満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

AGI

2022-02-20 | 新規投稿

重厚なケースに収められた2冊の本とCD4枚はAGIというタイトルのBOXセットである。一見謎であろう。下手をしたら人はこれをエー・ジ(ギ)ー・アイ?とでも読んでしまうのではないか。果たしてプロデューサー中村泰之氏の意図は稀代の音楽批評家、阿木譲の客体化―記号化であったか。阿木譲の言語、音楽制作(Vanity)、その活動が今、掘り起こされ、分析され、批評される。

飽くなき主体として先端音楽を読み取り、言うところの時代精神に位置付けてきた感性のトップランナー阿木譲の分身が自らの手を離れ、ある客観的な場所に辿り着く。昨日のことはすぐ捨て去るスピードを信条とした男の過去形を復刻する事の意味を中村泰之氏は認めた。

また、ケースに銘記された嘉ノ海 幹彦という名前を見て驚くのは「ROCK MAGAZINE」の嘗ての熱心な読者に違いない。ここに復刻された「MUSICA VIVA『ロック・マガジン』29号」と「Erik Satie Furniture Music『ロック・マガジン』34号」(共に1980年)は嘉ノ海氏が在籍した「ROCK MAGAZINE」誌が最も充実した内容を誇った時期のものである。今回、馳せ参じた嘉ノ海氏もまた、ある意味、ここに復刻したのである。椹木野衣、平山悠、両氏の阿木譲評が嘉ノ海氏と並ぶことで図らずも世代別の阿木観なるものがおぼろげながら姿を現すだろう。

そして阿木譲の創造のヴェニュー、environment og zero-gaugeを中心にライブ活動を展開してきた林賢太郎、徳田順也、泉森宏泰(isolate line)各氏への嘉ノ海氏によるインタビューと長年、その片腕として公私ともに阿木譲を支え続けてきた現zero-gaugeオーナー平野隼也氏の感動的な告白録が収録されている。

CDはさらに充実し、平野隼也氏による「VANITY / REMODEL MIX」が2枚。これは阿木譲のレーベルVanity(1978-80)と現在進行形の先端音楽レーベルRemodelの音源をランダムにDJミックスしたもので、独立したCD作品としても発売が決定している。更にはShota Hirama、Tenten-Ko両氏のVanityミックスCDが1枚ずつ収録されている。

私は特別に出版元から先行して献本いただいたのだが、その内容の重厚さに感動した次第。正しくこれは偉業。願わくはこの「AGI」が阿木譲逝去の国内的反応の小ささに対するカウンターになる事を。

2022.2.18

 

【本+4CD】AGI【阿木譲/ロック・マガジン復刻/Vanity Remodel CD4枚付】

監修:中村 泰之

著:嘉ノ海 幹彦、椹木 野衣、平山 悠

価格:¥4,950(税込)

ISBN:978-4-86400-041-3

発売日:2022 年2 月28 日

版型:B5(257×182×54mm)

『AGI』『rock magazine 復刻版』2 分冊

ページ数:本文208+592 ページ 計800 ページ

BOX 仕様 : 2 冊の本とCD4 枚は豪華ボックス(266×191×54mm) に封入

製本:並製

初版特典:CD4 枚組

発行元:きょうレコーズ

発売元:株式会社スタジオワープ

A G I

■復活祭の果てに死者が語りかけてくることとは 平野隼也

■野生・編集・髪型 ‒ 阿木譲というスタイル 椹木野衣

■『ロック・マガジン』の全部はこれから 平山悠

■魂に降り注ぐ音楽 林賢太郎

■やがて映像となる音楽 徳田順也

■音響実験の地球生命体に与える影響について 泉森宏泰

■「ジャズ的なるもの」からクラブ・ミュージックへの回顧 阿木譲

 

rock magazine 復刻版

■『ロック・マガジン』29号(1980 / 01)特別号 MUSICA VIVA

■『ロック・マガジン』34号(1980 / 11)Erik Satie Furniture Music

■『ロック・マガジン』40号(1981/ 11)無意識の音楽群

■『ロック・マガジン』41号(1982 / 01)新感覚

 

