満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

MADLIB 『medicine show no,7 HIGH JAZZ』

2011-05-18 | 新規投稿
 
「スイングジャーナル」誌廃刊という新聞報道が妙に大きな扱いだった事に違和感を覚え、更にその後、それを惜しむ記事や新雑誌発刊の情報などが同じ新聞誌上で繰り返し報道されていた。他に記事がなかったのかと思う。発行部数の減少による広告収入の伸び悩みが廃刊の理由だったようだが、元より広告だらけな上、批評といえば典型的な‘太鼓持ち’論評ばかりで‘みんなでジャズ業界を延命させよう’という至上命題で運営されてきた雑誌なんかとっくにその意義を終えていたはずだ。‘ジャズを長年、牽引してきた’という功績も、今となってはむなしいほどの自画自賛とその時代遅れな誌面の印象が帳消しにしてしまう。何よりそのジャズをある固定化された‘ジャズ’なるマーケットに押し込める事で購買層をますます特殊化させるばかりか、音楽観自体を他のジャンルと差別化する意識を培養させてきた事は否めない。それが私が持つ「スイングジャーナル」とは音楽シーンを映さないメディアという印象の理由であり、反批評の象徴と捉えていた理由でもあった。まるで約束事のように定期的にマイルスやコルトレーンの特集を組んで、いつまでたっても亡き者におんぶにだっこするのは、ある意味、ジャズの現況を反映していたとも思うが、少しはジャズを見据えるために‘ジャズ’から離れるという感覚がないものかと思う。巨匠の名人芸や楽器の話ばかりの演奏者のインタビューもいいが、たまには、マッドリブの特集記事でも載せた方が、ずっと時代を反映するジャズ誌として、新しい読者の開拓につながっていた筈だと言えば、余計なお世話だろうか。しかし、そのマッドリブのジャズが他の数多のジャズより、格段に快楽的な響きを有し、その作品群を辺境に位置つける事はもはや、愚かであると断ずる私からすれば、Yesterdays new quintet等をしっかり批評する事がジャーナリズムの使命であるとも感じるのだが。

マッドリブはミュージシャンではないと以前、書いた。(当ブログ2010.5.26『young jazz rebels』参照)が、彼はドラムを叩き、しかもYesterdays new quintetに於ける手法はすべての楽器を自分で演奏し、それをエディト、リミックス、サンプリングして合成するというものだった。その音源を聴く限り、どこまでが生演奏でどこまでが、切り貼りなのか分からないが、彼は数多のジャズが作曲と編曲、即興で成り立つそれは音符(と反音符)の世界であるのに対し、ジャズを演奏あるいは楽曲ならぬ‘トラック’と解し、そこにヒップホップと同列の視点を置いた。かくして音響快楽的なショートトラックの集合的作品を作り上げる事でジャズを音階的、楽理的に理解するのではなく、聴き方そのものをアウトする新感覚を提示したのだと思う。そこではジャズにおけるテーマやソロが簡素なメロディの反復と手短なフェイドアウトと場面転換されるリズムのバリエーション、音質の入れ替わり等にとって代わられ、正に聴覚刺激的な音の見本市のようなニュージャズとなったのである。ドラム以外は4小節程度しか弾いていないトラックも多いはずだ。それらの断片を組み合わせ、マッドリブは本来、ジャズが持っていたカオスを表出させた。奏法ではなく、楽器を一つの音響装置とし、熟達者のレベルを相対化するジャズを生み出したのだと思う。従って、各器楽パートの一音一音の響きが半端じゃなく美しく、しかもラディカルだ。このあたりは数多のジャズ関係者が見習うべきと思うが、すぐ真似のできるものではない。

マーカスミラーは全ての楽器を弾けるから弾くが、マッドリブは‘弾けないけど弾く’。
彼の武器は快楽指数を高める自らの聴覚である。そのハイレベルはジャズのテクニシャンと等しく、一定の努力の賜物と言わなければならない。月に何百枚というレコードを聴くという行為に単なるDIGの姿勢ならぬ求道者の姿を見る。
シリーズ化されたmedicine showのNO,7『HIGH JAZZ』は彼のジャズ音源の放出作品。ヒップホップやアフリカン、ジャズ等の相違を快楽の源というドラッグ性で統一するマッドリブの思想がこのシリーズに象徴される。ちなみにこの後、シリーズはNO.10までリリースが続いている。個人的には当たり外れが多いシリーズと言わざるを得ないが、ついつい全部、買ってしまうのは、このアーティストにハマッている証拠だろう。

2011.5.18

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ー解凍された歌ー Time Strings Travellers CD発売は6/19予定

2011-05-10 | 新規投稿

このブログは当初、拙署『満月に聴く音楽』(2006)の発売を宣伝する目的で、その一部を抜粋し、いわば立ち読みの為の目的で開設しました。つまり、新しい記事を全く更新しない、本屋に置いてある本のようなものをイメージしたのです。が、そのうち、聴いたCDの感想を書きたくなり、新譜に絞って批評を始め、それが楽しくなり、かなりの量となります。やがて休止していたバンド活動を再開し、ライブを活発に行うにつれ、更新が少なくなり、そしてこの1年、私はバンドのレコーディングに集中することで、新譜批評はかなりペースダウンしてしまいました。もっと書きたいなあと思いつつ、そうはいかなかったのです。しかし、どうやら、もうすぐ新譜批評を再開できそうです。と言うのもそのレコーディング作品がついに完成しつつあり、その作業から解放されそうだからです。

私のバンドTime Strings Travellers (時弦旅団)のCDは99年リリースの前作『still songs』と同じく地底レコードによる配給で、6月19日にリリースされます。CD2枚組で2500円(税込)です。お買い得です。タイトルは『DEFREEZED SONGS』。’解凍された歌’という意味でつけましたが、古いオリジナルで録音していなかったものや、古い即興演奏のライブテイク、リハーサルテイクも一部、収録したので、塩つけにされていたテイクという解釈です。

CD発売と同時にライブも再開します。
関西圏だけじゃなく、東京でも行うつもりです。
CDの自己解説を次回、掲載しようと考えております。

2011.5.10

   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする