満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

Kimura Fumihiko木村文彦 My Drum Music

2022-06-21 | 新規投稿

Kimura Fumihiko木村文彦 My Drum Music

時弦プロダクションの新作「My Drum Music」木村文彦

発売日2022年7月30日に決まりました。

プロモビデオは一曲目のさわりだけを収録しました。

ぜひ、御購入され、全編、お聴きください!

 

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<about時弦プロダクションpart.4.5> 木村文彦 Kimura Fumihiko「キリーク」 (Jigen-007)2012年

2022-06-03 | 新規投稿

木村文彦 (KIMURA FUMIHIKO) 『キリーク』

<about時弦プロダクションpart.4>

木村文彦 Kimura Fumihiko「キリーク」

(Jigen-007)2012年

 

「次は木村さんのアルバムを作らないとね」と告げたのにもかかわらず、実際の制作にとりかかるまで、少なからず日にちを要したのは私の懐事情に因るものでした。スタートしたのは私の言葉を信じた木村さんが、背中を押してくれた時です。あのまま仮に何もアクションを起こさなければレーベル活動そのものが生まれてなかったと思います。他人の作品を作る。その意識はあの時点でまだまだ希薄だったのです。木村さんの作品こそが時弦プロダクションの誕生だったのです。その意味でも木村さんに感謝しています。

 

制作を開始した頃のブログに私は以下のように書きました。

<バンドのCD制作を終えたので、音楽批評をどんどん書いていこうと宣言したのにかかわらず、そのスピードが鈍いのは訳があります。現在、私は木村文彦氏のアルバム制作に取りかかり、いつぞやは、見るのも嫌になっていたpro toolとの格闘を再開しているのです。さて、その木村文彦とは何者なのか。

ドラム奏者でありながら、パーカッション類はおろか、バケツ、アルミ缶、スプリング等々、あらゆる鳴り物を縦横無尽に演奏する希代の打楽器プレイヤーと言わせていただきます。録音の日、スタジオに現れた彼が’楽器’を散乱させるようにセットし始める中、前方に譜面台を置く。何かイメージしたものを譜面にするのかなと思い、「何を見ながら演奏するんですか?」と訊くと「いや、叩くんです。譜面台はいい音するんですわ。」と言った。おそらく、彼は全ての物を叩く。彼に叩かれるあらゆる物体は音楽を形成する’楽器’に他ならない。

 

現在、数々のソロライブや即興演奏のイベントに出演している木村文彦のインパクトはその拡がりを見せている。私は木村氏の演奏が好きだからこそ、自分のバンドのアルバム制作に参加してもらい、ライブでも共演してもらった。その演奏は音源よりもライブでこそ、魅力が発揮されるが、聴く者、観る者に強い印象を与えずにはおられない唯一無比のものだ。実は11日に東京でのライブを控えている私は、彼に同行を打診したのだが、「東京は無理です」と断られた。おそらく、今後もその活動は関西エリアだけになると思われる木村文彦を私は全国レヴェルで知ってもらいたいと思って、ソロアルバム制作を提案したのである。彼は賛同し、この企画はスタートした。ゲスト演奏者も交えての完成を目指しています。2011.9.8>

 

 

 

 

 

<about時弦プロダクションpart.5>

木村文彦 Kimura Fumihiko「キリーク」

(Jigen-007)2012年

 

アルバム「キリーク」は音源が出来上がってまず、地底レコードの吉田さんに聴いていただき、「あまり曲数を詰め込み過ぎないように」とアドバイスを受け、完成に至りました。あの時点で私は販路のあてもなく地底レコードに配給をお願いしていたのです。シャックさんこと三原輝久氏による木村さんを擬人化したユニークなイラストをアルバムカバーにしました。

以下、アルバムに記載したライナーノーツをここに転載します。

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<木村文彦ソロアルバム『キリーク』に寄せて>  

 

あるライブで目撃したのはエンディング近くに自分を叩き始めた木村文彦の姿であった。ステージに所狭しと並べられたタムやスネア、シンバル、ゴング、鍋、やかん、ポリバケツ、板、スティール缶などを演奏し尽くした後、もうこれ以上、叩くものがないと感じたのか、木村氏はしばしマイクに向けてパーンパーンと手拍子を打ったかと思うと、直後、自分の肩や胸を激しく叩きだしたのである。マイクがその音を拾い、会場に反響する。吉本新喜劇の島木譲二さんよろしく繰り出される高速の‘パチパチパンチ’で木村氏の演奏は終わった。後で木村氏に聞くと自然に出たと言う。

 

即興演奏家は過去を振り返らない。

それはリアルタイムな演奏性こそを重視し、記録に執着しない態度にも映るし、かのマイルスデイビスが自分の過去作品に言及する時に「あの曲」ではなく「あの演奏」という言い方をする感覚にも幾分、共通する演奏者の性かもしれない。そこからは音楽を静止画像として貼り付けられた記録の観賞とするのではなく、今と過去をつなげて絶えず反復され流動するような生き物であると捉える事をイメージさせる。そして木村文彦もまた、そんなインプロバイザーとしての性格を強く持つ演奏者である。

 

