前回(→こちら)の続き。
ルイ・マル監督『死刑台のエレベーター』は、濃密なフィルム・ノワールと見せかけて、実はマヌケなギャグ映画ではないのかと疑ってしまった私。
しかも、この映画のつっこみどころは、まだまだ、こんなところでは終わらない。
そこで今回は、あれこれ言いながらストーリーを最後まで語っちゃうので、未見の方はスルーしてほしいが、続いてモーリス・ロネはロープを回収している間に、逃走用の車を盗まれてしまう。
窃盗犯は、現場である会社の向かいにある花屋の娘ベロニクと、そのボーイフレンドであるルイ。
彼女にいつも、
「あの戦争の英雄で、エリートのモーリスはんとくらべて、アンタはホンマに頼んないねえ」
などと、からかわれていることに、イラッとしていたルイが、
「ほな、オレ様のイケてるところ、見せたるわ!」
ブチキレて、モーリスの車に乗りこみ、勝手に発進させる。
「オレかって、本気出したら、こんな悪いこともできるんやぞ!」
という、ヤンキー的中2病な彼氏に、最初こそ
「そんなんして、怒られてもしらんで」
あせっていたベロニクだが、やがて
「いやーん、ドライブって、メッチャ楽しいやん。もっとスピード上げたって!」
ノリノリになってはしゃぎだす。
なんか、殺人劇から打って変わって、頭の軽いカップルがワチャワチャやりだすのだ。
そこからもふたりは、勝手にダッシュボードを開けて拳銃で遊ぶわ、仕事の書類を見るわ、果てはハイウェイで走り屋を気取るわ、もうやりたい放題。
このふたりの浮かれっぷりが妙に長く、見ていてこれが、実にイライラさせられる。
なんだか、殺人とかモーリス・ロネの運命など、だんだんどうでもよくなって、
「いつこのアホどもに天誅が下るか」
そっちでハラハラするようになり、今どきの若いもんはと、とってもR・O・U・G・A・Iな気分が味わえる。
そんなことも知らず、うっかり八兵衛ならぬ、うっかりモーリスは後始末に走るのだが、ここで第二のアクシデントが。
なんと、エレベーターが止まってしまうのである。
ロープの存在に気づいた時には、すでに会社を閉める時間が来ており、守衛がビルの電源を落としてしまったからだ。
おかげで、エレベーターをはじめ、明かりなどもすべてストップ。
なんとモーリス・ロネは、今度は自分が密室の中に閉じこめられてしまうのだ!
そこからモーリスは必死に脱出をこころみるが、動かないものはどうしようもないし、そもそもこんなところを見つかったら、社長殺しの第一容疑者だ。
これでは、うかつに声も出せない。うっかりロープを忘れてしまったばっかりに、大変なことになってしまった。
モーリスが袋のねずみになっている中、ルイとベロニクの阿呆カップルはますます絶好調。
ハイウェイで素人レースを展開したドイツ人夫婦に気に入られ、二人の泊まるモーテルに宿泊。
はよ車返したれよ! とつっこみたくなるが、これにはベロニクも悪ノリ全開で、
「タベルニエ(モーリス・ロネの役名)夫妻で一泊します」
勝手に、モーリスの名前まで拝借。
宿泊代も出せる当てもないのに、迷惑この上ない姉ちゃんである。浮かれとりますなあ。
モーリスがエレベーターの中で悶々とし、脱出しようとしてエレベーターから落ちそうになってウッカリ死にかけたり(なにをやってるんだか……)しているのをよそに、4人はシャンパンで乾杯。
昔話をしたり、記念撮影をしたりと、完全にゆかいな旅行気分。
ただそこに唯一、不機嫌そうなのがルイ。
このアンチャン、顔はいいのだが、いかんせん無能で使えないにもかかわらず、プライドだけは山のように高いという、なんともめんどくさいタイプの男の子。
それがここでも大いに発揮され、見栄をはってドイツ夫婦に
「ドイツによる占領、インドシナ、アルジェリア、オレは戦地で命を張ってきたんや……」
武勇伝を語りまくるのだが、もちろんのことすべて大嘘のホラ。
まあ、「自称ヤンキー」が語る、昔オレはワルだった話みたいなもので、こういうのは洋の東西を問わないよう。
後輩や女子に失笑されてるんやけどねえ……。トホホのホだ。
そうやってフカしまくって、まだまだ彼女に「ワルなオレ」を見せたいルイは、ドイツ人の車を盗んで逃げようとするが、それは見破られていた。
「そんなん、もうバレバレやん」
バカにされた上に、
「外人部隊とか、全部ウソなんもわかっとったで。キミみたいな軟弱な痛い坊やは、そういうこと言いたがるねんワッハッハ」
これには赤っ恥のルイが逆上。
なんと、ドイツ人をモーリスの拳銃で撃ち殺してしまう。
おまけに、悲鳴を上げた妻もズドン。いきなり殺人犯に。
ちょっとホラ吹いたのをバカにされただけで、人殺すなよ! どんだけ場当たり的に生きてるんや。
外がえらいことになってるその間、主人公のモーリスは、やはりエレベーターの中。
どないしようもなく座りこんでいるモーリスは、自業自得とはいえ(殺人よりも忘れ物の方でネ)実に哀れである。
ここは押さえた演出で、感情表現のセリフとかナレーションは一切ないのだが、モーリス・ロネのその背中からは
「オレって、アホやなあ……」
という情けない声が聞こえてきそう。さすがは名優、見事な演技といえよう。
ズッコケな出だしから、さらにズッコケがズッコケを呼び、再び殺人が起こってしまったというか、こんなことで殺されて、ドイツ人もいいツラの皮である。
だが、ことはここで終わらないのが、この映画のすごいところ。
そこからマヌケは、さらにブースターがかかっていくことになるのだから、もうなにがなにやらなのだ。
(続く→こちら)