6.教師が学習指導要領を離れられない理由
【アンケートⅡ】
ア.教科書をやらねばならないとおもっているから・・・42人
イ、仮説の本当の楽しさを知らないから・・・・・・・・35人
ウ.教科書をやっていた方が安全・・・・・・・・・・・16人
エ.教科書をやっていた方がラクだから・・・・・・・・16人
オ.他人がつくった受業書をそのままやるのは、教師の権威にかかわる・・14人
カ.勉強はいやいや我慢してやるものだろ思っているから・・10人
キ.他のクラスと違いことをするのに抵抗がある・・・・・2人
ク.授業のスタイルを変えるのはなかなかできない・・・・2人
ケ.入試があるから・・・・2人
コ、理屈をきちんと説明し、納得させないままで、中途半端になるから・・・2人
7 学習指導要領にとらわれない授業をはじめた教師の特徴
①授業観
第一の特徴は授業観の違いにあるのではないかと思う。
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板倉氏には、授業観について次のような提起があります。
A 楽しくて、分かる授業
B 楽しくなくて、分かる授業
C 楽しくなくて、分からない授業
D 楽しくて、分からない授業
板倉氏の【授業の善し悪し】の順序は次の通りだというのです。
1番 A 分かって、楽しい授業
2番 C 分からなくて、楽しい授業
3番 D 分からなくて、楽しくない授業
4番 B 分かって、楽しくない授業
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この授業観は、板倉氏一流の皮肉かと疑いましたが、そうではないのです。「楽しくなくて、分かる授業」は、洗脳に通じるものがあるから、一番悪いと言います。たしかに、勉強はいやいややるものであり、受験が終わったら、もう勉強はしないという大学の状況を考えると、楽しくない授業を押しつけた「成果」ではないかと思われます。
しかし、仮説実験授業によって「授業の楽しさ」に開眼した教師には、この板倉氏の序列が分かるのです。そういう意味では、教師自身にとっても、仮説実験授業は「たのしい授業」になっているのです。
②学習指導要領の拘束性
第二は、教科書・学習指導要領にどのくらい拘束性を感じているかということです。あなたの周囲で、「仮説実験授業のよさ」を知りながら、仮説実験授業を取り入れない理由は何だと思いますか、との問には、「教科書の授業から離れられない」との答えが多数を占めています。
受験のために、教科書から離れられないという答えが多いのは、とくに中学校では、ほぼ全員が高校受験という条件では、いたしかたない面があります。しかし、はるかに多くの中学校の教師の方が、授業を工夫して時間をつくり、仮説実験授業を実施しています。
高校では、進学校ではあまり実施されていません。しかし、進学校で実施しているクラスでは、「生徒から歓迎されている」との報告があります。
理科を「進学の受験」につかわない生徒が多くいることを考えると、50%以上のクラスでは、教科書をそのまま使う必要はないわけです。それを考えると、教科書から離れられない教師が多くいることが不思議でなりません。
今は、どのような授業をやろうと、それほど、拘束される時代ではなくなっているのではないでしょうか。特に、困難校といわれる高校では、授業の成立そのものが危うくなっているのです。
③教師の創意・工夫
第三には、教師が自分で、得意技を工夫する時代を感じているかということです。今は、教科書や指導要領にとらわれないで、教師が得意技で工夫する時代になっているのではないでしょうか。それは、生徒がどのような授業を歓迎するかの研究をすすめ、生徒と共に授業をつくるといった姿勢が必要になっているのです。
「教科書に出ているから」、「学習指導要領がいっているから」、「受験にでるから」というだけで、知識を生徒に押しつけるだけの授業では、授業そのものが成立しない時代になっているのではないかと思うのです。
④他人の実践を学ぶ謙虚さ
第四は、他人のすぐれた実践を、素直に自分にとりこめるかということです。仮説実験授業の受業書は、「授業の実践」をへてつくられたものです。私が、今の教科書に一番不満を持つのは、「指導要領の中身をつくった人」」と「教科書をつくった人」が違うことです。
仮説実験授業の授業書のすぐれた点は、「授業書案」ができ、それれを授業にかけ、また、検討し、何回も練り直し、できあがった「完成品」であることです。
仮説実験授業が授業のすべててではないことは当然でありますが、仮説実験授業は、教師の授業観さえも変えるほどに、高校教育において有効だと思っています。
注)学習指導要領は、約10年ごとに変更されています。教員は、そのたびに、県で新しい指導要領の説明をうけ、「授業内容」の工夫を研究させられます。これが、教員の「県の研修会」の内容です。
私は、そのたびに、「前回の指導要領」の「どこをどう反省し、どこを変えたのか」の説明を求めて質問しています。しかし、「これは伝達講習会」ですから、という理由で答えは返ってきません。
「それなら、私を文部省の講習会に参加させてほしい。私が直接聞いてくるから」と言い続けていましたが、ついには、そういう仕事は回ってきませんでした。
(終わり)