満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

木村文彦    『キリーク』

2012-04-22 | 新規投稿
 
木村文彦のアルバム『キリーク』が遂に発売されました。
私は制作者として携わり、この日を待ち望んだ次第です。
このアルバムジャケットがあちこちの店頭やメディア、ウェブサイトで見られ、嬉しく、また、興奮しています。
この特徴あるジャケットをデザインしていただいたのはシャックさんこと、三原輝久氏なのですが、本当に面白くて興味深いイラストを描かれる方で、機会あれば、この作家の作品を色んな人に見ていただきたいと思っています。アルバムの評がミュージックマガジン5月号にも掲載され、しかもこのジャケット写真が掲載されていました。これは嬉しい!
内容も聴きどころ満載です。ぜひ、皆さん、聴いて下さい!

さて今回は私が書かせていただいたCDのライナーノーツをそのまま転載します。


*********************************************************



木村文彦 ソロアルバム『キリーク』に寄せて  

あるライブで目撃したのはエンディング近くに自分を叩き始めた木村文彦の姿であった。ステージに所狭しと並べられたタムやスネア、シンバル、ゴング、鍋、やかん、ポリバケツ、板、スティール缶などを演奏し尽くした後、もうこれ以上、叩くものがないと感じたのか、木村氏はしばしマイクに向けてパーンパーンと手拍子を打ったかと思うと、直後、自分の肩や胸を激しく叩きだしたのである。マイクがその音を拾い、会場に反響する。吉本新喜劇の島木譲二さんよろしく繰り出される高速の‘パチパチパンチ’で木村氏の演奏は終わった。後で木村氏に聞くと自然に出たと言う。

即興演奏家は過去を振り返らない。
それはリアルタイムな演奏性こそを重視し、記録に執着しない態度にも映るし、かのマイルスデイビスが自分の過去作品に言及する時に「あの曲」ではなく「あの演奏」という言い方をする感覚にも幾分、共通する演奏者の性かもしれない。そこからは音楽を静止画像として貼り付けられた記録の観賞とするのではなく、今と過去をつなげて絶えず反復され流動するような生き物であると捉える事をイメージさせる。そして木村文彦もまた、そんなインプロバイザーとしての性格を強く持つ演奏者である。

しかし、そんな木村氏にアルバム制作を勧めたのは他ならぬ私である。私は自分の主催するバンド、Time Strings Travellers(時弦旅団)のレコーディングに木村氏を招き、ゲスト参加してもらった。ミキシングルームでそのプレイバックを聴きながら木村氏にソロアルバムを提案した時、彼が即座に賛意を示したのは、録音された自分の演奏をハイクオリティな音質でしかも大音量で聴いた事による意外な気持ち良さと驚きの発見故だったかもしれない。あの時、木村文彦は自分の演奏を言わば、初めて聴いた。そこで彼は自己の演奏を作品化する事へのイメージが湧いてきたのだ。

後日、あらためて制作を依頼された私には意気込みとは裏腹に何を録音するのかという初歩的な悩みもあった。何しろ木村氏の‘使用楽器’は多い。それはドラムやパーカッションは勿論、木琴からゴング、バネや板、台所用品、家電製品と多岐にわたり、そんなあらゆる物を縦横無尽に演奏するスタイルをどうまとめればいいのか、どんなセットで録音すべきなのかを考えた。とりあえず、ハンディレコーダーでプリプロを作ろうと思い、リハーサル用のスタジオで好きなように演奏してもらったのは、ある意味、間違いであった。ライブではない場所で録音マイクを向けられるという初めてのシチュエーションに気合いが入ったのか、木村氏は凄まじくハードエッジな演奏を初期衝動の暴発の如く繰り出したのである。10分程のトラックをたて続けに2時間。申し分ないパワーと即興による構成の美を見せつける快演であった。正真正銘のリアルタイムインプロバイザーである木村文彦に‘二回目’はない。「今のをもう一度」は不可能なのだ。エンジニアを入れてマルチで録る本番は次回の予定にしていた。その前段階として参考音源を記録する程度に考えていた私はこの‘最初の衝動’こそをマルチで録るべきだったと実は今も後悔している。同じ演奏を二度としない木村文彦の次回の正録音でこの日の熱情が再現できるのか。はたして結果的にそれは杞憂に終わったのであるが、やはりと言うか一回目と同じ楽器編成では新鮮味がないと感じたのであろう木村氏が使用楽器をがらっと変えて臨んだ本番の音源は前回のものと見事にダブらないものとなり、アルバム収録曲の候補が増えて、セレクトに四苦八苦する結果になる。しかも、以後、磯端伸一、向井千惠とのデュオも予定していた私は一瞬、‘二枚組?’ととんでもない考えまでが頭をよぎったのも事実であった。

