思い出の釣り・これからの釣り

欧州の釣り、竹竿、その他、その時々の徒然の思いを綴るつもりです

失われた竿を求めて(A la recherche des cannes perdus)

2022-07-23 17:24:26 | その他の話題/Other Topics

ヘミングウェイは元々毛鉤釣りをやっていたものが、ある時愛用の竿を列車で運んだ際、それがどこかに行ってしまい、海の大物釣りに転向したとどこかで読んだ記憶があります。
先日、懐かしのオーストリアへの釣行の帰路、ウィーン空港のビジネスクラスカウンターで愛用のロッドケースにクレイムタグをつけてもらい、規格外荷物預かり所へ持って行き、X線検査後、担当者が問題ないのでお預かりしますとロッドケースを奥に持っていった光景がオーストリアに持参した三本の竿との別れとなりました。
一本はLRH Dry Wet 9'3''。上の写真にあるLRHシリーズの竿三本の一番上の竿になります。

この竿はフランスのノルマンディー、オーストリア、丸沼と使ってきましたがLRHの名を冠し、ドライフライにもウェットフライにもオールマイティに使える竿とデザインされただけあり狭い渓流を除けば世界中どこでも自信を持って持参出来る竿。上の写真は2018年の10月、オーストリアのグレイリングを釣り上げたもの。

二本目はF.E.Thomas Special 8' 3pcsです。
これは繊細な胴調子の竿で日本の渓流の様なところで、漁獲マシーンの様に数を釣るのではなく、一匹一匹釣り方を吟味したゆったりとした釣りをするのに向いた粋な竿。

養沢のこのサイズの虹鱒でも満月に曲がる竿で日本でまだまだ楽しめると思われる竿。

最後の三本目はPayneの206 9' 3pcs。
HardyやPezon et Michelの竿を使い慣れた手には、異様に思える軽さの竿で、9'の長さでも軽々とした竿。その調子は胴調子に繊細なティップを持ったHardyで言えばLRH Wet 9'3''と同様のウェットフライ竿。LRH Wetと同じように短距離のドライフライ釣りにも使えますが、繊細なシルクラインを出来るだけ張ってウェットフライを流しかすかなアタリを取る釣りにその真骨頂を発揮する竿です。

今回オーストリアではEtrachbachでの短距離のドライフライ釣りに使用しましたが、このサイズのイワナの引きに竿がグイッと曲がり中々楽しめました。
今年の欧州の空港はコロナ禍の影響で人員をダウンサイズしたところから回復していないところに、コロナは既に過去のものとなった夏休みの大移動が加わり、荷物のハンドリングが追いつかず、シャルル・ドゴール、ヒースロー、フランクフルト、等々ロストラゲージの山が出来ております。
先月にはアルジェ出張でシャルル・ドゴール空港だと思いますが、預けさせられた荷物がロスト、着のみ着のまま生活を二週間程度強いられました。そのため、今回オーストリアでは奮発してビジネスクラスを予約しリスク回避を図り、往路は問題なく預け入れ荷物を受け取れたのですが、復路、カサブランカの空港に着いた途端、携帯のSMSにルフトハンザから荷物の積み込みに失敗したとのメッセージ。クレイム作業をして日々待っておりますが、10日以上経っても未だに何の進展もありません。この三本の竿は多分今、フランクフルトの行き先不明荷物の山に埋もれているものと想像しますが、ヘミングウェイの様にならない事を祈ります。
マルセル・プルーストの名著「失われた時を求めて(A la recherche du temps perdu)」はマドレーヌを食べた際、突然思い出が蘇るのですが、失われた竿が突然発掘されるようなマドレーヌがどこかにないかと毎日ルフトハンザの荷物サイトをチェックしております。。。

追記

ロンドンへの出張中、ルフトハンザより荷物が届いたのでカサブランカ空港でピックアップするようにとメッセージがあり、昨晩、カサブランカ空港への到着時、無事ロッドケース並びに三本の竿を回収出来ました。今回は7月11日〜30日の19日間のロストですみました。7月11日午前の釣りで使ったLRH Dry Wetの竿先等心配しておりましたが、ロッドケースは密封されたチューブではなく、PVCに生地をかぶせ、両端は皮を使った通気性の良いものだったので竹にダメージが出ることもありませんでした。嗚呼良かった!!
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Tup's woolを求めて

2022-07-19 06:05:00 | 毛針/Flies

Tup's Indispensableは英国南部のTivertonでタバコ店を営む傍ら毛鉤を巻いていたR.S.Austin氏が1900年頃に作り出した毛鉤と言われております。
そもそもAustin氏は元々この毛鉤をRed Spinnerを模して作ったそうですが、Austin氏からこの毛鉤の秘伝の材料を伝授された家族以外ではただ二人の釣り師、C.A.Hassam氏と、G.E.M Skues氏の内、後者がこの毛鉤の材料の一つ、羊毛が雄羊の睾丸付近に生えるものであることから「雄羊に無くてなはならないもの」の毛を隠喩したTup's Indispensableという名前を広めたのでした。
1900年当時のAustin氏のオリジナルレシピでは:
Silk: yellow silk
Hook: 00(16) Pennel Hook
Hackle: blue hackle of a lighter colour and freckled thickly with gold
Body: Ram's wool, cream coloured seal's fur, lemon spaniel's fur and a few pinches of yellow mohair
となっておりましたが、Skues氏がmohairの替わりにcrimson seal's furを使うことをAustin氏に薦め、その後はcrimson seal's furを使って巻かれ今日に至っております。
この雄羊の睾丸の毛という材料をどうやって入手出来るのか昔からの課題であったのですが、イスラム教国であれば簡単ではないかと思い立ちました。
「犠牲祭」です。
イード・アル・アドハーと言うこの祭日はイスラム教の巡礼月の10日にあたり、イブラヒム(アブラハム)が神に息子イスマイル(イシュマイル)を犠牲として捧げようとした故事に則り、北アフリカでは一家で一頭は雄羊を捌き家族・近所で食べる日です。
その日のために雄羊を購入したモロッコ人に頼み、雄羊のあそこの毛を刈り取ってもらいました。上の写真がそれ。

