前回(→こちら)の続き。
マジックマッシュルームのバッドトリップと、日頃のストレスが重なって、心の病を発症してしまったロックミュージシャンの大槻ケンヂさん。
「自分は大病を患っていてもうすぐ死ぬのだ」
という脅迫的妄想に襲われていたオーケンは心療内科にせっせと通うようになるのだが、そのときの先生とのやりとりが、こんな感じ。
「先生、僕はきっとエボラ出血熱です!」
「大槻さん、それだったらすでに死んでますよ」
コントやん!
いや、本人は大マジメで死の恐怖をうったえるのだが、端から見ると、これがなかなかズッコケなのである。
そらそうだ。心はともかく体は健康体なうえ、バリバリの売れっ子ミュージシャンが、突然「不治の病」宣言したら、「またまた」と笑われることだろう。
オーケンほどではないけど、私も心身の調子をくずしたときに似たような経験をしたから、氏の苦悩は少しはわかるつもりだ。
こっちは死ぬ思いで相談してるのに、目に見えるケガや数値に出る病気じゃないから、むこうは全然ピンとこない。
なもんで、理解されないどころか、下手すると怒られたり、イジられたりするんスよねえ。
実際、治ったあと振り返ると、自分でも「あー、あのときはおかしかったなあ」と苦笑いするくらいだから、それをわかれというのも難しいんですけどね。
でも、そのときは必死も必死。まこと「悲劇と喜劇は裏表」なのだ。
仕事に没頭したり体を鍛えてみたりと、治療のためさまざまに試み、せっせと薬を飲み、心の平安を保とうとするオーケン。
そんなる日、医者の先生が、こんなことをおっしゃった。
「大槻さん、テレビ見ましたよ」
続けて言うには、
「大槻さん、UFOはいけません!」
先生曰く、
「心が弱った人がオカルト的なものに興味を持つと、激しく傾倒してしまう傾向がある」
たしかに、当時のというか、オーケンはUFOやらオカルトやら、そういった『月刊ムー』的な物件は大好物で、よくエッセイのネタにもしている。
といっても、本当の意味でというか、宗教的に「ハマッて」いたわけではなく、どちらかといえば
「グレイって、あれヒル夫妻が『あれは実は作り話で、著作権がうんぬん』とか言い出したら通るんですかね」
とかいった「と学会」的ノリのマニアなのだが、先生は
「ダメです。今後一切、オカルトとUFOを禁じます!」
これはつらい。いうなれば、アイドルファンに
「握手会やライブに出入り禁止。曲を聞いたり、テレビやネットで姿を観るのもダメ」
といってるようなもんだ。
お笑いファンに劇場出禁とか、ボディービルダーにジム通い禁止とか、そんなの、耐えられないよー。
とはいえ、治療のためには言うことをきかなければいけないわけで、オーケンはストイックな「禁欲生活」(?)に突入。一切のオカルトを絶つことに。
そのせいではないだろうけど、数年たって、かなり心身が楽になってきた。
心の平安を、一部とはいえ取り戻したオーケンは、そこでこう思うのだった。
「あー、変な本読みてーなー」
そこで思い切って切り出してみることには、
「先生、オカルトとUFOを解禁してくれませんか?」
どんな解禁要請なのか。闘病明けで、酒や煙草ならわかるが、
「調子がよくなったので、モスマンやリンダ・ナポリターノ事件にゴーサインを」
というのは、世界広しといえどもオーケンだけだろう。なんてステキなんだ。
ただ残念なことに、職務熱心な先生は、そこをゆるしてくれない。
むしろ、「なにいってるんですか! ぶり返してもいいんですか!」と怒られる始末。
そこから議論は
「お願いしますよ」
「ダメです」
「なぜですか」
「大槻さんは、はまりこむ人だから」
そんな堂々めぐりの中オーケンは
「じゃあオカルトはいいいです。UFOだけ解禁してくれませんか?」
あまりの熱意というか、しつこさにまいったのか先生は、
「そうですか、そこまでいいますか」
これによりUFOに関しては解禁。「ヤッホー!」と快哉をあげるオーケンに先生は、
「まあ、あれですよね、UFOには夢がありますからね」
UFOには夢がある。ホンマかいな。
まあ、そういわれたら、そんなような気もするようなしないような、やっぱりしないような。
ただ、「UFOには夢がある」というフレーズは秀逸である。
その前向きなのか、あやしいのかわからない方向性が、迷走感たっぷりでナイスだ。
かくのごとく、UFOには夢があるらしい。医者の先生のお墨付きだ。
君たちには夢があるか。
混迷の世に光を見失っている若者たちの、一助になれば幸いである。