拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

『Big☆Bang!!!』/中川翔子

2008-05-10 12:06:10 | アルバムレビュー
遅まきながら中川翔子の1stアルバムの感想を。シングル4枚、ミニアルバム2枚、ライブDVD1枚と、振り返れば2年弱の間に、かなりハイペースでリリースしまくってきたしょこたん。待望のフルアルバムは、アニソンをひたむきに愛してきた彼女らしいものだった。収録曲はアイドル歌謡、ロック、テクノポップとバリエーションに富んだ曲調ながら、どれもアニソンとして通用しそうな、わかりやすくキャッチーなメロディラインを持っている。作家陣は実際にアニソン界で活躍してる人が多めだが、エイベックスやソニーミュージック人脈の作家が作った曲もアニソンテイストバリバリだ。また、Perfumeプロデューサーの中田ヤスタカ…の友人がテビュー曲「Brilliant Dream」をダフトパンクっぽく…つまりPerfumeっぽくリミックスしたものも収録されていて、時代の空気が適度に読まれている(コレだけ浮いてる気もするけど…)。
いかにもオープニングっぽい勢い一発頭カラッポの「We can do it」の次、いきなり紅白出場曲「空色デイズ」が登場。アニメ『天元突破グレンラガン』のストーリーに忠実に書かれた力強い歌詞が曲にハマりまくりのロックチューン。無駄に手数が多くて派手なドラムがちょっと笑えるぜ。この曲の歌詞、個人的には『グレンラガン』と同時期にやってたアニメ『地球(テラ)へ…』にぴったりじゃねー?と思ったりもする。『地球へ…』は原作しか読んだことないけどさ。「空色デイズ」聴いてると、ソルジャー・ブルーの遺志を胸に地球を目指すジョミーや、ミュウ根絶を目指すキースなど、強固な意志を持つ『地球へ…』の主人公たちを思い出しちゃうぜ(いつか『地球へ…』の記事も書かなきゃな)。
続く「恋の記憶」「snow tears」は、しっとりした失恋ソング。サビメロにかなりの既聴感が漂うのが気になるが、コスプレでもするかのように曲の主人公になりきるしょこたんの妙な歌唱スタイルでカバー。「恋の記憶」なんてかなり可愛いぞ。ブリッコ的な可愛いさではなく。「snow~」はポップス工房・エイベックスって感じー。良質なのは確かだがサラッと流れていっちゃう…。
「Brilliant Dream」を挟み、「フルーツポンチ」「ストロベリmelody」「pretty please chocolate on top」と、アイドル歌謡三連発。「フルーツポンチ」は80年代の少年向けラブコメアニメのエンディングテーマっぽいレトロなギターソロがイカす曲。「気まぐれオレンジロード」とか「THE かぼちゃワイン」とかその辺のアニメに合いそう。あと、これまた80's作品『TO-Y』って漫画に出てくる売れっ子アイドル・園子に歌わせたいなぁ。「pretty~」は戦隊モノと魔法少女アニメテイストが絡まりあったノリノリ曲。なんか凄くイキイキしてるぞ、しょこたん。
「calling location」「happily ever after」でロック二連発。あの……二曲とも「空色デイズ」と似過ぎ…(苦笑)。二番三番煎じ…。しょこたんにロックが意外とハマるのはわかるが、似たようなのがアルバム内に三つもあってもなぁ…という感じ。でも本人が「空色デイズ」と合わせて「ロック三部作」と呼んでるし、思い入れタップリなんでしょうね。「calling~」は曲名が良いね(なんだそれ)。「happily~」はBメロが飛び抜けて良いが、サビの歌詞「幸せはいつだって失ってはじめて幸せと気付く小さな不幸」というフレーズが「もーちょいどーにかならんかったかなー…」という感じ。伝えたいことはわかるけど説明的過ぎるなー。
「starry pink」は本人作詞のバラード。おそらくライブでファンの人達が振ってくれたピンク色のサイリウムの事を思いながら書いたのだろう…結構普通の歌詞。でもまぁ感動的だよね。歌手デビューの夢が叶って、渋公で…いや、CCレモンホールでライブ出来たんだもんね…。
ラストはスカシカシパン愛好家第一人者の山田吾郎が作詞作曲を手掛けた「スカシカシパンすこし変?」。ギター弾き語りの童謡風ネタソングだが、思わず声に出したくなる言葉遊び満載の歌詞と、「歌のおねえさん」になりきったしょこたんの歌が良い味出してます。「まぁ…よくないっ!」
と、まぁ、こんな感じの愉快なアルバム。流しとくと適当に元気もらえるよ。これからも彼女の歌手活動は続くみたいだけど、ここまで彼女の好きな世界観を表現しきった1stアルバム出しちゃったら、次は一体どうすんだろ、って気もする。

『TANPOPO1』/タンポポ

2008-05-03 12:56:17 | アルバムレビュー
TANPOPO1/タンポポ

1. ラストキッス★★★★
ストリングス隊に金原千恵子ストリングスを起用した、気合入りまくりのデビュー曲。身体から徐々に体温を奪っていくような冷気漂う切ないシンセと、容赦なく悲しみを煽るマイナー調のメロディーが絡みあう。メンバー3人のコーラスワークも情感たっぷり。

2. わかってないじゃない ★★★
石黒彩ソロ。冒頭で耳に飛び込んでくるウッドベースがインパクト大なジャズ風マイナーチューン。間奏ではハロプロのアルバムであることを忘れそうになるようなプレイが聞ける。一度聴いたら耳にこびりつく「わかってないじゃない」というフレーズの繰り返しを軸に曲が構成されている。曲が進んでいく程にファンキーにトタトタと暴れるリズム隊、激しくなるアコギのカッティングが耳に気持ち良い。

3. センチメンタル南向き ★★★☆
矢口真里ソロ。フィリーソウル風の流麗なストリングス、フルートと彼女の伸びやかなファルセットがよく合う。声量が足りず、やや儚すぎる部分は他の二人のメンバーのコーラスとグルーヴィーなベースでサポート。中盤エンタテイメント性の低いコール&レスポンスが入ってくるのが謎だが、全体的に非常に爽やかな一曲。

4. Motto★★★☆
ディープなR&B。オケはNYレコーディングで、ベースにはウィル・リーを起用。
グルーヴィーなリズム隊とシンセの絡み、蜃気楼のように消え入りそうなストリングスサウンドが印象的だが、
メンバーのコーラスもなかなかのもの。普通のR&Bシンガーと比べれば当然クオリティは劣るだろうが、
アイドルならではのぎこちない雰囲気は、年上男にリードされる歌詞の主人公と妙にシンクロしている。
SMAPの「BEST FRIEND」と同様、拙さが功を奏しつつある曲。

5. 誕生日の朝★★★★
じわじわと盛り上がっていく曲とコーラスが美しいミディアム曲。温かいけど消え入りそうに儚くて…つんく良いメロディー作るなぁとただただ感心。メロディーを生かした音数少なめのシンプルなアレンジで、健気な願いが切々と歌われる。

6. 片想い ★★
飯田香織ソロ。アルバムでは珍しい、シンプルなギターロック調のミディアムバラード。美人だがなんだか怖い顔をしている飯田のキャラによく似合う、表面上クールなんだけど心の内に怨念を秘めているような、悩める女子の想いを描いた曲。

7. ONE STEP ★★★★★
このアルバムのハイライト。アーバンジャズ・ミーツ・ハロプロ。ハロプロのジャズナンバーの多くはボーカルを強調したミックスになっており、豪華なオケの存在感が薄まっているが、この曲(というかこのアルバム)は例外。ムーディに空間を自在に彩るサックス、そのサックスに対抗する、ヘナチョコとセクシーの間を横断するコーラス、一瞬だけポップになる部分Bメロからサビへの繋ぎ、キメフレーズ「ONE STEP GROWIN' UP」、救いのないつんく節全開の歌詞…。ハロプロ全盛期ならではの傑作ラブソング。

