本日は高橋秀実『弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー』を紹介したい。
おおよそ高校野球を語った本というのは世にあまたあるが、まず題材が開成高校というのが意表を突かれる。
開成高校といえば、毎年200人近くが東大に入るという日本一の超進学校。
我々凡人には、およびもつかない超エリート集団であり、未来の支配階級のみなさんである。
そんな勉強のイメージしかわかない学校の野球部に、果たして語ることがあるのか。そもそも野球部自体が、あるのかどうかも怪しいのではないか。
ところがどっこいである。この開成高校野球部というのが、平成19年の夏の大会で、東京都大会のベスト16入りしたというのだから驚きではないか。
超絶秀才集団であり、スポーツ校でないゆえに専用グラウンドもなく、練習は週1回という、どこにでもあるごくごくふつうの野球部が、なぜそんな快進撃を見せたのか。
興味を持った著者は、さっそく取材にかけつけることになったわけだが、まずいきなり驚かされることとなる。
開成野球部、かなりのへたっぴいであったからだ。
私の勝手なイメージでは、秀才集団のする野球は、本で覚えたもので、それゆえにフォームなどは完璧。
さらにはパソコンや複雑な計算式などを駆使して、配球や球の飛ぶ位置などを見極める、いわゆる「データ野球」のようなものを想像していた。
だが、まったく、そんなものはカケラもないとくる。
そこにあるのは、どこにでもあるただの下手な野球部なのだ。著者の表現を借りれば「それも異常に」。
ゴロはトンネル、フライは後逸、見事なエラーの山どころか、そもそも彼らはキャッチボールすらあやしいのだ。
なんたって、レフトの選手が「野球って危ないですよね」といい、
「外野なら(ボールから)遠くて安心なんです」
そんな理由でレフトを守っているのだから、なにをかいわんや。
学校によっては、なめとんかと体罰のひとつもいただきそうな心構えである。なんたって、
「エラーは開成の伝統ですから」
とくるのだから、言葉を失うではないか。
まさか、こんなところで伝統なんて言葉が使われるとは、お釈迦様でも想像できまい。
そんな彼らが、なぜにて強豪ひしめく都大会で結果を出せたのかといえば、それはズバリ、
「下手は下手なりの戦いかたでやる」
という、しっかりとした(?)戦術とポリシーがあるからである。
(続く【→こちら】)