スキューズの"The way of a trout with a fly"でスキューズはLeonard竿を評価しその暗喩として英国で一般的な竿を、多分Hardyを念頭にしているのではと想像致しますが、批判しております。
スチールセンター竿を持った初心者がその竿の重さと過剰なパワーで釣りにならない様を描写し、水が滑らかに流れるチョークストリームではどんな風が吹こうとも上流に毛針を投げるためにはある程度の重さのラインが必要だが、ともすればラインは重くなり過ぎ、それを扱う竿も過剰なパワーを持つものになり勝ちでそのような竿は強い手首がないと使えないとしております。そしてそんな強さとは無縁の普通の人にとってはa rod of moderate but concentrated power (中庸で一点にパワーが集中した竿)が良いとしております。
彼の愛竿がLeonard製であることより、スキューズが思い浮かべるのはこの写真のLeonard竿のような竿だと推測致します。竿からは不要なものは全て除かれなければならないとし、lockfast joint(Hardyのジョイントの緩みを防ぐための仕組み)、bayonet joint(オスフェルールの先に更に細い金属棒を付けたもの)、飾り目的の段巻き、余分な金属、そして特に余分な木質は計算されたテーパーデザインにより削られなければならないとしております。
米国竿との競争を通じ、Hardyもメタルワークを簡素化し、ジョイントはシンプルなサクションと米国竿の仕様を多く取り入れ軽量化した竿を製造・投入しております。写真はそのような軽量版のパラコナ竿であるDe Luxe二本。手前が1928年製の8'6''、奥が1935年製の8'。
ジョイントは今でも普通のサクションジョイント。
グリップの上には米国のLeonard、F.E Thomas竿で行われているような飾り巻きがされております。
しかし、De Luxeのリング(ガイド)は米国のスネークではなく、ブリッジ、フルオープンブリッジ。
スキューズの言う通り、魚を驚かさない繊細なプレゼンテーションを可能とするのは軽いラインであり、必要な重さのみを持ったラインを扱うために無駄を剃り落とした軽い竿を使うことで竿の扱いも容易になり釣り人は釣りにより注力することが可能となる。反論するものは一つもありません。
スキューズが無駄と言い切ったもの、テーバーデザインで削ぎ落とす無駄な竹、スピアなどのメタルワークはそうでしょう。しかし、lockfast jointは釣りの最中にジョイントが緩まないよう、事故を防止するための部品であり、ブリッジリング、フルオープンブリッジリングはザラザラのシルクラインが竹を万が一でも痛めないよう竹を守る部品。米国竿は機能重視でそうした無駄を排除した結果、耐久性に比重をかけていないような感を受けるのに対し、Hardyの竿は釣りで必要なものに加え、耐久性、釣り道具としての遊び心(スピア、段巻き)まで削ぎ落とす妥協はしていないように思えるのです。そこにはまた釣り場の違いもあります。急流が多い場所での釣りは水面からリフトし易い軽いラインを使った方が適切なのに対し、強風の吹くチョークストリームではある程度の重さのラインを使わないと釣りにならない。そうした背景も考慮に加えるべきかと思います。
そうしたことまで咀嚼すると、米国人とスキューズが批判する英国竿(Hardy)は物を補修しながら長く使っていく英国流の考え方が反映された結果そうなったものではないかと考える次第です。
そのお陰で、Hardyの竿は確かに生産量も多かったのでしょうが、今でも大量に市場にあり、お陰で良いコンディションのものがよりお手軽な価格で入手出来る一方、米国竿はマスプロメーカーのLeonard製の竿でさえ古いものでコンディションの良いものは比較して少なく、また人気によるプレミアムを考慮しても多分良いコンディションの出物がHardyに比較して少ないことから値段も非常に高くなっております。
批判に晒されても自身の価値観を変えなかったHardy。お陰で21世紀に入っても20世紀前半の竹竿での味わい深い釣りを楽しめることに感謝です。
因みにブリッジリングを横から見るとこうで、
上から見ると斜めに竹を横切っております。
しかし、竹竿に沿って見ていくと、楕円形の穴は丸く見えトップからストリッピングまで一直線にラインが通ります。中々面白いリングですが、1920年代までで、それ以降はフルオープンブリッジリングに完全に取って代わられてしまいます。
高級な釣り竿に対する英国と米国の考え方の違いなのかなと思いながら興味深く拝読しました。
思い浮かんだのが、ロールスロイスの都市伝説です。
とあるイギリスのお金持ちが、ロールスロイスで砂漠の横断旅行中にクルマが故障してしまい、無線で修理を依頼したらどこからともなく飛行機(ヘリ?)が現れて新車と交換して飛び去った。その後、請求がないのでロールスロイスに連絡したところ、そのようなサービスはしていないと…そして、話を遮るように「お客様、ロールスロイスは故障しません」と言われたと。
実際に戦前のロールスロイスを見ると、故障しなかったかどうかはともかく、その巨大さと頑丈な作りに驚かされます。
ハーディーの竿は世界中の王侯貴族の間でも使用され、間違っても大物の引きに負けて折れたり、下手なキャスティングのせいで折れたりするのは許されなかったのではないかなと思います。
剛竿になったのは、簡単には折れない性能と王侯貴族をも満足させるだけの風格・品格を持たせた結果なのではないかと想像します。
おかげで多くの個体が後世に残り、私たち下々の庶民が使う栄誉に浴しているわけで…
アメリカの竿の中でも、細くて短くて繊細な趣味的な要素の強い竿が後のフライフィッシングのトレンドになり、もともとタマ数が少ないことに加えて、破損して後世に残りにくかったことが、高値につながっているのではないかと想像します。
