満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

Flyng lotus 「you’ re dead !」

2014-10-28 | 新規投稿
 


前作「until the quiet comes」(2012)の日本版のライナーにステレオラブ、カン、ジェントルジャイアント、ソフトマシーンなどにインスピレーションを受けた事が記されてあった。今回もそういったインタビューが載るかもしれないと思い、敢えて洋盤を買った。先入観を持って聴きたくないのである。

ご多分に漏れずと言うか、フライングロータスも過去音源を聴く事に忙しいアーティストだろう。2000年以降の音楽アーティストの一端に覗える共通項としての音楽嗜好の多様性、雑種性、カタログ的情報処理。そんな感性が本作でも十分に感じられる。かつてアーティストの表現の契機とは内面であったり、社会であったり、問題意識の深化の発露であったりした。それが今日では、過去音源への抑えられない関心から導き出される快楽の再表現という方向性が顕著であると言えまいか。従ってその音楽は固有のハイブリッド性を持つだろうし、表面的には非―内面的な聴覚刺激的なものに変容する筈だ。フライングロータスの音楽世界はその徹底された多様性の構築感でその事を証明する最たるサンプルだろうと思われる。ただ、私はフライングロータスの持つ嗜好の多様性よりもそういった‘過去音楽の裾野を拡大させる意識’の方に関心があり、それはある種の内面の屈折を想起させる。なぜ、こんな音楽を作っているのかという素朴な問いを投げかけたくなるようなアーティストはそんなには多くない。フライングロータスに単なる音楽愛好家のごった煮的リミックス主義ではないある種の必然的な表現への動機といった質実が感じられるのはその屈折感の匂いから受ける印象なのである。

私は以前、当ブログでフライングロータスのセカンドアルバムである「los angels」(2008)に関し‘別世界的な違和感’と書いた。多分にダークサイド色が強かったあの作品のカラーはいまだにフライングロータスの本質として表現の基底を成していると思われる。本作「you’ re dead !」も一見、多様なシーンがめくるめく展開する脅威感で聴く者を飽きさせないが、その本質に一貫した拭いようのない‘暗さ’を感じる。これはフライングロータスの何かしらの希求願望があり、現実世界とは異なるものへの欲求の顕れのように感じるし、逆にいえばこの世への憂いの裏返しと捉える事もできるのではないか。ここで私は彼の伯父、叔母であるジョンとアリスコルトレーンを必要以上に持ちだすつもりはないが、ジョンコルトレーンが告白した「自分の中にあるマイナー体質」に共通する資質をフライングロータスもまた、その血の中に持っているだろうか。

前作「until the quiet comes」(2012)の完成度は一つの到達点だと思っていたが、本作「you’ re dead !」に於いてまたしてもサウンドに変化、拡がりを持たせている事に感心する。アルバム冒頭の煌びやかなシンセサイザーはインパクトがあるし、続いて展開される70年代マイルスデイビス風のエレクトリック空間も壮大だ。今回はこのマクラフリン音色のギターやハンコック音色のエレピ(いや、本人だった)の空間を聴くだけで、ジャズがキーワードかなと見えてくる(ベースラインも4ビートが頻繁にでるし、サックスも多くフーチャーされている)が、そこは型通りで済まないのが多様性の魔術たるフライングロータスのすごいところでヒップホップやゴスペルティックなコーラス、チェンバーロック風の音階使いなど、全く一筋縄ではいかない世界が次々と繰り出されてくる。アルバムタイトル‘お前は死んでいる’は意味不明でマンガのジャケットアートも好きになれないが、今回も楽曲性をフルに楽しめる聴きごたえある作品です。
ハービーハンコックが参加した本作。ゆくゆくはラヴィ・コルトレーンとの共演かなと予感させる。