草の様なものや不純物がつき匂いもきついこの毛を流水と石鹸で洗いある程度不純物が取れた右側と未だ不純物まみれの左側にまずは分けます。

不純物が少ない方の羊毛を更に手でちぎって不純物を叩き出していくと

残ったのは普通の羊毛よりも黄色味の強い羊毛でした。
これがTup's wool。ピンク色した羊の睾丸の毛という表現で数年前に日本の雑誌に記事が出ていましたが、赤みは全然ない羊毛です。まあ尿やその他の汚れにされされた毛なのでこのような色になってしまったのでしょう。
これを使ってまたTup's Indispensableを巻き、今度こそモロッコの鱒に見参したいものです。
コメント (2)
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懐かしのオーストリアへ

2022-07-16 20:04:22 | 欧州釣行記/Fishing Trips in Europe

イスラム教の宗教祭日「犠牲祭」で連休となった7月9〜11日の週末に合わせ7月8日にお休みを頂き3泊4日でオーストリアはムーラウへ釣り旅行に行って参りました。

カサブランカ空港を7月8日の未明01:30出発、フランクフルト経由ウィーン空港に09:30頃到着。更にそこでレンタカーを借り、走ること3時間強で13:30過ぎに漸く標高1,400mのEtrachsee湖畔の宿、Landhaus Etrachseeに辿り着きました。
ここに来るのはほぼ4年振り。前回チュニジア駐在時以来です。20年来のお付き合いの宿の女将、Christineさんにご挨拶し、日本からモロッコに赴任してまたオーストリアに来れるようになったこと等、暫し歓談。3階の一番奥の9号室の鍵を貰いました。
流石に睡眠不足と長距離運転でオジサンは疲れ切ってしまい初日は釣りはせず、下界のMurauで3ヶ月ぶりの散髪、モロッコでは入手出来ないものの買い出しで過ごしました。荷物をスーツケースから出して散らかった部屋の中の様子。

初日の夕刻。天気は良く砂漠の国から来た目にオーストリア山中の緑が優しく映ります。

翌7月9日(土)、久しぶりに豚肉のハムを楽しんだ朝食後、午前中は湖のEtrachseeに流れ込む川、Etrachbachで釣りをすることに致しました。

この川は流域の殆どが急勾配で水量が少なければ所々にあるポケットにドライフライを打ち込む釣りが出来るのですが、生憎その前に雨が降り続いたようで水量が多く今回釣りになったのはほぼ写真のポイントのみ。

今回の釣行前にカサブランカで毛鉤を幾つか用意しました。その中に昨年ある方から頂いた日本で飼育されている鶏のハックルを使ったドライフライもありました。

ハックルはRusty Dun。

それを使い、ボディはPheasant TailにGold Wire、テイルはOlly's HackleのBlue Dunで巻いたドライフライ。冒頭の写真でイワナが食っているのはこの毛鉤。

水温は9度。気温は17〜18度程度。6月には欧州も熱波に襲われましたが、7月の初めは結構涼しくなり、且つ、標高1,400m以上の山中では下界より更に気温が下がります。

使った道具は、Payneの9フィート竿の206、リールはHardy Perfect 2 7/8 Spitfire。それに巻き込んであるのはKaizerの緑色のシルクラインの2番(AFTM 4〜5番程度)。Payne竿はHardyに比べると極めて軽いのが特徴。この206は更に繊細に作られたバージョンの様でティップは細く、HardyのLRH Wetの様なウェットフライ用竿というのが私の印象。近距離ならドライフライでの釣りに使えますが、下のMur川や強風下ではドライフライには使えそうにありません。
釣りに飢えた北アフリカ在住者を決して裏切らないEtrachsee周辺のイワナ。投げ込んだドライフライの一投目でPayneを曲げてくれました。

釣り上げる度に毛鉤を交換し、その後もイワナを何匹も釣り上げます。

尺を超える魚は釣れませんが、竿を適度に曲げてくれたイワナは全てブルックトラウト。アルプスイワナは午前中の川での釣りでは出てきませんでした。

Landhaus Etrachseeの隣にはForellenstation am Etrachsee (「エトラッハゼー湖畔の鱒守り」とでも訳しましょうか)という料理店があり、昼と夜はそこで食べます。地元で醸造されるMurauer Bierはいつ飲んでも新鮮で非常に美味。モロッコで飲めるビールとは比べられません。

メニューには地元オーストリアの素朴な料理が並びます。北アフリカのイスラム圏から来ると本当に息抜きになります。
(続く)
コメント (2)
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