思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『時をきざむ潮』作者が一番の謎である

2020-08-27 16:47:13 | 日記
藤本泉(せん)の『時をきざむ潮』。

梶龍雄の戦史文学『透明な季節』とともに
第23回江戸川乱歩賞を受賞した作品。

舞台となる「白蟹村」は、東北の海沿いにある小村。
よそ者や国家体制を拒否するザ・閉塞的な村。
警官の不審な失踪事件なども起こしている。

藤本泉は、こういった「エゾ共和国」がテーマとなる作品を
全5部作で書いている作家。

この回の乱歩賞は、選考委員から「推理小説」として
厳しい評価が多かったんですが、
選考委員の陳舜臣は、「エゾ共和国」を
「作者の得意とするテーマ」と表現して認めた上で
「これからもあまり『推理』ということを意識せずに書いてほしい」
と書いています。

ある種、乱歩賞の評価軸を放り投げましたね笑

作者の前書きでも書かれていますが、
主人公は「運の悪いまじめ男」で
愚直な捜査を続ける田舎の刑事。
調べるのは、不審死を遂げた都会のエリート青年の事件。
立ちはだかる不気味な「エゾ共和国」。
なんというか、主人公かわいそう。

藤本泉は、ミステリアスな作家というか、
特異なテーマ性に加えて
エッジーなエピソードを多数持ち、
さらに最終的に海外で謎の失踪をしている人で。

私が読んだ『江戸川乱歩賞全集』の
巻末エッセイは、藤本泉ファンの篠田節子が書いており、
なかなかに面白い内容です。

曰く、
90年代に藤本泉に興味を持ち、
年配の作家や編集者に彼女のことを聞いてまわった。
「ある地域を舞台にする小説を書くときには、その場所に数か月滞在する」
「取材で村に入ったら最後、郵便は局留で、家族にさえ居所を教えない」
「東欧に単身で入ったまま、行方不明」
等々の奇矯なエピソードを収集し、親和性を強めていったそうな。
篠田作品『聖域』のヒロイン“泉”は藤本に敬意を表して命名。

乱歩賞受賞作は文春ミステリのベストテンにも入るものらしいが、
これは入っていない(梶龍雄は5位に入りました)が、
「大いに名誉なことである」と言っている。
もう、推理小説じゃないけど藤本泉だからオールオッケー
文句あんの?というスタンス。

というか同時収録されている梶龍雄にはほとんど触れず、
ほぼほぼ藤本トークでした笑

『江戸川乱歩賞全集11』の初版は2001年。
1977年当時の選評も作品と一緒に収録されていますが、
その後ろにある解説(香山二三郎)と巻末エッセイ(篠田節子)は
2001年のものかな?

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『海松』海沿いの小さな家が... | トップ | 【読書メモ】2013年10月 ① »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事