2014.10.28
  
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GILB’R&DJ SOTOFETT

2014-10-07 | 新規投稿

 
「人間の建設」(小林秀雄・岡潔)という文庫本を買ったのはタイトルの時代的センスの‘とんでも感’にウケた事だけが唯一の動機だった気がするが、(400円だし)、今の今まで読まずに放っておいたのは私の小林秀雄に対する永きにわたる偏見の為であった事は間違いない。
「今では信じられない事だが、一昔前の時代、学生はみんな、小林秀雄を読んでいた。」
正確な表現ではないかもしれないが、このような文章を私はポストモダン全盛期の80年代後半にどこかで読んだと思う。誰が書いていたかも忘れたが、小林秀雄という‘嘗ての’大批評家を古色蒼然とした過去のものとして扱ういかにも高慢な‘新し物好き’が跋扈した当時の言論界での物言いだと今になって感じる。当時、このように小林秀雄あるいは吉本隆明などの大物を<新しさ>でもって更新する‘否定的に乗り越える’論説が多く存在した事ははっきりと記憶している。哀れなのはこのような戯言に乗せられていた当時の私(達)であるが、多くの宝をスルーしていた事を最近になってようやく感じ始めている。
1965年に行われた小林秀雄と岡潔の対談である「人間の建設」には簡易な言葉による核心的な言論が飛び交い、音楽的な心地よさと同時に、そこからは一種の格言めいたものも多数、提示された思いがする。今さらながら納得せざるを得ないのは「良い批評家であるためには詩人でなければならない」という両者の了解だが、それは理論的なものと抽象の和解という次元で理解されよう。別の項でも「本居宣長は昔の人ですから今の人みたいに理論的に神経質じゃありません。首尾一貫したもののあわれの理論をこしらえるみたいな考えは毛頭ないのです。理論とか体系というのは欧米から学んだことで、以前にはなく、システムなんて言葉は何だかわからなかったのです。」「勘は知力ですからね。勘でさぐりあてたものを主観の中で書いていくうちに内容が流れる。それだけが文章であるはずなんです。」など、文章表現の本質に論理の整合性を超える直感や情の存在の有無を書き手の本性を計るものとして仄めかす言論が随時、登場する。このあたりは現在、失われた感覚であり、普遍的なもの、‘本物’の表現を見定める物差しを見せられたような感じがした。吉本隆明はじめ、鍵谷幸信、あるいは嘗て「現代詩手帳」なる雑誌に論評を寄稿していた批評家、あるいはジャズ批評の清水俊彦など、この時代の多くの批評家が同時に詩人だった事は私でも幾人かの名前を思い浮かべる事で証明できる。以前、このブログで<今思えば殆ど暗号文書としか思えないような超難解な蓮實重彦などが快楽的に読まれた>と書いた事があるが、これも詩と思えば納得できる。ずいぶん、つまらない詩ではあったが。その意味で間章は美しい文章家であったと言えようか。

今、私の批評言語に関する関心事はポストモダン以前の時代のものにほぼ集約されようとしているが、最近、あちこちで散見される福田恒存に関する文章などを見て感じるのはやはり、世間に於いても人々の言論領域に関する関心が周回的な流行現象やモダン時の真摯な言語表現の再評価に向かっているという事であろうか。
そこで思い起こされるのは、音楽に於いてもパンク~ニューウェーブ~ニューヨークダウンタウンシーン時代の心性であった‘先端’という概念がその後の継続的展開を見せず、時を経るにつれ、ブルースなど、ポピュラーミュージックにおける普遍的要素が徐々に甦る現象が起こった事であった。‘ニューエスト’であることが第一義であった頃、音楽の快楽原理がポピュラーミュージックを構成する諸要素からどんどん乖離していき、最終的には刹那的ノイズ空間に辿りつかざるを得ない宿命を帯び(<ノイズ>がロックサイドからもジャズサイドからも一つの出会いの場のような形として機能した事も想起されたい)、先端そのものの細分化と拡散が、むしろ過去音楽の快楽原則を取り込む形で定着し、先端が無効になったような状態が今、続いているのではないか。
例えば今、若い洋楽ファンは1975年の音楽と1977年の音楽を一緒くたに聴いている。私などにとっては重大な断絶があると思っている1975年と1977年の音楽の差異に気ずかず、それらを同時に情報処理するかのように消費する。それは翻って言えば、今現在、<先端>の神通力が消えうせ、存在しないが故にそこに連なるものとしての過去音源に継続性という道筋を見出す事ができない、あるいは直感できない為であろう。そういった歴史性は音楽の快楽と無関係になった。今、新しい音楽と過去の音楽が同位の空間で聴かれている。先端が拡散した現在、各々の快楽の条件に従う事だけが音楽表現の意義となったか。

ここ何か月前から行きつけになっているアナログショップ、Mole Musicで試聴して買ったGILB’R&DJ SOTOFETTによる12インチシングルが‘先端’であるかどうかは私には分りもしない。ミニマルテクノにダブ処理を加えた音響、そしてパーカッションとのセッション風のサウンドだが、ユーロハウス的な感性がやや古さを醸し出し、あそらく<先端>ではないだろう。しかしこの15分にも及ぶ音響に気持ちいいという私の正直な勘、直感だけがもはや意味を持つ。そしてこの‘気持ちよさの開拓’という唯一の価値軸を今後も継続していきたい。
2014.10.7


 
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