満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

最近の木村文彦

2013-09-26 | 新規投稿
 
      

今年の2月の東京公演は木村文彦にとって一つの節目でもあったようだ。
その一年間、木村はハイペースなライブ活動に全精力を傾けていた。場所を変え、スタイルを変え、共演相手を変えながら猛烈なスピードで変化しながら、見るたびに違うパフォーマンスを行っていた。私はその創造性に脅威を感じていたし、彼の溢れ出るようなアイデアやエネルギーに畏怖していたと言って良い。そんな、まさに疾走していた木村文彦が、自身のブログでこれまでの活動を総括し、以後の演奏活動はスローペースになると宣言したのが2月。思えば彼は常に自分主体の演奏活動をしてきた。誘われてセッションする形式のものをなるべく避け、あくまでも自分が今、やりたいことを主眼に置き、それは一回一回、アイデアを練る創作という形を持ったライブであったと感じている。舞踏や映像を取り入れたり、寸劇仕立ての打楽器劇のようなイベントもあった。2月の東京公演はそんな木村文彦の集大成の意味を持つライブであったと思う。そして京都アバンギルドでの公演後、「やはり最終のアバンギルドが 終わってからは少し気が抜けたような日々が続きましたが、新たにセッティングも組み直しました。」とブログに書き、以後のスローペース化を予告し、これまでの活動を振り返りながら、関係者に謝意を述べている。自身の中で一つの区切りを感じ、それを率直に表したのだと思う。木村は自分がやってきた過去の様々な形態を脱ぎ捨てるような潔さと現在の関心にこだわる形で演奏に関わってきたが、それは変化を前提にするかのような多様性に満ちたものでもあった。

そんな彼がそれ以降、ライブの拠点にしているのが、大阪本町にあるclub mercuryというこじんまりとしたライブハウスである。最初、私はここに木村を見に行った時、そのラウドでリバーブ過剰な音響や、普通のロック、それも駆け出しの若いバンドなどが対バンであるというちょっと場違いな雰囲気(木村の演奏開始と共に爆笑し出したオーディエンスの一群もいた)から、これまでの生音重視のPAサウンドを好んでいた彼がロック的音響を試したかったのかと思い、いずれにしても彼がここで演奏するのは一時的なものだろうと思っていた。そればかりか、最初、「木村はなぜ、ここでやってるのか」とまで思っていた事を告白する。
しかし、私の予想に反して木村文彦はclub mercuryでの活動を月一回のペースで続けてきた。全く関連性のない対バン、木村の繊細かつ豪胆な音楽性を再現できる環境とはとても思えない音響システム。しかし木村にその真意を聞いて分かった事があった。木村いわく「環境を変えたかった。即興シーンというか、お客さんも同じ顔ぶれではない今までと全く異なるお客さんの中でやりたいという気持ちになった」というのだ。
私はその時、私の勝手に思い描く木村文彦の進路とは全く異なる志向を彼が持っている事を悟ったような気持であった。私は木村文彦の実力をもっと世に広め、上昇志向の気流に乗せたいと思っていた。著名なアーティストともっと積極的に交流を深め、もっと欲を持って、営業的活動よろしく立ち回れば、色んなチャンンスが向こう側から自然にやってくると思っていた。ところが木村の考えている事はそうではなかった。基本的にソロパーフォーマーである彼はあくまでも自分を主体として、やりたい事を内側の要請に従って表現する孤高性の演奏家であったのだ。そういえば以前、向井千恵から工藤冬里氏とのセッションを打診された時も、断っていたのを覚えている。おそらく、その時、やりたい事とは違っていたのだろう。木村文彦は自分の表現欲求という尺度しか持ちえないアーティストであった。club mercuryで月一回、継続してきたライブ。彼は私に「次回は椅子に座ってドラムスタイルで演奏する」と言い、それを試していた。自分の試行錯誤こそが彼のテーマであり、関心は外部ではなかった。それを思い知らされた私は木村を心から応援する心情がより強まっていった。そんな木村文彦からduoを要請された時、私は嬉しかった。アルバム『キリーク』のレコ初ライブ(2012年5月)以来の共演が木村の新たな拠点、そのclub mercuryで実現したのだ。EL WOODという市内のロックバーのイベントだったが、「俺らはロックンロールしかやらないんで」と私に言う彼らと親しく談笑する木村に私は本当にわけ隔てのないナチュラルな人物を見たと思う。Duo演奏は木村のソロでスタートし、途中、私が客席から入っていく形となった。大きなベースアンプで余裕を持ってボリュームを繰るというのは私にとっては元々、好きな環境であるが、やはり演奏が気持よかったのは言うまでもない。そしてclub mercuryというハコが魅力あるスペースである事も認識を新たにしたのであった。

さて、そんな木村文彦に大きな機会が舞い込んできた。
内橋和久氏の主宰するイベントに招かれたのである。以前からポーランドの即興音楽シーンに注目し、演奏家を招いていた内橋氏によるイベントの大阪公演に木村は呼ばれたのである。以下、東京公演も含めた詳細を転記します。

10/23,24
今ポーランドがおもしろい #2
@新宿ピットイン
開場 19:30 開演 20:00
10/23 「ちょっとエレクトリック・ナイト」
10/24 「かなりアコースチック・ナイト」
前売り 3500円 当日4000円
2日券 前売り6500円 当日7000円

関連イベント
10/24 昼の部
デュオCD発売記念
ミハオ・グルチンスキ&内橋和久デュオ
@新宿ピットイン
開場 14:30 開演 15:00
2500円(フェスティバルチケットをお持ちの方は500円引き)

参加者
ポーランドチーム
Jerzy Mazzoll イェジー・マゾル. bass clarinet
Jurek Rogiewicz ユレク・ロギェヴィッチ drums
Piotr Domagalski ピョトル・ドマガルスキ acoustic and electric bass Wac?aw Zimpel ヴァツァフ・ジンペル alto clarinet Micha? G?rczy?ski ミハオ・グルチンスキ clarinet DJ Lenar DJレナル turntables Maciej Obara マチェイ・オバラ alto saxophone Dagna Sadkowska ダグナ・サトコフスカ violin

日本チーム
梅津和時 sax,clarinet(24日)
坂田明 sax,clarinet (24日)
八木美知依 箏(24日)
芳垣安洋 drums(23日)
高良久美子 vibraphone(24日)
坪口昌恭 electric modified piano(23日)
広瀬淳二 sax(23日)
カールス・トーン laptop(23日)
吉田達也 drums(23日)
田中徳崇 drums(24日)
内橋和久 guitar,daxophone(23,24日)

大阪公演
10/26
@コーポ北加賀屋
開場 19:00 開演 19:30
前売り 3000円 当日3500円
http://coop-kitakagaya.blogspot.jp/
〒559-0011
大阪市住之江区北加賀屋5-4-12

協力:adanda [http://www.adanda.jp/]

ポーランドチーム
Jerzy Mazzoll イェジー・マゾル. bass clarinet
Jurek Rogiewicz ユレク・ロギェヴィッチ drums
Piotr Domagalski ピョトル・ドマガルスキ acoustic and electric bass Wac?aw Zimpel ヴァツァフ・ジンペル alto clarinet Micha? G?rczy?ski ミハオ・グルチンスキ clarinet DJ Lenar DJレナル turntables Maciej Obara マチェイ・オバラ alto saxophone Dagna Sadkowska ダグナ・サトコフスカ violin

日本チーム
内橋和久 guitar,daxophone
稲田誠 bass
半野田拓
木村文彦 percussion

そういえば2月にロジャーターナーと内橋氏のコンサートをコモンカフェに見に行った時、内橋氏はエリオットシャープから木村の事を聞いたという事を言っていた。もちろん、二人は内橋氏のかつてのワークショップnew music actionから旧知であるが、かなり久しぶりとなる木村という存在を改めて発見したという感じであったのだろう。私はエリオットのセッションに木村をあの時、誘って良かったと、今、思っている。
アルバム『キリーク』の批評がサイトJAZZ TOKYOにも掲載され、その超個性的な音楽性が少しでも広く認知される事を予感している。


2013.9.26
    

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.es 「darkness」

2013-09-02 | 新規投稿


「もう歌は歌わへんの?」と橋本孝之に訊いた事がある。
.es(ドットエス)がギャラリーノマル を活動拠点に置き、造形やビデオアートを含めたトータルアートをコンセプトとしながら展開してきたとしても、それは橋本の持つ情念的なもの、表現の原初的な内面的なものにとっては偶然、用意された環境であったに過ぎないのかもしれない。橋本のサックスは激烈であり、初期衝動とも言えるような情念が込められている。阿部薫に近似性があるのはスタイルではなくその出音のスピードやアタックの強さから湧くイメージに相違ないが、時に彼は実はサックスプレイヤーですらないと感じるのは、その非―ジャズ的コンテキストの成せる業というよりは、そのエネルギーのぶつけ方のパンク的な事に因るだろうか。ライブにおいて橋本は楽器を次々に持ち替えてゆく。サックス、ハーモニカ、ギター、最近では改造された尺八といったインストゥルメンタルをまるで自分の内面発露を通過させる小道具のように扱っていく。演奏中、それぞれをやり切ったかの到達感、あるいはやり切れないもどかしさを裡に含みながら、手元にある道具をそれこそ順番に対決する競技種目のように持ちかえながら全身全霊で演奏してゆく。そしてその初期のライブにおいて彼は確かに歌も歌っていた。その内容はもう忘れたが、やはり何かしら内部の吐露を感じさせる啓示的、告発調の詩であったと記憶する。私にとってはその歌こそが決定的に橋本孝之の個性を際立たせ、他の何物にも依存しない屹立性を象徴するものだった事を今、感じている。

