拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

四枚目の作品集―宇多田ヒカル/『ULTRA BLUE』絶対支持

2006-06-17 21:26:38 | 音楽
私は『travering』辺りで彼女の凄さに気づいた人間なのであまり偉そうなことは言えないけど、本当に痛快な存在だ、宇多田ヒカル。今週発売された4枚目(全米デビュー含めると五枚目だけど取りあえず除く)のアルバム『ULTRA BLUE』、なんというか、よくぞここまで作りこんだねぇ!と拍手したくなるような素晴らしい作品になっている。気が付けば私が聴いている多分唯一の女性アーティストである宇多田ヒカル。アホのように売れまくった全盛期と比べれば最近は売り上げがガタ落ちしてるらしいが(当たり前だが)、彼女のCDの売り上げに反比例するようにして私の彼女への興味は増していく。去年の12月のシングル「Passion」を初めて聴いた時は一人で静かに大騒ぎしてしまったが、果たしてあの曲にじっくり耳を傾けた人は何人いるのだろうか。かなり乱暴な言い方だが、今回の宇多田の新譜『ULTRA BLUE』は、800万枚売れたデビュー作『First Love』の数百倍素晴らしいぞ。うーむ、乱暴。
初めて彼女の曲を聴いたのはもちろん「Automatic」が流行りまくってた頃。99年だからもう7年も前の事だ。15歳にして自分で作詞作曲してることにはさすがに驚いたし歌も上手いと思ったが、彼女の作る曲に共通するあの鼻歌みたいなホワホワしたメロディーがどうにも受け付けず、「ど、どこがいいんだ!?」と日々思っていたため宇多田ブームには乗れなかった。『First Love』は800万枚売れるようなお化け盤、音楽聴くのが趣味の人は大体持っているような脅威のアルバムなのでもちろん家にもあるが、どの曲を聴いてもまるでピンとこなかった。というか今でもピンとこない。多分R&Bというジャンル自体苦手なのだろう。モロに黒っぽいリズムが押し出された音楽が苦手。そういうのは隠し味程度にしといてほしいんですよ、ラルクの「Link」という曲みたいに。
『First Love』以降、「別にいいや、宇多田以外にも聴くべき楽しい世界は沢山あるし…」と思い、それから二年ぐらいずーっと彼女をスルーしていた。二枚目の『Distance』も勿論スルー。しかし高1の秋、超絶名曲「travering」を聴いた瞬間、一気に宇多田熱が上がってしまった。四つ打ちの均一なハウスビートに絶妙に絡む歌声、ふざけてんのかマジメなんだかわからない、何故か『平家物語』の一節までもを引用した宇多田にしか書けないような、というか宇多田しか書かないような誰にもマネできない歌詞。ヘッドホンで聴かなければ聴き逃すような、バックでピロピロ飛び交う電子音。驚いたよ。特にピロピロ電子音には参った。当時ちょうど、何故かテクノにハマリだした時期だったのでね。日本で一番売れてる人がこんなに楽しい音を新曲として出す、という実は奇跡のような瞬間だったのだ、「travering」発売時は。そうそう、極彩色の洪水を延々と見せられているような、現・宇多田の夫が監督したPVにもびっくりさせられたなぁ。そこから遡って二枚目の『Distance』を聴き、一曲目「Wait&See~リスク~」でまた驚く。だって、「キーが高すぎるなら下げてもいいよ/歌は変わらない強さ持ってる」だよ?カラオケでこの字幕が流れたら結構和みそうなこのフレーズ。でもいっくらでも深読みできるフレーズでもある。何気なく音楽番組、例えばミュージックステーション等を見てるとき、未だにこのフレーズが脳内をフラッシュバックする瞬間がある。一聴しただけでは「なんだこいつ、ふざけてるのか!??」と勘ぐりたくなってしまうが、聴きこむとどんどん面白くなってくる宇多田の歌詞。単語レベルで見ればそれほど突飛なものは無いのに、それらを組み立てて歌詞にするととんでもないものになってる。初号機のプラモデルのパーツを組み合わせたらなぜか量産機になってしまったかのような不思議さがある。こういう歌詞を書くようになったのは『Distance』から、その手法が炸裂したのが次の『DEEP RIVER』だと思う。だから私の中では宇多田の歴史は二枚目の『Distance』から始まるのだ、勝手すぎるが。
「travering」の後、宇多田は「光」「SAKURAドロップス」というこれまた名曲をシングルとして切り、『DEEP RIVER』というもう笑うしかない程の傑作アルバムを発売した。この頃の宇多田、半分神がかってたと思う。とにかく細部まで聞き漏らすまいと、ヘッドホンを常に装備して彼女の音楽に浸っていたよ。R&Bを隠し味程度に添えたようなものに変化した瞬間、彼女の音楽は私のCD棚の出しやすい場所に配置されたのだ。
『ULTRA BLUE』は、音が前作よりもさらに面白いことになっている。全米デビューアルバム『EXODUS』では、全米ということで気合入れて音を思いっきり作りこみすぎたためかなんなのか、やや肩肘を張っている感があり、私は『DEATH NOTE』を読む際のBGMにしか使用していなかったが(合うんだよー、凄く)、『ULTRA BLUE』では作りこみがしなやかで柔らか。耳に気持ち良いピロピロ。歌詞が日本語ということもあり表向きは前作に比べて本当に柔らかな印象が強いピロ。歌詞はどんどん「ふざけてるのか!?」感を増し、「隙だらけ」のレベルにまで達したが、彼女と同年代(20代前半ぐらい)の歌手たちの書く歌詞と比べればその面白さは一目瞭然(というか宇多田以外が不思議なくらい、圧倒的につまらなすぎる)。二曲目の「Keep Tryin'」の歌詞、「どんぶらこっこ 世の中浮き沈みが激しいなぁ」を聴いた瞬間は「ふざけるのもいい加減に…」と思ったが、同曲の詞をさらに引用すれば、「どうでもいいって顔しながらずっとずっと祈ってた」「クールなポーズ決めながら実をいうと戦ってた」…きっとこういう事なんだよ、うん。

『ULTRA BLUE』、さらに聴き込んだ後でまたいろいろと書こうと思う。ていうか書きたい。「Making Love」のピロピロ電子音がどうしようもなくツボ。hideの「POSE」並みにツボだピロ。

今日多分一番字数多い。ここまで全部読んでくれた奇特な方、ありがとうございます。