Sightsong

自縄自縛日記

松本泰子+庄﨑隆志+齋藤徹@横濱エアジン(『Sluggish Waltz - スロッギーのワルツ』DVD発売記念ライヴ)

2019-04-30 08:31:22 | アヴァンギャルド・ジャズ

横濱エアジン(2019/4/29)。

Taiko Matsumoto 松本泰子 (vo)
Takashi Shozaki 庄﨑隆志 (dance)
Tetsu Saitoh 齋藤徹 (b)

さまざまな詩人による詩をもとに、齋藤徹さんが曲を付けてコントラバスを弾き、聾のダンサー・庄﨑隆志さんが踊り、松本泰子さんが歌う。横濱エアジンには多くの客が集まっており、そのためもあって舞台は狭い。ここで庄﨑さんは踊りうるのかと思ったが、広い空間を必要とするものではなかった。その動きは空間以上に大きな脳内の拡がりをもたらすものだった。

渡辺洋「ふりかえるまなざし」。松本さんが繰り返す「ねばりづよく」に呼応して手をひらひらと伸ばす庄﨑さん。均衡を求めてなのか、均衡を異化するものなのか、いきなりこちらのバランス感覚が揺らぐ。

三角みづ紀「患う」。鏡が顔から離れないのか、ことが鏡であるのか、その動きとシンクロするように視線と言葉との交感がある。松本さんによる「わたしは患う」が層のように重なってゆき、一方の庄﨑さんは息遣いあらく手を伸ばし崩れ落ちた。

薦田愛「ひが、そして、はぐ。」。ご本人が朗読した。テツさんや松本さんは「通勤ブルース」と呼んでいるのだと笑った。混んだ電車、庄﨑さんは身体の自然を保てないかのように色違いのコートを左右それぞれに着ている。その、ばらばらになってしまいそうな状況と、どうしようもなく近づいてしまった状況。「ひしと抱く」と呼応して庄﨑さんもテツさんも頭をかきむしった。

寶玉義彦「遠いあなたに」。寶玉さんのパートナーMiyaさんがフルートを吹く。ここではテツさんが「生きることは!」と短く叫び、松本さんが歌う。すべてとの距離を縮める庄﨑さん、溶剤のように入るフルート。テツさんのコントラバスの軋みは、距離に対するもの、生死に関するもののようだ。

木村裕「ディオニューソス」。森の中で、沼の上で、周囲とどのように溶けあうか、「蕩け」あうか。庄﨑さんの踊りは何かへの変化(へんげ)のようにみえる。木村さんは朗読し、場所が塞がっていたピアノの下に潜って鍵盤を叩いた。自分がなにものであるのかわからない不思議さとは無関係に音楽が響いた。全員が「ほら」、「ほら」、と囁いた。

市川洋子「はじまりの時」。休憩時間に市川さんに聞いたら、人生初の人前での朗読だという。はじまりの時が、鳥、風、野の匂いとともに立ち上がり、庄﨑さんが白い花を手に動き、テツさんのコントラバスが応じる。その世界に居ることが必然のような庄﨑さん。全員が両手をあげて上を向いた。(くいしんぼの市川さん、おいしい中華料理店にまた行ったかな。)

寶玉義彦「青嵐の家」。寶玉さんが朗読する。デモで歩く、その歩みを庄﨑さんは指で表現する。右手で歩く者を左手でとらえたりもする。その連続的な状況を異化し立ち上がらせようとするコントラバス。

薦田愛「てぃきら、うぃきら、ふぃきら、ゆきら、りきら、ら」。濁音がない詩なのだという。「波間から現れるいのち。」の箇所では、濡れることが生命なのだと感じさせられた。

野村喜和夫「防柵11(アヒダヘダツ)」。「i(鳥が鳥を超えてゆくさえずり)」では庄﨑さんが白い紙で手と顔とを世界と分かち、言葉がその上に重なる。それをコントラバスが揺り動かす(アヒダを?紙を?)。やがて剥き出しになる顔と手、それとは無関係に進む音楽。「私とはだれでしたか」があらためて目に飛び込んでくる。「ii(ルリリ)」では琉球音階となり、テツさんは強く弦を弾き笑う。悦びと、「ハー」という息遣いと、ぎくしゃくした動きとが、生命というわけのわからないものをあらわしているようだ。

三角みづ紀「Pilgrimage」。すべてを振り返るように(このステージだけではなく)、「この身体で」「身体だけで」という言葉で終わった。

やさしくも残酷にも脳を震わせる松本さんの歌、生命の共振や狂いを取り込んだようなテツさんのコントラバス、その場の生命の揺らぎをともかくも表出させる庄﨑さんの動き、そして全員の交感。形になるものとならないものとを含めて、もやっとした大きな示唆を与えてくれるようだった。

DVD『Sluggish Waltz - スロッギーのワルツ』、そしてヴィム・ヴェンダース『ピナ』を観て振り返ることが楽しみである。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4、7Artisans 12mmF2.8

●齋藤徹
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齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
齋藤徹による「bass ensemble "弦" gamma/ut」(2011年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)
齋藤徹『Contrabass Solo at ORT』(2010年)
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)
ミシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
齋藤徹+今井和雄+ミシェル・ドネダ『Orbit 1』(2006年)
ローレン・ニュートン+齋藤徹+沢井一恵『Full Moon Over Tokyo』(2005年)
明田川荘之+齋藤徹『LIFE TIME』(2005年)
ミシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹+今井和雄+沢井一恵『Une Chance Pour L'Ombre』(2003年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999、2000年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
齋藤徹+沢井一恵『八重山游行』(1996年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、池澤夏樹『眠る女』、齋藤徹『パナリ』(1996年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)
ジョゼフ・ジャーマン 

●三角みづ紀
詩×音楽(JAZZ ART せんがわ2018)(JazzTokyo)(2018年)

●野村喜和夫
野村喜和夫+北川健次『渦巻カフェあるいは地獄の一時間』(2013年)


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