自らをコンテンポラリーミュージックグループと名乗る.esは橋本孝之(サックス etc)とsara(ピアノ、パーカッション)によるユニットで2009年の結成以来、セルフレーベルでの音源、映像作品を制作し、前作「void」はP.S.Fレコードからリリースされ、「WIRE」誌でも紹介されている。私は3年前、ライブ会場の楽屋で対バンである彼らに初めて会った。二人は確か「フラメンコ教室で出会った」と言っていた。服装もばっちりキメたこの長身の美男美女が、これからどんな演奏をするのかあまり気にもしていなかったのだが、いざ始まったその演奏は全く予想に反したもので、耳をつんざくばかりのアルトサックスの号砲、地を揺らすかのような低音で乱打されるピアノがまるで這い上がってくるように響く。エレキギターに持ち替えた橋本がアンプでフィードバックノイズを放つ。こんな音楽だったのか。その時、感じた意外性を今でもはっきり覚えている。その意外性とは.esのルックスと音楽性の乖離という私の先入観に因るものだったかもしれないが、フリージャズや即興音楽のライブコンサートで、しばしば見られるそのあまりにも服装やヴィジュアル的なものを顧みないプレイヤー達と正反対の雰囲気を持ったユニットはその意味でも斬新であったと思っている。そしてその意外性に答えを得られたのが、後日、2010年3月に彼らの拠点であるギャラリーノマルで開催された「銀河鉄道の夜」をイメージした様々なヴィジュアル作家によるビデオアートとの合体によるステージを観た時だ。その時、イニシアチブを握っていたのは.esの三番目のメンバーでもあり、プロデューサーである林聡であった。ギャラリーノマル の代表である林は.esの表現世界の総合監督の位置にあり、その日、客席で私の隣りに居た彼が、ギャラリーの空間全体を使って、雪を降らせる場面などで、その速度や色、場面転換などを細かくスタッフにリアルタイムで指示していた事を覚えている。そして演奏後の二人に対しても、細かい注文や批評を与えていた。つまり.esはビジュアルなコンセプトと一体型のユニットという本質を持ち、それは不可分な要素として機能していたのだ。最初に書いた橋本孝之の情念的なものの発露がアートと重ね合うように発信される時、これまでとは違う即興演奏の形態を感じさせるサムシングが生まれる。それがこの時、発見された.esの個性であったと思う。

思えば以前、MOMA(ニューヨーク近代美術館)に行った際、アート作品と同列に小さなスピーカが配置され、事もあろうにイクエ・モリやジョンゾーン等のダウンタウンシーンの前衛音楽が鳴らされていた。MOMAという幾分にもエスタブリッシュな場においてもこのような音楽が認知されているのだなと認識したと同時に、そもそも現代音楽はアートと連動した運動体として発展してきた事も再認識した。「昨日まで絵を描いていた奴が今日は楽器持って演奏していた」という70年代後半のニューヨークシーンの渦中にいたレック(フリクション)が目撃した回想もそんな時代の一コマを表しているだろうし、遡ればフルクサス、あるいは1950年代に日本で滝口修造がリードした実験工房も音楽家を含めた雑多なアーティストの集合体であり、彼らはダダやシュルレアリスムよろしく、しばしば共同のイベント形式を表現の場とした。
そんなある意味、伝統的な現代音楽の系譜に.esも通じるものがあり、これからの音楽シーン(袋小路のような即興シーンも含め)に新たな局面を作ってゆく起爆剤のような存在になり得る可能性を見る。その為にも再び、橋本孝之の歌が復活される事も個人的には願っている。そこに新たな様相が見られるのは必至だろう。

ギャラリーノマルを拠点にしながら、そこから飛び出して活発な演奏活動を展開する.esは今では数多の国内外の有名アーティストと共演する存在になり、EP-4のメンバーを加えたThe Zzzippsの結成にも至っている。
そんな.esのアルバム「darkness」を縁あって私が主宰する時弦プロダクションからリリースする運びになった。プロデュースは林聡、nomart editionsであり、時弦プロダクションは配給レーベルという形で参画させていただいた。発売は9月7日。すでに各メディアでの批評も見られ、大変、注目されている。

2013.9.2
   
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