満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

ARCTIC MONKEYS 『FAVORITE WORST NIGHTMARE』

2008-01-01 | 新規投稿
    
オアシスよりブラーが好きだった私としては、リバティーンズよりも当然、このアークティックモンキーズの方が好みである。このバンドのリズムアレンジは最高だ。それはこの2ndでも健在。凝った楽曲、作り込まれた作風に強い‘プロ意識’を感じる。えっ?シェフィールドの若者が無作為に立ち上げ、自然発生的にブレイクしたバンドだよって?いや、これは老練なプロだね。そして芯からのミュージシャンだ。売れなくなってもずっと音楽やるよ。めっちゃ音楽,好きなはず。

音楽性は豊かで、やりたいことだらけ。しかしビジョンに対し才能はまだ本格的には追いついていない。でもこれからじっくり開花する。そんな感じか。「ロッキンオン」なんかの雑誌はいつもバンドのストーリーやアティチュード、業界内での立ち位置や振る舞い等を過剰にクローズアップして<ロック物語>による読者の扇動、洗脳に余念がないが、このCDのライナーも「アークティックモンキーズが手にした驚くべき成功、それは夢物語そのものだ」という「ロ」編集長のアホな言葉で始まる。これだけでもう読む気がしない。
アークティックモンキーズは天然ながらビートポップの深部に至る豊饒な音楽性という観点でしか批評するべきでないものだ。無思想故の音楽至上主義。ビートへの信望と演奏行為による楽曲への密着性を感じる。音楽への愛が強くにじみ出る。ギターで作った曲とリズムから構築した曲がブレンドされ、‘メロディの衰退’という時代のハンディを相殺する。このバンドの‘絶対スピード’は凄い。英国らしいヒネリ、シニカルな味わいも‘スピード’による躍動感に取って代わる。もっと遅い曲を増やしてもいいだろう。それすら‘速く’きこえる筈。

英国病がパンクを用意し、蛇蝎のように嫌われたサッチャーがイギリスを立て直した時点で、ロックの背景が削られた。英ロックが終わったのはイギリス経済が復興する過程と同一の軌跡を記している。アメリカのようなミュージシャンシップが存在しないイギリスに残ったのは、スタイリッシュか‘内面過剰’や‘真摯’という演技だった。相変わらずブルースが欠如したビートポップロックを量産する英国シーン。ならば音楽的にそれを極める方向にいくべきだろう。ビートルズやXTCの足元にも及ばないものばかりじゃないか。
アークティックモンキーズは演奏力による可能性に満ちている。しかも無邪気なせいかもしれないが、ニヒリズムがないのだ。次も聴きたくなるバンドだ。

名曲がなくても名演があればいい。声も楽器やね、このバンド。10年後にはビーフハート&マジックバンドみたいなグループになってくれたら最高なんだが。ヒットチューンは要らない。むしろ時代に逆らってアルバム単位のコンセプトアルバムなんか企画したら面白い。 ‘青春’の次のビジョンも容易に開拓する歌心と演奏への執着が本物への道を約束するんじゃないか。それとも「ロ」などの太鼓持ち雑誌の常套手段の‘ネタ替え’の餌食になって忘れ去られた時点で辞める?いや、多分、大丈夫だと思う。めっちゃ音楽,好きなはずだから。

2008.01.01
  
コメント (1)
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