Sightsong

自縄自縛日記

齋藤徹『TRAVESSIA』

2016-12-27 22:35:53 | アヴァンギャルド・ジャズ

齋藤徹『TRAVESSIA』(Travessia、2016年)を聴く。

Tetsu Saitoh 齋藤徹 (b)

2016年7月8日、齋藤徹さんの還暦を記念して、コントラバスソロリサイタルが開かれた(齋藤徹の世界・還暦記念コントラバスリサイタル@永福町ソノリウム)。本盤はそのときの記録であり、撥ねる音、擦れる音、軋む音が、このホールにおける共鳴とともに閉じ込められている。

すぐに聴きたかったのだが、CDが完成してすぐにわたしが入院することになってしまい、イヤフォンではなくスピーカーでしっかり鳴らそうと思い、敢えて病室には持ち込まなかった。明確な理由ではないのだが、コントラバスの筐体の中とホールの中で響いた音であれば、耳の中でのみ響かせるにとどめないほうがよいと思った。

韓国シャーマン音楽、タンゴ、ショーロ、バッハ、ミンガス。即興。バール・フィリップス。ピアソラ。テオ・アンゲロプロス。テツさんが遭遇し、追及してきたものの断面がここにある。ただし、「エッセンス」や「ベスト集成」などというものではなく、あくまでそのときの「一断面」に違いない。何度聴いても音楽が再現としてではなくその場で創出される。

バッハの無伴奏チェロ組曲第六番の中に、テツさんは、韓国シャーマン音楽との重なりを見出したのだという。リサイタルに先立つ、3月25日の横濱エアジンにおける演奏でのことである。ところが、この日、テツさんは演奏の途中で突然「破綻した!」と叫び中断し、即興演奏に移行した。それが具体的に何だったのかわからない(他の人たちにもわからなかったと思う)。本盤には、その中断後の演奏が収められている。

ライナーノーツに、テツさんご自身が次のように書いている。すべてを過程として提示し、この先も過程が積み重ねられていく。それを意思として残してくれたわけであり、嬉しいことだった。

「この出来事にこそ、私の過去・現在・未来における最も大事なものがあるはずなのに、この部分は初めから不採用と決めていて、そんなことは解説にも触れないようにしようとしていたのです。歴史からの抹殺・ねつ造ですね。都合の良いように、良いところだけを選択しよう、という魂胆だったのです。」

帯の文章を書かせていただきました。

●齋藤徹
広瀬淳二+今井和雄+齋藤徹+ジャック・ディミエール@Ftarri(2016年)
齋藤徹の世界・還暦記念コントラバスリサイタル@永福町ソノリウム(2016年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
齋藤徹・バッハ無伴奏チェロ組曲@横濱エアジン(2016年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年) 
齋藤徹+類家心平@sound cafe dzumi(2015年)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)
ミッシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
齋藤徹による「bass ensemble "弦" gamma/ut」(2011年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)
齋藤徹『Contrabass Solo at ORT』(2010年)
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)
ミッシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999、2000年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ+チョン・チュルギ+坪井紀子+ザイ・クーニン『ペイガン・ヒム』(1999年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、池澤夏樹『眠る女』、齋藤徹『パナリ』(1996年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)
ジョゼフ・ジャーマン


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
替わり目 (齋藤徹)
2016-12-28 06:36:21
ありがとうございます。
私の還暦は、現在も進行中の人生最大の替わり目です。こうやって病を得て気がつく事も膨大です。意識、音楽、考え方全てを大転換する時期と心得ています。そんな時期にソロを録音しておいて本当に良かった。音は、いつも予見に満ちています。この中に今後の私の大きなヒントがあるはずです。それと同時に、聴いてくださった方々の感想、批評も是非聞きたいです。どうぞよろしくお願いします。
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替わり目、断面 (齊藤)
2016-12-28 07:46:42
今年はこの「替わり目」のソロリサイタル、その前のエアジンにおけるガット弦によるバッハと重要な断面に立ち会うことができて幸運でした。CDはさまざまな聴き方ができる作品だろうと思っています。
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録音 (齋藤徹)
2016-12-28 09:08:45
ガット弦の録音も、都内有数の響きの良いホールを得てうまく行っているのも嬉しいです。今聴き直すとヒヤヒヤする箇所がいくつもありますが、これがライブ。
多くの人に聴いていただきたく思います。(ただいま無収入につき、売れると実際嬉しい)

ジャケット絵画、中のアートは小林裕児さん。ジャケット以外はこのCDのために描いてくださいました。

私としては初めての豪華紙ジャケット六面です。
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Re:録音 (齊藤)
2016-12-28 14:59:58
今年はキッドアイラックとソノリウム、響きの素晴らしいホールで演奏と録音をなさったわけですね。立ち会うことができて幸運なことでした。片方がなくなってしまうのは残念ですが・・・。
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