齋藤徹(ベース)と今井和雄(ギター)による1時間にわたるインプロヴィゼーションの記録、『ORBIT ZERO』(Travessia、2009年)。
大きな音楽家と研ぎ澄まされた音楽家。彼らの共演(饗宴?)を目の当たりにしたことはないが、このドキュメントを1時間体感していると、おそらくそれは音と一体化するような体験ではないかと思える。聴いていると、音風景というのか、さまざまなイメージが唐突に去来する。鯨の声。床を叩きつけるようなダンス。巨人の足音。地鳴り。口琴のような口蓋の振動。心臓の鼓動。そして終末が見えてきてからの、音を慈しむような時間。
齋藤徹のベースは、大きなきしみ、弦の音だけでない幅広いうなりが印象的であるように思う。聴いている耳を通じて、共振が鼓膜から全身に拡がっていく。しかしまた、テツさんのブログ(>> リンク)に面白いことが書かれていた。フランスでバール・フィリップスから借りたベースを使うと、何を弾こうとバール・フィリップスの音になる、とのことだ。
思わず、バール・フィリップスと今井和雄のデュオ『プレイエム・アズ・ゼイ・フォール』(eyewill、1999年)と聴き比べてしまうが、確かに、ここからは独特の芳香がむんむん漂うバール・フィリップスの音が出てくる。
●参照
○今井和雄、2009年5月、入谷
○齋藤徹、2009年5月、東中野
○アクセル・ドゥナー + 今井和雄 + 井野信義 + 田中徳崇 『rostbeständige Zeit』
○リー・コニッツ+今井和雄『無伴奏ライヴ・イン・ヨコハマ』、バール・フィリップス+今井和雄『プレイエム・アズ・ゼイ・フォール』
○ユーラシアン・エコーズ、金石出
○齋藤徹『パナリ』
○往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』
○ミッシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm
○ジョゼフ・ジャーマン『ポエム・ソング』
○歌舞伎町ナルシスでのバール・フィリップス
CDを取り上げてくださってありがとうございました。私のインプロは、音楽や歌が生まれる直前の状態を願って演奏しています。それは多分、お書きくださったことと重なるかと思います。嬉しく読みました。
ブパタルにて、徹
ドイツからありがとうございます。こんな長期間、大きなコントラバスを抱えて大変だと想像します。ウディ・アレンの映画だったか、ベーシスト(グレッグ・コーエンだったような)に対して、少年時代にこんな大変な思いをすることを知っていたなら、クラリネットかフルートを選んでいただろうね、といったようなナレーションをかぶせていました。
> 音楽や歌が生まれる直前の状態を願って
願う、というのが嬉しいです。