思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『誤解だらけの日本美術 デジタル復元が解き明かす「わびさび」』

2023-09-20 15:23:43 | 日記
『誤解だらけの日本美術 デジタル復元が解き明かす「わびさび」』
小林泰三

作者は、元々は大日本印刷にお勤めで、
今は美術作品の「デジタル復元」を専門にしている人だそうです。
そんな作者の復元事例紹介みたいな一冊。
あんまり惹かれないタイトルなのが玉に瑕ですが笑
結構おもしろい一冊です。

いろんな文献や資料を参照しながら、
フォトショのスタンプツールでぺたぺたやったり、
トーンカーブをぎゅんぎゅんしているらしい。

随分身近なツールで古典美術の修復をするんだなあ、
という不思議な共感みたいなものがあります。

文献や専門家の意見を聞きながらの修復過程も、
推理小説っぽくておもしろい。
キトラ古墳と高松塚古墳は兄弟みたいな存在なので、
互いの壁画の残存部分を参照しつつ、みたいな。

<風神雷神図屏風>の俵屋宗達が、
当時の派手好き御用達の扇子屋だったということも面白いし、
復元イメージも華やかでおもしろい。

アンニュイな寂しさで人気の興福寺阿修羅像が、
意外とパキッとした印象に復元されていく様子も新鮮。

学術的に「これが決定版!」とは言えないと思うけれど、
こういう取り組みを経て
当時のイメージを掴めるのは貴重だと思う。
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『生き残った帝国ビザンティン』 印象ゼロの千年国家!

2023-09-14 10:48:32 | 日記
『生き残った帝国ビザンティン』
井上浩一

歴史系の本を読んでいると、
遠い昔に学校で習った内容が更新されているなあ
と感じることが多いですよね。
鎌倉幕府は「いいくにつくろう」ではないし、
教科書で見た頼朝像は頼朝じゃないらいしい。
あと新羅は「しらぎ」じゃなくて「しんら」らしい。

って小学6年生に言ったら「しらぎだよ」と言われました。
あれ?そうなの…?
中公新書『日本史の論点』(2018)では
「しんら」だったんだよ…。

何が正しいか分からなくなりました。

で、ビザンツ帝国が専門と公式プロフィールに書かれている
井上浩一先生の『生き残った帝国ビザンティン』。
ビザンツじゃなくてビザンティンなのね…。

「ビザンティン」は英語由来、「ビザンツ」はドイツ語由来、
いずれにせよ、どちらも後世での呼び名であり
当時の人々の意識では「ローマ帝国(の正統な末裔)」です。
ギリシャ語のギリシャ系人種でコンスタンティノープル在住ですが。

そんなビザンティン…は書きにくいし読みにくいから
ビザンツ帝国で行こう。ビザンツ帝国の本!です!

というか、良く考えたら、ビザンツ帝国って、
ローマ帝国分裂の際に誕生したことと、
最終的にオスマントルコに滅ぼされたことしか知らない。
1000年続いた国家なのに、最初と最後の印象しかない。
印象ゼロの千年国家…。

この本は皇帝のキャラを踏まえながら、
歴史の流れを説明してくれるので
感情移入しやすく読みやすいです。
ざっと読むだけでも他で読んだ歴史知識とコネクトして楽しい。

395年、ローマ帝国の東西分裂
412年、コンスタンティノープル名物の城壁工事。
フン族(ゲルマン大移動の原因になったつよつよ民族)の侵入に備えて。

6世紀、ユスティニアヌス1世時代には、
西方から蚕の密輸に成功!
主要産業の絹織物が始まる。
って、これは別の本で読んだアレじゃないか?
(522年にキリスト教僧侶が中国から蚕を盗んだエピソード)

622年、マホメットがイスラム教を開く。
以来イスラム教系アラブ人が勢力を増し、
領土を奪われまくっていく。

10世紀、ビザンツ帝国の最盛期。
初期の神聖ローマ皇帝が「ローマ皇帝って名乗って良い?」と
お伺いに来たりするの威光がある。意外である。
その後ゆるやかに衰退。

11世紀、アレクシオス1世は死にかけの帝国をギリギリ再建。
ローマ教皇に救援を求めて十字軍のきっかけをつくってしまう。

1204年、第4次十字軍がコンスタンティノープル占拠。
お前ら何しに来たんだよ。
で、13世紀にオスマン帝国誕生、
1453年5月29日、
メフメト2世によってコンスタンティノープル陥落
コンスタンティヌス11世は混戦の中で一兵士として戦死。
切ない。

ビザンツ皇帝は、それぞれで見ていくと
優秀な人材がたくさんいる。
でも歴史の中での「ビザンツ帝国」というポジションが
もう落ち目というか、環境がハードモードすぎるというか、
皇帝ひとりの力ではどうしようもない状態じゃん…。
でも首の皮一枚ギリギリ状態で生きてるじゃん…。
というしんどい時代が400年くらい続いている。
めちゃ切ない。

