思惟石

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『透明な季節』は戦史文学として再版すると良いと思う

2020-08-12 11:40:52 | 日記
意外でもないけど、現代でまったく知られていない、
ついでに図書館の蔵書も心もとない(うちの近所だけか?)
戦後の本格ミステリ作家・梶龍雄
(みんな、もっと注目して!)
デビュー作の『透明な季節』は
1944年から45年にかけての東京の空気感がよくわかる物語です。

主人公の高志は当時15歳の旧制中学3年生。
主題は1944年の晩冬に起きた殺人事件です。
(すでに戦争末期の空気感があって、
 読み始めたときは45年の晩冬かと思いました。
 その割には、のんきな部分もあるなあと感じられたり、
 前半の風物描写だけでも色々と考えさせられます)

作者は、主人公と同じく1928年生まれ。
戦争末期の街の雰囲気がすごくリアルに描かれています。
15歳の独特な危機感の無さとか、一方での貧しさの実感とか
ものすごく興味深い。

ちなみにこれが第23回江戸川乱歩賞(1977)を受賞して、
推理作家デビュー。
選評では菊村到が
「推理小説の形式をとった私小説であり、青春小説である」
と書いていますが、まったくもって同感です。

戦争末期(特に44年の初春から45年にかけて)の10代の暮らし方、
旧制中学の内情(末期は工場に勤労)、徐々に逼迫する世の中の空気。

44年はまだ「お国のために!」的な勇ましいムードが大きかったのが、
戦局が絶望的になるにつれて、逆に、情緒的な歌や映画が増えた話とか。
学生の「教練」に現役軍人を派遣できない人材不足感や、
空襲が爆弾から焼夷弾に変わってどんどんひどくなる様子。
井之頭公園の松が松根油をとるために根こそぎ掘り返された風景。
戦史文学としても、貴重な作品なんじゃないかと思います。

とはいえ、梶龍雄作品のお約束で、こちらも絶版です。
近所の図書館にも『江戸川乱歩賞全集』しか存在してません。
(藤本泉とセットで収録!)
ちゃんと再版しないもんですかね。

あ。本題である「推理小説」部分。
選評では「ミステリ」部分に対して厳しい評価も多いですが
そんなに酷いとは思わないですよ。
再版しないもんですかね〜。
コメント
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