中田功といえば穴熊退治である。
振り飛車の天敵といえば、これはもう居飛車穴熊にとどめをさすわけで、特に時間の短い将棋や切れ負けのルールでは、無類の強さ(勝ちやすさ)を発揮する。
これを対抗するには「藤井システム」や、今だと耀龍四間飛車や振り飛車ミレニアムなどもあるが、中田功のあざやかな太刀筋も大いに参考になるところ。
まずは角筋を生かして端から殺到する「コーヤン流」(島朗九段命名の「中田功XP」という呼び名もある)。
中田功流の対穴熊戦。破壊力は抜群だが、玉が少々うすいのがタマにキズ。
また、こういった速効型でなく、ふつうに組んでさばいていく指し方もすばらしいものがある。
前回までは急戦に対するさばきをみていただいたが、今回はその切れ味鋭い穴熊退治を見ていただきたい。
1992年の第51期C級2組順位戦。
中田功五段と先崎学五段の一戦。
ここまで先崎は4勝1敗で中田は3勝2敗という直接対決で、中盤戦の大一番。
特に先崎よりも順位が下なうえに、この後に深浦康市四段、真田圭一四段という強敵との対戦を残す中田には絶対に負けられない戦いだ。
将棋は中田おなじみの三間飛車に、先崎はこれまたおなじみの居飛車穴熊。
後手がきれいな「真部流」に組んで、ここから戦いが始まる。
△55歩、▲24歩、△同歩、▲55歩、△56歩。
イビアナ相手に、この5筋のタレ歩はよく出る筋。
駒が片寄っているのをついて、堂々と5筋にと金を作り、それで穴熊の硬い装甲をけずっていければ理想的な展開だ。
先手は▲54歩と手筋の突き出しに、後手もこれまた
「争点に飛車を回る」
という振り飛車の鉄則で△52飛。
そこから▲37桂、△54飛、▲58歩、△35歩、▲同角、△45歩、▲22歩、△55角。
コーヤン流の穴熊さばきといえば、この△55角は必修の手。
▲22歩と、先手の飛車先が重くなったところで飛び出すのが呼吸か。
かまわず▲21歩成に△37角成と飛びこんで、▲24飛、△同飛、▲同角と飛車交換になったところで、△55馬。
香を取らずに馬を手厚く使うのが、これまた見習いたい手。
後手は△95歩と突いていないので、お得意の端攻めこそないが、
「後手三間の一手遅れてる感じが好み」
という中田功だから、そのあたりは織りこみ済みなのであろう。
先手が▲31飛と打ちこんだところ、△57歩成を一回入れて、▲同歩に△85桂とこっちも利かして、▲68銀に△29飛。
▲33角成、△同馬、▲同飛成に、再度△55角と飛車取りで好所に据え、先手は▲44角と打ち返す。
さあ、ここである。
派手な大駒の振り替わりがあったが、駒の損得もなく形勢は互角だろう。
並なら△44同角、▲同竜、△55角で、それでも悪くなさそうだが、中田は果敢に踏みこんでいった。
△88角成、▲同角、△95桂、▲78金右、△69銀。
角を切り飛ばして、端歩を突いていないのを生かし桂馬を急所に設置して、さらに銀のフックでからんでいく。
駒損ではあるが、攻め駒がことごとく急所に配置されており、穴熊としても相当にイヤな形。
潜在的に△87桂不成で吊るされる形がプレッシャーであり、一撃で終わってしまう可能性もあるのだから。
先崎は▲86角と攻防に利かす。中田は△19飛成で駒を補充。そこで▲56桂。
きびしい反撃で、△73銀と逃げるようだと、▲55角の飛車取りから、▲63竜、△同銀、▲73角成、△同玉、▲64銀みたいな殺到をねらっている。
そうなると「ゼット」に近い穴熊ペースで、一気に持っていかれてしまう。
とはいえ、後手も穴熊を沈めるのに、香一本ではまだ戦力不足のようにも見えたが、次の手が必殺の一撃だった。
△77香が、固くて深いはずの穴熊の肺腑をえぐるキリの一突き。
取る駒が5個もある「焦点の歩」ならぬ香打ちだが、なんとどれを選んでも先手玉は仕留められているというのだから2度ビックリ。
▲同金、△同桂成、▲同銀(角引)は△87桂不成で詰み。
▲77同金、△同桂成、▲同角上と▲88に空気穴を開けて取っても△87桂不成、▲88玉、△79桂成から崩壊。
▲77同角引も△78銀成、▲同金、△77桂成、▲同角、△69角で寄り。
どう応じても、どこかで△87に桂が飛び込んでくる筋があって、どうにも受ける形がないのだ。
本譜は▲同銀としたが、△78銀成、▲同金、△77桂成、▲同角上、△79金まで後手勝ち。
▲同金でも▲88金でも、やはり△87桂不成の筋をからめて行けば簡単に寄る。
まさに一瞬の出来事で、先崎に何か見落としがあったようだが、それ以上に中田功の駒さばきをほめるべきだろう。
思い出すのは昭和の少年マンガ『包丁人味平』のこのシーン。
まさに穴熊の宝分け「白糸バラシ」一丁上がり。
(コーヤン流穴熊くずしはこちら)
(森内俊之による居飛車穴熊への圧勝劇はこちら)
(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)