■CD-1 VANITY / REMODEL MIX 1

■CD-2 VANITY / REMODEL MIX 2

■CD-3 VANITY RE-MAKE PART 1

■CD-4 VANITY RE-MAKE PART 2

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まだ先ですが、ダブル・レコ発ライブが実現です。

2022-02-18 | 新規投稿
まだ先ですが、ダブル・レコ発ライブが実現です。
2022.04.09(sat)
Jigen production Present album release commemorative live
‘jazz avantgarde’  
●SCATTER ELECTRONS
臼井康浩gt 宮本 隆b 藤掛正隆ds electronics
●瑕疵
マツシタカズオ sax・piano 鳴瀧朋宏b 衣笠智英ds
guest player 登 敬三 sax 豊永 亮 gt 津田謙司 picture
●Juri Suzue (experimental)
●DJ Junya Hirano (environment 0g/remodel)
@environment 0g zero gauge
Open18:00 start18:30 Charge2500 +1 drink order
大阪市西区南堀江3-6-1 西大阪ビルB1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<SCATTER ELECTRONS>
臼井康浩(gt)宮本隆(b)藤掛正隆(ds ,electronics)によるSCATTER ELECTRONSはオンビートを基調にした即興演奏を行う。当初、一回限りのセッションの予定が寺部氏(藤掛氏主宰Full Design Recordのエンジニア)の8トラック録音の作品化を契機にバンド名をつけ、以後、不定期な活動を予定。80年代にロックとジャズの垣根を破るシーンを形成したNYダウンタウンのストリート・シーンを彷彿とさせるジャンル越境的な音楽性を持ち、CDに於いては藤掛によるエレクトロニクスのリフに導かれたスピード感に満ちたトラックが並び、その明解さとPOP感覚も特徴と言える。ライブでは臼井の即物的なノイズギターと宮本、藤掛のグルーヴ・リズムの融合が発現するだろう。
<瑕疵:KASHI>
マツシタ カズオ(sax,piano)鳴瀧朋宏(b) 衣笠智英(ds)  guest:登敬三(sax)豊永亮(guitar)
マツシタ カズオ(ex O.A.D.)率いるニューグループ、瑕疵はコンテンポラリー・ジャズを現代音楽風に解釈。そこにノイズ、フリー・ジャズの要素を消化する未知のジャズサウンドを本領とする。その実力はライブでこそ発揮され、張り詰めたテンションと漆黒の視覚ムードも相俟って独特のステージを展開する。デビューアルバムに参加した登敬三(sax)豊永亮(gt)はゲストプレイヤーながら瑕疵の音楽コンセプトに適合する準メンバーと言えるだろう。作曲と即興の交差点で発火するクールな炎のような演奏を‘先端’と呼ぶ事に躊躇いはない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

zero-gauge 阿木譲氏が残した磁場 ~ [ a sign 2 ]を巡って~

2022-02-01 | 新規投稿

[ a sign 2 ] Various Artists

> disc 1

  1. Kiyoshi Izumi/ Depth Patch
  2. Sunao Inami/ Stay Home
  3. Nuearz/ erato
  4. Yuki Aoe/ AIIII2-LV2tech
  5. Junya Tokuda/ MirroredImage
  6. Konstructal/ Grunt
  7. Nuearz/ horticulture
  8. Sunao Inami/ Stay Safe
  9. Juri Suzue/ itofu
  10. Molecule Plane/ Euryale
  11. Junya Tokuda/ NothingIsStill
  12. Yuki Aoe/ Yesterday And Today

 

> disc 2

  1. Renick Bell/ Upheaval but Unshaken
  2. Isolate Line/ Belsomra
  3. CINDYTALK/ Subterminal
  4. Isolate Line/ Abilify
  5. kazuto yokokura/ binaural mix
  6. Renick Bell/ Blocking It Isn't Going to Work
  7. Unknown Tears/ CERN TeV (ATRXIA mix)
  8. Eadonmm/ Observation Point, C700P92055
  9. Eadonmm/ Uycler
  10. CINDYTALK/ Circumspekt
  11. KENTARO HAYASHI/ GARGOUILLE

 

