何をかなしんでか連休の谷間にも仕事、早めにぬけて、久しぶりに西荻窪のアケタの店に足を運んだ。
齋藤徹さんの新しいグループ、「bass ensemble "弦" gamma/ut」のライヴである。何と5人のベース・アンサンブル。狭いライヴハウスに5本のコントラバスが置かれているだけで壮観である。
最初の曲は韓国リズムによる「Stone Out」。タイトルは金石出の名前から取られている。ついこの間、2枚まとめて金石出のアルバムを聴いて感嘆していたばかり、韓国リズムだけでなく体内リズムも西荻に呼ばれていた。演奏のリズムは次第に収斂していく。2曲目は「Tango Eclipse」、タンゴのビートを弾く者が交代していき、アルコを弾く音は色っぽい。そして一転して繊細な和音を形成する。その次は皆がベースを横に倒し、何をするのかと思っていると、外から救急車の音。演奏はそのサイレン音を展開していく。
休憩を挟んでの1曲目は何だろう、懐かしいアルコの旋律が薄紙のように重なっていく。テツさんが爪弾きはじめ、風のように全員に波及して、さらにガラスの響きを思わせるやさしい音である。2曲目は「浸水の森」、暗い沼の気分にさせてくれる哀しいメロディだ。ベースの胴体を叩き、全員で鈴を賑々しくかき鳴らしてもなお哀しい。激しいアクションとともに、弦に触りそうで微妙にしか触らない演奏はアントニオーニ『愛のめぐりあい』的。
最後は「for ZAI~オンバク・ヒタム桜鯛」、テツさん本人曰く、「アジアっぽいリズムで、インドネシアだとか琉球だとか出てくる、最初はバリ島のカエルの合唱から」。洗濯板のような棒を使ってのカエルの声、笛を吹きながらのアルコ、棒でばちばちと弦を叩きながらの津軽三味線や奄美の三線を思わせる民謡旋律、琉球コードでは板を弦にこすりつけて指笛のような音色を出す。そして、わらべうたのようなメロディを奏で、ひとりひとりが(巧いとは言えない)唄を口ずさむ。ここに至って、うたは何かに収斂し、黒潮化した。
やはりテツさんの音楽は人間の大きな音楽。聴いてよかった。
あまりにも腹が減って、西荻駅前の「ひごもんず」で角煮ラーメンを食べて帰った。
●参照
○齋藤徹、2009年5月、東中野
○齋藤徹「オンバク・ヒタム」(黒潮)
○久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、イザイホーを利用した池澤夏樹『眠る女』、八重山で演奏された齋藤徹『パナリ』
○齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』
○往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』
○ミッシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm
○ユーラシアン・エコーズ、金石出
○『人はなぜ歌い、人はなぜ奏でるのか』 金石出に出会う旅
○金石出『East Wind』、『Final Say』