そんな経緯を経て完成したのがこの『キリーク』である。
木村文彦のソロが7曲。磯端氏、向井氏とのデュオがそれぞれ2曲と1曲、更に山口ミチオ(シンセサイザー)と私(ベース)が1曲ずつオーバーダブを施したテイクを合わせ、全12曲を収録した。例のプリプロ用に簡易録音した音源からは3曲(track4.6.11)をセレクトした。パンク的衝動が際立つテイクだが、マスタリングによって何とか音質を向上できたと思う。

‘キリーク’とは千手観音を意味する梵語で木村によればそれは子年生まれの人の守護神であるという。従ってそのカタカナ読みを自らタイトルとした。確かに木村氏の演奏は両手両足をフルに使う。さらに言えば、ホイッスルを吹きながら肘や膝まで使ったりするのだからそのイメージは正に千手観音である。例えば収録音源で聴くことができるタムを連打しながらも下から金属の音が持続している場面などは木村氏が缶の入った鍋を蹴ったりシンバルを裏返して足でこねくり回したりしているからで、その様子はもはや一つの身体表現と言ってもいい。ただ、お聴き頂けければ解るように木村氏の演奏は単に手数を誇示する‘運動系’のものではない。むしろ沈黙や音の間をいかに雄弁に表現するかに主眼が置かれ、聴く者、観る者に絶えず、微音を注視させるような強弱の振幅を表現する。それは木村文彦がしばしば共演する向井千惠の影響も大きいようだ。向井氏のワークショップを通じて木村氏は‘沈黙のバトル’とも言うべき即興者同士の対峙の作法を獲得してゆく。アルバムのラストに収録した向井氏とのデュオ「new sights」はそんな二人の幽玄の調べとも言うべき緊張と弛緩の相対が展開される即興で30分に及んだ演奏を12分に編集した。

もう一人の共演者、磯端伸一はかつて故高柳昌行に師事していた。と聞けばノイジーな即興系ギタリストを想起するかもしれないが、ボリュームに対する独自の感覚を持っており、微音を強調するその奏法は即興ギタリストの多くが得てしてフリーキーさや激越性に打って出るケースが多いのと違い、全く、静的な場面が際立つ事で個性を発揮しているとも言えよう。今回の木村氏とのデュオでは、そんな磯端氏の静的な倍音の美しさとラウドでフリーキーな側面も遺憾なく発揮してくれた。得意とする弓弾きによる鋭角な音響が行きわたる「the middle line」はハイテンションに貫かれたナンバーで、木村自身が今回の収録曲の中で最も、気に入っているトラックだ。

紆余曲折を経て木村文彦のファーストアルバム『キリーク』がここに完成した。
元々、ドラマーである彼が当面の間、ソロパーカッションに取り組むというその宣言とも言える作品である。私個人の希望としてはこのアルバムを契機として、木村氏が表現の幅をさらに広げ、将来はドラムを含めたトータルな打楽器奏者として活躍する事を願ってやまない。

2012.4.15
宮本 隆(Time Strings Travellers 時弦旅団)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

