Our World Time

テレビ番組のなかの『時間』と『礼節』  その限りなき難しさ

2007年10月07日 | Weblog



▼10月7日・日曜の朝、フジテレビ「報道2001」の後半に生出演した。
 高村外相と、韓国の与野党の議員ふたりを国際中継でつないで議論し、そこに、ぼくも加わる形だった。

 時間がほとんどなくなった頃に、韓国の野党ハンナラ党の議員が「拉致問題にこだわるなら日本は孤立する」と発言した。
 あっ、これはいけない、と発言しようとしたが、その部分では、ぼくの発言時間はなかった。

 黒岩キャスターが、次の部分、すなわちテロ特措法がテーマになる部分の時間を確保しようと苦労していることが、よーく伝わってきていたし、CM入りを押しのけて、無理に発言することが、どうしてもできなかった。

 CMのあいだに、「拉致にこだわって日本が孤立するというのは違うと、できれば、言いたいんです。CMが明けて、次のテーマに入るときの冒頭か、あるいは、それが終わってから発言できませんか」と黒岩キャスターに聞いてみたが、黒岩さんは「申し訳ない。もう違う話題ですから」という答えだった。

 番組をコントロールするメイン・キャスターとして、これは、まさしくやむを得ないと思う。
 問題は、ぼくが、時間がないなら、ないで、韓国の議員の発言の途中に被せるように言うべきだったか、そうではないかに、ある。


▼テレビ番組に関わるとき、いつも「時間がないなかで、どう、視聴者に伝えるべきを伝えるか」という課題と、「ほかの出演者に対する礼節を、どう確保するか」という課題がある。

 今回の場面では、キャスターの様子から「このコーナーでは、諸事情によって、もう青山さんに振る時間はなくなってしまった」という感じはしっかり受け止めていたから、韓国の議員への礼節を犠牲にしてでも、「いや、それは違う」と被せて言うべきだったのではないか、問題が、拉致被害者のかたがたに関わることだったのだから、ということを今、考え込んでいる。

 正直、この番組が、秩序ある報道番組ではなく、たとえば「怒鳴りあいはお互いさま」が暗黙の了解事項のTVタックルだったら、間違いなく被せて発言していた。
 それから、相手が国際中継で繋いだ外国の議員でなく、日本の国会議員であれば、被せていただろう。
 外国の議員に対して、礼節をあくまでも重んじるのは、国民のひとりとして日本国の名誉を守ることに直結している。簡単には、礼節の規(のり)を、超えられない。


▼CMのあいだに、ぼくが「発言できませんか」と黒岩キャスターに打診しているとき、高村外相が「わたしがちゃんと、包括的解決こそが大事だと発言したから、いいんじゃないか」という趣旨を、ざっくばらんに言ってくれた。

 それは、その通りだと思う。
 高村さんは、表向きは非常に慎重な物の言い方をしながら、その実、けっこう強硬なことも言う。
 今朝の報道2001でも、どちらかと言えば、そうだったと思う。

 番組自体、あくまでも中心は、『日本の現職の外相と、韓国の与野党の有力議員との直接的な議論』にあったと思うから、高村さんの発言で良しとする考え方もあるだろう。

 ただ、番組の視聴者にとっては、そして何より拉致被害者や、拉致被害者の家族のかたがたにとって、やはり「拉致にこだわると日本は孤立する」という韓国の国会議員に対する明確な反論は、必要だったと思う。
 また、現職の外相にそのようなストレートな物言いを期待するのは、国際社会の外交の常識と、やや違う。

 だから、やはり、ぼくに「それは違う」と被せて発言する、いわば義務はあったと思う。
 これを書きながら、考えていて、そう思った。

 テレビの生放送は、時間がなくなれば切れてしまうのだから、時間を無視することはやっぱりできない。
 しかし礼節については、大目標のために、犠牲にすべき時はあるようだ。
 それを、ぼくはあらためて謙虚に学ばねばいけないと思う。

 ちょっと待ってくれ、それは嘘だと、叫べなかったのは、無念です。
 拉致被害者のかたがた、家族会のかたがた、視聴者のみなさん、こころから申し訳ない。

 礼節こそ、人間が人間として生きるすべてだと、幼いころから、父母に教わり教わりして育った。
 それをテレビの世界では曲げねばならないことも、また、ぼくにとっては無念だけど、みずからの意志でテレビに、ほんの少しだけではあっても関わっている以上は、曲げねばならない場面もある。
 それを今朝、学びました。


▼それから、「拉致にこだわると日本は孤立する」と強調したのが、韓国の与党議員よりも、むしろ野党ハンナラ党の議員だったことも、印象的だった。

 際限のない太陽政策をとっている与党のなかに、むしろ冷静な意見があり、太陽政策を(一定の範囲内ではあっても、それなりに)批判しているはずの野党のなかに、自国の拉致被害者をも忘れたかのような極論がある。

 12月の大統領選挙では、今のところはハンナラ党がやや優勢かと、いわれている。
 もしもハンナラ党が勝利した場合、新大統領が朴槿恵(パククネ)さんならば、親北路線の修正はある程度は、期待できた。しかし、朴さんはすでに党内の大統領候補選びに敗れた
 大統領候補となった李明博(イ・ミョンバク)さんは、ほんとうは非常に深い部分で親北であり、北と利害関係もあるという情報はある。
 それが実感されるような、あるいはその情報を立証するような、ハンナラ党議員の発言だった。(報道2001に出演した、この議員は、李明博さんの有力ブレーンとして知られている)

 それも、あらためて学ぶことができた。


▼スタジオですれ違った三宅久之さんが、ぼくの右足のギブスを見ながら、「おお、青山さん。あなたの重体説をハマコーさんが言ってたよ」とおっしゃった。

 はは。

 ぼくの骨折がテロによるものだという説も、案外に広く、流れていたりするけれど、この地味ブログに来てくれる人ならご存じの通り、テロなどではなく、ただぼくが勝手に転んだだけ、ぼくが悪いだけの話です。

 いろんなひとに、迷惑や心配をかけて、申し訳なく思っています。
 怪我をしてから、あすの月曜で2週間、松葉杖と車いすで、北海道は帯広から、九州は阿蘇・熊本まで講演に回りつつ、五体満足なときには学べなかったことを、たくさん学びました。

 それはまた、「その後の松葉マン 2」として書き込みます。
 ぼく自身にとっても、おそらくは二度とない(二度あっては困る)、貴重な体験の日々ですから。


▼そして、あらためて、今朝の番組のこと。

 同じ拉致被害者を、日本よりもたくさん抱えたままの隣国がこうであることを学び、そうしたなかで、最後のひとりまで、わたしたちの同胞(はらから)を取り戻すのは、おのれなりの原則、たとえば礼節にしても、かなぐり捨てねばならない闘いであることを、あのCMに入ってしまった一瞬から、学びました。

 拉致被害者と、被害者の家族のかたがたと、視聴者にもう一度、ぼくの役割を果たせなかったことにお詫びをし、これからのさらなる努力を、ぼくの立場や考えに賛成のひとだけはなく反対のひとに対しても、誓います。