某年金生活者のぼやき

まだまだお迎えが来そうに無い

物は申してみよ

2010-05-05 13:17:53 | ぼやき
 私の両親は会津の奥の村の出身なので、小学生の頃はよく会津の話を読んだり聞いたりした。白虎隊とか野口英世とか。
 父の育った家は戦後しばらくまで昔のままの茅葺だった。広くて頑丈な家で、部屋をしきる戸は襖ではなく杉戸だったが、みな薄汚れていて、きれいにしてある部屋の雰囲気にそぐわなかった。なんでもっときれいにしないの、と聞いたことがある。答えが凄かった。「戊申戦争のとき、薩長の芋侍がきれいな家財道具までみな略奪してゆくので、囲炉裏の煤をぬって汚くしたんだ。杉戸は漆塗りできれいだったから。後で洗ったけれどもうおちなかった」と。刀も埋めて、掘りだした時は錆びていたという。名もない農民の家にも百年前の傷跡がまだ残っている、と強く心に刻まれた。
 会津の男は寡黙が美徳で、私が飲んでおしゃべりになると「会津の男がそんなにしゃべるもんでねえ」と叱られる。そのくせ「物は申してみよ」という。「申さねば何事もはじまんね」と。「恐れながら申し上げます」と上司に意見具申をするような雰囲気がある。普段は黙っていて、肝心な時には「申す」。これが会津の男の美学だというのだろう。カッコいい! 
コメント
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