思惟石

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『ナイン・テイラーズ』心の中の厨二男子に響く

2020-08-20 12:05:01 | 日記
ドロシー・L・セイヤーズ『ナインテイラーズ』。
イギリスの貴族探偵ピーター・ウィムジイ卿が活躍する
1920〜30年代の推理小説シリーズ。

の、長編9作目ですが、単品で読んでも大丈夫です。

1920年代の本格ミステリ黄金期における
名作推理小説のひとつと言われています
(江戸川乱歩も黄金期ベスト10に選出)。

ですが、それだけじゃない!!!

万人の心の中にいる中二男子を刺激する
ワードが終始炸裂してるんですよ!!!
よくわかんないけどラスボス倒せそう!!!

まあ、万人は言い過ぎですかね。
少なくとも、私の中の中二男子は「転座鳴鐘術」にやられた笑
なんだよその飛天御剣流みたいなワーディング!懐かしいな!!

物語の舞台となる田舎に不釣り合いな立派な教会、
その鐘楼に吊るされた8つの鐘には
それぞれに名前と来歴がある。
ガウデ、サベオス、ジョン、ジェリコ、ジュビリー、ディミティ、
バティ・トーマス、テイラー・ポール。
ちなみに鐘は
「船や仔猫同様、名前の性別に関わりなく女と見なされる」
そうで、作中でも鐘のことを「あの娘」と表現しますし、
登場人物一覧にも名前を載せるこだわりよう。
なんだよそのスタンドみたいな扱い!楽しいな!

鳴鐘術周りの表現もいいんですよ!
「古式七鐘総鳴曲」「ステッドマン七鐘」「ケント高音跳ね八鐘短打」
「九先駆目で女王転座」「高音鐘(トレブル)」「舌撞き」「平行五度」
…少年漫画の必殺技っぽい!!

表題の「九告鐘(ナイン・テイラーズ)」は死者を送る鐘のことで、
男性は9回、女性は6回鳴らすものだそうです。
師匠が死に際に授ける必殺技っぽい笑。

転座鳴鐘術はイングランド独特の文化らしく。
美しいメロディを奏でるというよりも、
数学的な計算と器械的に完璧な動きが重要とのこと。
少年漫画はさておき、実際に見て聴いてみたいな。
これを読むまで、教会の鐘ってひとつしかないイメージでした。
除夜の鐘みたいな。

そんな怒涛の必殺技に加えて、全編通じて描かれているのが、
田舎であるフェン地方の湿っぽい気候と、
荒ぶるウェイル川と共存する暮らしの様子です。
(最終的に3つの田舎村が水浸しになる。
こういう風土なの?時代なの?大変だな…!!)

水回りのそこそこ文量のある描写、
本筋にとってめちゃくちゃ重要かというとそうでもないんですが、
イギリスの沼沢地方の風土と時代性という意味では
勉強になって意外とおもしろいです。

ピーター卿と従僕バンターとの会話は
バーティーとジーヴスを彷彿とさせる軽妙さで、これも良い感じ。

クリスティと同世代で割りを食っている感のあるセイヤーズですが、
『ナイン・テイラーズ』は
中二ワードと田舎暮らしとピーター卿のキャラでとても楽しかった!
個人的な楽しみ方だが笑

1934年の作品。
邦訳は1998年、浅羽莢子(創元推理文庫)。
ちょっと時代を感じる表現もあるけど、
転座鳴鐘術を訳し切っただけでも凄いと思います。
コメント
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