思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『灯台へ』 感情の高低差で耳キーン

2022-10-13 14:53:34 | 日記
『灯台へ』
ヴァージニア・ウルフ
御輿哲也:訳

名作古典ですね。
積読になりがちな一冊。
えいやっと読んでみた。

物語の舞台はスコットランドの小島にある
ラムジー夫妻の別荘。
哲学者でそこそこの地位があるラムジー氏と、
美しく篤志家なラムジー夫人。
8人(!)の子供と、客人たちが過ごす海辺の家のお話し。

第1章はラムジー夫人を中心としたある日の夕方。
幕間のような第2章があって、
第3章はラムジー夫人没後のある日の朝。

各章で描かれるのは数時間足らずなのに、描写が濃ゆい。
メインはラムジー夫人の思考と、彼女を取り巻く人々の思考。

ラムジー夫人は夫のことを誇らしく感じたり、憎々しく思ったり、
内的感情の起伏が激しい。
他の登場人物もみんな高低差激しい。
耳キーンとなる。
そして表面だってはおくびにも出さない。
20世紀英国紳士淑女って感じです。

変な人たちだなと思う。

ラムジー夫妻は、ウルフの両親がモデルらしい。
8人もいる子供の、下から2番目の女の子キャスがウルフ。
そう考えると、娘から両親や兄弟とその暮らしが
こういうふうに見えていたんだな、というのもあって
面白い。
後半、女流画家リリーの思い出す夫人への愛惜も、
作者の想いに近いのかもしれない。

第1章では灯台に行きたい(けど行けなさそうな)幼いジェームズが、
第3章では父と嫌々灯台へと向かう。
けれど、タイトル通り、船が島に着く前に物語は終わる。

読んでいる間は、この物語が描きたいものがいまいち
わからないなと思っていたのだけれど、
読み切ってみると、妙に物悲しくて切ない気持ちになる。
不思議。
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【読書メモ】2016年8月 ④伊坂幸太郎

2022-10-11 15:29:18 | 【読書メモ】2016年
<読書メモ 2016年8月>
カッコ内は、2022年現在の補足コメントです。


『チルドレン』伊坂幸太郎
2010年12月にも読んでた(と、読了してから気づく…)。
久しぶりに読んだけど、やっぱり前回と同様の感想で、
ちょっとした人物設定とかセリフが魅力的でいい。
陣内の破天荒エピソードは、良いなと思うのと、
ちょっと作者がひねり出したなというのとがあるけど。
チルドレンのオチの、少年がまた万引きする、というのは
笑えないのでよろしくないと思うけど、
他は、おおむね良かった。
陣内と永瀬がとてもいい。
鴨居ももっと出ても良かったと思う。
優子さんもいい。
武藤くんは平凡。
まあ、一人称係として書きやすいということかも。

(初めて伊坂幸太郎を読んだ時に
 「倫理観…」と思ったんですよね…。
 でも人物造形とセリフはすごく良い!とも思ったんですよね。
 と、何度も同じ感想を抱いている。
 ぶちぶち言いながら、結構、読んでるけど)


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『天上の葦』 ごんぶと!社会派ミステリ

2022-10-07 16:20:40 | 日記
『天上の葦』太田愛

鑓水(やりみず)、相馬、修二の3人シリーズ第三作。
今回も疾走感とエンタメ感と骨太社会派ミステリパワーが炸裂する、
すごい長編でした。
いやもう、骨太というか、ごんぶとだわ。

文庫上下巻の、上巻100ページ目くらいで
もうドライブ入りまくりの怒涛の展開です。
このまま走りきれる?ガス欠しない?と
読者が不安になります笑

もちろん走り切りましたよ!
ずっとフルスロットルで展開しまくって、
最初から最後まで凄かった!
この作者、怖い。

正光じいちゃんの
「最初は小さな火が、取り返しのつかないことになる」
という危機感には共感するけれど、
その、小さな火を見極めるのってすごく難しくないかなあ。
私だったらボーッと気づかなくて、だいぶ炎上しても、
やっぱり気づかないかもしれない
(そういう人間はミステリには登場できない笑)。

息つく暇もない展開もうまいし、トリオの3人の活用もうまい。
影が薄い奴とか出そうなもんなのに、
それぞれがちゃんと個性的で、意味ある行動をしていて、
きちんとピースがハマる感じ。
脚本家出身だからかなあ、うまいよなあ。

もうね、現代の社会派ミステリといえば、
太田愛と相場英雄ではないでしょうか。
凄い人である。

主人公3人の過去も描かれたので、次回作はどうするのかな。
違う設定のものも読んでみたいなあ。
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【読書メモ】2016年8月 ③ガンダム小説

2022-10-06 17:15:45 | 【読書メモ】2016年
<読書メモ 2016年8月 ③>
カッコ内は、2022年現在の補足コメントです。


『月に繭 地には果実』福井晴敏
ガンダムターンAのノベライズ。
と聞いていたので、ガンダムをほとんど知らない
という理由で避けていた。
監督の初期プロットをベースに作者が創り上げた
小説だと聞き及び、それなら読めるかなと思って手に取った次第
(例のごとく会社文庫で発掘した)。
どうでもいいけど、「黒歴史」という言葉の語源が
この作品らしい。
すごいな富野由悠季(よしゆき)。
登場人物が全員、精神的にも実年齢的にも幼すぎて、
作者が得意とするかっこわるかっこいいオッサンが活躍しない。
残念。
もう、それだけでホント残念。
というか、こんな幼い子たちしかいないの?
この世界大丈夫?と思った。

(補足なし)
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【読書メモ】2016年8月 ② マーロウかっこいい

2022-10-05 15:13:50 | 【読書メモ】2016年
<読書メモ 2016年8月 ②>
カッコ内は、2022年現在の補足コメントです。


『リトルシスター』レイモンド・チャンドラー
村上春樹 訳。
マーロウかっこいいよマーロウ。
『ロング・グッドバイ』『さよなら、愛しい人』に続く、
フィリップ・マーロウもの村上春樹訳の第3弾
(原作としては5作目)です。

オーファメイという田舎娘(春樹は褒めてるけど、いけすかない)に
兄オリンを探してほしいと頼まれるも(頼み方も貧乏ったらしい)、
アイスピックによる連続殺人に巻き込まれるわ
ハリウッドのセックス大安売り美女に囲まれるわ
(アミーゴを連発するドロレスやら、ツンと済ましたメイヴィスやら)で、
いろいろと振り回されたり勝手に首つっこんだりして
一人ボケ一人ツッコミまで披露するマーロウ。
今回もかっこいい。

マーロウものは読んでいてウットリするかっこよさで
読書の楽しさ満点なんだけど、
依頼内容と人名をすぐ忘れてしまいがちなので覚書。
ステインは殺されたマフィア、
ウィーピーがスティーブグレイブ、
名前が覚えにくいんだよなあ…。


(清水俊二の訳『かわいい女』の、村上版ですね。
 原作の出版順では、『大いなる眠り』『さらば愛しき女よ』
 『高い窓』『湖中の女』『かわいい女』『長いお別れ』『プレイバック』
 (すべて清水版タイトル)の順番ですが
 村上春樹の翻訳では『ロング・グッドバイ』(2007)
 『さよなら、愛しい人』(2009)で、『リトルシスター』(2010)が
 3作目。
 ついでに言うと『大いなる眠り』(2012)『高い窓』(2014)
 『水底の女』(2017)『プレイバック』(2018)と続く。
 俺が好きな作品順で翻訳する!という強い意思が感じられます笑)
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