8. たんぽぽ ★★★
後にリカットされた曲。前曲のアダルトなムードから一転、春らしい軽やかなポップス。曲調も歌詞もポジティブなのに対し、ボーカルは儚げ。元気一杯に歌っていないのが逆に良い。「どこにだって咲く花だけど風が吹いても負けないのよ」というフレーズが、彼女たちの全てを言い表している。本当、どこにだっていそうな歌唱力の姉ちゃんたちだけど、良い歌にしようとして凄く頑張ってんだよな…。

9. スキ ★★★☆
ガットギターを軸に展開するスパニッシュ歌謡。ジプシーが悩ましく踊っているような図が浮かぶオケ。こういうの、本当に歌謡メロディーにハマるよなぁ。間奏にはアコーディオンソロまで登場。ギターとの絡みがこれまたヨーロピアン。
それにしてもこのアルバム、泣きそうな女の子の歌多いな…。

10. ラストキッス(アルバム・ヴァージョン) ★★☆
打ち込み主体だった一曲目のオケを、フルオーケストラに差し替えたバージョン。壮大な曲調は美しいが、冷たいシンセ主体の原曲の方が歌詞の世界観と合っていると思う。「とりあえずオケだけ差し替えて、曲数稼ぎしてみました」みたいな感じもするし…。

総評★★★☆
シャ乱Q時代、『シングルベッド』『ズルい女』などの女々しいヒット曲を生み出したつんくの歌謡センスと、ジャズ、R&B、スパニッシュなどを取り入れた渋めのアレンジが混ざり合う良盤。渋さ控えめのシンプルなアレンジの曲からはキャッチーを極めたつんくのメロディーセンスも味わえる。派手さは無く、製作段階から「知る人ぞ知るアイドルポップスの名盤」を目指していたかのよう。実際『セカンドモーニング』などと並び、アイドルソングヲタを魅了する作品になった…。歌詞は「優しくて魅力的だけど裏では何やってるかわからない男」に翻弄される女の子ばかりが出てきて、全体的にやや暗い。唯一幸せムードが漂う5曲目も、「どうせこの子も数ヵ月後フラれるんだろうな」と思えてしまう程の儚さが漂っている。こんな歌詞ばかりを書いたつんくの意図が気になるが、「素人より少し歌が上手い程度のアイドルが背伸びをしてクオリティの高いポップスを歌う」という状況に、歌詞の世界観は不思議な程ハマっている。
アレンジャーは小西貴雄(1.5.7.8.9.10)、鈴木俊介(2.6)、河野伸(3.4)。少人数精鋭。この三人が揃ってれば良い作品になるのは必然のようなものである。ハロプロのエース。売れ線ポップスからフリージャズの匂いが漂う楽曲まで幅広く手がける小西の活躍が特に光る。


『HEART STATION』/宇多田ヒカル

2008-03-27 19:03:48 | アルバムレビュー
1. Fight The Blues ★★★
喜太郎のような、朝の目覚めのようなオリエンタルなシンセが印象的。「鬱に負けるな」という力強いメッセージを持つ曲だが、音は非常にフワフワと柔らかい。この柔らかな楽曲の中で、唯一低音が効いていてパワフルなBメロがこの曲のキモか。

2. HEART STATION ★★★★
裏メロを奏でるキーボードと本人の声が自由自在に歌うメロディアスなミディアム曲。聴き手を選ばない、というかスルーされそうなほど薄味のサラっとしたポップスに仕上がっているが、本人すら辛そうなかなり無理のあるメロディーラインと、奔放に動きまわるコーラスが地味に異彩を放つ。2番Bメロのコーラスラインが特に面白い。インストとコーラスだけのカラオケバージョンを聴いてみたくなる。

3. Beautiful World ★★★★
この曲も「HEART STATION」同様、キーボード・コーラスとボーカルの絡み合いが聴き所か。無茶なメロディーと、それに呼応するような悲しげなキーボードの共存。「残酷な天使のテーゼ」も良いが、アスカ登場前で明るい要素が殆ど何も無く、暗く閉じた世界観を持つ物語前半を映画化した「ヱヴァンゲリヲン 序」とこの曲のシンクロ率はとても高かったように思う。エヴァヲタのアーティストは宇多田以外にも沢山居るが、ここまで客観的にエヴァを見つめて曲に出来る人は少ないのでは。

4. Flavor Of Life -Ballad Version- ★★☆
「人生の味」という、酸いも甘いも味わいつくした泉谷しげるのようなおやじシンガーソングライターがつけそうな渋く枯れたタイトルがついたヒット曲。売り上げ的に低迷していた宇多田だが、その気になれば世間を喜ばせるバラード作るのはお手の物であることをこの曲で証明した。「せつない」「苦い」「Life」「したい」「ない」「じゃない」「未来」など、徹底的にaとiで脚韻を踏んでいる歌詞。本人なりの綿密な計算があるのだろう。

5. Stay Gold ★★★☆
軽やかでしなやかなメロディを鳴らす高音のピアノ、微かに鳴ってるキック、幻聴のような歌声。まるで夢の中で聴いているような浮遊感のあるバラード。この浮遊感と対称的なのがドーンと沈み込んでいくような低音のピアノ、かなり高い所で「チッチッチッ……」と鳴る電子音、「大好きだから ずっと」というインパクトのある歌詞。夢と現実を行き来するかのような不思議な曲。

6. Kiss & Cry ★★★★
パオーン!という大胆なシンセヒットを盛り込んだテンションの高いミディアム曲。「随所に面白い音を盛り込みまくってやろう」という悪ノリを感じる。日本民謡のようなAメロから早口なBメロに転がり落ちる無理やりな展開が楽しい。「今日は日清カップヌードル」というバカな歌詞も悪ノリの賜物だろうが、その裏には「チャレンジには失敗がつきもの。ていうか失敗の可能性方が高い。いちいち失敗に傷ついて立ち止まってたら身が持たない」というシビアなメッセージが隠れている(多分…)。

7. Gentle Beast Interlude
次曲につながるインスト。タイトルは次曲の歌詞「優しい瞳をもつ化け物が目を覚ます」からきていると思われる。

8. Celebrate ★★★★★
ラテン風味のギターのカッティングが響く4つ打ちハウス。2001年ごろのコーネリアスが作りそうな、オーガニックな雰囲気のトラックに、全盛期の小沢健二のような、恋愛の楽しさを謳歌するようなポップな歌詞が乗る。まるで「フリッパーズギターが今、突如再結成したらこうなるかも?」な曲(超こじつけ)。「おまえがナンバーワンだぜ」という、『ドラゴンボール』のベジータのような男気ある歌詞が印象的。

9. Prisoner Of Love ★★★★
バカ売れした初期のアルバムに入っていそうなマイナー調のミディアムバラード。かなりキレ味のあるスリリングなストリングスが曲を豪華に彩る。少しずつテンションを上げていくBメロはベタだが圧巻。まだこういう曲作れるんだなぁという感じ。歌詞の内容は非常にエモーショナルで、浜崎あゆみの勝負バラードのようだが、発音したときに歯切れが良い単語ばかりがずらりと並んでおり浜崎のようなヘヴィーな雰囲気にはなっていない。

10. テイク 5 ★★★☆
幻想的なシンセと幽霊のように聴き手を幻惑するファンタジックなコーラスが絡み合うバラード。唐突なエンディングは賛否両論だろうが、人里離れた寂しい場所に聴き手を誘わんとするような、どんどん孤独を煽っていくようなアレンジと歌詞をもつこの曲の直後に「ぼくはくま」のイントロが来ると個人的にはかなり安心できる。

11. ぼくはくま ★★★☆
「みんなのうた」だっただけあり、発売時この曲で盛り上がってたのは小さい子供及びその親ぐらいだろう。自分もアルバム収録をきっかけに初めてちゃんと耳を傾けた。温もりと広がりのあるピアノと、ゆるやかな鼓動のようなキック音が耳に優しいほのぼのとしたバラード。でも終盤の「夜はおやすみまくらさん 朝はおはようまくらさん」のリフレインと、ラストの「ぼくはくま 九九 くま ママ くま くま」という単純な言葉遊びのようなフレーズが何故かシリアスに響く。