阿木氏が貫いた精神としての­アンチ・ブルース主義。その鉱物性とでも呼ぶべく感情的な関係性、感性を排する生きざまは、正に「ROCK MAGAZINE」

言うところのプラスティックな感性を生活の隅々にまで徹底する姿勢として現れ、音楽批評に於いては70年代後半のロック・フィールドの溶解と共に出現するニューウェーブ、エレクトロニクス・ミュージックの勃興という事態で見事に時代の予見と思想的合一を見た。主宰する雑誌「ROCK MAGAZINE」は75年というパンク出現未明におけるシーンのカテゴリーを現すのに、未だ適切なワードがなく、誌名に於いて、その段階ではROCKというジャンル名に頼らざるを得なかった事を示しているし、ROCKから連想される当時のold wave然とした固定概念を紙面の内容に於いて明らかに超越していた質実が周囲には理解され得ないパンク、ニューウェーブ以前の時代に於いて、既にその新精神を感受していた阿木氏の先端性を私達、読者は、その紙面の隅々から感じていた。

 

ロックやポップの根底であるブルース、それは血肉とも言える絶対要素であり、そのフィーリングを通してしかロックを感知できない時代に阿木氏は、その彼岸にある時代精神や西欧の歴史性を身透かし、ハイブリッド種であるROCKのキッチュ性を取り込んだブルースやソウルと言う人間主義の消去の模索を自らの感性だけを頼りに始めていた。そこではイーノやジャーマン・ロック、ボウイはその確かな媒体となっていただろう。(NEUを「これは石だ」と評した事も思い出す)

以来、阿木氏は先端音楽を愛好し、情報をアウトプットする冷徹な個人主義者として音楽を通しての時代の解読、予見、人間精神の変容などを観察してきたといっていいだろう。その継続には新音楽のみを探し、聴くという前提があった。ジャンルの変容、多角化、あるいは一見、後退したかに見える事象なども俯瞰しながら、音楽の意味性を追求しながら、最終的には高位の無意味化へ意識的に向かうという営為を試みてきたのだと思う。

そんな阿木氏にとって触手を伸ばす先端のフィールドがイギリスとヨーロッパを中心とする都市音楽に集中している事を自覚し、ゆくゆく、その背景にあるキリスト教文明圏のアーティスト群に嫌がおうにも見受けられる、その苦渋の内在的背景を視ていた事は「日本の音楽には基本的には興味がない」という本心にもつながる裏付けとなろう。阿木氏は先端音楽とは西欧的なバックボーンなしで生まれ得ず、質実が伴わないと直感していたに違いない。

ただ、阿木にはその音楽趣向とは別のベクトルも存在した。それはムーブメント=遊び場の創造意欲についての確信である。

「ROCK MAGAZINE」初期の頃から喫茶店でレコードコンサートを企画したり、定期的にビデオ試写会のイベントも催していた。勿論、KBS

京都のTV番組「pops in picture」で短いコーナーを受け持ち、誰よりも早くパンクの映像を紹介する姿は氏を関西圏でのちょっとした著名人にしていただろう。

そういったアウトプットを試みる事によって人との繋がりを求める、何かしらの能動的ファクターを起こす契機を生み出したいという欲求がその個人主義的なプロフィールとはアンビヴァレンツな両義的な性格を稜取っていたとも言えようか。Vanity recordは阿木氏の創出した音楽レーベルであり、表現行為を開かれたものとして、底辺からムーブメントを立ち上げていくインディ・シーン黎明期における国内に於ける最初期の動向であった。

更に本格的なクラブシーンの到来に呼応するように90年の幕開けと同時にクラブ M2をオープン。M2は阿木氏の本格的な創造の場の創出の始まりであり、以後、café blue , jaz room nu things, nu things JAJOUKAへ至る。

 

一時的なニュー・ジャズへの志向性からエレクトロニクスへ回帰するさ中の2010年に心斎橋に拠点を移したnu things JAJOUKAが電子系、ラップトップ・ミュージックのアーティストが大挙、出演する場となる。そして阿波座nu thingsを経て、2015年、現在のenvironment 0g [zero-gauge]に至る。ここにきてピアノを売却し、四方をコンクリートの白壁に持ち、VJも行われ、エレクトロとビジュアルの共演の場となり、トータルな意味での先端の要素が強まる事になった。

 

本アルバム「a sign 2」はnu things JAJOUKA

そしてenvironment 0g [zero-gauge]での出演をメインにしたアーティスト達のオムニバス2枚組アルバムであり、阿木氏の片腕的存在と言える平野準也氏がアーティストのセレクトを含めたディレクションを担当した。

 

<阿木譲プロデュースのクラブ nu things JAJOUKA ~ environment 0g [zero-gauge]に集うアーティスト15組を収録した2枚組コンピ。テン年代に萌芽した尖端音楽の種子たちがここに開花する>

本作のキャッチコピーにある‘テン年代’は言うまでもなく2010年代を指すが、私の概観ではこの頃から欧・英のエレクトロニクス・ミュージックに汎欧州色の深みが増す性質が顕著になり、恐らくは阿木氏の求める内面的な音響、クラブ・ミュージックでありながら重厚で内部浸透性を持つ思索的方向へ導かれるビートを有するものに変化した時だったと感じている。Web上で音楽批評を再開したのもこの時期前後であり、それは言語化するに足り得るシーンの再到来でもあったからではなかったか。

音の概念化という阿木氏の本領が発揮されながら、フロアーでの大音量のライブという肉体性の保持が両立する事態がここにきて実現した。それは恐らく阿木氏の理想とする形が実現したのだとも感じる。

 

[ a sign 2 ]に収められたアーティストはある意味、その英・欧シーンへの日本(それも大阪ローカル)からの回答という性格を意識せざるも持つものであり、実際、各トラックの質的濃密さは海外の音源、その膨大なシーンによって育まれたものに決して引けを取らない独自性をもつものばかりだ。nu things JAJOUKAenvironment 0g [zero-gauge]が形成した確かなシーン。それは数多ある国内のクラブ・ライブシーンのどこよりも世界的現在性を実現したものであった事を私は確信する。実際、ここからメジャー・シーンへ飛び立ったSEIHO氏のワールド・ワイドな活動は海外との共振性を文字通り実現しているし、アルバムラストにトリとして収録されたKENTARO HAYASHI氏のトラックの汎世界性を聴くにつれ、阿木氏の影響下にある要素はアルバム全体に充満している。

nu things JAJOUKA 、environment 0g [zero-gauge]に集うアーティストは皆、阿木氏のDJを養分とし、その示唆するアドバイスにも耳を傾けた。そうやって各々が意識する先端の感覚を研ぎ澄ませていったのだと感じる。

 

阿木氏亡き後、リリースされたアルバム[ a sign 2 ]はYASUYUKI NAKAMURA氏(SLOW DOWN RECORDS/STUDIO WARP)のプロデュースによる阿木氏追悼の作品でもあり、その影響下にある様々なアーティストによる共演とも言える精神的な統一感が光る作品だ。それは音の隅々まで感受する事ができる本作の特徴だろう。

総勢15組、23トラックが収められている。何れも緻密な音響作品が並び、その前衛感覚とストリート性を併せ持つ開かれた音楽性を持つ。私は何度も作品を聴きながら数多のイマジネーションを遊ばせる快楽に浸っているが、以下、各トラックから得られたイメージを言葉で記す事にした。

 

> disc 1

  1. Kiyoshi Izumi/ Depth Patch

アルバムトップは重鎮、Kiyoshi Izumi和泉希洋志氏の重厚なロック的リフが瞬間ブレイクされる妙技で始まる。もはや物語性を予見させるヘヴィーな様相は所謂ラップトップ世代との断絶さえ感じられる程で西洋インダストリアルの音響でありながら、どこか未来を透視する日本都市型の非―観念的な音楽である。阿木氏が明確に差別化した西欧/日本のハンディを超克する勢いがある。

  1. Sunao Inami/ Stay Home 

兵庫県在住、90年代から国内外での様々なリリース、ライブを行ってきたSunao Inami氏のトラックはその名も「Stay Home」。コロナ禍での精神の有りよう、或いは先行き不安な感情を描いたかのような不思議なブレイクと隙間に満ちたノイズ絡みのビートが静かに展開する。籠った音響のルーズな場面がしかしヘヴィなジャーマン・ビートに突然、変換する。その間、当初から低位で進行するモールス信号のような音はずっと続く。ウィルスの伝播、放流の表現か、恐怖と対応、止まぬ現実の表現。