1920年代のベビーキャッツキルを持っていたとしても、ちょっと怖くて使えませんよね(笑)
コメントを頂き大変ありがとうございました。
竹竿の性能をチューンし軽量化を重視した米国のトレンドに対し耐久性に拘ったHardyと言う図式で今回考えて見たのですが、何故この観点を取ったかと言うと、米国竿は今に残る良い個体が少ないのでは?と言う疑問からです。米国のディーラーがカタログに載せる米国竿のコンディションレポートですがセット(竿の曲がり)がある、ティップセクションがオリジナルでない、等が結構多くそうした竿でも結構なお値段が付いている。。。Hardyでは確かにセットがある竿もありますが、90年経っても100年経ってもセットもなくフルオリジナルの竿が結構リーズナブルな価格で今でも手に入る。この差は一体何?と言う日頃感じることを共有させて頂きたかった訳です。私が竹竿製造に一番良い方法と漠然と考えているのは、竹のマシーンカット(手で割るのは竹を痛める)、最大180度までの熱処理(それ以上は炭化により竹が折れやすくなる)、節の処理は不要(竹の繊維はずっと伸びるものではなく、節の間でさえも途中で切れている:熱で繊維を真っ直ぐにする、節を押し込むと言うのはコスメティックだけで無駄に竹を痛めつけるもの)と言う、今流布される竹竿製造の極意として宣伝されることからは全く外れたことばかりですが、そうしたHardyの竿は今も真っ直ぐピンピンしております。確かに米国竿に比べればモッタリ感はありますが、どんな大物がかかってもHardy竿は安心してやり取りが出来る。スキューズが批判する程のことはなし、とHardy竿の素晴らしさを擁護したいと思います。。。ああ、PCに言葉を打ち込む手首が疲れました。9'以上の長さの竹竿での釣りよりもシンドイです。。。
コメントを頂き大変ありがとうございました。
栄光の絶頂にあったハルフォードと親密だったHardyの竿、特にブロードバンドと言う段巻き、リングは全て瑪瑙入りのハルフォードモデルを出していたメーカーの竿とは折り合えなかったのがスキューズであったのではないか?と漠然と思っております。確かにHardyには軽量モデルもあり、スチールセンター竿もありとバラエティに富んでいるので一方的に批判される筋合いもないですよね。私の10'6''のGold Medalはスチールセンター入りですが、今から10数年前のオーストリアの釣りでは良く使い特に重いとも思わなかったです。英米のマスプロメーカーはトーナメント参加により得たノウハウも豊富に持ち良い竿を作っていたという点、全く同感です。でも、コンディションの良いLeonardの竿は余り残っていないのは何故なのか?Hardyに比べ細く短い竿が多かったのも一因でしようか。。。
スキューズさんの文章を読むのは、初めてでした。
ニンフやソフトハックルの釣り師たちの偉大な系譜は、直接的な師弟関係やグループは無いものの、日本の琳派の画家たちのように地域や時代を超えて、スキューズ→ソーヤー→ライゼリング→シルベスター ネムスと目指すスタイルが個人の情熱によって受け継がれたと思います。
ソーヤーは、ニンフの達人たちへの寄稿で、「理想的には8半~9フィートの長さがよい。アクションはしなやかで、反発が速く、しかも繊細なティップのロッドでなければならない。こうしたロッドには、軽いラインとリーダー、そして長く細いティペットを使う」
おそらくハルフォードのドライは、魚の反応が一目瞭然であるのに比べて、スキューズたちのウエットの釣りでは、リーダー、ライン、ロッドに魚からの信号を受け取るセンサーとしての役割を求めたのではないでしょうか。
ハーディのロッドも、L.R.HやW.Fの時代にそのような竿が出てきたので、スキューズは釣りのスタイルが多様化することを先取りしていて、ハーディをはじめ他のメーカーに変革の期待を込めた、とも受け取れるような気もします。
私も米国竿はとんと疎いので限られた本の情報だけでものを言っておる次第ですが、Hardyで7フィート台の竿は長いことCC de France、そしてMarvelと極めて限定的で8フィートも少なく9フィート以上が普通だった1910年代には、米国では既に8フィートがドライフライの主流、そこから1920年代以降に7フィート台が続々登場と英国に比べ短い竿が使われますが、その理由が繊細な竿で大物を釣るという趣向からのようです。確かにMarvelで釣るオーストリアの大物グレイリングは非常に興奮するもので、非常に良くその気持ちはわかりますが、それを散々やっていると竿がいつかダメになりそうでやっぱり8〜9フィート台の竿の安心感には勝てないです。
ソーヤーのニンフ釣りは細くて長いティペットそして1番(3-4番程度?)のキングフィッシャーのシルクラインにPezon et MichelのSawyer Nymph竿8'10''であったり、Fario Club 8'5''であったりしますね(流石にこれにはキングフィッシャーの2番を組み合わせたと思いますが)。上の竿の描写はまるでSawyer Nymph竿のようです。ニンフの釣りとチョークストリームのドライの釣りは使うラインも違ったのでしょうか。ラインが違えば竿も違う、釣り方の違う相手を批判してもせんなきこともあったのかも知れません。Hardyもスキューズの批判や米国市場を睨んで受けて竿の軽量化に取り組んでますし、そうシニカルに貶される必要もないかと思いますが、でも米国竿とは一線を画していてやはり英国竿という線は持っているのですね。それが崩れたのはContinental Specialと言うPezonのPPPシリーズの様な竿の発表であったと思っております。