それはそれとして、
ビザンツ帝国側から歴史を眺めると、
やっぱりビザンツ皇帝たちを応援したくなるものですね。
私はなかなかちょろくて優秀な読者なのかもしれない。
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『書籍修繕という仕事: 刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる』

2023-09-12 17:14:04 | 日記
『書籍修繕という仕事: 刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる』
ジェヨン
訳:牧野美加

韓国の書籍修繕家という、
レア職業さんの仕事にまつわるエッセイです。

以前『ルリユール』という
書籍修復師が主人公のほっこり系小説を読みまして。
私が知らないレア職業っていっぱいあるんだな〜。
100回転生できるなら、1回くらいは目指してみたいな〜。
という微妙にやる気なさそうだけど
興味は結構あるんだよ!的な感想を抱いた次第。

で、リアル書籍修繕家のノンフィクションエッセイ。
これは読むしかないでしょ。
転生するより早いし楽しいし現実的(文字通り)でしょ。

WEBメディアの連載エッセイだったそうで、
読みやすい分量で章ごとにわかれています。

毎回、修繕した事例(図鑑から絵本からペーパーバックから
なんと栞まで修繕してる!)を紹介しながら、
お客さんとのやりとりや修繕の考え方が綴られている。
ひとつひとつの事例に味わい深い話があり、
とてもおもしろいです。

小説よりもドラマチックだな!と思う話しや
じーんと来るエピソードもあって、
現実って凄い!と思いました。
私はあまり器用ではないので
転生しても修繕家にはなれなさそうだけど、
今世のうちに「修繕したい特別な本」に出会いたいし
「修繕した自分だけの本」を持てる人になりたい。
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『世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑』

2023-09-11 15:06:43 | 日記
『世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑』
金井真紀

著者はテレビの構成作家を経て
短文やイラストを描くお仕事をしているらしい。
人と会って話すのが得意だし好きなんだろうな〜、
という人です。

そんな著者が、いろんな職業の人から聞き齧った
エピソードやセリフを、
超短文&イラストで大量(88種)に収録した一冊。

ひとつひとつの内容は「サンプル1のエピソード」。
だから職業紹介の本ではありません。
「どういうお仕事する職種かな?」と思うくらい
説明ゼロのものもあるし、
この職業の考え方というより個人の思想では、
というエピソードもあります。

そういう本なんです。
それが良い感じの本なんです。

いやあ、いろんな仕事があって、
いろんな人生があるんだなあ〜っ
と俯瞰するのが楽しい一冊です。

私は生まれ変わったら、
テレビ番組の美術さんのお仕事をやってみたいです。
できるかどうかはわからんけど。
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『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち〈上/下〉』 もっふもふ

2023-09-08 09:57:31 | 日記
『ウォーターシップ・ダウンのウサギたち〈上/下〉』
リチャード・アダムズ
訳:神宮輝夫

イギリス生まれの少年少女向け「うさぎの冒険物語」。
(ピーターラビットは関係ありません)

1972年に発表され、
イギリスの児童文学賞(カーネギ-賞とガ-ディアン賞)を
同時受賞した作品。

うさぎの生態に則ってうさぎの世界を描いているので、
擬人化とかアレゴリー(寓意)のお話しではない。
と著者は語っています。
ピーターラビットのように服も着ません。
もふもふ。

とはいえ独自のうさぎ文化みたいなものは創造されていて、
うさぎの敵動物は「エリル」と言う、とか。
月が出る時間は「フ・インレ」
強いショックを受けて固まってしまうことを「サーン状態」
と言う、みたいな。

実家の猫もビックリして高すぎる木に勢いよく登った後に
固まっちゃって、降ろすの大変でした。
あれはサーン状態だったのか。

うさぎたちはなんだかんだでものを考えて旅に出て
冒険したり戦ったりする。
うさぎなので程よく愚かで程よく無謀で程よく素直
(なるほどキミの言う通りだ!的なイギリス紳士感ある)で、
圧倒的にもふもふしてかわいい。
にんじんあげたい。

この物語のそもそもは、著者が家族との長距離ドライブ中
娘にせがまれて語ったお話しがベースだそうです。
『不思議の国のアリス』と言い、
イギリス紳士は子どものせがまれて即興物語を
つくりがちなんだな。

もしくは『ピーターラビット』と同じく
(ビアトリクス・ポターが友人の子どもに送った
 絵手紙が始まり)
うさぎの物語は習作から始めるのが英国流なのかもしれません。

いずれにせよもふもふを想像しながら読むとほっこりして楽しい。
もふもふ。
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