 

  1. Nuearz/ erato

シンフォニックな単音のビートで始まるモーダル・ビート。このテンポは心地よい。そしてテンポ・ミディアムで展開されながら上層部で浮遊するシンプルな‘うわもの’の変化による控えめな場面転換が施され、音像の変化がリラックス感を伴い体感できる。その本質はいわばビート・アンビエントとでも言うべきか。

  1. Yuki Aoe/ AIIII2-LV2tech

籠った音質で鳴り続けれる四つ打ちビートが、ますます籠っていき、やがてその輪郭が崩壊する。そしてビートに付随するアクセントが増え、広角な音響トラックと化す。強力に快楽的、ドラッギーでさえある。AIIII2-LV2techという謎めいたトラック名からはメカニズム論理やある種の手法を示唆するイメージが湧くが、むしろ底辺の方角から存在の暖かさが浮かび上がる。

  1. Junya Tokuda/ MirroredImage

阿木氏の認めたエレクトロニカ作家、Junya Tokuda氏による爽快、優美なエレクトロニカ作品。このジャンルの世界的流行はアンビエントの名に借りたチープなムード・ミュージックの氾濫を招いているとも思えるが、Junya Tokuda氏は然るべき音のみを紡ぐメロディを印象付ける為の装飾と剥ぎ取りのセンスを体現した。

  1. Konstructal/ Grunt

テーマ、リフ、ソロといった楽曲構成を内包した異色のエレクトロニクス音響。リズム、ベース、キーボードというまるでバンド編成による演奏は電子化以前、電気化以降という狭間に生じた肉体性を保持する力感に溢れるトラック。ボイス・キーボーダーによるウネリも印象的。

  1. Nuearz/ horticulture

都市空間の近未来像をイメージさせながら確かな今、現在の描写を感じさせる。そのサウンドは眩さの音像表現であり光輝な地平へのリアルな力を伴うものだ。しかも単純な明るさや単に映像的と比喩できない批評性を受け持つ。

 

  1. Sunao Inami/ Stay Safe

Sunao Inami氏の本アルバムに於けるセカンド・トラックは神秘的な音の破片からプリミティブなビートにのる野生感覚に満ちた異形のサウンド。電子と不協和音が奏でる祝祭空間が恐ろしく魅惑的だ。

  1. Juri Suzue/ itofu

今、最も積極的にライブ活動を展開するJuri Suzue氏によるチェンバー・サウンド。密室の床に広がるホワイトノイズの波に交差するような静かな信号音が左右に行き来する。微かな人の声が聴こえる。やがて音圧の高まりと衰微。豪胆且つ繊細なドキュメンタリーのような味わいである。

 

  1. Molecule Plane/ Euryale

不気味な持続音が途切れ、深海で繰り広げられるゴングのアンサンブルに替わる。聴くにつれメロディの明確な姿が現す。まるでガムランのように。不気味な持続音が枝分かれするように四方に飛びながら立体的な音の部屋がつくられる。

  1. Junya Tokuda/ NothingIsStill

本アルバムに於けるJunya Tokuda氏のセカンド・トラックでは再び独特の抒情性が発揮される。人工美ではないポストロマンの夢物語のようなバラッド。女性ヴォイスのリフレインに施された微かな変化を見逃してはならない。アンドロイドに注入されるヒューマンな薫りを。

  1. Yuki Aoe/ Yesterday And Today

本アルバムに於けるYuki Aoe 氏のセカンド・トラック。粘りのあるリズムリフの快楽が持続される。これはもはや16ビートのファンクであり、パターンがリフレインされても微動だにしない基底がある。シンセの持続音の途中から現れるのは縦に刻まれるマシーンのリズムである。クールな音響ファンクとでも言うべきダンス・チューンの起伏無きアンチ・クライマックスの精神に先取のエッジを視る。

