満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

Oval    『O』

2010-12-26 | 新規投稿
  

微音スタティックなオヴァルの作品はこれまでも‘買っては売る’というパターンの中で瞬間消費してきたような気がする。という事はつまらない音楽という事なのか。違う。私にとって必要な音源だからこそ、CDを買い続けてきた事は間違いない。じゃあ、なぜ、それらをことごとく売り払ってきたのか。CDラックを覗いて発見した2枚のCD「ovalprocess」(00)「ovalcommers」(01)さえ、おそらく、売られるのを偶然、間逃れ、ただ放置されていただけのようだ。ただ、私はovalの音源を単に‘不要’の烙印の元に放出してきたのではない気がする。ovalが90年代に登場した時、その極限の無機質性に反-音楽的アンビエントの最新を見、私はそれを ‘癒しのBGM’ (チープな言い方だが)として重宝していた。ノイズの混じった小さい音粒が紡ぎだす点の集合のような音楽世界。それは当時、最も愛好したオウテカ、ボーズオブカナダ等のロック的高揚感では得られない‘疲れの回復’を促す微音の心地よさであった。その必要性とはつまるところ、当時から現在まで続く私の半肉体労働的な生業による疲労時の要請という面が強かった気がする。そう、私とってovalはその音が醸し出すアート性やスノッビーな先端的快楽に寄ってきたのではなく、むしろ日常の仕事がハードでヘトヘトに疲れ果てて家に戻った時にチョイスする耳のポカリスウェットだったのだ。長時間の残業やトラブルでノックダウンした時、音楽に立ち向かうような聴き方はできない。そんな時は僅かな旋律や物語性すら疲労を更に促す事にしかならない。でも何か音は欲しい。そんな時に聴覚に触れる無機的な音のドラッグ。音楽を聴く気にもなれない程、疲れた時、最もフィットするのがovalであり、という事はその音楽は私にとっての‘労働歌’だったのかもしれない。いや、本当に。

しかし、私はovalのCDをその都度、中古屋に売ってきた。
この波形エレクトロニカの断片音楽を私は当初、匿名性の究極と見、多数のフォロワーが登場する時点で元祖としての機能が喪失し、一ジャンルの中で埋没してゆくだろうと予感していた。そうなる事で、ovalの切り開いた地平が一つの快楽様式として定着する進化的消失と、何物も突出しないという音楽の万民による表現が可能なエレクトロニクスミュージックの到来を想ったのである。つまり、ovalの代わりが数多ある状態を予感し、それは特定の音源を所有せずとも他のアーティストへの代替えを前提として聴くような態度を音楽享受の新たな形式として導くような性質のものと直感していたのだった。そしてそれこそがアンビエントの究極のコンセプトだと思っていた。そしてそれはある程度、当たったのだが、厳密に言うと、その後、ovalの代替えとなるような同質の音楽は登場しなかった。数多のラップトップミュージックが学術的方向性(渋谷慶一郎などのような)やクラブミュージクの高揚感覚に二分化され、ミニマムなセンスの中にメロディの微かな断片を奏でるというovalの構築的音響はやはり、唯一無比だったのだ。
同時に私は当時、何を思ったか、自分でもそのうちovalのような音楽をつくるだろうと思い、従って、音源をずっと所有することはしないと思っていた事を思い出す。なぜそんな事を思ったのか今となってはよく解らない。生意気にも自分でも作れると感じたのだろうか。確実な事はovalの音楽に自らも創作したいという欲求を促す力があったのだろう。しかし、誰も創り得なかったのが、ovalの音響工作物だった。私にできるわけがない。

しかし2010年という今、私はパソコンを持ち、pro toolまで組み込んで自分のバンドの音源の編集の為、その波形操作に勤しんでいる。夢ではない。このニューアルバム『O』を聴いて、その未来の電子アコースティックサウンドとでも言うべき特異なサウンドの心地よさに浸る私は、いつかこのような音楽を自分で創り、自分で楽しみたいと再び、思う。

そしてこの2枚組CDを私は売らないだろう。
今日も例によってヘトヘトに疲れて帰った私は音が欲しくなってこのアルバムをセットした。この音はやはり、必要だ。

2010.12.25

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Time Strings Travellers STILL SONGS

2010-12-09 | 新規投稿
 


1.紅玉~祝祭  ruby~cerebration 10:11
2.storyteller with new vibration 10:13
3.悠歌 partⅡ eternal songⅡ  10:13
4.moments of suspence 7:23
5.evening wind 5:08
6.discover rhytm~our march 10:54
7花神 kashin 7:03
8.紅玉 ruby 3:20

all songs written by Miyamoto Takashi except track4 written by Yamahanma Kouichi
produced by Miyamoto Takashi and Yamaguchi Michio
recorded by Ohwa Kastunori at Studio YOU Osaka Japan jun-Dec.1988
mastered and remixed by Yamaguchi Michio

TIME STRINGS TRAVEKKERS 時弦旅団
山浜光一 Yamahanma Kouichi drums
宮本 隆 Miyamoto Takashi bass. percussion.kwenggari
山口ミチオYamaguchi Michio synthesizer. organ
西浦 徹 Nishiura Touru guitar
堀川正人 Horikawa Masato tenor & soprano sax

guest players
横江邦彦 Yokoe Kunihiko vokal on track7
舟橋陽一 Funahashi Youichi alto & soprano sax on track1 & 3
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする