新しい感染症の多発と地球環境破壊ー資本主義による「物質代謝の攪乱
資本主義の体制的矛盾のもう一つの重大な現われー地球的規模での環境破壊と、感染症のパンデミックとは深い関わりがあります。
新しい感染症ー環境破壊によって動物がもっているウイルスが人間に
人類の歴史のなかで、感染症の流行は、人類が定住生活を始めた以来のものといわれています。
ただ、この半世紀くらいは、新しい感染症が次々と出現しています。
エイズ、エボラ出血熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ、ニパウイルス感染症、腸管出血性大腸感染症、ウエストナイル熱、ラッサ熱、新型コロナウイルス感染症などです。この30年間に少なくとも30の感染症があらたに出現しているとのことです。出現頻度が高すぎるーこれが多くの専門家の指摘であります。
この要因はどこにあるのでしょうか。多くの専門家が共通して指摘するのが人間による生態系への無秩序な進出、熱帯雨林の破壊、地球温暖化、それらによる野生生物域の縮小などによって、人間と動物の距離が縮まり、動物が持っていたウイルスが人間に移ってくる、そのことによって新しい感染症が出現していると言うことです。
世界自然保護基金(WWF)の告発と「ワンヘルス」アプローチの呼びかけ
それでは、どのような形で動物から人間へウイルスが移ってくるのでしょか。
世界100ヶ国以上で活動しているNGO・世界自然保護基金(WWF)は、6月17日、次のパンデミックを防ぐための緊急行動を呼びかける「報告書」を発行しています。次のパンデミックを何として防がなければならないという「報告書」です。そのなかで、動物由来感染症の主要な要因として次の三つの点を指摘しています。
一つは、森林破壊などにより生じた新たな病原源体との接触です。
WWFの「報告書」はエボラ出血熱の起源についてこう指摘しています。「多くの研究者は、西・中央アフリカの森林減少率とエボラ出血熱の直接結びつけている。西アフリカにまたがるギニアの森林では、カカオ、パーム油、ゴムなどの農産物の栽培により、大規模な森林伐採が行なわれ、森林の分断が広がっている。世界の熱帯林の20%を占めるコンゴ盆地では、農業用の零細農家の森林伐採や大規模の商業伐採により、年間100万㌶以上の樹木が失われている。研究者たちは、これらの地域での大規模な森林伐採により、人間とオオコウモリや霊長類などの潜在的なエボラ宿種間との接触が増加し、宿主から人間への感染の可能性が高まると考えている」
二つは、自然との調和を欠いた農業や畜産の拡大です
WWFの「報告書」は、1988年のマレーシアでのニパウイルス感染症ー重い脳炎を引き起こす感染症の大流行について、次のように述べています。「1970年代から1990年代にかけて、マレーシアでは豚とマンゴウの生産が3倍に増加し、自然の生態系に侵入した。農家は通常、豚の囲いの横にマンゴーの木を植えていたが、これがオオコウモリを引き寄せた。科学者たちは、豚がコウモリの唾液や尿で汚染された果物を食べてことで、ウイルスが拡散したのではないかと考えている」。こうして数千頭の豚が飼育されていた農場で、人間への感染が広がったのであります。
三つは、病原体を感染させる野生生物の取引です。
WWFの「報告書」は、2002年に中国から流行が広がったSARSの発生についてです。次のように指摘しています。「決定的な証拠はないが、この病気の初期発生は、広東省の野生動物市場で感染したジャコウネコやタヌキが人間と接触したことが原因である可能性がたかい。また、SARSの発生は、野生の小型肉食哺乳類の違法取引と関連があるという研究もある」
こうした三つの点を告発しているわけですが、これらのどれもが、人間による無秩序な生態系への侵入、環境破壊が、あらたな感染症をもたらしたことを示しています。コウモリがよく登場します。コウモリは、「ウイルスの貯水池」と呼ばれるように、たくさんの感染症を媒介している動物ですが、生態系のなかで重要な役割をはたしており、害虫を食べる益獣とも呼ばれています。コウモリからすれば人間から離れて暮していたのに開発ですみかを追われる。挙げ句の果てに捕獲されて市場で取引される。迷惑な話なのです。人間の側に問題があるのです。
新型コロナウイルスの発生源は、いまだに特定されていませんが、同様の流れの中で出現したものと考えられます。
ここには最大の利潤を得るためには生態系の破壊もためらわない資本主義という体制そのものの矛盾が深刻な形で現われているではありませんか。
WWFは「報告書」の中で、次のパンデミックを防ぐうえで、健全な環境、人間の健康、動物の健康を、一つの健康と考える「ワンヘルス」アプローチを提起しています。具体的には、①感染症を感染させる恐れのある野生動物の取引と消費を抑制すること、②森林破壊を防ぎ土地利用の転換を抑止ぇすること、③持続可能な食糧の生産と消費が可能な社会に移行する必要性を訴えています。
動物とヒトとそれをとりまく生態系の健康を、一つの健康ととらえる「ワンヘルス」アプローチは、地球の未来、人類の未来にとってきわめて重要な考え方ではないでしょうか。私は、国際社会が、新型コロナ・パンデミックの経験を踏まえて、次のパンデミックを防ぐために緊急の行動に取り組むことを呼びかけたいと思います。
(つづく)
資本主義の体制的矛盾のもう一つの重大な現われー地球的規模での環境破壊と、感染症のパンデミックとは深い関わりがあります。
新しい感染症ー環境破壊によって動物がもっているウイルスが人間に
人類の歴史のなかで、感染症の流行は、人類が定住生活を始めた以来のものといわれています。
ただ、この半世紀くらいは、新しい感染症が次々と出現しています。
エイズ、エボラ出血熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ、ニパウイルス感染症、腸管出血性大腸感染症、ウエストナイル熱、ラッサ熱、新型コロナウイルス感染症などです。この30年間に少なくとも30の感染症があらたに出現しているとのことです。出現頻度が高すぎるーこれが多くの専門家の指摘であります。
この要因はどこにあるのでしょうか。多くの専門家が共通して指摘するのが人間による生態系への無秩序な進出、熱帯雨林の破壊、地球温暖化、それらによる野生生物域の縮小などによって、人間と動物の距離が縮まり、動物が持っていたウイルスが人間に移ってくる、そのことによって新しい感染症が出現していると言うことです。
世界自然保護基金(WWF)の告発と「ワンヘルス」アプローチの呼びかけ
それでは、どのような形で動物から人間へウイルスが移ってくるのでしょか。
世界100ヶ国以上で活動しているNGO・世界自然保護基金(WWF)は、6月17日、次のパンデミックを防ぐための緊急行動を呼びかける「報告書」を発行しています。次のパンデミックを何として防がなければならないという「報告書」です。そのなかで、動物由来感染症の主要な要因として次の三つの点を指摘しています。
一つは、森林破壊などにより生じた新たな病原源体との接触です。
WWFの「報告書」はエボラ出血熱の起源についてこう指摘しています。「多くの研究者は、西・中央アフリカの森林減少率とエボラ出血熱の直接結びつけている。西アフリカにまたがるギニアの森林では、カカオ、パーム油、ゴムなどの農産物の栽培により、大規模な森林伐採が行なわれ、森林の分断が広がっている。世界の熱帯林の20%を占めるコンゴ盆地では、農業用の零細農家の森林伐採や大規模の商業伐採により、年間100万㌶以上の樹木が失われている。研究者たちは、これらの地域での大規模な森林伐採により、人間とオオコウモリや霊長類などの潜在的なエボラ宿種間との接触が増加し、宿主から人間への感染の可能性が高まると考えている」
二つは、自然との調和を欠いた農業や畜産の拡大です
WWFの「報告書」は、1988年のマレーシアでのニパウイルス感染症ー重い脳炎を引き起こす感染症の大流行について、次のように述べています。「1970年代から1990年代にかけて、マレーシアでは豚とマンゴウの生産が3倍に増加し、自然の生態系に侵入した。農家は通常、豚の囲いの横にマンゴーの木を植えていたが、これがオオコウモリを引き寄せた。科学者たちは、豚がコウモリの唾液や尿で汚染された果物を食べてことで、ウイルスが拡散したのではないかと考えている」。こうして数千頭の豚が飼育されていた農場で、人間への感染が広がったのであります。
三つは、病原体を感染させる野生生物の取引です。
WWFの「報告書」は、2002年に中国から流行が広がったSARSの発生についてです。次のように指摘しています。「決定的な証拠はないが、この病気の初期発生は、広東省の野生動物市場で感染したジャコウネコやタヌキが人間と接触したことが原因である可能性がたかい。また、SARSの発生は、野生の小型肉食哺乳類の違法取引と関連があるという研究もある」
こうした三つの点を告発しているわけですが、これらのどれもが、人間による無秩序な生態系への侵入、環境破壊が、あらたな感染症をもたらしたことを示しています。コウモリがよく登場します。コウモリは、「ウイルスの貯水池」と呼ばれるように、たくさんの感染症を媒介している動物ですが、生態系のなかで重要な役割をはたしており、害虫を食べる益獣とも呼ばれています。コウモリからすれば人間から離れて暮していたのに開発ですみかを追われる。挙げ句の果てに捕獲されて市場で取引される。迷惑な話なのです。人間の側に問題があるのです。
新型コロナウイルスの発生源は、いまだに特定されていませんが、同様の流れの中で出現したものと考えられます。
ここには最大の利潤を得るためには生態系の破壊もためらわない資本主義という体制そのものの矛盾が深刻な形で現われているではありませんか。
WWFは「報告書」の中で、次のパンデミックを防ぐうえで、健全な環境、人間の健康、動物の健康を、一つの健康と考える「ワンヘルス」アプローチを提起しています。具体的には、①感染症を感染させる恐れのある野生動物の取引と消費を抑制すること、②森林破壊を防ぎ土地利用の転換を抑止ぇすること、③持続可能な食糧の生産と消費が可能な社会に移行する必要性を訴えています。
動物とヒトとそれをとりまく生態系の健康を、一つの健康ととらえる「ワンヘルス」アプローチは、地球の未来、人類の未来にとってきわめて重要な考え方ではないでしょうか。私は、国際社会が、新型コロナ・パンデミックの経験を踏まえて、次のパンデミックを防ぐために緊急の行動に取り組むことを呼びかけたいと思います。
(つづく)