思い出の釣り・これからの釣り

欧州の釣り、竹竿、その他、その時々の徒然の思いを綴るつもりです

ドライフライのウィングの必要性

2020-02-16 12:42:24 | 毛針/Flies

Vincent Marinaro(ヴィンセント・マリナロ)が1950年、39歳の時著した「A modern DRY-FLY code」は英国・米国のドライフライの先駆者達の研究を読み込んだ上で彼とその友人達がホームリバーで観察した事象とその背景・理屈の理解をベースにドライ・フライの革新、ソラックスダンを提唱する等示唆に富んだ内容の本で、その輝きは今でも失われておりません。
ドライフライは水面上でハッチし飛び立とうとするカゲロウの亜成虫(ダン)と、産卵を終え死んでいく成虫(スピナー)を表した毛針ですが、ダンを表現する場合、Halfordの時代より、ダンの持つスモーキー・グレイのウィングをスターリング・クイル等で表現しております。しかし、ウィングの無いハックルのみのドライフライも、死んで羽を伸ばし水面に張り付くスピナーの表現のみならず水面に4〜6本の足で乗って立つダンを表すものとして使われ結果を出しております。
果たしてドライフライのウィングの必要性はどれくらいあるのでしょうか?
マリナロはその著書で、James Kell氏が行った実験について報告しております。
それによるとイエロー・ブリーチズ川で本物のダンにライズを繰り返す鱒の上流からウィングを取った本物のダンをウィングのついた本物のダンと共に流し、鱒がウィングの無いダンを捕食するかを観察したところ、ウィングを取った37匹のダンは一匹も捕食されず、鱒はウィング無しのダンと並んで流されたウィング有りのダンを選んで捕食したと言うものでした。
鱒が水面上を見る場合、光の屈折の関係で、自分の上97度の円錐形の水面以外は水中の反射しか映らず水面上で何が起こっているか見ることが出来ません。これはフィッシュ・ウィンドウとして良く知られた現象ですが、フィッシュ・ウィンドウの手前から鱒の丁度上にダンが移動する間でも光の屈折のため鱒の視野にフィッシュ・ウィンドウにダンが到達する前から見えるものがあります。それがウィングなのです。

マリナロはウィングを取った本物のダンが何故捕食されなかったかの理由をこう説明します。まず鱒はフィッシュ・ウィンドウに到達する手前から水面をダンの脚が押すことで生じる窪みが作る光のパターンでダンの接近を知覚①します。そしてフィッシュ・ウィンドウにダンが近ずくにつれ鱒はダンのウィングを知覚し、それをダンと認識②し、水面に泳ぎ上がり、ウィングを持つダンを最後に近くで確認③し捕食する、と言う行動を取るのですが、ウィングを持たない本物のダンは鱒に②のステップを踏ませないため捕食されないのだと。
従い、マリナロは、鱒の捕食スウィッチを入れるため、そのソラックス・ダンに本物のダンと同様に長いウィングを取り付けております。
ハックル・ドライ・フライの場合、長いハックルを使えばそれが鱒にウィングと認識され捕食スウィッチを入れるのだと思いますが、短いハックルの場合鱒に餌と認識されない可能性が懸念されます。
日本の多くの渓流の様に早く激しい流れの場合、鱒の捕食スウィッチは別の要因で入る可能性が高いと思いますが、その場合でも鱒の捕食スウィッチを入れるパーツを毛針に持たせることは意味があることでしょう。

上は2013〜14年頃Sprite鉤に巻いたウィング付きドライ・フライですが、実釣でもウィング付きの毛針の方が良く釣れるという経験を何回かしております。老眼でウィングを付けるのが億劫になっておりますが、それでもダンを模したドライ・フライには出来るだけスターリングのウィングを付けてやろうと思います。

Red Quill(レッド・クイル)

2020-02-11 13:52:36 | 毛針/Flies

The red quill is one of the sheet anchors of a dry-fly fisherman on a strange river, when in doubt.
「ドライフライ釣り師が見知らぬ川で迷う時、レッド・クイルは最後の拠り所となる毛針の一つである」と、ドライフライ釣りの基礎を作ったF.M. Halfordはその最初の著書「Floating flies and how to dress them(水面上の毛針とその巻き方)」(1886年)で述べております。

Halfordのレシピは:
Wings: Pale or medium starling (ペイル或いはミディアムのスターリング)
Body: Peacock quill dyed in No. IX (繊毛を取り除いたピーコッククイルを臙脂色に染めたもの)
Hackle and whisk: Red game cock (レッド・ゲームコック)
Hook: 0, 00, 000 (15〜17番)

このレッド・クイルは一番入手し易いレッド(米国流ではブラウンでしょうか)のコックハックル を使うというとても手軽な毛針ですが、G.E.M. Skuesがその著書「The way of a trout with a fly(鱒の毛針に対する振る舞い方)」(1921年)で、Halfordの言うことは確かとし、チョークストリーム(英国南部の石灰岩地帯を流れる流れの静かな川)では5月初からシーズン終わりまで少ない例外の日を除けばレッド・クイルが効果を発揮し、それも、水面下のニンフを捕食する鱒がレッド・クイルを好んで捕食すると述べております。Skues自身は何故鱒がレッド・クイルを捕食するのか理屈が分からないとの理由でレッド・クイルを使うのを拒否しておりますが、我々凡人釣り師は釣れると言われる毛針を拒否する必要はないでしょう。

Halfordはボディのピーコック・クイルを赤系統の色で染めますが、その後のレシピではナチュラルなピーコック・クイルでOK。ハックルも入手が難しいものではなく、簡単に巻ける古典的な毛針です。さらに、私はいつもスターリング・クイルを二重に巻き強度を増しておりますが、二重のクイルを鉤に結ぶと自然に左右に分かれて開くので8の字結びをする必要すらなく簡単に結べてしまいます。最近はスターリングの入手が難しくなっている様ですが、それさえ手に入ったら簡単に巻ける毛針。

老眼に鞭打って巻いた毛針。帰国してからスターリング・クイルの毛針を含め毛針を殆ど巻いていなかったので何時に増して不恰好です。

右上のレッド・クイルの他に、20世紀前半の英国の本物のブルー・ダンを巻いた毛針、Frank Elder氏のオフ・カラーのハックルを巻いた毛針を、英国南西部Devonの毛針Blue Uprightに習い、ダウン・アイのスネック鉤に巻いて見ました。シーズン初めの毛針としてはこんなもので良いでしょうか。。。