しかし、そんな木村氏にアルバム制作を勧めたのは他ならぬ私である。私は自分の主催するバンド、Time Strings Travellers(時弦旅団)のレコーディングに木村氏を招き、ゲスト参加してもらった。ミキシングルームでそのプレイバックを聴きながら木村氏にソロアルバムを提案した時、彼が即座に賛意を示したのは、録音された自分の演奏をハイクオリティな音質でしかも大音量で聴いた事による意外な気持ち良さと驚きの発見故だったかもしれない。あの時、木村文彦は自分の演奏を言わば、初めて聴いた。そこで彼は自己の演奏を作品化する事へのイメージが湧いてきたのだ。

 

後日、あらためて制作を依頼された私には意気込みとは裏腹に何を録音するのかという初歩的な悩みもあった。何しろ木村氏の‘使用楽器’は多い。それはドラムやパーカッションは勿論、木琴からゴング、バネや板、台所用品、家電製品と多岐にわたり、そんなあらゆる物を縦横無尽に演奏するスタイルをどうまとめればいいのか、どんなセットで録音すべきなのかを考えた。とりあえず、ハンディレコーダーでプリプロを作ろうと思い、リハーサル用のスタジオで好きなように演奏してもらったのは、ある意味、間違いであった。ライブではない場所で録音マイクを向けられるという初めてのシチュエーションに気合いが入ったのか、木村氏は凄まじくハードエッジな演奏を初期衝動の暴発の如く繰り出したのである。10分程のトラックをたて続けに2時間。申し分ないパワーと即興による構成の美を見せつける快演であった。正真正銘のリアルタイムインプロバイザーである木村文彦に‘二回目’はない。「今のをもう一度」は不可能なのだ。エンジニアを入れてマルチで録る本番は次回の予定にしていた。その前段階として参考音源を記録する程度に考えていた私はこの‘最初の衝動’こそをマルチで録るべきだったと実は今も後悔している。同じ演奏を二度としない木村文彦の次回の正録音でこの日の熱情が再現できるのか。はたして結果的にそれは杞憂に終わったのであるが、やはりと言うか一回目と同じ楽器編成では新鮮味がないと感じたのであろう木村氏が使用楽器をがらっと変えて臨んだ本番の音源は前回のものと見事にダブらないものとなり、アルバム収録曲の候補が増えて、セレクトに四苦八苦する結果になる。しかも、以後、磯端伸一、向井千惠とのデュオも予定していた私は一瞬、‘二枚組?’ととんでもない考えまでが頭をよぎったのも事実であった。

 

そんな経緯を経て完成したのがこの『キリーク』である。

木村文彦のソロが7曲。磯端氏、向井氏とのデュオがそれぞれ2曲と1曲、更に山口ミチオ(シンセサイザー)と私(ベース)が1曲ずつオーバーダブを施したテイクを合わせ、全12曲を収録した。例のプリプロ用に簡易録音した音源からは3曲(track4.6.11)をセレクトした。パンク的衝動が際立つテイクだが、マスタリングによって何とか音質を向上できたと思う。

 

‘キリーク’とは千手観音を意味する梵語で木村によればそれは子年生まれの人の守護神であるという。従ってそのカタカナ読みを自らタイトルとした。確かに木村氏の演奏は両手両足をフルに使う。さらに言えば、ホイッスルを吹きながら肘や膝まで使ったりするのだからそのイメージは正に千手観音である。例えば収録音源で聴くことができるタムを連打しながらも下から金属の音が持続している場面などは木村氏が缶の入った鍋を蹴ったりシンバルを裏返して足でこねくり回したりしているからで、その様子はもはや一つの身体表現と言ってもいい。ただ、お聴き頂けければ解るように木村氏の演奏は単に手数を誇示する‘運動系’のものではない。むしろ沈黙や音の間をいかに雄弁に表現するかに主眼が置かれ、聴く者、観る者に絶えず、微音を注視させるような強弱の振幅を表現する。それは木村文彦がしばしば共演する向井千惠の影響も大きいようだ。向井氏のワークショップを通じて木村氏は‘沈黙のバトル’とも言うべき即興者同士の対峙の作法を獲得してゆく。アルバムのラストに収録した向井氏とのデュオ「new sights」はそんな二人の幽玄の調べとも言うべき緊張と弛緩の相対が展開される即興で30分に及んだ演奏を12分に編集した。

 

もう一人の共演者、磯端伸一はかつて故高柳昌行に師事していた。と聞けばノイジーな即興系ギタリストを想起するかもしれないが、ボリュームに対する独自の感覚を持っており、微音を強調するその奏法は即興ギタリストの多くが得てしてフリーキーさや激越性に打って出るケースが多いのと違い、全く、静的な場面が際立つ事で個性を発揮しているとも言えよう。今回の木村氏とのデュオでは、そんな磯端氏の静的な倍音の美しさとラウドでフリーキーな側面も遺憾なく発揮してくれた。得意とする弓弾きによる鋭角な音響が行きわたる「the middle line」はハイテンションに貫かれたナンバーで、木村自身が今回の収録曲の中で最も、気に入っているトラックだ。

 

紆余曲折を経て木村文彦のファーストアルバム『キリーク』がここに完成した。

元々、ドラマーである彼が当面の間、ソロパーカッションに取り組むというその宣言とも言える作品である。私個人の希望としてはこのアルバムを契機として、木村氏が表現の幅をさらに広げ、将来はドラムを含めたトータルな打楽器奏者として活躍する事を願ってやまない。

 

2012.4.15

宮本 隆

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