> disc 2

  1. Renick Bell/ Upheaval but Unshaken

歪められたシンフォニックな音響の上をアットランダムなビートが乱舞し、空間に突き刺さる。各々のサウンドの破片を即興演奏のように操作、表出するのが目に浮かぶ。音圧も自在に変えながら断片を断片のまま曲を終わらせる潔さ。

  1. Isolate Line/ Belsomra

個人的に以前から注目し、その音源を注意深くチェックしていたIsolate Line氏による実験的アンビエント。ハンマービートは定刻に発せられる単音の装置のように基底を成す。そして間と転換の微妙なズレ、その差異の加減は絶妙だ。説得力を持つ静けさがここにはある。

  1. CINDYTALK/ Subterminal

ホワイトノイズに共鳴するハウリング。やがてノイズは変形し、丸い金属音がこだまする。互換されるブザーと濁音が一つの束になり、微かに変異しながら再び広角に放流される。これはある種、インダストリアル的ドローンだろうか。

  1. Isolate Line/ Abilify

再びIsolate Line氏の実験的音響世界。ミニマムなメタル・マシーンの操作、その低位から更に下降するような柔和な感触は心地よい。遠方で鳴るキックは薄く、しかし重厚に響く。溶解した金属音が持続し、モジュラー変化しながら緩やかな旋律を生み出す。マシーンのノイズ性と旋律が対位法のように循環され、最低位の地平でアンサンブル・コラージュされる。

 

  1. kazuto yokokura/ binaural mix

現在のzero-gaugeに欠かせないアーティストであるkazuto yokokura氏のトラックはホールに漂うミステリアスな音響と不規則なビートが交差する。定数で割り切れないデ・パターン化されたリズムがブレイクし、唐突に終わる。何事もなかったように。アブストラクトなダンス・チューン。

  1. Renick Bell/ Blocking It Isn't Going to Work

グリッチとパルスビート、シンセドラムの乱打による即興的な空間。ノイズや亀裂音、鼓も打ち鳴らされる騒擾の世界にやがて中心らしき鼓動が見え、静かに閉じるラストの意外さ。

  1. Unknown Tears/ CERN TeV (ATRXIA mix)

静的な16ビートは極上のリズムパターン。アンビエント・ファンクとでも呼びたくなるこのグルーヴは至上だ。これだけずっと聴いても飽きないくらいの快楽性がある。と思っていたらそのままエンディングを迎えた。潔し。

  1. Eadonmm/ Observation Point, C700P92055

深遠なドローン・アンビエント。シンセサイザーによる弦楽二重奏が左右の領域をフルに使いながら前方にも迫りくる。しかも微妙な音の歪みが気持ちいい。

  1. Eadonmm/ Uycler

二曲続けてのEadonmmによるアンビエント・サウンドはハンマー・ダルシマーの疑似音のようなピアノプレイが調性を感じさせない和音のように響き渡る。またしても深遠だ。そして美しい。後方のヒューマンボイズが前後入れ替わり、曲は終わる。

  1. CINDYTALK/ Circumspekt

インナーなインダストリアル。内向する金属音が溶解されていくような新しい感触で響く。やがて微かな二管シンフォニーが絡み、思わず聴き耳を立てる。音圧はずっと低いままだ。夢の中に現れた楽団か。唸らせるアイデア。

  1. KENTARO HAYASHI/ GARGOUILLE

本アルバムのラストを飾るのは阿木氏が認めた数少ない才能、KENTARO HAYASHI氏の重厚なトラックだ。浮かび、消え、また浮かび上がるように続くシンフォニックな音響。物哀しい混声合唱と物語の予感。細長い金属音が左右に行き交いながら、場面が転換される。地響きと亀裂の音響がシンフォニーと融合する。その世界観は絶望か。それとも暗黒の手前で踏み止まる達観の境地にも似たプレーンな世界か。混声合唱が失われた後にあらわれるカタストロフィーの音響の恐怖。静かにリフレインされ終息する。一編の長歌、映像的な驚異感を味わった。

 

大作となった[ a sign 2 ]

阿木譲氏の撒いた種がここに花開き、今日も

environment 0g [zero-gauge]では限りなくエッジの効いた音響がフロアーにこだましている。

 

2022.2.1

宮本隆(時弦プロダクション)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする