリストを見つけ得なかった理由がイメージできる。
そのゆがんだ音像は音色の歪みではなく、音程をスライド的にゆがめながら、リフにしていく奏法にこそオリジナリティを感じる。結局、これをやるギタリストが身近にいなかった。いや、身近どころかどこにもいないのだろう。レックの記憶の中にそれはジミヘンドリクスだけが、その感覚を有したギタリストとしてインプットされていたであろうか。ジミヘンの何たるかを本質的に掴んでいるレックだからこそ、ギター音響に見る異化への執着という欲望、理想が消えはしない。ギタリストに求めるものを明確にレックは持っていた。『zone tripper』(95)でロックンロールに回帰しつつも、見据えた場所はそのロックンロールからの異化的脱構築だったはずのレックがイマイアキノブに感じた物足りなさはロックギターの定番的なラウドネスに収まる安定感を排したアウトする精神の欠如ではなかったか。ヘヴィーなロックギターのチョーキングやソロという‘よくある型’が8ビートに乗る形にだけは陥りたくなかった。かといってインプロ、ノイズ系をロックビートにはめる(安易な)やり方は採りたくない。結局、レックの求めるギターはいなかった。フリクションは自然、中断する。

中村達也の働きかけに応じて再開したジャムセッションが、やがて予期せず‘フリクション’という名のレギュラーバンドに変貌する。それはベースとドラムのみのスタジオセッションに手ごたえを感じた延長にあるグループ結成、及び、ベースギターの獲得だったのだろう。結果的にレックはベースでギターを代用する事の効果を選択した。ギタリストがネックをスライドさせる一方、レックは弾き手のピックを弦の上で縦横にスライドさせた。そこにリードベースによるチョーキングやソロという型ができる。
ギタリストとしての3/3から出発し、ニューヨーク時代のベーシスト転向、フリクションではベースに徹し、やがて近藤等則IMAでのギター回帰という変遷を経たプレイヤー、レックの最終形的結実が、このベースギターという形態であったか。ここにはギターでは出せないファットなギター音、ベースでは出せない音色のバリエによるリズムのボトムアップがあった。そして中村達也という非=整合的ドラマーとのマッチングが、ライブバンドである事を宿命つけたのは当初からのいわば約束であったか。ライブを最初に観た時からスタジオレコーディングがイメージしにくいバンドであったが、それはレックも中村達也も共に‘揺れ動く音像’を発していたからで、それはもはや‘収拾がつかない’といった様相に至るまでそのライブステージでは非―整合感を醸し出していた。チコヒゲ、佐藤稔とは明らかにタイム感が異なる中村達也の一見、正確さに欠けるとも感じさせる‘動性’にレックは秩序を施す事を放棄して、むしろ、自らも‘ズレ’の世界へ飛び込んだ。そんな‘作品’すら想起しにくいほどのライブ性を持つ新生フリクションを私は当初から解体を前提とした‘瞬間のプロジェクト’と見ていたのである。しかし、活動は拡大した。過去音源のリマスターや、回顧が進み、フリクションを知らない世代にニューグループとしての新生フリクションは浸透し、その圧倒的な演奏によってショックを与えていく。

かくして『2013-LIVE FRICTION』と題されたフルアルバムはライブ音源の2枚組CDという今のフリクションを表わすにふさわしい企画となった。と言うかこの形式以外にありえないだろう。しかし‘2013’というタイトルの意味は不明。活動期間の宣言だろうか。解からない。謎である。曲目クレジットを見るとバンドがスタートした2006年と2009年のライブ音源がランダムに収録されている。会場も東京、名古屋、福岡と分かれており、全ての記録をチェックしてベストテイクが選択されたようだ。私が観た関西圏での音源が一つもないのはどういう事か。そういう事だ。

各曲のエネルギー、演奏の熱さはすごい。
「cycle dance~gapping」では2曲が交互に交換されながら連続してプレイされるスリリングなアレンジが施され、その疾走感はずっと終わらないでほしいと感じるくらいだ。前半をベース音だけで引っ張っていく「I can tell」のクールなカッコ良さ。「メラメラ69」での中村達也のランブリングなヘヴィドラムはベースのループに合わせる制約から解放された時の中村達也の即興性を見せつける。「ikigire(out of breath)」の変則ファンクはフリクションの妙技ともいうニューグルーヴのナンバー。レックのテクニックが炸裂し、中村達也も叫ぶ。全体に音がいい。いや、このCD2枚、文句なしでしょう。いつも体験するフリクションのライブの追体験的再生そのものです。

アルバムに収められた各曲のバリエーションの豊富さを再認識する。それはリズムの多様性であり、音色、歌世界のバリエーションであるが、更にフリクションがフリクションであり続けた最たる柱にレックの発声レベルの永年の維持こそが、その強度の安定感をもたらせている事を再確認する。巷で多くみられる長い活動のボーカリストの発声の衰えをサウンドアレンジの変更やキーの変更によってカバーするケースはフリクションとは無縁であった。おそらく60歳前後と見られるレックの衰えを知らない発声は独特の早口言葉のような歌詞を変わらぬ速度でシャウトする事を可能にする。通常のロックから大きく隔てられた、いわばサウンド指向のグループとも言えるフリクションのボーカルの重要性、屹立度の発見も『2013-LIVE FRICTION』での感想である。

私は冒頭に新生フリクションの終焉の予感と書いた。
ただ、レックの発声レベルの維持はいずれ変容するフリクションの継続を約束するものであろう事も確信するのである。

2010.11.15.
コメント (8)
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