菊池雅章TRIO 『Sunrise』

2012-04-16 | 新規投稿


かねてから予告されていた菊池雅章のECMでのファーストアルバムがやっとリリースされた。ジャズシーンきっての名門レーベルであるECMで日本人初のリーダー録音を行った菊池雅章は私達の誇りに違いないが、個人的には同レーベルの作品の数々を愛聴しながらも、レーベルカラーとも言えるそのクリーンすぎる音質に微妙に好き嫌いが分かれる作品が多いレーベルであることも確かだ。従って私の本作品への関心は菊池雅章の獣性とも言えるそのカウンター的な音楽世界がECMのレーベルカラーからいかに逸脱し、独自性を保つかという点にある事は以前にも書いた

ECM録音の質感、その音色が菊池雅章の音楽とは相いれないという私の思い込み。果たしてそれは杞憂に終わった。本作『sunrise』に於けるリバーブを最小限に抑えられた音の感触に安心し、尚且つ、いつもながらの菊池雅章の抽象的な音階使いに更に安心。嘗てのデザードムーンやピアノソロで聴かれた無調のリリシズムとも言える透徹な音響、その音数を抑えた静的な場面から徐々に立ち上がるような音像を予想し、1曲目の「ballad 1」でその予感が的中するが、2曲目のアブストラクトな楽曲、3曲目の鋭角なグルーブが登場するにつれ、以前のトリオ演奏にないスリリングな局面に遭遇する。きたなーという感じ。
7曲目「sticks and cymbals」、8曲目「end of day」でのフリー性は即興の原型を提示するかのようなシンプルな美学の発露を感じるが、菊池雅章の音楽に‘自由’ならぬ‘自発’が濃厚に顕われるのもいつもの事。恐らくこのアーティストにあって、ジャズ本来の‘スイング’こそが重要案件であり、批評言語でもあろう‘フリー’なる概念は果たして意識外である事も想像に難くない。固有のスイングこそは菊池雅章にとってジャズの本質を包摂する絶対要素であろう。そこには前衛や実験、フリーという数多のアーティストが主題として格闘するテーマが当然のように胚胎され、実践されてもいる。菊池雅章はそれらを自明な事としてスイングする事に専心するのだ。聴く者に絶対快楽をもたらす菊池ミュージックの最たる要因がそのスイングの動性、しかも個性豊かなドライブ感とも言うべき生命力である事は間違いない。私にとってこの感覚を感じ取れるピアニストはそれほど多くない。私が期待した例のカエルを踏んじゃったみたいな‘うぇいうぇい!’という唸り声も3曲目あたりから来た。やはり、これがないとね。ECMの事だからカットするか最小レベルの音量に抑え込む事も予想していたが、それをしなかった。正解。

本作『sunrise』で注目されるもう一人の演奏者は言うまでもなくドラムのポールモチアンだ。本作は昨年、惜しまれながら他界したモチアンのラストレコーディングでもあるのだ。9曲目の「uptempo」は打音の空間デザイナー、モチアンの面目躍如たる律動豊かなドラムが響き渡る。思えば私はこのブログで菊池雅章とポールモチアンについて度々、書いてきた。両者の相性はその‘音数の思想’の共鳴に依るのだろうか。数多のピアノトリオという形態から想定される予定調和なジャズが、彼等の手にかかると全く異なるジャンルのような様相を見せる。音楽のフォーマットや原曲を扱いながらも演奏者個人の自発性のみが立ち現われ、存在性だけが屹立するような音楽。毎度の事とは言え、ここでの音楽は誰にも似てません。
アルバム構成の最初と真ん中、そしてラストに配された「ballad」が要所を決める。その構築のコンセプトに菊池雅章の想いも見る。スタンダードやバラッドが全くその原型を留めず溶解する旋律の中で菊池雅章は超個性のバラッドを奏でる。その一筆書きの極意を東洋的と言ってもいいが、もはや菊池雅章はその自己の内奥のエゴやら情念やあらゆる‘欲’の放出を行っているようにも感じる。悟りや達観ではない、完全なる欲求の世界。表現世界が未完だからこそ放たれる強靭な反骨心を世に問うてるのだ。菊池雅章は未だ満足はしていない。その強烈なエゴが生み出す強い音楽世界。盟友モチアンを失った彼は今後、その闘いを一人で継続してゆくのだろう。