12. 虹色バス ★★★★★
レトロなアメリカンポップスのような曲。ゆったり揺れるリズムに、いつものふんわりとしたシンセが絡み付いてくる。「韻を踏まなきゃ歌詞として認めない」ぐらいの気分で書いていそうなリズミカルな歌詞も手伝い、聴き心地抜群。途中までは「ぼくはくま」的なほのぼのポップスだが、後半の「誰もいない世界へ私を連れて行って」以降はトリップポップのような趣。歌詞と曲調の世界観の一致ぶりが見事。

13. Flavor Of Life(Bonus Track) ★★★☆
別アレンジのボーナストラック。生のストリングスがキーだったバラード版とは全く違い、いつものようにフワフワとしたシンセ主体で作られた打ち込みのポップス。バラード版には無かったBメロの「Don't be afraid」というコーラスが綺麗。

総評★★★★☆
作詞作曲に加えアレンジも本人が手がけ、ゲストミュージシャンの参加も三曲のみ(4,8,9)。ひたすらキーボードやパソコンに向き合って作られたようなアルバム。安易にジャンル分けをされるのを拒むような言葉で説明し辛い楽曲がずらりと並んでいる。こう書くと閉塞感漂う内省的なアルバムのようにも思えるが(実際前作はそういうものだった)、音数は少なめでヌケの良い、開かれたサウンドに仕上がっている。アレンジをし始めた頃の楽曲は音の洪水のようで耳障りに感じることもしばしばだったが(全米デビュー盤)、今作では余分な音をそぎ落とすことを覚えたのだろう。「ぼくはくま」なんてシンプルの極みである。部屋やカーステで垂れ流してても邪魔にならないぐらい空間に溶け込んでくれるが、ヘッドフォンをして、宇多田によるアレンジを穿り返すように聴いて楽しむことも出来る。デビュー時にR&Bの歌姫として煽られていた頃が遠い昔に思えるほど、音楽性は変わり続けてきたが、今作には原点回帰したような曲もいくつか入っており、過去に宇多田の曲を好きになったことがある人ならとりあえず数曲はお気に入りを見つけられるだろう。
歌詞については「Stay Gold」の「悲しいことはずっとこの先にもいっぱいあるわ」と「Kiss&Cry」の「恥をかいたってかまわない」、「Fight the Blues」の「男も女もタフじゃなきゃね」というフレーズがこのアルバムの全てを言い表しているような気がする。



『The Best of L'Arc~en~Ciel c/w』/ L'Arc~en~Ciel

2008-03-08 01:30:45 | アルバムレビュー
『The Best of L'Arc~en~Ciel c/w』/ L'Arc~en~Ciel


1. Brilliant Years ★★★
哀愁を漂わせながらひたすら疾走するアコギが印象的な曲。隙間無くギターが詰め込まれており、当時(12年前)と現在のバンド内に於けるkenのスタンスの違いを感じさせる。間奏がシングル曲「flower」にとても似ている。「flower」の構成をシンプルにして、疾走感を1.5倍にしたような、当時のバンドの魅力が濃縮されたような、そんな曲。

2. あなたのために ★★
一曲目とよく似た系統の疾走系ギターロック。冒頭の「ウィ~~~~~~♪」という、奇妙すぎるhydeのコーラスは聴くものをいきなりビビらせる。「只のギターロックだと思うなよ?」というラルクから聴き手への牽制だろうか。まぁ、気持ち悪いさ。

3. I'm so happy ★★★☆
ビートルズのような乾いた音像と一音一音がズッシリと響くドラムが印象的な異色曲。ベースがおとなしくて、ギターが大活躍していて、ドラムの音がザックリしていて…。ドラマーがyukihiroに変わって以降のラルクとは違う、妙に熱気ある演奏を聞かせる。ラスト、「I love you」を絶叫連呼するhydeのテンションは凄まじい。若気の至り?

4. さようなら ★
油断しているとあっさり通り過ぎて行ってしまう、いかにもカップリング向きな曲。Bメロかと思って聴いていたらサビであった。後半には盛り上がりどころもちゃんと用意されているのだが、水のように掴みどころの無い曲なので本当にあっという間に終わる。

5. 賽は投げられた★★★
爆走するベースラインがラルク中期の代表曲「Driver's High」を思わせるギターロック。爽やかでノリも耳触りも良い曲だが、「世間なんて一切信用してません!」と必死に主張するような、被害妄想一歩手前な歌詞が異彩を放つ。

6. THE GHOST IN MY ROOM ★★★★
この曲からドラマーがsakuraからyukihiroへ変わる。いきなりブレイクビーツが耳に飛び込んで来る、少しファンクの香りがする曲。yukihiro加入以前と以後に明確な線が引かれていることを再確認。不穏な暗闇のような冒頭から、サッと光が射してくるようなサビ、そしてまた暗闇へ…というように曲の表情が次々と変化していく。終盤ではhydeによる妙なスキャットが聴ける。

7. metoropolis ★★★★
不器用な頑張って演奏しているような鉄琴の音が可愛らしい、ニューウェーブ風味の曲。hydeのしっぽり濡れた歌声とリズムのループ、ギターのカッティングが心地よい。そしてバックで「ピロロロヨ~~ン」と鳴る電子音。これとギターが絡みあうクライマックスはヘッドホンで聴いてると逝きそうになる程なめらか。サビで「今にも溢れそうな性器を癒して」と訴える、文字通りびしょ濡れな一曲。

8. Peeping Tom ★★★☆
流れるようなアコーディオンの音色が美しい曲。昼寝のBGMに最適な、かなりまったりとした曲調。真昼間から酒を飲んで酔っ払うような背徳的なムードが漂う。「ディープ昼下がり」といったところだろうか。ラルク屈指の穏やかな曲だが歌詞ではひたすら己の不快感を訴える。

9. a swell in the sun ★★
ラルクは大抵ニューウェーブに、ハードロックやメタル、歌謡曲の要素を組み込んだ楽曲を作ることが多いが、この曲は80年代英国暗黒ニューウェーブの世界をそのまま再現したようなダークな曲。地獄の底で歌ってるようなhydeの低音が味わい深い。

10. 花葬 -1014mix- ★★
シングル曲のリミックス。原曲にあった妖艶さ、ねちっこさを排除し、ひたすらクールにリミックス。「ラルクって不気味だなぁ…」と思った人もこれなら聴けるかもしれない。

11. hole ★★★
映画「リング0」にも使われた、スリリングな弦楽器とブレイクビーツが絡み合ったインスト。なぜかワイドショーでショッキングなニュースを特集するときにかなりの確率で使われてるので知らず知らずのうちに耳にしているかもしれない曲。「実はラルクの曲なんですよ、これ」みたいな。

12. get out from the shell ★★
アルバム『REAL』収録曲の日本語詞版。ブレイクビーツ炸裂のハードコア曲。英語版と日本語版、どちらを先に作ったのかは知らないが、こちらの日本語版、言葉の乗せ方がどうにもしっくりこない。サビで英語になる部分は異様にかっこいいのに。


総評★★★☆
カップリングベスト。シングルにするには地味過ぎて、アルバムに入れるには個性が薄くて。かといって曲としてはそんなに悪くない、むしろ佳作多し…そんな曲を集めたアルバムである。ラルクの代表曲から感じられる派手さ、勢い、ねちっこさなどは弱め。BGMとして聴いてると驚くほどサラっと流れていってしまい、味気ないものに感じられるだろうが、じっくり耳を傾けてみると、どの曲にも「ん?」と不思議に思うようなフックがあることに気づく。コーラスが変だったりアレンジが不思議だったり歌詞が狂っていたり…。聴きやすい割にバンドの個性がよく出ているアルバムなので、ラルクが苦手な人(特に、シングル曲などを聴いて苦手意識を持った人)におすすめかもしれない。でも、そんな人はラルク自体聴こうと思わないだろうけども。



『セカンドモーニング』/モーニング娘。

2008-02-23 21:58:40 | アルバムレビュー
『セカンドモーニング』/モーニング娘。


1. NIGHT OF TOKYO CITY ★★☆
下品でイケイケなシンセと素っ頓狂なラップで幕開け。一人暮らしで孤独を感じる若い娘の心情を託したリアルなライムが笑いを誘う。アイドル版シャ乱Qとでも形容したくなる、切なく濡れた一曲。

2. 真夏の光線(Vacation Mix) ★★★★★
終始グルーヴィーにランニングする、躍動感溢れるベースラインと、フィリーソウル調の爽やかなホーンとシンセ、そして「LOVEマシーン」で大フィーチャーされていた「フッフゥー」という軽薄なコーラスの絡み合いが絶妙な傑作サマーチューン。後半のブレイク部分以降のベースラインは冷や汗モノの名演。それぞれ声質の違う7人のボーカルがテンポよくスムーズに切り替わっており、「LOVEマシーン」とはまた別のベクトルで、大人数グループの強みを示した。真心ブラザーズの名曲「エンドレスサマーヌード」と併せて聴くと面白いかもしれない。

3. Memory 青春の光 ★★★
メンバーが沢山居たわりにはコーラスワークが大したことなかった全盛期とは逆で、ほぼ全編にわたってハモリのパートが組み込まれている、R&B風のマイナー歌謡。ぎこちなくハモりあうサビを聴いてると、実力派コーラスグループではなく、アイドルグループによるR&Bを聴く醍醐味みたいなものを味わえる。当時つんくはR&Bにハマっており、モー娘にもそういう路線の曲を沢山歌わせようとしていたが、宇多田ヒカルが出てきた瞬間「この子にはかなわない」と思ってやめさせた、というのを少年マガジンの「モーニング娘物語」で読んだ記憶がある。

4. 好きで×5(かけるファイヴ) ★★★☆
恋に思い悩む心情を綴った歌詞にジャズアレンジが上手くハマったミディアム曲。これもモー娘ならではの「ぎこちなくもそこそこ綺麗なコーラス」が楽しめる。ジャズアレンジで、じっと耳を傾けると結構良い音が聞こえてくるのだが(主張しすぎないベース、ムーディーなビブラフォーンなど)、歌に重きが置かれているので平凡なスピーカーだとよく聞こえない。

5. ふるさと ★★★
浪花節の泣きのメロディーにクールで少々オリエンタルな落ち着いたアレンジを施しアイドル仕様に作り上げたバラード。シャ乱Qでこれをやられたらきっと暑苦しくなりそうだが、大人数を生かしたコーラスが武器のアイドルグループが歌うと切ない名曲に仕上がる。歌詞は人によっては涙腺直撃必死。

6. 抱いてHOLD ON ME!(N.Y.Mix) ★★★
水商売っぽい、キャバクラっぽさ満点の突き抜けたダンスチューン。シンセヒットやら歌詞やらがとにかく下世話な曲だが、バスドラも効いてるし踊るには最適。クライマックスの「ハァーーーーーーン」という困ったコーラスも最高だ。

7. パパに似ている彼 ★★★☆
フルートメインのフィリー調のアレンジに、バリバリのアイドル歌謡曲メロディーが乗った、爽やかで優雅でまろやかな曲。4曲目とメロディーラインが微妙に似ている。流れるような演奏と瑞々しくも甘酸っぱいコーラスが上手に混ざり合う。主旋律を殆ど歌わず、ひたすら高音パートを担当してハモり続ける矢口の何気ない健闘が光る。

8. せんこう花火 ★
安倍なつみがメインボーカルをとった曲。ソツがなくクセも無いプレーンな歌唱を披露。ピッチが危うい箇所もあるが、その危うさが人気の秘密なのだろうか。

9. 恋の始発列車★★★★
ロマンチックなメロディーと「この幸せがずっと続くかはわからないけど、とりあえず前向きに」というような、切なくも明るい歌詞。絶妙なタイミングで入れ替わったり重なったりする7人のボーカルが良い。曲が進むにつれて多幸感を増していき、クライマックスの全員でのユニゾン部分で最高潮に。澄んだ高音でハモる矢口と、安定感のある低音の保田でメインボーカルたちを支える。

10. 乙女の心理学 ★★★★☆
保田・市井をメインに据えた曲。この二人に後藤真希を加えたユニット・プッチモニの曲のような、クセのある弾けたポップチューン。隙間に妙なセリフがちょこちょこと挟まっていたりする点が「LOVEマシーン」以降のモーニング娘の音楽性の布石になっているような気がする。低音が効いていて、知らず知らずのうちに体が動いてしまう。

11. Never Forget(Large Vocal Mix) ★☆
卒業したメンバーがメインボーカルをとり、他のメンバーがみんなでコーラスを担当する、友情を感じさせる一曲。モー娘自体に深い思い入れのあるファンにはメモリアルな一曲だが、そうでなければZARD風の卒業ソングにしか聴こえない。

12. ダディドゥデドダディ! ★★★
全員でユニゾンで合唱。アルバムのしめくくりにふさわしい曲。何度も繰り返される「一回きりの青春 Oh Yeah!」というフレーズが実に切ない。「モーニング娘でこんな名盤が作れるのは一回きり、これで最後ですよ」みたいな。「一度黄金期が過ぎたら、もう二度と戻らないですよ」みたいな。

総評★★★★
「LOVEマシーン」リリース以前、トップアイドルにのし上がる以前にリリースされた、ハロプロ史、いや、アイドルポップス史に残るかもしれないモー娘最初で最後(?)の傑作。このアルバムのリリース後に訪れたモー娘全盛期の、「好きな人が優しかった 嬉しい出来事が増えました」というフレーズを4分割して交代で歌わせるような、パズルのピースの組み合わせのようなせわしないボーカルスイッチングではなく、各メンバーにまとまったフレーズを歌わせ、少しずつ楽曲のテンションを上げていくスタイルが懐かしい。どの曲からもつんく及びアレンジャー陣営の丁寧な仕事ぶりが伝わってきて、それこそ「大人数アイドルグループのアルバムの最高峰を極めよう」ぐらいの気合いを感じる。
シャ乱Qのボーカリスト/ソングライターだったつんくが作る曲は当然ベタベタの歌謡曲テイスト。そんな楽曲群にアレンジを施し、彼女たちのボーカルを乗せると、キラキラのポップスに生まれ変わる。下世話さや可愛らしさなど、モー娘の魅力を多角的に引き出す前嶋康明(1.3.6.7)、極上のサウンドと遊び心で魅せる河野伸(2.10)、生音主体で聴かせる鈴木俊介(4.12)、若きアイドル最大の武器である爽やかさを押し出す小西貴雄(5.9.11)など、各アレンジャーの仕事はどれも魅力的。彼らの名前を頼りにハロプロの楽曲を漁るのも面白い。





『PSYENCE』/hide

2008-02-12 19:29:26 | アルバムレビュー
PSYENCE/hide

1.PSYENCE ★★★
缶ジュースのふたを開封する音で始まるインスト。スパイ映画のオープニングのようなゴージャスなホーンがワクワク感を煽る。隙間を埋める打ち込みのビートと揺れまくるピアノもカッコイイ。

2.ERASE ★★
打ち込みのループと生音の融合。「趣味悪い服着てハイソなレストランへ行こう」など、迷言多数。でもこのフレーズ、異端なhideを象徴するフレーズかもしれない。

3.限界破裂 ★★★
危険な妄想男による変態的な世界。この曲もそうだが、このアルバムの歌詞はエロいのばかりだ。作中で最もベースのフレーズがメロディアスで、かなり気持ち良いグルーヴを放っている。

4.DAMAGE ★★★
全編所謂「デス声」。ナインインチネイルズヲタであったhideの趣味世界が爆発。ボーカルや曲調の割りに歌詞が比較的聴き取りやすいので、この曲は歌詞にも注目すると面白い。ロックに堅苦しい四字熟語がすんなり乗っているのだ。割とポップだった「限界破裂」の次にこんなハードな曲を持ってくるとは…。

5.LEMONed I Scream(CHOCO-CHIP Version) ★★★★
全英語詞によるミディアムな小品。まるで白昼夢を見ているかのような浮遊感が漂う。炎天下の真昼間にこれ聴いてると確実に逝く。エフェクトのかかったhideの声が妙に可愛らしくて心地よい。ゆる~く踊れる。

6.Hi-Ho ★★★
サンバのリズムに乗ってエロエロな歌詞を陽気に歌う。まさかhideがサンバで踊るとは…。代表曲が「紅」であるバンドに所属しているhideだが、この曲はとにかくカラフル。鮮やかな電飾がテラテラ点滅している様子が浮かぶ。Xとは全くカラーの違うギターソロもたっぷり楽しめる。ライブではストリッパー従えてhide、ノリノリで熱唱。さらにMステでも…。

7.FLAME ★★★★★
名曲1。X JAPANの一員でもあるhideのパブリックイメージからすると全く想像できない物凄く優しい声で、優しい言葉を丁寧に歌う。とことんメロウで切ないメロディーだが、バックではおもいっきりディストーションかかったギターがギュオーっと鳴りまくっている。ポップとハードを見事に合体させた、hide屈指の名曲。

8.BEAUTY & STUPID ★★★★
卑猥な歌詞とポップなメロディーが息つく間も無く駆け抜ける、どこか昭和の香りも漂う歌謡ロック。前曲の切なさはどこへ…。最高に踊れる、聴いていてとにかく楽しいポップチューン。サドっぽい歌詞で始まるが、後半になるといつのまにかドM男な歌詞に変貌しているのが笑える。余談だがスカパラがリミックスしたバージョンもかなりの名曲である。

9.OEDO COWBOYS ★★★
ドリフのコントで使われてそうなドタバタしていてコミカルなインスト。タイトル通り、江戸の町をカーボウイが馬で疾走しているような、逆に西部劇に出てくるような街を岡っ引きが駆け抜けているような、異文化交流を感じる曲。

10.BACTERIA ★★
デス声で熱唱。歌詞カード見ないと何言ってるか全く聞き取れない(歌詞結構面白い)。「めっちゃくちゃやってやりました」的なハードな曲だが、キャッチーなコーラスもちゃんとあるため「BEAUTY & STUPID」が好きな人でも置いてきぼりにならない。はず。

11.GOOD BYE ★★★★
ビートルズ風のサイケなバラード。前曲との曲調の落差が凄い。夕焼け空が不穏に変色していくような雰囲気。いけない薬を摂取したらこういう景色が見れるのだろうか。アグレッシブな曲が多いこのアルバムでやたら異彩を放つとともに、hideの才能の幅広さも見せる。ハマると一日中聴けそう。

12.Cafe Le Psyence ★★
バーのBGMみたいなインスト。ムーディーなピアノをフィーチャー。

13.LASSIE(demo master version) ★★
タイトル通り、デモ音源をそのまま収録したらしい。よって荒削りなミックス。歌詞は飼い犬の反抗について。人による「アォー-ン!」という遠吠えが笑える。転調して以降の盛り上がりぶりが楽しい。

14.POSE ★★★★★
名曲2。卓球のラリーのような音が聴こえてきたと思ったら機械的なリフがガーっと響き、野太いリズム隊が絡む、ヘヴィーなインダストリアル曲。作中で最もハードな曲にも思えるが、シリアスなキーボードが突然ふわっと入ってくる箇所があり、ハードなのが苦手な人でも結構聴きやすいのでは。ていうかキーボードはキモだ。絶妙すぎる。

15.MISERY(remix version) ★★★★
抜けるような青空を思わせる、超爽快なポップチューン。7曲目「FLAME」と双子のような関係にあるらしく、同じ歌詞・フレーズが登場する。しかし曲調は全く違うのでなかなか気づきにくい。ハードな曲もしっかり作りつつ、J-POP好きも大喜びな超ポップな曲も作れるhide、凄い。「これでもか!」と言うほど快感のツボを押しながらポップに上り詰めていくメロディーに、とにかくポジティブな歌詞が乗っていて、油断してると涙腺が…。

16.ATOMIC M・O・M★
エピローグのインスト。笑い声が不気味。1曲目のインストのホーンがサンプリングされている。無くてもアルバム完結しそう。

総評★★★★
hideの名曲と言えば晩年の「ピンクスパイダー」だが、それ以前に制作されたこの2ndソロアルバムも良い。リーダー・YOSHIKIの異常なまでの完璧主義ぶりのせいでなかなか新曲が完成しなかったX JAPANと対照的に、まだ黎明期だったハードディスクレコーディングを駆使して曲を作りまくっていた当時のhide。そんな彼の実験と遊びの記録がこのアルバムである。一曲一曲の方向性が見事なまでにバラバラで、「好き放題しまくりました」という感じ。ハードな曲の完成度は晩年のアルバム『Ja,Zoo』にはかなわないが、「ハードな曲を日本のヒットチャートに送り込んでやる」という明確な意思のあった晩年には無い、フットワークの軽さと楽曲パターンの幅広さ、ラフさがここにはある。音楽性が幅広いため初めは自分の好みに合ったタイプの曲にしか惹かれないかもしれないが(ポップなのが好きなら「MISERY」「Hi-Ho」、ハードなのが好きなら「POSE」など)、通して聴いているうちにどの曲にもハードな面とポップな面が共存していることに気付く。全16曲の曲順は聴きやすさを徹底的に無視。凄く唐突。メロウな曲の次に超ハードな曲を持ってきたり、アグレッシブに盛り上る曲の次に、熱を一気に冷却させるかのようなバラードを持ってきたり。多分ランダム再生モードにしても全く変わらぬ印象で聴けるだろう。

 

『All of タンポポ』/タンポポ

2007-12-18 23:11:31 | アルバムレビュー
『All of タンポポ』/タンポポ


1. 乙女 パスタに感動 ★★★
明るく楽天的なギターのリフに導かれて思わず体を揺らせてしまう、木村カエラが歌ってそうな愉快で楽しいポップロック。アレンジは2期タンポポの世界観をつんくと共に支えた永井ルイ氏。言葉の語尾を繰り返すバカっぽくも楽しげなバックコーラスがこの曲のキモだろうか。「ビデオ返しわすれた(れたれたれたれた…)」の部分が妙に耳に引っかかる。

2. 恋をしちゃいました!★★★★
1曲目を引き継ぐガールポップ。アレンジは、モー娘を語る上で欠かせないダンス☆マン率いる「THE BAND MAN」のキーボディストでモー娘の数々のヒット曲での演奏も担当、さらに松浦亜弥「LOVE涙色」のアレンジも担当した渡辺チェル氏。タフで陽気なドラムとギターがウキウキ感を増幅させる。間奏の優雅なチェンバロ・ストリングスにも並々ならぬ気合を感じる。曲名と携帯メールが登場する歌詞からYUIの「CHE.RR.Y」を思い出すが、6年前に発表されたというこの曲の方が、つんく作詞だけあってシチュエーションに凝りまくっている。「デートの途中にメールした」の部分が秀逸。よく思いつくなこういうの。

3. 王子様と雪の夜★★★★
鈴と鐘の音がフィーチャーされたクリスマスソング。永井ルイ氏のアレンジ。ありがちなベタな曲かと思わせるが、間奏にふと入ってくる、ワイルドなギターソロが異彩を放つ。冒頭の「テレビを見てたら不安になっちゃって」のくだりは、この曲が発売された2001年末の情勢を反映したものだろうが、当時も今も、世界情勢は嫌になるほど変わっていない…。歌唱力のレベルの違う4人の歌がパーツのように組み合わさって構成された曲なので聴いてると「下手だなぁ…」と笑いそうになるパートもあり、それが良いフックになっている。

4. ラストキッス ★★★★
1~3曲目が4人体制の2期タンポポで、この4曲目から7曲目までは3人体制の1期タンポポ。1期と2期は元々のコンセプトが全く違うようで、ここからアルバムのカラーが変わる。1~3曲目は生音主体だったがここからはクールな打ち込み主体。ストリングスにわざわざ金原千恵子たちを起用していて1期とは力の入れようが異なっている。
切なすぎる歌詞を容赦なく煽る冷たい質感のメロディーとキーボードが美しい。

5. Motto★★★
ディープなR&B曲。歌詞もぐっと年齢が上がっている。ここではベースにウィル・リー(12年前スマップのアルバムに起用された時業界中で大騒ぎになった名手)を起用。やはり力の入れ方が違う。アレンジャーはハロプロで傑作を生み出しまくりの河野伸。グルーヴィーなリズム隊とシンセの絡みが印象的だが、メンバーのコーラスワークもなかなかのもの。

6. たんぽぽ(Single Version) ★★
前2曲とは打って変わってありがちな、軽快で爽やかなポップス。大人びた歌い方と爽やかな音のギャップが結構面白いが、曲としては平凡か。

7. 聖なる鐘がひびく夜★★
1期メンバーによるクリスマスソング。曲の雰囲気は2期のメンバーが歌ってもおかしくなさそうなノリだが、こちらのメンバーの方が歌唱力が上なのでハモリが綺麗である。綺麗過ぎてよくありがちなクリスマスソングになってしまっている。

8. I & YOU & I & YOU & I★★★★★
2期による曲。2期の曲はもう「ポップロックしかやりません!」という感じなのだろう。アレンジャー・永井ルイ氏によるクイーン風のブリティッシュロックアレンジが上手くハマっている。独特な歌唱力を生かすにはコレしかない。妙な曲名だが聴いてると涙が出そうになる、「恋をしちゃいました!」の進化形にしてタンポポの最高傑作(個人的には、ね)。

9. 誕生日の朝★★★★
1期による曲。じわじわと盛り上がっていく曲とコーラスが美しい。つんく、良いメロディー作るなぁとただただ感心。これが出た頃ってモーニング娘もそこまで売れてなかったはずだし、仕事量も少なく全力投球出来たのだろう。

10. A Rainy Day★★
1期による、スカ風味な曲。異様にうねるベースプレイと妖艶なエレピが耳に気持ちよい。歌声がうまくまとまり過ぎている気がするので、その分聴き所はオケにあるのでは。

11. BABY CRY★
2期による、生バンドを迎えて作られた曲。メロディーに妙にやっつけ仕事感がただよう。ここまではキャッチーな良メロ連発してたのにね。悪っぽいイメージを打ち出そうとしたのだろうが、あまりハマっていない。この曲はライバル(?)のプッチモニの方が合うような。

12. 年末年始の大計画 ★★★★
2期による曲。穏やかながらも幸せムードが漂うメロディーを彼女らなりに壮大に歌う。変な曲名だが、アルバムのラストに収まっていそうな感動的な曲である。2期でオリジナルアルバムを作ってないというのが何とも勿体無い。

13. たんぽぽ(Grand Symphonic Version)★★★
新加入した2期のメンバー2人のボーカルを加えて再録。総勢5名での新バージョンである。若いのに器用で芸達者な加護と不器用ながらも可愛い声の石川が参加し、原曲とはかなり違う印象に。ボーカル新録だけでなく新たなアレンジも施されている。優雅ながらも素朴なオーケストラサウンドがまさに「タンポポ」といったところだろうか。

総評★★★★
モー娘から派生したユニット・タンポポがリリースした全シングルなどを収録したベスト。構成メンバーによって1期と2期に分かれている。打ち込み主体で作られたクールな音と流麗なストリングスが印象的な、大人なイメージ1期と、生音主体で作られた、可愛らしいブリティッシュポップな2期(永井ルイGJ!!)。どちらもなかなか魅力的だが、歌唱力の弱さを武器にしてしまっている2期が特に面白い。メンバーの歌唱力の差がかなりあるように聴こえるが(誰がどの声かはモーヲタに聞こう)、曲自体がポワンとしているので下手な歌でも妙にマッチしている。歌詞に出てくる「あなた」はどれも「派手さは無くて平凡だけど優しくて素敵な人」という設定。ゆえに聴き手の妄想が入る隙間が上手いこと用意されている。勘違いして魅了されてしまった男ファン、めっちゃくちゃ沢山いたんだろうなぁ。1期と2期の曲が混在しているのでアルバムとしてのまとまりは皆無だが、それだけ幅広い音楽性が楽しめる。つまんない曲も一部あるものの、出来のよいガールポップが聴きたければおすすめの一枚。中古で250円が相場だし。



『Kiss』/L'Arc-en-Ciel

2007-11-27 23:30:34 | アルバムレビュー
フラゲしてから一週間。とりあえず載せておこう。

『Kiss』/L'Arc-en-Ciel

01. SEVENTH HEAVEN
4つ打ちディスコ。「ロックバンドがこんな曲やる必要あんのか?」という意見と「生バンドでディスコが鳴らされる迫力がたまらん」という意見に分かれるのだろう。自分は後者。リズム隊がしっかりしてるバンドなんだからこういう曲やらないと勿体無いのでは。tetsuやkenほどメロディアスじゃないhydeの曲にディスコアレンジが結構ハマっている。美しいメロディーではなく、単純な展開のループで聴き手を幻惑させる。サビが何処だかイマイチよくわからないので「幻惑」ではなく「困惑」かもしれないが。

02. Pretty girl
ラルクらしからぬ軽薄な歌詞と、時にギターを食う勢いで鳴らされるホーンという、やりすぎ一歩手前の歌謡ロックアレンジが光る一曲。隙間無く詰め込まれるドラムと極太なのにメロディックなベースのフレーズが耳に気持ち良い。この二人が居なかったらオレンジレンジ風のチャラい曲に仕上がったかもしれない。ちなみに、一見軽薄な歌詞だが、作詞者kenがレコーディング中にハマっていた花札のあそびの一つ「こいこい」を思わせるフレーズが散りばめられている。冒頭の歌詞は「夢を見ていたよ濃い恋する夢 何でも上がってく」…意外に練られた歌詞である。

03. MY HEART DRAWS A DREAM
軽薄ムードを断ち切るシリアスなU2風のギターリフが響くイントロから、とことん抑えたAメロへ。以降、階段をスムーズに駆け上ったり転がり落ちたりする予測不可能のメロディーが紡がれる。それをきっちり歌いこなすhydeの歌が素晴らしい。サビの地声からファルセットへ切り替わる部分はこの曲のハイライト。Aメロで鳴ってるアルペジオも鳥肌モノ。案外あっさりと終わるラストを、スマートだと感じるか物足りないと感じるかは趣味の問題か。

04. 砂時計
夜空から何か降りてくるような(砂?)イントロからスムーズにAメロ→Bメロ→サビ…と連なる。必殺技でも繰り出すが如く、狙い通りビシっと決まったサビ前のブレイクが秀逸。作詞者・tetsuの溢れんばかりのメッセージがドサっと詰まっていそうな歌詞だが、「誰かの願いが叶うころ あの子が泣いてるよ」の一言で要約できる。

05. spiral
単調ながらもインパクトのあるメロディーを叩きつけてくる曲。ソロの時のhydeのワイルドな声でガンガン歌われてたら迫力満点だったかもしれない。多分、生歌だと映えるであろう曲。

06. ALONE EN LA VIDA
ふわふわと色気を振りまき、聴き手を幻惑しようとする、異国情緒溢れる曲。この曲の雰囲気はラルクの2ndアルバム『Tierra』によく似ている(あの当時のヴィジュアルでこの曲を演奏されたら困るが)。聴き手に各々の「郷愁」を想起させるような雄大なアレンジ。ひたすら涙を誘おうとしてくる綺麗なメロディー。ハマれば抜け出せなくなるだろうし、ハマらなければ右から左へスーっと流れていくだけで終わるだろう。

07. DAYBREAK'S BELL
「OPには聴いてテンションが上がる曲を!」と熱望するガンヲタに総スカンをくらっていたシングル。「こんな形の出会いしかなかったの?悲しいね」という歌詞が皮肉である。ガンヲタよ…。流れるような美メロはラルクに魅了されたヲタにはたまらないが、アニソンとしてはインパクトに欠けているのだろう。Aメロ・Bメロでほぼ逆方向に突き進んでいるようなベース・ドラムが、一気にシンクロするサビが聴き所。2番Aメロの風のようなギターのフレーズも聞き逃せない。

08. 海辺
出だしの打ち込みがちょっとありきたり過ぎやしないだろうか。ブリッジ部分「許されるなら~」あたりは、もうちょっとカオスな演奏が聴けるとラストの盛り上がりも映えたかもしれない。

09. THE BLACK ROSE
「hydeのソロ曲をラルクでやってみてほしい」という些細な願いを叶えてくれる曲。強力なリズム隊とスリリングなホーンが、hydeならではのサビで無理やり爆発するメロディーを、より一層盛り上げる。ラスト1分は冷や汗モノの名演。
空間をじわじわ埋めるギターも、血の滴りを思わせる歌詞を引き立てていて良い。hydeのソロに似てる、という意見をよく見るが、こんな曲ソロじゃ絶対聴けないはず。

10. Link -KISS Mix-
ふわっと噴出するようなサビのメロディーを引き立てる抑え目のBメロがこの曲のキモか。それにしても、ラルクがこんな跳ねたリズムの曲を生み出すとは。もう何でもアリだな。しかも作曲したのはブラックミュージックなんて全く興味無さそうなtetsu。この曲がリリースされた当時、同時にエグザイルとグレイのコラボレーション曲も発売されたが、エグザイル、グレイじゃなくラルクとコラボした方がハマってたりして。

11. 雪の足跡
手数の多さ、機械と完全にシンクロ出来る正確さが売りだったyukihiroだが、この曲では彼らしいプレイがやや希薄。かなり素朴な演奏を披露している。胸に手をあて懺悔したくなるパイプオルガンが冒頭で響くが、歌詞は日常風景を描いた異色の曲。でも、思わぬ所まで上りつめる奇特な歌メロ聴いてると「やっぱラルクだなぁ…」と感じさせられる。

12. Hurry Xmas
ゴージャスなジャズアレンジが施されているが、メロディー自体はいつものhydeそのもの。「HONEY」のような、勢いまかせの暴れ馬メロディーである。そんな曲をジャジーなクリスマスソングにしよう、という試みを実行し、「ディズニー映画みたい」と聴き手に思わせるほどの完成度まで持っていくラルクにとりあえず拍手を。ランニングし続けるベース…お疲れっす。


総評
「ディスコやりたい」「クリスマスソング作りたい」「美メロを極めたい」といったアイディアを過剰なまでに突き詰めまくったような曲が殆どである。その過剰さを「最高だ!」と思うか「やりすぎだろ…」と思うかで、どうしても賛否両論を生んでしまうのだろう。個人的にはこの過剰さがとても楽しかったので満足。「ラルクはこうでなくては」的な思い込みが無く、「何でもやる雑食バンド」という認識があれば多分とことん楽しめる。相変わらずリズム隊が大活躍してるアルバムなのでもっと聴き込むとさらに楽しめそうだ。
そういえば、このアルバムのインタビューでhydeは「作詞してると、大体2Aの部分で核になる言葉をあてはめちゃう」と発言している。2Aとは2番のAメロ。「1Aは出だしだから重要な言葉を乗せにくいし、サビはキャッチーにしなきゃいけないからやっぱり重要な言葉を乗せにくい」とのこと。これを手がかりに歌詞を読むと面白いかもしれない。
    




『PLAY』/安室奈美恵

2007-10-20 21:25:00 | アルバムレビュー
『PLAY』/安室奈美恵

1. HIDE&SEEK ★★★★
冒頭のホーンに意表をつかれ、天井無しで曲のテンションがグイグイと上がっていく。マーチ風、軍隊風なビート。このアレンジが、ムチを手にしたジャケに繋がったのだろうか。「いつ息継ぎするんだ?」と心配してしまうような難易度の高そうな曲を、余裕で歌いこなす安室、頼もしい。

2. FULL MOON ★★★★
冒頭で銅鑼がボォォ~ンと鳴り響く。これまた意表をつくアレンジ。ゆらゆらしたファルセットで色っぽく歌う。ポヤーンとしたエフェクトがかかったボーカルが色気増幅。タイトルにあるように、満月の力で発情しちゃった、みたいな曲。わかりやすい盛り上がりポイントが無いのでボーっとしながら聴いてると、淡々としていて印象に残らない曲にしか思えないかもしれないが、このボンヤリ感はハマると病みつきになる。

3. CAN'T SLEEP, CAN'T EAT, I'M SICK ★★★
ちょっとイライラしてる時に聴くと軽くムカっとくるような陽気なホーンのループが楽しい曲。洋楽R&Bから直輸入したような曲だが、一曲の中で声質をコロコロと変えて歌う点になんとなく安室らしさがうかがえる。囁くような歌唱で、曲名から伺える色ボケぶりを見事に表現している。

4. IT'S ALL ABOUT YOU ★★
色ボケしてたと思ったらこの曲では相手に愛想を尽かしたかのように攻撃的。ノイズが随所でガーガー鳴りまくり。アルバム中で最もぶっ壊れた安室を堪能できる一曲。そんなもの堪能したくない人には用の無い一曲か。

5. FUNKY TOWN ★★★
CMでよくかかってた曲。ノリノリで踊る安室が目に浮かぶ。キャッチーかつファンキー過ぎてアルバムの中で妙に浮いている気がするが曲自体は良い。「アーゥ!」「ウー!ハッ!」という、荒っぽい男の合いの手のループにまで耳を澄ませて笑おう。終盤にブレイクタイムも用意されているので、安心して踊りながら聴くのがベストだろう。

6. STEP WITH IT ★
スタイリッシュなR&Bだが、1~5曲目に妙にアクの強い曲ばかりが揃ってしまったのであまり印象に残らない。こういうのならクリスタルケイとかも歌ってそうだしな。歌詞はそこそこ過激。「FUNKY TOWNで男と踊り狂い、その後…」みたいな。

7. HELLO ★★
「私、今忙しいからあなたからの電話に出てるヒマないの」みたいな曲。電話のベルの音が良いアクセントになっている。男に振り回されないカッコイイ女・安室を演出したのだろう。個人的にこんなじらしプレイをされてもムカつくだけだが、M男は喜ぶだろう。

8. SHOULD I LOVE HIM? ★★★★
コーラスを重ねた切ないバラード。前曲は男を振り回す女だったが、今度は逆に翻弄されている。ここまで殆ど攻めっぱなしだったのでここらでクールダウン。安室の歌うバラードというと大味で壮大、みたいなイメージがあったが、この曲は、ちゃんとアルバムのカラーに合うシックなものになっている。

9. TOP SECRET ★★
また攻めモードに戻る。アグレッシブに歌ったり囁いてみたり。インパクト大のスリリングなシンセがイントロで鳴り、かなり期待を煽られるが、サビの盛り上がりが今ひとつ。…いや、確かに盛り上がってるのだが、もう一ひねり…。全体を貫くシリアスな雰囲気はかっこいいけれども。

10. VIOLET SAUCE(SPICY) ★★★
ヘヴィーなギターのリフが随所でうなる、終始ミステリアスでロックな曲。サビの「dip it in the sauce」の部分が延々繰り返されるので、一通り曲を聴いただけであのメロディーが耳から離れなくなる。歌詞にあるように「マインドコントロール」されるのかもしれない。曲の終わり方に幻惑される。

11. BABY DON'T CRY ★★★★
雨上がりの爽やかな空気を感じさせる、軽やかなミディアム曲。水滴が日に照らされてキラキラしてる感じも音からなんとなく想像できる。寂しげ歌い出しから優しく元気付けるような開放的なサビへの展開と歌詞が密接にリンク。
苦労人・安室が歌う「諦めないで」「良くなる方にとらえたら?」というメッセージは重く響き、説得力もある。どうでもいいが、「don't cry」と「どのくらい」をかけた曲って多いなぁ。

12. PINK KEY ★★★
エンドロールのような曲。一曲目を盛り上げた鼓笛隊たちが再びやってきたような趣き。前向きな歌詞で埋め尽くされた、実に軽く可愛らしいポップス。終盤の「Now is time to find your way」から冒頭の「left right」に戻る展開は感動的。

総評 ★★★☆
本格R&Bを取り込み、持ち前の歌唱力で表現するというスタイルもなんとなく定着した安室。とにかく濃いトラックばかりだが、洋楽直輸入の楽曲に染まりきっているわけではなく、いくつかの曲では全盛期のアイドル性も微かに感じられる。故に「路線変更後の安室はちょっと…」な人でも結構聴けるのでは。普段R&Bを聴かない人も、人によっては一癖も二癖もあるトラックにハマる可能性があるので、試聴して一曲目か二曲目のイントロに心を掴まれたら、レンタルするなりして全部聴いてみることをすすめる。「HIDE&SEEK」聴いて腰が動くか動かないかで聴くべきか否かが決まる。一曲の中で、R&B仕様だったりJ-POP仕様だったり、囁いてみたり呟いてみたり鼻歌を歌ってみたり、様々なボーカルスタイルに挑戦しまくっているので飽きにくい。


 

『Queen of Hip-Pop』/安室奈美恵

2007-09-18 19:29:25 | アルバムレビュー
『Queen of Hip-Pop』/安室奈美恵

1. Queen of Hip-Pop ★★★★
強気なシンセとキックが冒頭から鳴り響き、切なさと力強さを備えた安室のボーカルが絡む。アルバムの導入として完璧である。シンセが抜ける少々寂しげなブレイク部分も聴き所。「夢は見るんじゃない 手にするのがstyle」というフレーズ、小室時代の某大ヒット曲を思い出す。

2. WANT ME, WANT ME ★★★
三味線と尺八のような音がループする、オリエンタルというか中東を思わせる、スピード感溢れる曲。一歩間違えば「買い物ブギ」(歌:笠置シヅ子)になりそうなコミカルさを孕んでいるが、スリリングなキックと悩ましげな歌詞が曲をカッコよく繋ぎ止めている。

3. WoWa ★★
マーチのリズムに乗って「踊ろう踊ろう」とひたすら誘う。こういう曲最新アルバムにもあったなぁ。最新アルバムに入ってた曲に比べて可愛らしくノリやすい。

4. I Wanna Show You My Love ★★
歌詞はファンに向けての「応援ありがとう」のメッセージだろうか。曲も、ライブでのコール&レスポンスが想起される部分が沢山ある。低い声でじわじわと攻めて来て、曲の温度が高まっていくにつれて声もどんどん高くなっていく。

5. GIRL TALK ★★★★
J-POPシンガー安室と、彼女が好むR&Bがごくごく自然に折衷され、とても聴きやすい音楽に昇華された。冒頭のレコード再生直前のノイズの後に流れる古めかしいストリングスがふと飛び込んでくる部分がなかなか感動的。トラックがかなり緻密に作りこまれているのでカラオケバージョンも聴いてみたいが、安室の歌も素晴らしい。力一杯歌い上げたり囁いたりと変幻自在である。

6. Free ★★
ややダークで、重低音とトリッキーなシンセが胸に響く曲。地を這うようにジリジリと攻めるが、サビは宙に浮かぶような妙な浮遊感がある。地味な印象を抱きやすい曲だが、終盤の一瞬フワっと舞い上がるボーカルは必聴。安室本人が作詞。タイトル通り、周囲にとらわれず自由にやっていく宣言をしている。

7. My Darling ★★★★
ロックスターの彼氏にメロメロになってる女の子、という内容の歌詞なので、ディストーションギターが要所でピロピロガーガー鳴る。荒っぽい男もボーカルで参加。男のノリが滑稽でちょっと笑える。ややハードロックテイストの曲の中で、可愛らしく歌ったり荒っぽく歌ってみたりと、様々なアプローチが成されている。「millionどころじゃないbillionうならせるアラブのセレブも驚く成り上がり」というフレーズの押韻が秀逸(?)。詞曲共に、ブラックミュージックの味が散りばめられたこのアルバム中で異色の存在。ロック好きには色んな意味で楽しめるだろう。

8. Ups & Downs duet with Nao'ymt ★★★★★
このアルバムのハイライト。男性シンガーと共演した、優しく温かいミディアム曲。共演したNao'ymt、繊細で柔らかな美声の持ち主である。この男、近年の安室に大量に詞・曲を提供し続けているソングライターでもある(このアルバムだと1.3.6.8.12)。何者だよコイツ…才能ありすぎ。歌詞も良い。「mama always said to me 'stay strong'」なんてフレーズを安室に歌わせるなんて…Nao'ymtの狙い通り、ホロリとしてしまったではないか。

9. I Love You ★
軽やかで可愛らしいポップソング。歌詞も非常に女子っぽい。でもアルバム全部聴いた後でこの曲をもう一度聴くと「ブリっこめ…」という感じである。鳴ってる音がどこかクリスマスっぽい。

10. ALL FOR YOU ★★
明らかに浮いている壮大なバラード。ブラックミュージックの香りがしない。いかにも「ドラマタイアップ用に作っときました」的な曲である。良い曲だけどこのアルバムに入れられてもなぁ…単体で聴くのが望ましい。

11. ALARM ★★★
メロディー皆無の、ひたすら静かにクールに攻める曲。これをシングルに切った安室及びスタッフって一体…殆ど売れてないはず。「もう売れ線は出しません」という意思表示のつもりだったのだろうか?でも安室は歌唱力あるからここまで単調な曲歌わせるのは、いくらカッコよく仕上がってても勿体ない。

12. No ★★★
極太シンセと観衆の手拍子と強気のメッセージ。このアルバムのエンドロールのような曲である。中盤の「say」のループがちょっと笑えるけど、基本的にはクールな曲。Noと言えない日本人なんて言わせません。ラストの「NaNaNaNaNaNa…」もオズマよりカッコいいっす。この曲が終わって数十秒後に始まるシークレットトラック優しいバラードも聞き逃せない。歌詞的にタイトルは「YES」か?これを「ALL FOR YOU」の替わりに入れればよかったのに。

総評★★★☆
本場のブラックミュージックとメロディアスなJ-POPを混ぜ合わせた結果たどり着いた音楽=hip-pop。「ヒップポップ」…言いたいことは伝わるが妙に恥ずかしい響きである。でもこれ以上に適切な言葉無いか…。ブラックミュージックとポップスを合体させたものとしては最新作『PLAY』の方が完成度が高い。合体させたというよりは、単調なメロディーをぐいぐい歌うリズム重視の曲・メロディアスで切ないR&B・踊れるダンスナンバーがそれぞれ混在している感じである。曲によってJ-POP好きには「メロディー無いじゃん!」、ブラックミュージック好きには「歌謡曲じゃん」と様々な方向からツッコまれそうなアルバムだが、「Queen of Hip-Pop」「GIRL TALK」「Ups & Downs」辺りは双方のリスナーも楽しめるだろう。捨て曲・手抜き曲は特に無く、一曲一曲丁寧に緻密にこだわって作られた痕跡がある。安室(と謎の男・ Nao'ymt)は何気にエイベックスの良心と言えるかもしれないな…。