2012.4.16
    
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

James Barrett( tp) 山口ミチオ(syn)宮本 隆(b)田中康弘(ds) improvisation live

2012-04-14 | 新規投稿
 

James Barrett( tp) 山口ミチオ(syn)宮本 隆(b)田中康弘(ds) improvisation



去る4/11に行ったライブは即席のユニットでのオール即興という事で、小一時間もの間、決めごとなしで演奏をする、しかもリハーサルもろくすっぽせず、初めて一緒にプレイするジェームスバレットさんもいるという事で、緊張したのですが、結果的には何とかなったかなという感じで、そこそこ満足できました。また、やりたいです。


  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライブのお知らせでございます!

2012-04-03 | 新規投稿
 

またまた書くの忘れてましたが、ライブをやるのです。
今回はDE-JAVUの鈴木さんからの対バン依頼によって実現したのですが、時弦旅団は無理なので、山口君と二人で考えて、昔、一緒にやっていたドラマー田中君が大阪に帰ってきてたので誘い、あとはギターかホーンが欲しいなと考え、ダメ元でジェームスバレットさんに連絡したところ、OKの返事となりました。ジェームスさんが時弦旅団のCDを気に入ってくれた事でアプローチしたのでした。全くの即席ユニットなので即興色の強いライブになりそうです。ドラムの田中君は20年以上前、時弦旅団を作る前によくセッションした仲でライブも一回だけやったのですが、その後、東京へ行き、TRIO96というバンドを組んで活動していたドラマーです。すごく久しぶりなので、とても楽しみです。突然、組んだユニットなので、THE SUDDEN QUARTETと名付けました。

DE-JAVUというグループは古い知り合いのギタリスト、鈴木さんのユニットで、混沌として、なかなかノイジーな即興をするバンドです。ドラムの近藤君はかつて私の弟とバンドをやっていた事もあるのですが、今は藤井郷子名古屋オーケストラの一員でもあるし、名古屋のシーン活躍するプレイヤーです。


以下、会場のcommon cafeのサイト(音波舎)に告知された内容を転載します。

4/11(水)コモンカフェ(中崎町)19:00open 19:30start ¥1000(ドリンク別)
出演:
THE SUDDEN QUARTET
ジェームズ・バレット trumpet
宮本隆 bass
山口ミチオ synthesizer
田中康弘 drums
---
その名の通り突然、組まれたセッション。
キーワードは即興、jazzrock、アンビエント、etc.......
■ジェームズ・バレット
米国のネバダ州出身。ビッグバンド、レゲエ、ラテン、フリージャズなどの活動で藤井郷子、田村夏樹、ユミ・ハラ・コークウェルなどと共演。現在自身の無国籍騒音ユニット『JACKALS IN MONK ROBES』のほか、様々なジャンルでソロなどでも活動中。また作曲なども手がけている。
■宮本隆
時弦旅団TIME STRINGS TRAVELLERSのリーダー。
最近は木村文彦のアルバム『キリーク』をプロデュースした。
山口ミチオ時弦旅団TIME STRINGS TRAVELLERSのシンセサイザー奏者。
即興音楽家としてソロ活動も活発。
■田中康弘
東京のハイテクニカルジャズロックユニット、TRIO96のメンバー。
今回、宮本・山口とは約20年ぶりのセッションとなる。

DEJA-VU
有本羅人 trumpet, bass clarinet
鈴木和 guitar
和田良春 bass
近藤久峰 drums


皆さんの御来場、お待ちしておりますです!!


   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする